6. 「・・・・・・っく、」 惹き起こされる熱に、腕のなかの躯がためらうのが感じられる 浅い呼吸をくりかえす、愛撫に慣れていない躯。 その、 いまは堅く閉ざされた瞳に無理にでも劣情を帯かせ溶かし込み、悦楽の涙を浮かばせたいと思い 躯の底にのこる躊躇いや畏れを自分の手ですべて融かし去りたいと願う 激しく二律する感情。 戸惑うのは自分の方だ、ゾロは頭を抱き込むようにして唇を重ねる。 ましてや―――予測のできない思いがけない力と 肌を滑る掌に、寄せられる唇に。ひくりと躯が勝手に「すくむ」、ほんの僅か。 そうして、溶けていく 不安になるほど 泳ぐように腕がリネンを彷徨い、背がのけぞりかけ、それでも歯を噛みしめるようにし洩れてくる 声を抑えこもうとしている。淡く朱を刷いたように微かに色をのせる目もとと。ときおり降りてくる 瞼に隠されてしまう薄碧は、隠しようもなく相手に純粋な欲情を伝えてしまってはいても。 その間も、自分の唇の舌の留まるところに薄赤い痕を残し。腕に抱く躯の返してくる反応の 密度に自分の内の熱が拡がっていく。やがて唇が綻び、指を引き込みかるく歯をたててくるのを感じ。 薄く笑みをのせたまま、まじかで顔を覗き込む。やわらかく唇を重ね。 「う、るせ」 どうにか返しても。擦れる語尾が、あっさりと熱い掌にいまも翻弄されていことを知らせる。 「聞き納めになるかもしれねえのに」 直接、耳に落とし込んでくる、声に。ぞくり、とサンジの身体が沸き立つ。 に、とそれでも気の強い笑み。劣情に淡く浮かされても失われないその眼の光に、ゾロは 自分の鼓動をまじかで聞いた。すべての音が遠ざかり相手の声と、自分の鼓動だけが自分の 世界を満たすかのような、錯覚。 「試すか?」 頬を撫でてくる手に瞳を閉じ、しらずに自分が長く息を吐いているのにサンジは気づき。 目を閉じていてもなお感じられる視線に唇のハシを引き上げる。 そう自分が呟いたのとまるで同意するかのように、熱さを含んだ空気が動き首筋をきつく吸われ。 背を伝いおち拡散していく痺れに、掌の熱に、喉からでてくる声を、間を僅かに隔てる空気を漏れ出す 喘ぎが隙間無く埋めていくのを、押し止めることをサンジは手放した。 足は、深く繋がるため。唇や舌は、触れ、あじわうため。高い塔を作り上げ、崩れ落ちる。 死と、快楽は隣り合わせに。深淵の縁にたてた爪は唇に解かされ 堕ちる、すがる。自分の口からこぼれた言葉に、爪をたてて抗う ひとりで、堕ちていくなと。そんなことは嫌だと。おまえの眼に、言いたいのに 零れでるのは、もう なまえと、意味の無い音だけで。
恐ろしいほどまで欲情した自分をゾロは感じた。 耳の底に、静かに蘇えったのは。聞き覚えのある声。 誰の、諫言だったか―――。 ・・・・・抱きしめる それでも 瞼に唇で触れる その瞳が映すものをすべて 変えてしまいたいと 快楽と死が、隣り合わせにあるのだとしても その瞳が映すものをすべて 変えてしまいたいと 願ったのは自分だ 変えてしまった咎は すべて自分が負うから、と。 抱き寄せた運命を、自分は 「へえぇ?ガキが。親バカが無断外泊心配してたってのに」 にい、と傍らのベックマンに笑いかける。
ヒトサマの隠れ家を連れ込み代わりにしよおたぁーいっちまんね・・……ン?」 ソファの背に投げかけられたようにひっかかっているモノに目を留め、黙り込む。 わずかに光沢を感じさせる質感のそれは に。とシャンクスの唇端がつり上がる。 「・・・・ボタン、飛ばされちまってるな」 やれやれ、とでも言う風なベックマンの口調。 「だな、」 「クソガキの趣味じゃねえな」 「ああ」 答えると背の高い姿はバーカウンターの方へ行ってしまい。
もう一方はといえば気配まで消すと、ゲストルームの方へと進んでいく。 聞こえない程の声で両開きのドアの外から呼びかけ、そっとドアに僅かな隙間をあけると首だけ 突っ込む姿は。どうみてもただの悪戯好きのガキそのもので、ベックマンの止める気も失せる。 「・・・うわお。」 ぷらぷらと手が振られる。 「―――おれは覗きの趣味はないって」 さらに手のアクションが大きくなる。 「へえ。」 「だろ?」 小さな頭が、見えた。リネンからわずかにのぞく足先が、絡まっている。濃密な時間の名残が、あまや かさに換わって微かに漂うかのようなその室内の様子に。 「は?」 がががん。と珍しく赤アタマの衝撃をうけているらしいのにベックマンのポーカーフェイスが 崩れかける。 「混ざりてぇと思わねえーーッ、これはやばいだろ、なァおい!」 「・・・・・あんた、やっぱり1度ミホークに殴ってもらった方がいいぞ」 はあ、と天を仰ぐのはお可哀相なナンバーツーの姿。 「じゃあ、おれは行ってくるから」 「ああはいはいどうぞ」 バイバイお達者で、と軽く手を振りベックマンは蓋を開けたままのウォッカの方に戻る。 ふい、と眉根が寄せられるが、すぐに面白がるような表情にそれはとって変わられ。 あーあー、大事そうにしちゃって、とシャンクスは小さくひとりごちた。 そしてゾロの側のベッドに近づくと、すい、と身体を低くする。 にやり。とシャンクスが指で作ったピストルをゾロのこめかみに押し当てる。 まさに、跳ね起きる、とはこのこと。全身のバネを使って飛び起きるのはゾロ。 その突然の動きにも、隣りで眠る姿は軽く寝返りを打って、リネンに包りなおし、そのまま 静かな寝息をたてている。 どご、とシャンクスの鳩尾にゾロの踵がヒットした、が、すかさずその足首を捕まえて大口を 開け声を出さずに大笑いをする軽業を、この男はやってのけた。 自分の前のソファを指差した。 「そのまさかだよ」 「ネフェルタリのお宝?おまえ・…―――?」 「そうだよ」 あっさりと返って来る声に、ゾロの方が驚く。 「ああそうってあんた、」 やれやれバカダネェ、と。歌うように言って寄越し。 指の間にいつのまに見つけたのか薄青の貝釦をはさんでいる。 に。とまるっきりガキの笑い顔でカルテルの覇者がわらう。 「お前らさァ、こうなったらもうウチ来るしかねえだろ」 ぐしゃぐしゃとゾロの頭を引っ掻き回し。 「あんたほんとに死ね!」 ぎゃはははと大口を開けて笑い出すのを、ベックマンがちらりと目の隅で追い、ゾロに向かって わるいな、とでも言う風に唇を引き伸ばし。声に乗せる。 に、とヒトをくった笑みにそれは変わる。 はあ、と大きく吐息をつくものの、ゾロはソファに座りなおし。 「だけど。シャンクス。そっちに火の粉飛ぶんじゃねえの、」 でもな、と。深い色の瞳があてられ、わずかにその目が細められる。 埋もれちまうよりいいだろ、と真摯な声が返ってきた。 ふいと軽い調子にそれが戻り。 「ああ」 ベックマンが答え、立ち上がるとドアを抜けていく。ぱたん、と静かな音をたててそれが閉まり。 王様達の。だから、いまはロクに動きがとれねえ筈だ」 「内通、か―――?」 「らしいな」 ゾロが立ち上がりかけるのを、シャンクスの手が思いがけず強い力で押さえる。 「おまえは動くな」 唇端が引き上げられる。 「言ったろ?うざってえの片付けに来たんだ、ってよ」 「うら。はやく大事なの起こしてこいよ、おれにも挨拶させろ」 「ぜってえ、ヤダね」 「心の狭いオトコだなおまえは!」 はぁ?ざけんなコラ! ぎゃあぎゃあと。始まる騒ぎ。
物音にサンジが起き上がってくるまで、それは続いた。
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