10月のとある日、in ロンドン。
せ>「行くよ、忘れ物は無い?」
さ>「ウン、大丈夫」
せ>「今日もそれ被っていくんだ、テンガロン」
さ>「ウン。ヘンかな?」
せ>「いや、いいんじゃない?オニーチャンとしてはもうちょっと色気のある格好をさせたいけどねぇ」
さ>「それはいいよ」
せ>「うん、オレも禁止されてるから」
さ>「誰に?」
せ>「ふっふっふー。ナイショ。さぁ、デートの始まりだねえ」
素敵ゴールデンキャッツ・ブラザーズは、久しぶりの買い物デートです。セトちゃんの公演をロンドンまで観に来たついでに"お仕事"に取り掛かった二人の王様は抜きなので、実に久しぶりに二人きりだったりします。
さ>「デート?」
せ>「オレたちラブラブだろ、いいんだよデートで」
さ>「セト、兄貴なのに?」
せ>「サンジはオレとデートは嫌?」
さ>「セトにオレは口説かれるの?」
せ>「愛してるよ、サンジ。ああもぅ、かわいいなあ!」
ぎゅう、と抱き締めてから、兄馬鹿と天然弟はリムジンに乗ってシティへと繰り出します。天気は秋のロンドンには珍しく晴天。いい買い物日和です。
せ>「ちなみにこのリムジンの後ろにボディガードが乗った車が数台ついてきてるんだよ」
さ>「セト、誰に説明してるの?」
せ>「ううん?独り言―。それにしてもオマエ、ニューヨーカーってカンジがしないねえ」
さ>「街の中は好きじゃないから、一人だと行かないし。だから基本的にはどこにいても一緒だよ、オレ」
せ>「街中が好きじゃないのにオレに付き合ってくれるオマエが愛しいよ、サンジ」
ふにゃりと笑いあう兄弟のキラキラオーラに目が眩まないよう、運転手はサングラスをした目線を目の前の道路から外さないよう、必死です。万が一事故なんてことになったら西の王様、東の王様、引退した大王さま、各お目付け役、そのどれからも仕置き人が送られてしまいますからね。
ちなみに運転手さん、パティションは何故下げないのですか?―――ああ、ワガママ兄弟、暗いのは嫌なんですか。そうですか。大変ですね、給料上げてもらったらどうでしょうか。
さ>「今日は何を買うの、セト?」
せ>「冬服。小物も欲しいなぁ」
さ>「セト、いっぱい持ってるのに」
せ>「ワンシーズンしか着ないから、オレ」
さ>「勿体無くない?」
せ>「経済はそうやって回るんだよ、ベイビィ」
さ>「ふぅん」
―――くっ。稼いでいる人間が言うことは違うぜ、ちくしょう。と、私情を挟んでいる場合ではなかったですね。
車はゆっくりとメインストリートを走っていきます。どうやら今日は5番街でお買い物のようです。
せ>「ベイビィはアイツとは買い物に出たりするの?」
さ>「ゾロ?ウン、時々。でもあんまり無いかな。セトは?」
せ>「オレ?」
さ>「ウン。コーザと買い物したりする?」
せ>「買い物したり、外で食べたりとかもするよ。レッスン帰りだったりすることが多いけど」
さ>「ふぅん」
万年屋敷の中で過ごすことを選択しがちなサンジは、こくんと首を横に傾けてますね。今度ゾロをデートに誘ってみよう、なんてことを考えているみたいです。それからはた、と気付いたように目を瞬きました。
さ>「でもさ、欲しいものって無いよね」
せ>「無いか?オレは結構イロイロある」
さ>「そう?でも服なんて一揃えあれば充分だし、日用品はアリスンちゃんとマルガリータちゃんとワイマンさんが買ってきてくれるし」
せ>「アリスンちゃんとマルガリータちゃんはオマエらの屋敷で会ったことあるけど、ワイマンってのは誰だ?」
さ>「新しく入った人だよ。すっごいぴしっとしてて、あんまり笑わないの」
せ>「…執事か?」
さ>「ウン?―――ああ、そうかもしれない。オレ、家の中のことってあんまりしないから」
―――この仔猫ちゃん、当初は自分で炊事洗濯掃除を全部やろうとしておりましたが、今の屋敷は広すぎてギヴアップして家政婦さんたちに任せております。が、任せたら口出ししないのが主義という、かなりのポリシィの持ち主でありまして。(でも料理は時々するらしい。スーリヤさんもいらっしゃるので・笑)そのためにスタッフさんが新しく雇われた次第だそうです。名前は覚えても役職は覚えないベベですが、スタッフ受けはそれはいいそうです。時折目のやり場に困る、という声もちらほらあるらしいですが、それを自覚するようなベベではありません。―――最近は子供っぽさが抜けてきて、ますますビジンにはなってきましたけどもね。
さ>「庭で狼たちと遊んでることも多いしね」
せ>「―――オマエ、あの山の馬鹿広い森を庭って言うか」
さ>「ウン。何がどこに植わってて、どこに水場やちょっとした隠れ場所があるか全部知ってるし」
せ>「ううん、相変わらず狼少年だね、サンジ。あまり変わってなくてオニーサンは嬉しいよ」
さ>「いまでも一緒に寝てたりするよ、ゾロが居ないとき」
せ>「変わってないなあ、マジで」
さ>「あのコたちも、ウチで寝てたりするんだ」
せ>「…やっぱりちっとは変わったな、サンジ」
狼の番、約束どおり手に入れたベベでございます。ペット、ではなく、子供のような感覚で今度は狼と接しているらしいです。てことは、パパはヒトデナシ・ゾロ?うーわあ。つうかベベってばママ?うきゃあ。
さ>「そういえば、ジュエラで宝石と、どこかの店で毛皮買ってもらったことあるよ」
せ>「へえ?」
さ>「ニューヨークのセトやシャーリィが好きそうな店でさ」
せ>「オマエにしては珍しいセレクションだね」
さ>「ん。―――セトは、エティエンヌ爺に隠し子がいたの、知ってるよね」
せ>「知らないわけがないだろ。―――なに、オマエ。そのヒトと連絡取ってるんだ?」
オヤ。セトちゃんの知らない事実だったらしいですねえ。少し複雑そうですな、表情が。
さ>「愛人だったヒトと、その娘さんはもう亡くなってて。その一人息子、だから…イトコにあたるよね、そのヒトとね」
せ>「―――へぇ。どうやって知ったの、そんなヒト」
さ>「大学に居た時にメール貰った。そのヒトの後見人みたいなヒトが、ゾロのダディともゾロとも、だから多分コーザとも知り合いみたいで。それでどういう流れかは解らないんだけど、偶然知ったみたい」
せ>「あらら。あっち関係のヒト?」
血は争えないのかな、といった顔をしておりますな。セトちゃん。ベベは首をぷるるっと横に振っておりますけどネ。
さ>「旅することの多い恋人と一緒に世界を回って暮らしながら、絵を描いて暮らしてるんだって。今でもメールの遣り取りしてるし、電話もするし、時々写真も添付して貰ってる。すっごいキレイなヒトなんだよ」
せ>「―――ツッコミどころが多いなあ。けどオマエがそういう褒め方するってのは珍しいネ」
さ>「ふわふわきらきらしてて、明るくて暖かいヒトだよ。それでもって、オレでもドキって時々なるくらいに、なんかこう、魅力的なの」
せ>「ふぅん?オマエがベタ褒めするくらいなんだから、相当なものなんだろうな」
さ>「ウン。後で写真観る?」
せ>「興味はあるな」
ベベの良いメールフレンドらしいですな、ぽにゃってば。ちなみに仲介者は"アンドレア"ですから(笑)、信用は一応されているみたいです。にしし。
せ>「それにしても、絵描き、なぁ…どんな絵を描くんだ?」
さ>「ウン?さあ?そういうことについては訊かないから知らない。あ、でも……前に、なんて名前だったかなぁ、どっかの香水瓶のデザインと、広告用の絵を描いたって言ってた。蒼い薔薇がイメージの」
せ>「……へぇ、アレかあ」
さ>「セト、見た事ある?」
せ>「一時期すげぇいろんな所に広告出てたよ。雑誌や新聞にも載っていたし、テレビ用には背景で使われてた」
さ>「へえ?今度見せて」
せ>「載ってた雑誌でも送るよ。―――へぇえ。透き通った感性のヒトなんだな」
さ>「んん、日溜りみたいなヒトだよ」
ふにゃ、と笑うベベに、セトちゃん、裏があるかどうか心配するのを止めたみたいです。一応謎パパとヒトデナシの信頼を得ている人物からの仲介、ってのも効いているみたいですな。まあぶっちゃけ(<古)相手はぽにゃだから、なぁんの心配もないんだけどねえ。
せ>「で、なに。オマエ、そのヒトにアドヴァイス貰ったのか?」
さ>「ウン。恋人にクリスマス・プレゼントをあげたいんだけど、って言ったらね」
せ>「…毛皮と宝石」
さ>「貰って嬉しいって言ってもらえる確実なものでショ"自分"って、って言われてね。自分を素敵に着飾ればいいんじゃない、ってことだったの」
せ>「あー…ああ、その我らがイトコ殿、女性か?」
さ>「ううん。オレと同じ名前の、…オレより六歳上の男性だよ」
せ>「…"サンジ"なのかよ」
さ>「ウン。吃驚するでしょ。あのヒトも驚いて、嬉しくなって連絡くれたって言ってた」
せ>「んん?」
さ>「お祖母ちゃんもお母さんも早くに亡くなられて、血縁者が一人もいないんだ、って思ってたんだって」
父親については何一つ知らないぽにゃでございます。身近に血縁者はいなくても、ぽにゃはみんなに愛されてる幸せなコだけどネ。なによりゾロノアがなあ…っ!!(感慨)
せ>「…イトコ殿は、クソジジイに会いたいのかねえ?」
さ>「んん?オレがアノヒトタチには会わせたくない」
せ>「いやーなジジイにいやーなババアだしな。シャーリィがあんなに素敵なのが信じられないよ」
さ>「アントワンのほうのご両親は素敵なヒトだった?」
せ>「ああ、オレも会った事無いんだよ。シャーリィと出会う前にはもう二人揃って亡くなってたって話しだし。でもアントワンの性格を考えたら、きっとタダモノじゃなかったとは思うぜ?」
さ>「アントワン、すっごいもんねえ!」
くすくすと笑いあう、ゴキゲン猫兄弟でゴザイマス。
さ>「セトは会ってみたい?」
せ>「もう一人のサンジにか?」
さ>「ウン」
せ>「んー…どうかなぁ。複雑ではあるよナ」
さ>「ウン。イロイロ考えるとなにかあったら大変だから、オレは会わないけど」
ヒトデナシの最愛だっていうことをきちんと理解しているベベでございますから、無理は言わないみたいですな。オトナになりました……ふ。
せ>「あー…まあ、偶然会うことがあればナ。あっちも会いたいとは言ってきてないんだろ?」
さ>「会いたい気もするけど、知り合えただけで嬉しいから、って言ってる」
せ>「じゃあ無理してセッティングすることもない、ってことだな」
さ>「ウン。恋人に愛されて、周りの沢山の人にも愛してもらってて。すごく幸せで満ち足りてるから、いつか機会があればその時にでも、って言ってくれてる。エティエンヌ爺と会いたいって気持ちは、あんまり無いみたいだ」
せ>「ふぅん」
どうやらぽにゃ、案外惚気倒しているみたいです。しかもベベ相手に。ブラーヴォ(笑)
さ>「セトの友達のアンドリュウ、だっけ?」
せ>「はン?アイツがどうした?」
さ>「会ったらきっと撮りたがるよ」
せ>「ンなに"ビジン"なんだ?」
さ>「ウン。写真通しても解るくらいに、ふわふわきらきらなんだ、彼」
せ>「…ちなみに、オマエのオレの評価は?」
さ>「セトの?―――クリスタル・ガラスみたいなキラキラ。イエロー・ダイヤモンドよりキレイ」
せ>「…オマエの美人の大学時代からの友達がいたろ。卒業式でスピーチしてた。彼女は?」
さ>「サンドラ?彼女はオレンジの薔薇、もしくは太陽のコロナ」
せ>「オマエ自身は?」
さ>「オレ?―――どうだろう?"野生児"?」
ふにゃ、と笑ったベベ。相変わらず自覚はありませんとも。―――ああ、セトちゃん。深い溜め息だねえ。
せ>「天使チャン、オマエ、随分大人っぽくなったけど、そういうところはちっとも変わらないなぁ」
さ>「そう?でもさ、セト」
せ>「なに?」
さ>「ゾロがオレのこと好きなら、どんなものでもいいんだ」
せ>「―――そうか」
さ>「ウン。セトは違うの?」
カオを覗き込まれて、セトちゃん、ちょっと考えてますねえ。
せ>「オレは"キレイ"であろうと努力してるけどな。表現者だからキレイであることのメリットは大きいし」
さ>「ウン。セトはダンサァだもんね」
せ>「―――まあ、個人的なことではさ。やっぱり好きなヤツには、気に入ったジブンを好きになって貰いたいからさ」
さ>「ウン」
せ>「―――中身が一番大事だってのはアタリマエだけど。外身をケアしたって悪いことは何もないからな」
さ>「ウン」
せ>「…着飾ったりするのが好きなのは、シャーリィとアントワンの血、かな」
さ>「そうなのかな」
せ>「まあアントワン程には妙なコダワリは無いけどナ」
車はどうやら、オックスフォード・ストリートにある大型デパートメント・ストアに到着しましたね。
運転手、一度車を停めて、後続のボディガードの皆様が到着するのを待っている模様。
さ>「着いたみたいだねえ?」
せ>「あぁ。ほら、行くぞ」
さ>「ん」
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