dulces



「――――次会えるのは一ヶ月後かあ……ちょっとサミシイネ、」
隣に滑り込んできた恋人の顔を見遣る。
ベッドルーム、サイドランプに照らされた優しいオレンジの空間で、す、と恋人が大きくキャッツアイを見開いたのが解る。
「”チョット”」
そう言って、くぅ、と笑みを刻んだコーザにくすんと笑いかけて。ころん、と寝返りを打って。リネンの下以外は着て寝ない恋人の裸の胸に腕を乗せた。
「んー、ちょっと、じゃないネ」
指先で、小さな十字架をなぞる。
「けど、あンまり寂しがられても今度はおれが気が気じゃない」
そう小さく笑って、さらりと胸の上に乗せた肘辺りを大きな掌が辿った。
「ま、でも。ショーガナイよね、コーザ」
とん、と顎を肩口に乗せる。
「たまにはこんなことがあってもサ、」
じぃ、と。恋人が見詰めてくるのに目を細める。
「―――うん、サミシイのもショーガナイ」
指先で、恋人の鎖骨を辿る。
腕から辿り上がった恋人の掌が、ゆっくりとリネンの寝巻き越し、背中を辿り落ちていく。
「最初で最後にするツモリではいるけどな」
低くて優しい声に、更に眼を細める。
「―――オマエってば、サイコウの恋人だよな、コーザ」
ちゅ、と。肩口に口付けを落とす。
コーザの眉が、ひょい、と片方だけ上がってった。さらさら、と。恋人の喉下を指先で撫で上げる。

「ゴロゴロは言えないンだけどな、おれは」
くくっと小さくコーザが笑う。
耳に優しい、どこか甘い声。
「セトと違って」
する、と片腕が回され、ぎゅ、と背中を抱き締められた。
くっ付きあった身体から、力強い心音と体温が伝わってくる―――布越し。
腕を伸ばし、コーザの体を片腕で抱き返した。
優しい抱擁、愛し合っている、それを確かめ合っている時とは比べ物にならない、ただ優しい腕。
「なァ?」
「うん?」
ちらりと視線をキャッツアイに合わせる。
「スペインで苛められたらすぐ連絡しろヨ?」
からかう口調の恋人に。頬を、軽く恋人の肩口に擦り付けた―――オマエ、そのキャッツアイ、キラキラしてるって解ってるか?
「ウン、苛められたら、じゃあ」
もちろん、そんなことがあるわけがない―――オレが苛めるかもしれないケド。
「それから、」
にぃ、と。少し意地悪そうな顔でコーザが笑う。
「新しいオトモダチをあンまり泣かさないように」
「―――多分、だいじょう……あ、どうかな。のめり込んだらわかんないナ。今度は、ほら。オマエっていうストッパーがないから」
ふにゃ、と顔が勝手に笑う。
「どんどんボレロにのめり込んじまって、帰れなくなっちまったらナ?」
する、と、コーザの指裏が、頬を撫でていく。その感触にまた小さく笑う。
軽く顔の位置をずらしてその指先を追いかけ、口付ける。ちゅ、とかわいい音を立てたら、ゆっくりと指先で唇を辿られた―――その渇いた感触に、小さな快楽を覚える。
クスグッタイケド、キモチガイイ。

「ふわふわしてら、」
にっこりと笑った恋人の指先を捕まえて、咥える。
「にゃあ」
毛皮はないけどナ?―――小さな冗談。
くくっ、とコーザが低い笑いを洩らした。
「いてて、牙、牙」
「立ててないってのに、もぅ」
あたってるよ、セト。そう言ってきた恋人にぷっと笑って、指先をぺろりと舐めた。
「もう痛くないダロ?」
さら、と。頬をまた肩口に預けなおして訊けば、
「―――いや、」
す、とキャッツアイが笑いを過ぎらせていった。
「ンン?」
眼を見開いて、恋人を見詰め返す。
「自惚れかもしれないけどサ?あンたが向こうでも良く眠れて寂しくならないように、って思うと、おれは心配で心臓が痛いネ」
冗談めかしてはいるけど、どこか本気を窺わせるトーンで恋人が言った。
「―――心臓?」
笑って体を起こし、トン、と恋人の心臓の上に口付けを落とす。
「イエス、ダァリン」
そのまま身体を引き上げ。嘯いた恋人の上に、身体を重ねた。間近で顔を覗き込む。
「まァでも。セトの出掛けるのがアンダルシアじゃないだけ、まだいいかな」
す、とキャッツアイがルームライトのオレンジを弾いて煌めいた。
「―――アンダルシアだったらなにかある?」
指裏で、恋人の頬を撫でる。
「ミューズより手ごわいのが居るだろ」
微笑んだ恋人に、小さく笑いかける。
「―――“ドゥエンデ”」
囁きで落とし、首を横に振った。
とん、と。唇に口付けられた。また静かに恋人の頭が枕に預けられる。
「―――オマエがいるから、」
ゆっくりと背中をなでおろしてくる恋人のキャッツアイを見詰める。
「ドゥエンデじゃあ至上の喜びをオレに齎したりすることなんかデキナイヨ」
「セト、」
愛情だけを塗り込めたような声に、ふわりと微笑む。
「……なぁ、コーザ。やっぱり…1ヶ月は長いね?」
「短いな、」
さらりと額から砂色の髪を退かす。
に、と笑った恋人の顔を覗き込む。
「“短い”、」
「あンたが隣にいれば、そンなの10日にも感じないから」
ふ、と。そういえば、今日まで一緒にいた“1ヶ月”は随分と“短く”感じられた。
「正直、明日で向こうへ帰るのはウソじゃないかと思ってるくらいだから」
きらきらと煌めくキャッツアイに微笑んで、こつんと額を合わせた。
「―――なぁ、コーザ」
する、と鼻先を合わせる。
「やっぱ……しよ?」。




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