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 「実はあンたに、言わなきゃならんことがある」
 く、と首を傾けたシャンクスに、立ち上がって近寄る。
 翠を見下ろし、笑いかける。
 見上げて、なに、と柔らかな声で言ってきたコイビトの頬を撫でる。
 「もしかしたら、あンたに恋しているのかもしれん」
 苦笑が漏れる。
 今更な告白かと思いながらも、どうにも言葉が勝手に滑り出て行った。
 
 すう、とシャンクスの双眸が一瞬見開かれ。それからとても綺麗に、微笑みを浮かべていた。
 「あンたを愛しているよ、」
 頬のラインを指先で辿る。
 ふわ、と風情が甘く蕩けた。
 「―――恋…?」
 シャンクスが呟いた。
 「あァ。あンたを想い出してばかりいた。ってことは、そういうことなんだろう、」
 金の光を含んで煌く虹彩を見詰める。
 「食事を終えてからすぐに言い出すことじゃないんだが…あンたを喰っちまいたい」
 
 「おれな……?」
 すう、と手に頬が押し当てられた。
 柔らかな仕種、甘える猫よりたおやかな動作。
 「生まれてはじめて、誰かのことを“待った”よ」
 「嬉しいな」
 目を細め、見下ろす。
 脳裏に一瞬浮かんだマフィアのボス。彼も―――恋しているんだろう。
 コイビトが浮かべたふわりとした微笑みに、その映像は瞬時に掻き消える。
 
 「おかえり、」
 そうっと告げられて微笑を返す。
 「ただいま」
 唇を、啄ばむ。
 「おれのとこに、戻ってきてくれてさ。うれしい」
 囁くように甘い声が齎された。
 微笑む。
 「あンたの元だけだ、オレが帰りたいと思うのは」
 そうでなければとっくに―――勝手気ままに住処を変えているだろう。
 ベースはどこだっていいのだから。
 
 柔らかく口付けを落とす。
 白ワインの甘い香りがそこにあった。
 ふわ、と目許で笑ったシャンクスを抱き上げる。
 「あンたを抱いて、眠りたい。構わないか?」
 「眠るだけ……?」
 く、と甘い声で告げながら、耳元を齧ってくるシャンクスをリネンに下ろす。
 「ベック―――?」
 とろ、とした声。
 
 「なわけがないだろう、」
 笑ってシャンクスの耳朶をそうっと食んだ。
 ひくんと揺れた身体を掌で辿る。
 「あンたと愛し合いたい」
 低めた声で囁きを耳に落とす。
 「特上の、アンタイ・ジェットラグ(時差惚け対策)」
 くくっと笑ったシャンクスの声が甘い。
 
 シャンクスの片手を引き上げ、それに口付けを落とす。
 リングが一つ嵌っている。アントワン贈呈の、アレクサンドライト。
 カットされた石が煌き、青から翠へと色を変えていく。
 暗くなって白熱灯を点けたのなら、その輝きは赤味を帯びるのだろう。
 「愛しているよ、オレの最愛の恋人」
 笑って囁いて煌く翠を見詰める。
 
 とん、とシャンクスが僅かに伸び上がって来、唇に口付けてきた。
 片腕で抱き寄せ、髪を撫で上げる。
 「忘れないよ、」
 甘く囁かれて、そうっとまた啄ばんだ。
 柔らかな表情が言葉にせずに同じ感情を乗せる。
 蕩けた翠が、それが本心からのものであることを告げてきている。
 
 リネンに押し倒し、柔らかく唇を重ね合わせた。
 きゅう、と背中を抱かれ、幸福になる。
 素直に愛情が満ちるのを感じて、また嬉しくなる。
 「もう少しで迎えに行くところだった、」
 告げられて、笑った。
 「それは勘弁して欲しい。家に辿り着く前に、あンたに手を出しちまいそうだしな」
 軽口交じりの本音。
 実行に移すかどうかは――――――恋人の返答次第、だな。
 
 柔らかく耳を噛まれ、また笑う。
 さらりとシャツを落とさせていきながら、触れ合う体温にほわりと心が綻ぶ。
 何度でも、あンたを愛すよ。
 肌に口付けを落としながら思う。
 あンたが望む限り、何度でも。
 
 ふわ、と甘い息が零れていくのを耳で拾い上げる。
 安堵しているのだと解って、また嬉しくなる。
 ゆっくりと愛し合って一眠りしたら、来週のプランを立てよう。
 あンたと、リカルドの“恩人”に挨拶にいこうか。
 生きているあンたをどっかで見守ってくれているといいな。
 あンたは笑って。幸福だ、と言ってくれるかね………?
 
 
 
 
 
 
 
 La Pueruta del Cielo: The Gate of Heaven, Heaven's Gate, 天国の門
 
 ― FIN ―
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