小さめの七面鳥が焼きあがって、ディナーを終え。
後片付けを終えたら、23時になろうかという時間だった。
サンジが、にこっと笑って。
「ごちそうさまでした」
と告げてきた。

「美味かったか?」
「おまえさぁ?」
「うん?」
食後のワインを一口啜る。
自分好みの、成熟した赤ワインだ。
サンジが、ディナーテーブルを挟んだ反対側から足を伸ばして。とて、と軽く足先で小突いてきた。
「…こら、サンジ」
笑う。
サンジもゆっくりと微笑んでいた。
手を伸ばして、頬に触れる。
食事中も飲んでいたワインで、ほんのりと赤い。
「なんでも出来るのってずるくねェ?」
苦笑を零す。
なんと返したものか…。

何でも出来るように育てられたのは、その必要があったから。
潜伏生活を送るようになって、更に向上したが…。
「なにも出来ないよりはいいだろう?」
トン、とサンジの額を小突いた。
「おれもさぁ?」
「なんだ?」
サンジがすう、と目を細めた。
「おまえのこと構い倒したいのになァ」
ゆっくりと、言葉が紡がれる。
「じゃあ今から構ってくれ」
笑って言ってみる。
明日になるまで、そう追加して。

トン、と爪先がまた小突いてきた。
笑う。
サンジもにっこりと笑っていた。
短い柔らかな沈黙の後。
サンジが、あ、あとね?と口を開いた。
「おれもう一つ、欲しいものがあるんだ」
そう言いながら、そっと椅子から腰を上げていた。
じっと見ていると、す、とリヴィングまで行って。
一瞬の沈黙の後、ステレオから流れてきたのは、チェット・ベイカーの"Silent Nights"。
それから、どうやらベッドルームに行ったようだ。
僅かに動く気配を、目を閉じて追っていると、しばらくして戻ってきて。

するん、と凭れかかってきたサンジが、背中越しに両腕をくう、と回して。耳元に口付けを落としてきた。
「ゾロ、」
柔らかい声が呼ぶ。
その腕を柔らかく撫でて応える。
「おまえのいましてるシルヴァ。そのピアス、欲しいんだけど」
「…これか?」
ぴん、と左耳のリングを弾いた。
「うん」
柔らかな囁きが耳元で響いて。
ちゅ、とまた口付けられた。
「構わないが…何に使うんだ?」
サンジを肩越しに見遣る。
「まだ、ヒミツ。」

サンジがに、と笑っていた。
「今すぐ欲しいのか?」
笑う。
時たま、小悪魔のような表情を見せるサンジ。
「ウン、待てない」
アンバランスが、酷く魅力的だと思う。

「…オマエが外すか?」
に、と同じ様に笑って返すと。
かぷ、と耳朶に甘く噛み付いて。
すう、と掌が肩に向かって、胸の上を滑って行った。
くく、と笑う。
「フウン?じゃあ、おれ外しちゃうよ……?」
「ドウゾ」
あむ、と耳朶を啄んでいった。
「構ってくれるんだろう?」

サンジの指先が、そうっとリング・ピアスにかかる。
ぴ、と僅かに引っ張られる感覚。
「ヒトのだと、痛そうだね」
リングを開かせながら、真剣な声が言っていた。
「そうだな」
「これ、おまえが良くしてるヤツだよね、」

つ、と引き抜かれる感覚。
耳朶が僅かに軽くなる。
「あぁ。そうだな…あんまり他のものは付けないな」
ちゅ、と空いた場所に口付けられる。
笑う。
「光るようなものは、好まないからな…」
「じゃあ、おれから別なの、プレゼントする」
ネコのお礼、そうサンジが続けていた。
「ああ、楽しみにしている」

腕を伸ばして、サンジの髪を後ろ向きに撫でた。
すい、と掌に僅かに擦りつけられるような感触。
笑った。
「やっぱり…」
思いつきに思わず笑う。
「オマエなら、産めそうな気がしてきたぞ、ネコの子」

サンジが、甘えた声で。
「みゃぁう」
そう鳴いてから、かぷ、と首筋を噛んできた。
腕を回して、サンジの腰を引き寄せた。
抱き上げて、リヴィングに向かう。
「…しまった。構っちまった」
ソファの上にそうっとサンジを座らせて、額に口付けを落としてから、そう笑って言った。
サンジが喉奥で、くくっと笑っていた。

そうっとサンジの髪に手を滑らせると。
するする、と胸元に額を摺り寄せてきていた。
くく、と笑って、サンジの髪に口付けを落とす。
「ゾォロ、」
ああ、オマエ、ネコみたいだぞ…?
「ン?」
そうっと頤に指を滑らせ、サンジの目を覗きこむ。
「寒いから、側にいてくれな?」
「あぁ」

サンジが、すい、と窓を指差していた。
「…?」
「開けていい?」
「どうぞ」
何をする気なのか、検討も付かなかったが。
す、と立ち上がって窓を開けに行ったサンジに近づく。
かたかた、と開けるのに苦労していたから、手を貸した。
がた、と音を立てて、窓が上がっていった。

すう、と一気に冷たい空気が、部屋の中に入ってくる。
雪はもう止んでいて。風も穏やかで。
ただただ静かに冷えた闇がそこにあった。
零下7度の世界。

サンジがふる、と一瞬震えていた。
細い身体に腕を回す。
サンジがポケットに手を入れて。シルヴァのクロスとチェーンを取り出していた。
ああ、それを取りに行ったのか、オマエ…。

見ていたら、クロスだけ、掌に落としていた。
「…?」
サンジが、そうっと見上げてきていた。
「…どうするんだ?」
ふわ、と目元が微笑んでいた。
それからやおら構えて。
ひゅ、と僅かな音を立てて、掌のものが投げ飛ばされていった。
サンジの手元、しゃら、と残されたチェーンが涼しげな音を立てていた。

「…思い切ったな」
感心、してしまった、思わず。
「愛してるよ」
そうっと大事そうに、言葉にしていたサンジを、引き寄せなおした。
トン、と柔らかな口付けを唇に落として。
それから、窓をがた、と音を立てて閉めた。
「サンジ」
抱きしめる。
ぴったりと合わさった体が、熱を与え合っていく。
オマエを、愛しているよ。
そう囁いて、抱き上げた。

「みてみて?」
電気ヒータを置いたソファの前まで戻ると。
サンジがこそ、と動いていた。
床に足を着けさせる。
サンジの手を見ていたら、自慢げににっこりとしながら、シルヴァのリング・ピアスをチェーンに通していた。
「それをどうするんだ?」
オマエが代わりに着けているのか、と訊くと。
「おれは、そんなの要らないよ?」
おまえのこと貰ってるんだし、と。幸せそうに囁いていたサンジの髪を撫でた。
「じゃあどうするんだ?」

「首輪の代わり。新入りの」
「…そうか」
笑ってサンジを抱きしめた。
「オレとオマエから、一つずつプレゼントする、ってことか?」
「ウン、」
「ナルホド」
唇を啄む。

随分と温まってきたのか、寒さに晒されて硬くなっていたサンジの身体が、ふわ、と柔らかくなっていた。
きゅ、と口角を上げて。にか、と笑いかけてくる。
更に数度唇を啄んでから、そうっとソファに座らせた。
「…いい仔がいるといいな」
「きっと、向こうも待ってるよ?おまえのこと」
苦笑を刻む。
「そうだといいがな…」

とん、と胸元に、サンジが頭を預けてきていた。
柔らかく髪を梳いて、抱きしめる。
暖かな温もり。
オマエ以外を求める気など、さらさらないが。
"コドモ"がいる生活は、多分楽しいものになるだろう。
その"コドモ"が、オレに慣れてくれれば、問題無いんだがな…。

「そうだよ、」
ふ、とサンジの応えに笑った。
サンジがいっそう、全身の力を抜いて、ふう、と身体預けてきていた。
「ペットストアに行くのが、楽しみだな…」
「明日、また雪だといいね?」
「そうか?移動し辛いぞ?」
少し顔を顰めてみせると。
「だってさ、」
サンジが目をキラキラさせていた。
「だって?」
「ベッドから雪降るの見てるの好きだもん、おれ」

「Baby」
笑って口付ける。
「We're gonna go look for your baby, aren't we?」
オマエの仔を探しに行くんじゃなかったのか、と言うと。
「じゃあ、ガマンする……、けど」
「うん?」

く、と胸元から顔を上げて、サンジが見上げてきていた。
額に口付けを落とす。
「けど、なんだ?」
「Sing your love for me, my sweet darling」
耳に届く囁き。
サンジが手を伸ばし、首に腕を回して、きゅう、と抱きついてきた。
『ダーリン、ベイビイ。おれのことどれだけ好きか歌って?』
サンジの柔らかな金の髪に口付けを落とす。
「Alright, sugar」
笑って、いいよ、と応える。

そうっとサンジの身体を離し、向かうのは古いアップライト・ピアノ。
蓋を開けて、スツールに座って。
そうっと引き出すのは、メル・トーメのラヴ・ソング。
サンジが静かに近づいてきて、少し離れた場所で止まった。
笑いかけて、そうっと歌いだす。
"オマエにやれるのは、永遠に不滅の愛だけ…"
サンジが一瞬目を見開いて。
それから、とても艶やかに、表情を綻ばせていった。


I can only give you love that lasts forever,
And a promise to be near each time you call,
And the only heart I own,
For you, and you alone,
That's all,
That's all.

I can only give you country walks in springtime,
And a hand to hold when leaves begin to fall,
And a love whose burning light,
Will warm the winter night,
That's all,
That's all.

There are those, I am sure, who have told you,
They would give you the world for a toy,
All I have are these arms to enfold you,
And a love time can never destroy.

If you're wondering what I'm asking in return dear,
You'll be glad to know that my demands are small,
Say it's me that you'll adore,
For now and evermore,
That's all,
That's all.

There are those, I am sure, who have told you,
They would give you the world for a toy,
All I have are these arms to enfold you,
And a love time can never destroy.

If you're wondering what I'm asking in return dear,
You'll be glad to know that my demands are small,
Say it's me that you'll adore,
For now and evermore,
That's all,
That's all.


                       "That's All" (A.Brandt / B.Haymes)





Fin






back