7
白い街、降り止むことをしらない雪。
部屋の熱ですぐ曇る窓からも、雪のほかは何もみえやしない。
街灯すら。
ちくしょう、なんで俺はこんなとこに突っ立ってる。
さっさと寝ちまえ。
クソ方向音痴のくせに、大丈夫かよ。
自信たっぷりに路頭に迷うくせしやがって。
どこにあんだ墓は。
・・・あの人の、息子の。
ほんとうに、いやな話をきいた。
罪深い赤ん坊の話。
救われなかった、最後まで救いようのない恋人達の話。
それぞれの想いの決着。
なんで自分たちが、時間の輪を完結させる瞬間に立ち会わされた?
そんなものに面影を重ねられて俺は。
バカみたいだ。
バカすぎて、泣けてくる。
暗い窓に姿が映り、首に包帯なんか巻いてんの。
ああ、泣いてんよ。
マジ、俺って、バカ。
顔立ちの特徴だけを曖昧に映し出す窓に映る姿影は、そうじゃなくても女顔が、ホンモノの女の顔みたいだ。
こんなもんに命をかけるか?
バカだよ、あんたは。
見たことのない、卿に話し掛けてみる。
わかってるさ、ほんとは。
俺もそこまでバカじゃねーもん。
きっと、俺も同じことするんだろうよ。
俺に似てたって人には、その価値があったんだろう、
愛される。
その人のすべてが愛せたんだろう、やどった生命さえ。
でも、愛せたか?
たとえ、その罪が、その人を殺したのだとしても?
あんたはどんな眼差しを、その子供にむけるんだろう----。
赦すのか?その生を。
それとも-------滅ぼすか?
きょう、斬り付けられた自分をみたあのときの、ゾロの眼。
翆に、灼かれるかと思った。
あんなに苛烈な視線は、自分は、知らない。
止めなければいけない、瞬間そう思った。
あれは、何だったんだろう。
窓を透かし降る雪をみていると、自分の思考が彷徨いだすのがわかる。
なんで、あのバカのことばっか、考える。
あいつに夢の話をしたのも、信じられない。
それでも、あの言葉に救われたんだ。
赤ん坊のころの記憶だろう、って。
赦された、って思えたんだ。
俺は、最初から誰にも望まれない子供だったから。
殺す手間さえ惜しくて、北周航路の船倉に捨てられた赤ん坊。 ただ、悪運ばっか強くて計算外に生き延びてんだ。 そんな、とうの昔に死ぬはずだった子供。
俺が、いまここにいられるのは、なにかの間違い。 そのせいで、消去されてしまった命は、いったいいくつある?
―――そんな想いをずっと抱えてたから。
あの男の話を、否定したい。
けれど、あまりにも夢と重なる符号をどうすればいい?
人の命ばかり、食いつぶす子供。
きょう、俺に向けられたあまりに強い負の感情。
また、「死んだ」。
これ以上、俺は背負えないよ。
もし、俺のハハオヤが港で殺された女だったら、俺がその原因だったら
きょう消えてった2つの命も
ハハオヤを守ろうと死んだ男も
なんで俺だけが生きていられる?
ゾロ、てめえなんで戻ってこない、
こんな因縁話これ以上、てめぇに何かあったら俺は・・・・・・
俺は?
白と赤と、黒。
今朝みた夢の強烈なイメージが甦る。
どこまでも続く雪原。
血溜まりに倒れていた黒髪の男。瞳を閉じても、剣を握る手はそれでも離さずに。
白と、赤と、黒のコントラスト。
背後の扉がきしんだ音を立てた。
その音で、サンジは自分がどれほど緊張していたかを思い知らされた。
身体が、安堵で弛緩するのを。
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