「聞きしに勝るエキセントリズムだな」
感嘆。
携帯電話のスピーカーからは、上がったり下がったり怒ったり嬉しがったりする壮年のフレンチ訛りの男性声。
「作品は創作者の性格を現すというけど、まんまだね」
リカルドが笑った。
「豪胆で派手?」
嬉しそうに話をするシャンクスは、百面相だ。
誘惑したり、ガキに戻ったり、気まずそうだったり、甘えたり。
「それだけじゃない。細やかな心配りと、バランス、かな」
リカルドがくう、と笑って言った。
「…確かに振幅の幅広さの割には、一定の滑らかなラインもキープしているなあ」
「シャンクスの周り。酷いヤツばかりじゃなかったらしいね」
ゴロゴロと喉を鳴らして甘え倒しているシャンクスに、リカルドがふわりと笑った。

「ああ…一人の個人として会ってみるのは楽しそうだ」
「ベンも会えば?」
「なんだかな。殴られそうな気がしなくもない」
「アンフェアなニンゲンの気配はしないぞ?」
「殴るのに二の足を踏みそうなニンゲンでもないな」
黙って聴いていれば。
ハナシはいつのまにか、今日出発するというところまで流れていった。
…即決。
気が短かろうがなんだろうが。
与えられた機会には飛び乗るのが礼儀というもの。

シャンクスが電話を満足気に切ったのを確認してから、フライトをチェック。
その間にリカルドは、服を数枚とポトフォリオの準備をし始め。
繋いだラップトップのモニタを覗いていれば、シャンクスがとさんとくっ付いてきた。
「よかったな、」
トン、と額にキス。
「ダイスキだったんだ、あのオトナ」
にこお、と笑ったシャンクスの髪を撫でる。
「いまでもスキだろう?」
「あいしてるよ」
にっこお、と笑ったシャンクスの顔。
心底、アントワンというオトナを信頼している顔。
立場を、ではなく、個性を。
「本人の顔を見て言ってやれ」
抱き寄せて、頬に口付ける。

する、と腕が柔らかく回された。
「オマエ、折角気遣いしてもケツ叩かれるかもよ?」
翠目がキラキラとしていた。
あンたなあ―――。
「そういえば。ロビンに会って行けとか言われてなかったかあンた?」
アントワンが言っていたセリフを思い出す。
色気落として来い、って本気で言われたけど。オマエがいたら無理だしね―――そう言って、ふい、と首を傾けたシャンクスの髪を
撫でる。
「電話が無事に繋がった御礼を兼ねて、連絡を入れたらどうだ?」
「―――ウン、」
ふわ、と微笑み。

それから押し出すナンバはロビンのもの。
静かに結果を報告し始めたシャンクスから目を放して、チケットのチェック。
お。いい空き具合だ。
リザーヴを入れようとした瞬間、明日会う手筈を整えていたシャンクスが、ば、と振り向き。
「Fじゃなきゃやだ」
そう言っていた。
「国内便でファーストはない」
盛大なブーイングをされても、オレにはどうしようもないな。
「じゃあCで手ぇうつ」
ちらりと他のフライトもチェック。

「オーライ。押さえるぞ」
「サンクス、ダァリン」
直接航空会社に電話を入れ、チケットを確保する。
ちゅ、とキスされて笑った。
相当機嫌がいいらしい。

「1時間以内にホテルを出るぞ」
告知。
リカルドが頷いた。
「おれ、用意ナシでいいから」
にこ、と笑ったシャンクスに思い当たる。
確かハリウッド近郊にも“自宅”あったっけなあンた。
肩をすくめて、自分の荷造りをすることにした。
一応1着フォーマルのジャケットを入れる。
ついでにリカルドの分の荷造りもする。
適当に詰め込んで、1バッグで足りさせる。帰りはどれくらいに増えていることやら。
「あ、鍵。オマエに預けてなかった?」
着替えるのにベッドルームにやってきたシャンクスが、すい、と目を覗き込んできた。
「鍵束なら持っている」
ポケットの中の鍵を、ちゃり、と揺らす。
「じゃ、問題ナイ」
ひょい、と抱きつかれて笑った。

「なんだかリカルドが来てから転がりっぱなしだな」
人生の転機。
「それを言うなら、」
「うん?」
鼻先でひらひらっと指先を動かしたシャンクスを抱き上げて、リネンに押し止める。
「おれが、オマエのとこに転がり込んでから、って言えよ」
にかり、と笑うシャンクス。
「転がっているのはあンたの人生だろうに、」
笑って口付ける、そうっと。

ふふっとシャンクスが嬉しそうに笑い。シャツのボタンを外すのを手伝ってやる。
左右に開いた瞬間に散った赤。
……アントワン・ブロゥだってキレイだと思うぜ、きっと。
「楽しみだな」
とろ、と微笑みかけてきたシャンクスの髪を退かし、額に口付ける。
頷いてきたシャンクスの上から退き、心臓の上の赤をきつく吸い上げなおした。
「―――っん、」
甘い声に笑って、くうと眉根を寄せたシャンクスの肌を指先でなぞってから離れた。
「ケツ叩き、確定、」
蕩けそうな音色で言われて、噴出した。
うわ、たまらんな。
腕をリネンに投げ出しているシャンクスに肩を竦めた。
「まあ愛はあるけどな、」




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