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 『ハナタレと泊まるなら部屋なぞいらんわ。プールでボール突いてラウンジで寝れば事足りる』
 「だーから、もうガキじゃないって。見せてやら、明日くらいに行ってもイイ?」
 『明日か?おう、来い来い!ゴハン食わせてやろう』
 「スゥイート用意した方がいいかもよ…?アナタの気が変わってもいいように」
 くくっと笑う。
 『ガキは何年経ってもガキだ。そういうセリフが万人に通用すると思っている辺りでガキだ!映画の出すぎだバカモノ毒されおって』
 「ねえ、アントワンいいこと教えてあげようか」
 わらっているオトナに向かってうんと甘い声で囁いた。
 『なんだ?』
 「誘っても、誘わなくても。おれに手ェだしてこなかった関係者、アナタだけだよ」
 『オロカモノ!それが誇りになるとでも思ってるのかっ』
 「怒らないでヨ、本当のことだもん」
 それに全部に応えたわけじゃないし、と。
 『怒るに決まっておる!なんだ情けないなグズどもがハナタレなんぞに誑かされよって!覚悟が足らんっ』
 火に油かもな。
 『センブに応えるではない!最初からどれにも応えるなと言っておいただろうがっ』
 
 「ムカシのことだし、クスリとセックスどっち、って思ってセックス選んでたんだもん、大目にみてほしいなあ、アントワン?」
 『どっちもポイしろ、マセガキがハナタレのくせしよって』
 アントワンが溜め息交じりに言ってくる。
 スタジオでぽんぽんアタマ小突かれてたときと変わらない、まっすぐな愛情。
 『生きていただけでマシだとはオレは言わないぞ、シャンクス』
 オマエが幸せじゃなけりゃな、と。続けられて。
 「いまはね、楽しいかも。アナタにも会えるし。明日、LAXに着いたらデンワするね、」
 あ、と肝心なこと忘れてた。
 『ラインはオープンだ、同じ番号からかけてこい、』
 「ん、アリガト。アナタもさ、この番号覚えさせといてな?おれのだし。あと、さ?」
 『ん?』
 「唐変朴念仁なクソ新人、面接したい?アントワン、」
 『アシスタント志望は足りている。ただ会うだけなら応じるぞ』
 「アナタのことを超える山の一つって思ってる男捕まえてなに言ってるんだかな」
 『ハッハ!!ソイツはでかいな!いいぞ連れて来い、メシ食わせよう!!』
 「いいよ、おれのコイビトにしたいんだけど、うん、って言わないんだよねェ」
 『趣味が違うんだろ』
 「乗り越えてタンだけどさ、かるーく」
 わらってるアントワンの口調とおなじほど軽く返した。
 
 『世の中は広いぞ、クソガキ。燻っている場合じゃないだろう、ん?』
 「かもしれない、」
 からかうような口調に潜まされた元気付け、それに笑みが浮かんだ。
 「ねえ、アントワン。おれのこと貰ってよー?」
 軽い口調で言い返す。
 『息子としてならいいぞー?』
 貰ってやる、貰ってやる、と笑い始める。
 「洩れなくメイクラブ付きじゃなきゃ決裂だなぁ」
 くくっとわらって。指でオーケイのサインを作った。連中に向かって。
 『ハナタレ相手にメイクラブするよりはアシスタント怒鳴り散らしているほうが魅力的だな』
 「あ、言ったな?ハナタレかどうかコイビトに証言させるぞ」
 連中は、二人揃って同時にサムズアップを返してきた。
 『お?なんだと?コイビトができたのか!!』
 うわ?なんでアントワン、アナタそんなに嬉しそうかな?
 「定義はきっとアナタに怒られるだろうけど、おれの中ではね」
 
 『ハーン。まあオマエが真摯であるならば、オレがどうこう言う問題ではないな。シャンクスの人生だ。定義にオマエが
 忠実であればいい』
 足りない、っていうのは。聴き様によっては酷く残酷な言葉であることも確かなんだし。それくらい、わかってるしね。
 さら、と。落とし込まれる声に、頷いた。
 「ウン、あー、もう。いまから会いに行きたいくらいだよ、急にアナタが恋しくなった」
 何年も音信不通の癖に、って言わないところがアントワンだし。
 『午後からのフライトがあるだろう?間に合うようであれば来い』
 「連中がウン、って言ったらおれだけ先に行こうかな」
 『面倒だ、まとめて来い』
 目で、どうする?と連中に訊いた。
 笑みと、サムズアップが返される。
 
 「アントワン?夕方には会える、ウレシイ?」
 『おう!クソガキのケツをペンペンできるかと思うとな!』
 「その前にキスくれる約束なかったっけ」
 セクシャルな意味合いがゼロな口調に茶化してみる。
 『キスだあ?オヤスミのキスはあげてただろう?』
 「オトナになった記念!今日貰うことにしたから」
 フフン、とわらった。
 『脳みその中身がオトナになってなかったらやれんぞ』
 「――――あ、厳しいかも」
 アイタ、と。声で演技。
 『最も中身ががちがちのオトナなんかクソ面白くもないがなっ!!』
 「アントワン、空港でラブシーンしてもいい?それかアナタの家の玄関!」
 『コイビトとか?』
 「アナタとだよ、馬鹿じゃないのか!」
 後半は、わらってるアントワンの口真似。
 『アクセントは最初のバ、だ、クソガキ。ヴァッカジャナイノカ!!』
 「イエス、ムシュー。ヴァッカジャナイノカ!ね」
 
 『で。キスシーンはいらんぞ。ハグだけでいい』
 「うんといろっぽいの、あげるよ。期待してて」
 あたたかい声に、ふにゃけた笑みが浮かんでるんだろうな、おれ。
 『色っぽいのはいらん!!元気なのにしろ。強要するっ!!』
 「わからないよー?おれ名優だし」
 わらい声に埋まりそうになりながら返して。
 『演技はいらん!ただのクソガキで来い!』
 「フフン。お蔭様で黙ってても十分色っぽいって、おれ」
 『落として来い』
 「無理言わないで欲しいんだけど…アントワン、本気なわけ?」
 これは、挑戦してる口調か?もしかしなくても。
 『オレが本気でない時などあるのか?』
 大笑い、ってヤツ。
 
 「息するな、って言われちゃったよ」
 全員に向かって嘆息して見せた。
 『楽しみに待っているぞ。チケットが取れたら連絡しろ。迎えを出す』
 「アリガトウ、あいしてる、はじゃあ会ったときに」
 『オーライ』
 デンワ越しにキスしてから、また怒られる前に切った。
 ほとんど、同時だったけどね。
 
 そして、妙に黙り込んでる連中に目を戻した。
 LAX、さっさと行かないとな、大変だ。
 
 
 
 
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