デカンタから、赤をグラスに注いでやる間も。
赤ならアスパラにレモン絞った方がいいかもね、と一言付け加える間も。
風情も饒舌なコイビトは。優雅に、けれど適度に熱心なスピードでサーブしたものを空にしていってた。
絞った果汁に濡れた指が、うっかり美味そうだったけどナ。

美味い、とシンプルな褒め言葉を寄越したコイビトの。焼けた肌を眺める。
「発掘でもしてたのか、」
笑う。白の入ったグラスを空にしながら。
「儀式を見てきた」
「―――タヒチ?」
静かに笑うのに返す。
「ああ。で、サモアに寄って、知人にマナについての講義をしてもらった」
「ふゥん、」
空になった皿に、サラダを取り分けてやる。
また白を一口。

「海を見て、あンたに会いたくなった」
「んん?」
見遣れば。くく、と機嫌良く笑う顔にぶつかる。
「腹の減った鮫でもいたとか、」
本意、と知れる。けれど軽やかな口調にからかえば。
「鮫はいるさ、なにしろ太平洋の真ん中だしな」
「鮫食わされた?アイツラ大味で不味い」
ひら、と軽く戻される言葉に応える。
「あの連中は食わないよ」
「―――へぇ?」
極彩色の魚が多い、と。思い出したのか辟易した顔をしているのに笑う。
テーブルの上のものは大体どれもがほぼ、きれいに空になってた。

「パスタか何かまだ食う?」
「いや、いい」
「オッケイ。じゃ、デザァトな」
静かに赤を傾けて、飲み干して行くのを目で愉しんだ。覗く喉の辺りとかね、美味そうだ。
それからテーブルを離れる。
「ソルべ、ジン風味。飲みたかったらコーヒーも淹れてやろうか?」
おれはイラナイケけどね。
「ジンに珈琲はな、」
くう、と笑みが浮かんでいた。
「大人しく止しとけ?」
「ああ」

ま、その代わりに。凍らせたレモンチェッロでもかけてやるって。
やわらかな眼差しに言葉に出さずに付け足して。
「ドウゾ、」
前へ置いてから、座りなおす。
「アリガトウ、」
「大サーヴィス」
に、と笑いかける。
さく、と。ソルべを崩して行き。口元へ運んでいくのを見詰めていたなら。
銀灰が、僅かに細められてた。―――ふぅん?気に入った、って?

「二度目のデザァトのご感想は」
「さっぱりとしていて美味いな。バランスの取り方がいい」
「お褒めに預かり」
す、と見遣る。
目の前に在るのがアタリマエになっているものを。

「いいコにしてたぞ?」
軽口。
「オレもだな」
「オマエは飛んでばっかじゃん」
にぃ、と笑みを刻んでみせれば。コイビトはデザァトをキレイに片付けて。
ごちそうさまでした、と呟き、口許をナフキンで拭って言っていた。
「んー、キレイに片付いて気分がいいな」
グラスを空にしてテーブルに置いたなら。
「よくあンたのことを想った、」
ふわり、と笑みを乗せて言葉が届けれらた。
なんと返そうか、と思うより先に。
ウレシイな、と。
本心が零れちまった。




next
back