腕の中の身体、細かく震え続けている。
抱きしめ、宥めるように慰撫しても。
どこか、本能的に畏怖したモノのように、とめどなく涙を零しそれを押さえ込もうと震えていた。

まるで口癖のように、「泣くな」とサンジに告げていたことを思い出す。
ただ、それは。
おれの生きる現実が、涙などなんの慰めにもならないことと。
それでもオマエの涙を目にすれば、おれがいたたまれなくなるからで。
身体の底から押さえきれずに引き起こされる震えが意味するものは、唯の畏怖、あるいは本質的な怖れだ。
覚えがないわけじゃあ、ない。
それを、押し流すために涙が流される。
そういうことだろう?

泣いてもいい、とも。泣け、とも言えないが。
冷え切った身体を抱きしめ、口付けを落とす。
オマエの、本能が察した危険や畏れは。
他でもないおれの引き起こしたものであるのに、同時に慰撫しようとする自分に苛立ちを覚える。
腕の中、震えながら抱きついてくる身体。
絡み取ろうとするほどの潤んだ熱さに追い縋られ。
理性が、飛びかけた。
慈しみたいという衝動と、引き千切りたいという渇望と情動、ギリギリで保つ均衡が崩れかけた。
舌先に薄くいつまでも残る錆の味。
すう、と体温が冷える。
「ゾロ…」

オマエは、それがオマエの望みだといった。けどな?
呼びかけるサンジの髪を梳き、口付ける。
オマエ、本気で喰われかけたことなぞ、初めてじゃないか?
畏怖して、当然だ。本能が拒否してアタリマエだ。
オマエが、泣いたからっておれに謝る謂れなど、ないんだ。
寧ろ、謝るのはおれだな……?

く、とサンジが腕のなかで身じろいだ。
僅かに抱きしめていた腕を緩める。
見上げてくる、蒼。
泣き濡れた瞳のまま、だ。
「悪ぃ、理性が飛びかけた」
そうっと告げる。
く、と口付けを強請るように見上げていたサンジの舌先がそろ、と焦れたように走らされた。
「サン…、」
柔らかく啄ばまれる。
髪に手を差し入れ、引き離そうとすれば。舌先が滑り込まされてきた。
溜め息混じりに、舌先を押し合わせ。
引き離そうとすれば、どこか必死にまだおれに薄く残る錆の味を拭い去ろうとしていた。
コイツは、バカの上に強情だった。
思い出した。

抱きしめる。
滑り込んでいた舌先を捕まえ、絡みとり。押し戻してから、やんわりとサンジの中を味わう。
穏かに、悦楽を拾い上げさせ隅々まで拡げさせていく。
震えがおさまり、肌がまた温もりを取り戻し始め。
サンジの肩が、深い吐息に揺れていた。
――――バカネコ。
許してるんじゃねぇよ……おれを。

「ぞろ」
涙の浮いた目元、口付けた。
「あぁ、」
「…本気で愛されて、嬉しい」
「泣かれたら、割にあわねェよ」
ふにゃあ、と溶けて柔らかな笑みを浮かべたサンジに言う。
「ゴメンナサイ。でも、本気になってもらえて、嬉しい」
きゅう、と抱きついてきた、コドモが。
あぁ、こいつは。まだほんのガキだった。
「ゾロを愛してるから、アナタの本当をもらえて嬉しい」
イキナリセイチョウした振りしやがるから、うっかり騙されるトコロじゃねぇかよ。

すう、とサンジを覗き込む。
瞳、温度を意識して下げる。
「オマエのことは本気だけどな?バカサンジ。」
みつめる。
「うん、……ゾロ、もうちょっと、待っててね?」
「アレが本当だと思うならまだまだガキだ、オマエ」
に、と笑みを浮かべてみせる。
「…オトナになるから、アナタを全部、丸々貰える様に」

ちょん、と。擬音つきで唇に口付けられた。
「あぁ、たのしみにしてる。じゃあ、サンジ」
「ン?」
抱き寄せ、立ち上がった。
「にゃう??」
「ファーは放っておけ。ベッドでいまから溶かして喰う、精々ヤサシクな」
口付ける直前で囁く。

「うん、あ、その前に!」
「―――ア?」
「アナタにプレゼント、ファーのポケットの中」
すい、とサンジを抱えたまま、身体を折る。
「じゃあさっさと取れそのコート」
「はぁい」
機嫌が完全に戻ったな、イイ傾向じゃねえか。
すい、と腕を伸ばしファーを拾い上げ、ポケットの中を探っていた。
フン。
何かを取り出して、――――――――おい?
「なに口に入れてやがるんだ、オマエは?」
飽きれたネコだな、オマエ。
「バカがさっさと出―――」

ひょい、っとネコが身体を折り戻し。
首に腕が回されたと思ったなら抱きついてきて、唇をあわせてきた。
間近で、蒼が煌めき。
つ、と唇を押し開かれ舌先、金属のツメタさを押し込んできた。
かつり、と微かな音。
す、とあわせたままの目を細める。
口許、掌を上向け押し込まれたものを戻せば。
「オレが造ったの、」
さも嬉しそうににこにことしていやがった、サンジが。
「いつも一緒にいられないから、代わりに、って思って」
シルヴァの、大ぶりのリング。
装飾的にはならずに、幾何学模様のクレイヴィングが僅かに施されている。

すう、と笑みが浮かんできた、勝手に。
サンジを抱きなおし、ベッドルームへ向かう。
「左手に嵌めろ、と?」
「どこでもいいよ」
きゅうう、と抱きついてきたサンジに言う。
「オレの代わりだと思って、ゾロが身につけててくれるなら」
「右に出来るか、バカネコ。ガンが使えないだろうが」
「じゃあ左」
「あー、ハイハイ。薬指にでもナ」
「サイズ直しもできるよ?」

ふにゃふにゃと機嫌の良いネコに口付ける。
とさり、とベッドに落とす。
「さぁ、どうだか」
目の前で、嵌めてみせる。
「―――ア、チクショウ。完璧じゃねぇかよ」
「だぁって。イッパイ測ってるもん」
見上げてくる瞳がキラキラとヒカリを乗せる。
「いつのまに、」
「ン?いつもアナタがくれるじゃない」
笑いながら、唇を啄ばむ。
「バカネコ。そういうジョークは覚えなくてイイ」
笑いが零れる。
「本気だもん」
"にゃはあ"、ってヤツだ、嬉しそうに笑い顔を浮かべる。

「サンジ、」
「なぁん??」
頬に、ついで眦に口付けを落とす。
とさり、とその背をリネンに着かせ、間近で覗き込む。
リングに唇で触れてから、言葉に落とし込む。
「オマエを愛してるよ、おれは」
紛れも無い、本心。
これなら、オマエも怖がらないだろう?

「ウン」
にこり、と。
幸福だ、と笑顔が言葉よりも明確に告げてくる。
軽く、サンジから口付けられ。
囁きが洩らされる。
「嬉しいから、もっと愛して」
「仰せのままに、」
とろり、と蕩けた蒼に囁きで返す。

「あぁ、サンジ」
「うん?」
「オレはこのリング。だからオマエは、」
ちゅ、と幾度もキスが"上って"くる。
「その首輪、外すなよ?」
頬を撫でて音に乗せる。

かちり、と音がするかと。サンジが固まっていた。
「…デニムに合わない!!!」
「却下」
する、と剥き出しの足を撫で上げる。
「重い!!」
それを引き上げさせ。
「聞く耳もたねぇ」
かり、と膝を噛む。
「サンドラと!!!」
「んん?」
「ヒナと!!!」
すう、と内へ辿る。
「ポーラに遊ばれちゃうよオレ!!!」
「イマに始ったことじゃない」
「…きゃー!!」

舌先で肌を味わう。
「メリークリスマス、かわいい仔猫チャン」
「ゾロォ…」
腰骨の上、吸い上げる。
甘ったれた声が上がる。
なんだよ、と舌先で返す。
「オレ、アナタだけのだから」
ちゅ、と口付ける、胸元。
「イッパイ愛してね」
むぎゅううう、ってやつだ。サンジ得意の。
抱きついてきた。オーケイ、聞き分けがいいな?サンジ。

「あぁ、安心して愛されてろ」
「ウン」
ふ、と笑いあう。
「ディール?」
「No!A pledge!!」
「That's My Baby,」
愛してるよ、オマエを。


いいクリスマスだといいな、一回目の。







back