近年稀に見る馬鹿笑い、ってやつを。仕出かした。クソウ、まだ腹が痛ェ。
ケイタイからサンジの憮然とした声が何か言ってきていたが。
それどころじゃねえ。
『オレなんかおかしいこと言った???』
頭のなががぜんぶ疑問符になってるようなサンジの声が聞こえても。
まだ言葉を返せそうに無かった。
『……まさか、みんなふにゃんふにゃんのとろとろにならないの???』
あのバカに聞かせてやりてェよ、この世の終わりかてくらい。げんなりしたカオ作りやがるだろうに。
『オレだけヘン?!』
サンジの声が焦りを伝えてきて。またわらった。
「――――ちが、」
くそ、また笑える。
『笑い事じゃないよぅ、ゾロぉ!』
「サンジ、」
『うにゃあ!?』
思いきり焦り始めたか??
「コー、ザはな?おれのイトコだぜ…?」
どうにか笑いを飲み込んだ。
『ウン?うん、だからなに?メールで写真も見たよ?』
「だから、おれがヒトに抱かれるとでも?御免被るぜ、おれァ」
だめだ、笑いが。
『ええ?ゾロが??――――――想像デキナイ、』
「アタリマエだバカサンジ。」
うわあああと騒ぎ出したサンジに告げる。
「あのバカも一緒だよ」
『うわあ、え?じゃあ、じゃあ、セトが…???』
「くたくたなんだろ?」
わらった。
『ええええ?えええええええ!?』
「あー、サンジ?」
『うみゃあああん、』
おれは実際、あのバカと付き合ってきた女共知ってるが。ポイント高かったぜ?
追い討ちをかけてみた。
笑って。
ゾロが笑いながら言ってきた。
ポイント高かったって……オンナノコってポイント制だったっけ?
「ゾロ、ポイント高いって…どういう意味?グラマラスだとか、そういうこと?」
それなら、セトの過去の彼女たちも、多分ポイントは高かったんだろう。
うううううんんんん…時々、理解できない制度があるなあ。
『容姿と頭の具合』
「容姿は好み、だよねえ、でもさ?」
『いや?カオはともかくカラダは判りやすい』
「"胸大きくて、ウェスト細くて、お尻そこそこ大きくて、手足は細い"?」
飄々と言ってきたゾロに、前に誰だかに……ああ、ドクタ…タオだ…に聞いたことを思い出す。
もっとも、健康な個体が一番だけど、と笑ってたけどね、ドクタ。
『フン、そういう平均値がでてるだろう?オマエが丸読みできるくらいだ』
からかう声に、むむぅ、と唸る。
オレ自身は…そういえば、気にしたことなかったけど。
ま、それはもういいんだけどね。
「で、彼女たちのポイントが高かったから、なぁに?」
それがセトとどういう関係があるの?
続けて訊いてみる。
ううん、こういう会話は、結構難しいねえ。
『だから。』
「うん??」
少しばかり、声のトーンが…よくゾロが部下のヒトに言って聞かせるようなトーンになっていた。
うんうん、ごめんね、煩わせて。けど、こういう話をするのははじめてなんだよう。
『そういう女ばかりを好んで抱いてきたオトコがなんでビジンに抱かれる?』
……うん?
そりゃ、セト、キレイだけど……。
「あの、ゾロ?」
『なんだ、』
ええっと。
「セトって、"ビジン"なの?」
「"ベイビイ"、」
『うにゃ?』
「おれはおまえのふにゃけたカオが好みだが、あのプリンシパルはビジンだぞ」
からかい混じりに言葉を投げた。
オオカミだの、山だの川だの、そういったものが「きれい」の基準のワイルドチャイルドは。
美意識が微妙にズレテイル。
例えば、ヒトを計るにしてもどこかしらケモノとリンクさせてキレイかどうかを無理矢理に判断してでもいるかと思う。
『……そうなんだ!!うわあ、びっくり!』
サンジが、えらく素直に驚きを声に滲ませていた。
「ああ、ビジンだよ。言ったろ?女だったらおれの好みだ、って」
『ああ、うん、そうだよねえ…?』
付け足す。
「ああいうクールビューティ顔は、抱くとオモシロイ」
『…えええ???そうなの?なんで?』
冗談半分、実感半分にサンジに言えば訊かれた。あのなあ、答えをいわせる気かよ?
「表情のギャップがあるだろ?仔猫ちゃん」
これ以上は言わねぇぞ、おれはくだらねえセックスカウンセラーじゃねえんだからな?わかってるのかよ、ったく。
『あ、そうか!…ってことは、…じゃあやっぱりセトが蕩けるの?……うううううんん』
「あのバカ、おれのキョウダイ分、」
『ウン???』
「あれはエピキュリアンだぜ、ビジンも得したな」
短く笑ったが。
どうせわからねぇだろうな、この"仔猫チャン"には。
エピキュリアン?
ええと、ギリシャ語だっけ、あれ?ローマン?あ、ええとギリシャの哲学者が語源のコトバだ。
"快楽主義""享楽主義"。
楽しくあること、心地良くあることを人生最大の目的として生きること。
「じゃあ、ええと。つまり…セトもコーザも、幸せで楽しくて気持ちよくて快適ってことになるよね?」
メールの内容と、ゾロの言ったことを纏めてみた。
『初っ端から第7の門くらいはくぐってンじゃねえの、』
雑な口調でゾロが返してきた。
あ、それはビブリカル…レファレンスだ。
第七の門、Seventh gate of……heaven.
「天国かあ」
『Yes, Darling』
うーん。
じゃあそのうち。
「夜中に天国でセトに会えるかなあ?」
なぁんて。
いくらオレでもそこまで信じてはいないけどさ?
ゾロが向こう側で、また思い切り噴き出していた。
どごって音がして、
「イタッ」
うわん、音が耳に響いた!
ゾロ、電話落としたんだ…?
すっごい大笑いしているのが、向こう側から聞こえる。
「…あの、ゾロ?」
もしもーし?
「大丈夫?」
『な、――――あぁ、わり、』
こんなに大笑いするゾロは、でも、うん、久し振りだ。
まだ笑っている声が応えてきた。
イメージする、ゾロが目の端を指で擦っているところを。
あー…ま、いいか。
うん。
ゾロが楽しいなら、それでいいし。
「あ、それでね、ゾロ?」
気を取り直して。
「セトから、ハグ1個、預かってる。会ったら渡すね」
『いらねぇよ』
笑っている声が言ってた。
ううん、でもあげちゃうけどね。
そうだ、セトにキスもついでに付けるか訊いてみようっと。
『サンジ、ベイビイ、』
「うーん?なぁに?」
まだ僅かに笑いを含んだゾロの声が言ってきた。
『ペーパーもの、全部済ませたか?』
「んー、まだ。3つあって、2つはもう終わるけど、3つ目は合同で書くやつで、提出日は再来週だから」
レポートのことを考えた。
うん、2つ。今日中に書けちゃうね。
『サンドラにやらせろよ、』
ゾロがそう言って笑ってた。
「サンドラはサンドラでやることあるから。でもきっちり分配分だけしかしちゃダメだよ、って彼女言ってたし」
『明日、待っておけ。早くに迎えに行くから』
…うん?早く?
「それって学校はナシ?」
サボレってことかな?
『そう、』
当然、って口調で言ったゾロの声に笑った。
「わかった」
うん、学期始まったばかりだし。
まだまだ大丈夫。
サンドラに頼んでおけば、必要なことは言ってくれる。
きっと、また、言われるかな?
"いつまでもアッチッチで幸せね、ベイビィ"って。
「早くゾロに会いたいよ、」
『あぁ、それともオマエが空港までくるか?どうせアスペンまでドライヴだしな』
うん?
「オレのレンジローヴァ、乗ってっていいの?」
去年の夏の終りに、ゾロがオレに買ってくれた車。
『あぁ、ドウゾ』
「わお!じゃあ行く!!」
だって早く会いたいし。
「フライトの時間と便名、教えて!」
少し間が空いていた。
ううん、誰かにチケットのこと訊いてるのかな?
『―――――そっちに、10時前に着く便だ。あ?うるせえな…フライトナンバーは――――』
…ペルさんになにか言われてるのかな?
ああ、便名もおっしゃいなさい、って言ってる。
ふふふ。ペルさん、相変わらず元気そうだね。
『DELTA1185だ。お迎えよろしく頼むぜ?』
「うん!もちろん!」
『何も轢くなよ?頼むから』
「うっわ、そういうこと言う?!」
笑ってるゾロに、オレも笑った。
「大丈夫だよ、砂漠じゃないから視界はクリアだし」
ゾロ以外は轢いた事ないし。
『明日が遠いな、待つとなると』
すう、とゾロの声が甘くなっていた。
「うん。あ、ゾロ、いいこと教えてあげる」
遠い明日を早くする方法。
『――――ん?』
「寝ちゃえば、明日はすぐ来るよ?」
実証済み。
最も、寝れれば、のハナシなんだけどね?
……ってまたゾロ大笑いしてるしー。
ううん、今日のゾロ、なんか…ツボ入ってる???
「ほんとなんだけどなあ?ウソだと思ってやってみてよ?」
ひとまず言ってみる。
『アイシテルよ、バカネコ』
ゾロがまたケラケラと笑っていた。
ふにゃん、と嬉しくなる。
うん、これが恋してる気分。
確かに"レンアイってたのしー"よ、セト。
「ゾロ、だぁいすきだよ」
チュ、と電話に向かってキスを飛ばす。
『あァ。じゃあ、明日』
「うん。明日、会ったら。いっぱいハグしてキスしようね」
『兎は生で食ってくるなよ?』
優しい声、だったのに。
「もう生肉は食べないってば!!」
笑って返す。
ああ、もう。群れからこっちに来たの、解ってるクセに。
『オーケイ、上等。じゃあおとなしく寝ろよ?』
サンジ、ってゾロがオレの名前を呼んで。
それからコールが切れた。
うん、ゾロもね?オヤスミナサイ、いい夢を。
心の中で呟いて、電話を置いた。
ちらり、とテーブルの上のレポートに目を走らせ。
うん、気合入れて終えなきゃな!と思いを新たにする。
でもその前にやることは二つ。
サンドラに、明日は大学行かないから、っていう報告と。
セトに、キスもしとく?って訊く事。
セトからの返事、今晩中に着くといいな。
そしたら、両手を広げて、ぎゅう、ってゾロに抱きついて。
思いっきり……頑張って、キスをしよう。
ゾロが、もしかしたら…キュウ、ってなるかもしれないじゃない?
VERY Happy Ending, Isn't It?
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