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 馴染んだニュー・オーリーンズの空気は、南の島々のそれらよりねっとりとしている。
 都市特有の匂いを含んだソレ。昼前の明るさに照らされて、不快にはならない。
 むしろ―――帰ってきたのだ、と思う。
 
 メインストリートを抜けて、郊外へと出る。
 静かな住宅街、見慣れた街並み。
 アパートメント、すぐに見えてくる。
 きっちりと閉められた窓―――リカルドが飛んだことは本人から連絡が入って知っていた。
 『ベン、オレも行く』
 『最初はどこへ?』
 『メキシコ。遺跡のある辺りを巡る』
 『気を付けていけよ』
 『ん。ああ、あと―――行くなら、報告しといてくれないかな』
 『ああ…マックス?』
 『そう。淡い白の薔薇を花束にして持ってってくれな』
 『羽根の変わり、か?』
 『解釈は任せた。シャンクスが寂しがる前に帰れよ』
 『ハハ!そうだな』
 『じゃあ、また』
 
 南の島で受けた電話。パペーテに着いたその夜に貰ったもの。
 パーキングに車を停めて、小さな鞄と袋を一つ抱え上げた。
 階段を登って、見慣れたドア、鍵で開ける。
 入った途端、香ばしい匂いが漂ってきた。
 ローストされるチキンに、トマト系?
 
 リヴィングの入口で、鞄だけを置いた。
 「あ!」
 声がした。
 鮮やかなオレンジの飲み物が入れられたフルートを片手に、コイビトがキッチンから顔を覗かせた。
 「ただいま」
 笑いかけながら、キッチンに向かう。
 
 途中、ダイニングにはセットされたテーブルの上に、いくつもの料理がキレイに並んでいた。
 フード・コーディネータでもできるな、あンた。
 思いながら見上げれば、新しいフルートグラスを持ったシャンクスがにこお、と笑った。
 「オカエリ、おまえイイタイミング」
 「途中で花でも買おうかと思ったんだが」
 絞りたてー、との注釈つきで渡されたグラスを引き受けて、代わりに袋を揺らす。
 「ア?いらないヨ」
 にこ、と笑ったシャンクスに、土産、と引き上げる。
 「後で見るか?今がいいか?」
 「ビタミンCはすぐに壊れる、早く飲んじまえ」
 にこにこと笑うシャンクスに笑って返す。
 アリガトウ、とシャンクスが袋を受け取ったのを見ながら、グラスを傾けた。
 
 爽やかな酸味と、喉で弾ける泡。
 僅かにドライになった甘みが、す、と身体に染み渡る。
 「美味い」
 飲み干して、フルートをテーブルに置いた。
 「ん、イイシャンパン使わせてもらった」
 に、と笑ったシャンクスの腰を引き寄せる。
 「また買えばいい、」
 トン、と唇に口付けを落とす。
 
 すう、と翠が細められて、また笑いかける。
 「一緒に買出しにでも行くか」
 「そのうちナ?」
 「もちろん」
 に、と笑ったシャンクスの髪を撫でる。手触りのいい赤。
 「美味そうだな」
 二重の意味を込めて言えば、シャンクスがちらりとキッチンを目で示し。
 「芸術が冷める、」
 そう言っていた。
 
 「あンたの作品か?」
 「どう思う?」
 にぃ、と機嫌よく笑うコイビト。
 「そうだと嬉しいな」
 トンと額に口付けを落としてから腕を解いた。
 「座っとけ、」
 「先に着替えても?」
 「お好きに」
 すい、と指差していたシャンクスがキッチンに戻っていくのを見ながら、ベッドルームへ行く。
 
 引き出しを開けて手早く着替え。
 ベッドでは寝た形跡がないのに、苦笑する。
 まだ一人では、眠れないのか…?
 洗濯物をランドリーに放り込んで、顔を洗ってリフレッシュ。
 鏡の中、色味が濃くなった自分が居て、時間の経過の確実性を感じる。
 苦笑する、まあ追々…?
 
 戻れば、これ以上の出来栄えはない、といった具合にテーブルがセットされていた。
 開いた赤ワイン、デカンタに注がれていた。
 コイビトに笑いかけて、いつもの場所に座る。
 「力作、だな」
 「時間は潰れたよ、」
 すい、と眉を引き上げたシャンクスに片目を細める。
 「じっくり驚け」
 にこにこと笑顔を浮かべるコイビトに笑みを返す。
 「素直に嬉しい、ありがとう」
 
 
 
 
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