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 崩した服の山に手を突っ込んでも埒があかずに、掻き分けていたならコール音がし始めた。
 うーわ…
 どこだ???
 くぐもった音が続く。
 アントワン、トワントワン、アントン、とにかくあのヒトは気が短いから―――
 「ああああ、あった!!」
 がさっと一山退かして、端末を掴まえた。
 「ハロウ、アントワン?」
 ぴ、と通話にして。フロアから立ち上がった。
 『ばっかもーーーーんっ!!連絡先は絶えず教えておけと言ってあっただろうがオロカモノっ!!』
 うーーーわ……
 耳から端末を浮かせた。怒鳴り声、大きいってアントワン。
 
 『クソガキ、いるなら返事っ!!』
 「アントワン、懐かしいよアナタのその怒鳴り声」
 ベッドルームからリビングへ移った。
 『懐かしく思う前に顔を出さんか、バカモノっ』
 十分、相手の声も聞こえてるんだろう、怒鳴り声にリカルドが小さくわらっていた。
 「だってさ、」
 声、勝手にすこし甘えてるか?おれ。
 『“だって”、なんだっ?』
 「会いたいヒトにはなんだか、会い辛いし」
 って、殊勝なこと言っても無駄なんだろうなあ。
 『クソガキがいらん気遣いするフリするな!来たい時には勝手に付いて回ってたクセしよって今更遠慮もヘッタクレもあるかっ!!』
 「アントワン―――?」
 あー、実感する、すげえ勢いで。
 『なんだクソガキ?』
 「ダイスキだよ、ほんとに」
 いまいるならキスしたいくらいだって、と付け足した。
 本音。
 
 『オロカモノ、そういうセリフは顔を見て言え!キスする前にケツ叩くぞっ』
 「見に行ってもイイ?」
 ケツ叩くのは勘弁して欲しいけど。
 『アタリマエだろうが!』
 「あとね?」
 『なんだよ?』
 「アナタの未使用のコレクションに関してお願いがあるんだ」
 『ほほーう、』
 「朗報だと思うよ?」
 デンワの向こうで、アントワンが。に、とわらったのが“見えた”。
 トーンも落ち着いてきてるし。
 
 『ハナタレのクソガキが連絡してきただけで朗報だ、遠慮なく言え』
 「おれね?微妙にいま復帰してンの」
 もう22だってば、と忘れずに付け足して、言った。
 「モデルしてるんだ、プライヴェートで」
 『ふ…ン。その話し振りだと“大御所”のエロ頭どもじゃないな?』
 「おれのこと掴まえて、“練習台”って抜かすクソ新人。でもね、おれ惚れてるンだよね、腕にも」
 リカルドが、すこし目線を上向けたのが見えた。
 照れてる…って?はにかむ、っていう言い方の方が近いかな。
 
 『ほっほーう、惚れた先からベッドには誘うなよ、オマエの悪いクセだ』
 「あの手この手にも乗らず。イケズだぜー?」
 くくっと笑みが喉奥からこみ上げて。
 や、ホント、リカァルドおまえほんとトクベツだって。
 『ハ!そいつは頼もしい!骨のある新人発掘中ってか?』
 「そう、それで。宮廷衣装が撮りたいって言うから。それならアナタかMETのキューレイタしかいないだろ?」
 相談先、と。わらってるアントワンに続けた。
 『まてまてまああてい。借りたいってのは例の18世紀パリジャン風宮廷ゴテゴテキラキラのヤツか?』
 「完璧。さすがアントワン。アレなら脱いでっても煽情的で最高だと思わない?」
 に、と。リカルドに笑いかけた。
 おんなじように「ワルイ」笑み、ってヤツが浮かんでる。フォトグラファにも。あ、やっぱコンセプトこれで正解だな?
 「あの白っぽいヤツ、きらきらで派手な。貸してクダサイ?」
 
 『あーまぁウチに在っても倉庫の肥やしみたいなもんだからな。オマエのイメージで作ってあるから使えるっつーなら貸す。というかむしろプレゼントしてやろう、引き取りに来るなら一式丸ごとな』
 「うわ、いらないって」
 『汚すも弄るも自在だぞ?』
 ―――んんん?
 「あのさぁ…?」
 『おう、なんだハナタレ』
 「別にね、アカラサマナの撮りたいわけじゃないんだけど」
 わらっちまった。
 『アタリマエだ、バカモノ。そんなつまらんモノを撮るようなニンゲンにオマエが惚れ込んでいると思っているわけがなかろう!』
 うわは。
 認められているのを知ると、妙にウレシイ。おれが価値を認めているニンゲンから。
 
 「アントワン!あいしてるよ?」
 『オロカモノ!顔を見てイイナサイ』
 あ、じゃあついでに。
 「あと、あれも貸して?」
 『あれとはどれだ?』
 「あの、馬鹿みたいにふわふわでコスト食った白の―――ええっと、ケープ?」
 直に寝そべったら気持ちよさそうだし、と軽く付け足す。
 あれ、プリンセス用だったっけ?ま、いいさ。
 『ああ、アレもついでにやる。もうオレはいらん。それよりオマエ、背丈体重は変動してるのか?』
 「縦に伸びたー。もうクソガキじゃないってば」
 『だったら2〜3日居るつもりで来い。仕立て直しだ』
 「うううう」
 古巣に3日も?
 あー、そんなこったろうとは思ったけど。
 
 『返事は、シャンクス?』
 「古巣に3日も?」
 縋るような声、ってヤツ。意識しないでも出て行く。
 『いやならウチにでも泊まればいいだろう?オレは1日しか相手するのにいられんがな。ああ、あと。ロビンにも会わないと
 可哀相だろうが』
 「泊めてくれるんだ、プティ・トワントワン、ありがと」
 『クスクスのワガママだ、多少は多めに見る。撮影場所はどこなんだ?』
 「ん、ニューオーリンズ、冷房効かせまくらないとおれ死ぬ」
 プロフェッショナルだけに、いい質問とおもったら。
 『あーれに似合う場所といったら、Vermilionのトップフロアくらいしか思い当たらないな』
 「アナタと来たんだっけ?ココ」
 からかいまじり。
 「正解、いまいるよ」
 
 
 
 
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