身体の節から熔け始めるような、キスを交わした。
リヴィングのソファに連れ戻されて。柔らかな弾みに身体が包まれるより先に、ゾロに抱き込まれた。
鼓動を間近で感じて。膝の上に抱きかかえられているんだとわかる。
浮きかける意識を捕まえようとしていたなら、キスが深くなって。いつも思う。
押しとめても漏れる吐息といっしょに。離れたくないな、と。

ゾロ。
ほんとうは。
一瞬だっておまえが離れるのがおれ、いやなんだよ?
困ったみたいにきっと、それでも笑いかけてくれるのがわかってるから、言わないけど。

ワインを注がれて。
アイスヴァイン、きり、と冷えていたのがしばらくロウテーブルに置いていたから少しだけ室温に戻ってた。
きっと、乾杯したんだよね?
アレはきっと。

おまえの言葉に換えていたけど。
どこか、あまい音節が照れくさかったな。
あんな言葉で育つから、きっとおまえ。
こんなにヒトのことあまやかすんだ、多分。

背中越し、流れ込む体温に。
心臓が痛いくらいの幸福感をもらった。
おまえのことを、すきで、すきで。
伸ばした手を取って貰えて。
側で眠れる、これが。
至福じゃなかったら、他になにがあるんだろうね……?

「あなたがおれの拠り所だ、」って。おれあのとき、言ったけど。
ゾロ、おれはね。
言い切れるよ、おまえ、こまるかもしれないけど。
「もし、」「いつか、」。
おまえの信じてる「運命」がおまえのことを捕まえに来たら。
その「恩恵」、おれもきっと貰える、って。
おまえと離れたら、おれ。
一秒だって息、しないよ…?

おまえが、ほんとうにおれの欲しいものすべてで。
みつめていたいものの、すべてで。
護りたいとおもうものの、すべてだから。
ロマンティストなだけじゃなくて。おまえ、実は寂しがりなのもおれ知ってるし。
待たせないから、安心してな……?

「ゾロ、」
両腕を首に回して、身体をもう一度預けた。
「そういや、プレゼント。何も用意してない。欲しいもので、まだオマエが手にしてないもの、何かあるか?」
そう言われて。優しい声に涙ぐみそうだったから。
おまえと離れたくない、って。
それは、おまえに言っても所以無いことだから。
ゾロ、ともう一度呼んだ。
唇に音を乗せた。

そうしたなら、目を。覗き込まれた。
翠が。深い、森の色をしたそれが穏かに和らいでいて。
「なんでもいいの?」
問いを口にした。
「ああ。なんでもいいぞ」
眼差しをあわせていたなら、目尻にキスが降りてきた。
「おれね……?」
「うん?」
ひとつ、思っていたことがあるんだ。
「ネコが欲しい」
ふわ、とゾロが。
見ているおれが幸福になるほどの。笑みを浮かべてくれた。
「ちゃんと、するから」

「どんなネコがいいんだ?」
「あのね?この部屋でも寒がらないネコ」
すこしだけわらってみた。
「そうだな…オマエとくっ付いてる間に、入り込んできたらイヤだしな?」
「躾ける、きちんと」
からかうような声音に。勝手に笑みが深くなった。
「ああ、オマエなら大丈夫だろう」

ノルクスカットがいいな、眼が金色の。
北欧の森にいたネコなんだ、ワイルドなところはおまえに似るかもね?と言ったら。
「オレはオマエに似ているほうが嬉しいけどな」
「ゾォロ、」
「マジメな話」
すい、とからかうようなヒカリを乗せた翠目を覗きこんだ。
にこり、とわらった口許。

うん、おれ。
おまえのこと、「死んでも好き」。
「Am I not your one and only Love?」
「Of course you are, darlin'」

「But it's not bad an idea to have one more company. It will be your baby, wouldn't it?」
おれが、おまえの「唯一無二の存在」じゃないの?と言ったら。
「もちろん、オレにはオマエだけだ、」
間近で、翠が和らいだ。
「だけどもう一人くらい、一緒に居てくれるヤツがいてもいいな。オマエのベビィってことだろう?」

とん、と額に口付けられて。
言葉が無くなった。
―――ビックリした。
「ネコ生めないよ?!」
とんちんかんな事を口走ったおれに。
アタリマエだろう、って。ゾロが苦笑してみせた。
ええと??
まだアタマがぐるぐるしたけど。

「で、いつ見に行きたい?」
ゾロを見上げた。
ふんわり、笑ってた。柔らかく翠が細められて。
うれしかった。
なぁ、ゾロ?
おれ、ちゃんとする、って言ったろ?
いつか訪れるかもしれない、「その日」の後のことも。ちゃんとしておくから。
「あした。」
「Alright darlin']

年が変わる前に。
おれが、仔ネコ抱えて。
あったかいのわけてやって。
おれからでていった熱は。
ぜんぶおまえから貰うから。

「でもさ?」
ああ、これは切実な問題かもしれないよ?
「何か問題でも?」
「―――ウン」
「…ヴェット、か?」
「ちがう、」
「…なんだ?」
だって。部屋から出さないから。ヴェットは平気、そう言った。
「ベッドに来られたらマイッチャウネ?」
わらった。

「…ちゃんと躾けるんだろう?」
笑いながら。頬に口付けられた。
「そういうことは、家長が教えなきゃ?」
けらけらわらって。
抱きついた。




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