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 One day of the wild child * ベベ・サンジの一日(2)
 『Home Coming of the Angels』
 
 
 「シャーリィ、エディ、久しぶり。元気だった?」
 久しぶりにコロラドの実家に帰った。
 ゾロは仕事で寄れず、よってオレ一人の帰省。
 コーザも同じく仕事でこれないらしい、後でセトが一人で帰ってくる、と言っていた。
 
 「ベイビィ!すっかり大人びた顔になったわね。背が伸びたのね?髪も少し長いわね」
 シャーリィとハグしてから、キスを互いの頬にする。
 「シャーリィはもうすっかりふっくらしてたのが治まっちゃったね?」
 「あら。母乳はまだ出るわよ〜。ちびさんたちがまだまだ離してくれないわ」
 おほほほほ、とシャーリィが笑う。
 「でも産後も無事でよかった」
 「ほんとよねー。二十歳そこそこで生んだ時のほうがやっぱり楽だったわぁ。高齢出産って辛いのネ」
 
 ふふ、と笑ったシャーリィの髪に口付ける。
 昔は何故だか苦手だった母が、最近では可愛く思えて仕方が無い。
 「もう仕事はしていないんでしょ?」
 「お仕事?もう第一線からは引退だわ、アナタのアドヴァイスを受け入れようと思って。サンジには寂しい思いをさせてたって解ったからにはね」
 だからもっと頻繁に帰ってきてくれてもいいのよ?と笑ったシャーリィに頷く。
 「お料理の腕は?」
 「いやん、サンジってばそんなこと言う子だっけ?ワタシには無理。アントワンと暮らしていた頃に何度か大きな失敗して。それ以来鍋には近づかないことにしてるの」
 なにしろ一年で3回小火を出したからねー、と笑ったシャーリィの懐の大きさについつい笑ってしまった。
 
 「セトがね、アントワンからのメッセージをエドワードに伝えたのよ、結婚式の前日に。それがなんだと思う?」
 「なぁに?」
 「“あの魔女をキッチンに立たすな!”ですって。失礼しちゃうわよね?黒漕げのカレーに黒漕げのローストチキンに、黒漕げのポットパイ。破裂した海老に破裂した卵に破裂した烏賊がなんだっていうの!」
 未だぷりぷりと怒った素振りを見せるシャーリィに、けたけたと笑った。
 「それは確かにキッチンには近づかないほうがいいよね」
 「そ。だからワタシにできるのは盛り付けくらい。リディにはいつも感謝の雨アラレ。あとは出来ることとはいったら味見よねー。舌だけは肥えてるから、文句だけは言えるのよ。あ、なんか嫌な人だわね、ソレ。リディに謝ったほうがいいのかしら?後は下ごしらえはなんとかなるわよ?オーヴンとガスレンジにさえ近付かなければどうにかなるんだもの」
 くすくすと笑いながら、シャーリィがラウンジに通してくれる。
 
 「サンジィ!」
 いつもと変わらず、元気いっぱい笑顔いっぱいのエディともハグとキスを交わす。
 「エディ、元気そうだね!」
 「オマエは、アー…キレイになった、ウン」
 くしゃ、と髪を撫でられて笑った。
 「アリガト。エディはますます精悍だね!」
 「チビたちのためにももうひと頑張りしないといけないからな!」
 「その意気!エディカッコイイ!」
 ぎゅう、と抱き合ってにこにこと笑いあう。
 大学に入る前には、ほとんどなかったこと。
 
 「サンジ、ちびさんたちが来たわよ〜」
 シャーリィに呼ばれて振り向けば。
 ママ・リディからエディが一人受け取り、シャーリィがもう一人を軽く抱き直しているところだった。
 「起こしてきたの?寝かせといてもよかったのに」
 「いいのいいの、そろそろ起きる時間だもの。ティア、ルーグ、サンジおにーちゃんが来てくれたわよ〜」
 ママ・リディに微笑んで挨拶をしてから、双子の妹弟を見に行く。
 
 「ティアはシャーリィに似て美人だよなあ!」
 にこにこと、白いベビィドレスに包まれた妹をエディが揺らした。
 くぷ、と小さく欠伸をしたティアが、シャーリィとオレによく似たブルーアイズで見上げて来て、ふにゃ、と笑った。
 ふわふわとしたピンクの頬を指先で擽る。
 「ティア、大きくなったねえ」
 自然とにこにこになる―――双子の姉の方で、ラクロワ家にとっては初めての女の子、Theiaという月の女神の名前をシャーリィに付けられた。
 
 「ルーグはエディに似てハンサムだものねぇ?」
 くすくすと笑いながら、シャーリィがルーグを高く抱き上げた。
 ルーグは満面の笑みでシャーリィにあやされている。
 腕を伸ばして髪に触れた。ふわりとミルクの匂いが漂う。
 「ルーグは骨格がしっかりとしてるね?さっすがエディ似。性格も似るのかな?」
 ルーグはラクロワ家の末っ子で、髪も目も輪郭もエディに似た男の子だ。Lugh、とは太陽の神様の名前らしい。引用先の文明は違うらしいけれど、ティアと対になるようにとわざわざエディが辞書を引いて探したのだと言っていた。
 
 「お父様がもうICUに入ったっきりでしょう?だから好き勝手に名前付けたの。ガラス越しにね、ワタシとエディで一人ずつ抱き上げてね。ティア・アラニス・ダリュー・ラクロワとルーグ・チャールズ・ダリュー・ラクロワでーす、って」
 シャーリィがにこにこと笑いながらあっけらかんと告げた。
 エディが小さく苦笑して後を続ける。
 「お義父様風に呼ばれると、ティアはともかくルーグは、ルー・シャルルになってしまうけどね」
 「でもこの子、ルー・シャルルっていうよりは、ルーグよね。おちびさんなのにしっかりしてるもの」
 にこにことシャーリィがルーグの顔を見詰めながら言う。
 
 「ミドルネームはアランとシャーロットから捩ったの?」
 洗礼式に立ち会った時には訊けなかったから、今更だけど確認しておく。
 「そうそう。エドワード・アランと、シャーロット・リュシアンから。セトがリュシアンだから、ルーグはチャールズでもいいよねってエディがね」
 「そっかぁ」
 にこにこと微笑むシャーリィをじっと見詰める。
 「……あら、なぁにベイビィ?なにか考え事があるわね?」
 ひょい、とルーグを手渡され、腕に抱きこむ。うーわ、ほわっほわだぁ……!
 「って、ええと。解る、シャーリィ?」
 「そりゃ解るわよぉ。アナタの母親ですもの」
 ふに、と頬を突付かれて、小さく笑った。シャーリィもくすくすと笑う。
 
 小さく息を吸い込む。
 「んー…実はね、オレ。大学に入ってから、サンジって名前の人と時々連絡取ってたりするんだ」
 「……あら、奇遇ね?同名?珍しいわ」
 「ウン。オレも最初、びっくりしたんだけど………その人のお母さん、ティアラ、って名前だったんだって」
 「まあ!そうなの!どういう偶然かしらね?で、それがどうかしたの?」
 まったく何も知らないシャーリィに小さく首を傾けられて、笑いを零した。
 「ちびたちの名前を教えたら、沢山の幸せを二人に願ってくれたから。マミィにも言っておかなきゃって思っただけ」
 「そう。ありがとうって伝えておいて。それにしても珍しいわね?アナタのダーリンはその人についてはなんて?」
 「ああ、ゾロの知り合いの人が、同じ名前の人だからって紹介してくれたんだ」
 
 詳細を省いてそれだけを言えば。シャーリィがぽん、と手を叩いて笑った。
 「まあ、そうだったの!どんな人なの、もう一人のサンジさんは?」
 「んー、一言で言えば、すっごいキレイな人」
 「そうなの」
 「セトやシャーリィみたいにダイヤモンドみたいにキラキラしてるんじゃなくて…純白の羽毛みたいにキレイな人」
 「まあ。素敵な人なのね」
 ふわりと微笑んだシャーリィに頷く。
 「とてもとても、素敵な人なんだ」
 
 腕の中のルーグを見下ろす。
 そうっと柔らかな金の髪に口付ける。
 もう一人の“サンジ”からの祝福。
 オレのイトコで、ティアとルーグには伯父に当たる人からの。
 
 「ティアも抱かせて?」
 「いいわよ。エディ、サンジにティアを抱かせてあげて。丁度いいから三人の写真撮りましょ」
 「解った。ほーらティア、サンジにキスを貰いなさい」
 ソファに座って左側に抱え込んでいたルーグとは反対の、右側にティアをエディに下ろしてもらう。
 ルーグより僅かに小さな顔、少しだけ長いカールした髪。
 そうっと額に口付けを落とす。
 オマエの伯父さんからの祝福だよ、と言葉にはせずに告げる。
 
 エディがカメラを持って戻ってきた。
 「うーん、ウチの自慢の天使たちだな!」
 エディの言葉にシャーリィが片眉を引き上げる。
 「あら。ベイビィズがアナタの天使だったらワタシは何?」
 「そりゃもちろん、」
 すい、とエディがシャーリィを引き寄せた。
 「シャーロット、キミはオレの素敵な女神様さ」
 「まぁ、エドワード」
 
 両親が熱烈なキスをするのを眺めているのもヘンなので、両腕に抱えたおちびさんたちを眺める。
 二卵性双生児だからなのか、そんなにそっくりというカンジもしない。
 二人ともにこにこと笑って、あぅあぅと言いながら手を伸ばしてくる。
 熱くてぽてりとした手に頬を撫でられて、笑いが零れる。
 「かわいいなぁ、ティアもルーグも齧りたいくらいだ」
 ちゅ、と小さな掌にそれぞれキスしていけば、きゃあ、と明るい歓声を二人がそれぞれ上げる。
 「別に齧ってもいいわよぉ?お尻とか、ぷりんぷりんで楽しいわよ。ふふふふふ」
 するん、とエディの首に両腕でぶら下がりながら、シャーリィが言う。
 「いいわよぉ、ってシャーリィ?」
 くすくすと笑って見上げれば、ふわりとシャーリィが微笑んだ。
 「あら、ティアとルーグだけじゃないわよ?セトもサンジも齧ったわよ、ワタシ」
 キラキラとブルーアイズが煌く。
 「可愛くって愛しくって食べちゃいたいと思うもの。自然な感情じゃないかしら?」
 「そうかもね?」
 くすくすと母親の告白ってものに笑う―――参ったなぁ。
 「シャーリィ、アナタってば相当可愛い人だったんだね」
 「まあベイビィ!今まで知らなかったの?」
 とん、とシャーリィが笑ってオレの額に口付けをくれた。
 「オトナになったってことかな、ある程度は」
 「でもいくつになっても、アナタはワタシの可愛いベイビィよ、サンジ」
 さらさら、と髪を撫でられて目を細める。昔は怖いばかりだったシャーリィが、実はこんなに可愛い人だなんて思いもつかなかった。
 
 「はーい、じゃあこっち向いてー」
 エディの声にひょい、と顔を擡げれば。ハンディカムを持ったエディがひらひらと手を振っていた。
 「ダディのことも好きだって言ってもらいたいなぁ」
 エディの言葉に、ぷ、と笑ってから。
 「大好きだよ、エディ」
 笑顔と共に告げる。これも間違いのない本心からの言葉。
 「――――わーお、ダディ、チョット感動したかもしれない」
 「なに言ってるの、エディってば」
 
 くすくすと笑うシャーリィが、ねえ?とオレの顔を覗きこんできた。
 「エドワード、絶対にティアもルーグも離したがらないわ」
 「んー、オレはジャックおじさんとこと森に行ったっきりだったし、セトはバレエスクールで一人ロンドンだもんね。今度は身近で見て育ったら?」
 「そうするわ、ハニィ。でも適度に遊ばせてあげないとね?サマーキャンプとかには二人で行かせるつもり。二人でいれば平気でしょう?」
 「気の早い話だなァ、それ?」
 
 くすくすと笑って、ティアとルーグを見下ろす。
 ああ、でも。ゾロとコーザのところの問題があるから、どうなんだろうね?
 案外、ゾロのお父さんのところに遊びにいくことになるかも。
 あとはアントワンのところ―――すっごい経験だね?
 
 家の外、車が停められる音がした。
 ドアベルが鳴って、ママ・リディの姪でティアとルーグの乳母をしてくれているシンディが、シャーリィと一緒にぱたぱたと走っていった。
 ドアが開けられる音がする。
 
 窓から外を見たエディが、セトだよ、と教えてくれた。
 「そういえばディヴィッド神父が声をかけてくださったよ。教会のポスターに一家で出てくれませんか、って」
 エディがにこにことしながら言った。
 「ああ、洗礼の時?」
 「そう。コーザくんも含めて、だって」
 ゾロは洗礼式に立ち会えなかったけれども、コーザはセトと一緒にスケジュルの合間を縫って来てくれていた。
 「でもシャーリィがダメです、って断っていたよ。端から盗まれるに決まってるんだから、犯罪を奨励するようなものを作ってはいけません、だって」
 「セトもシャーリィもキレイだしね。エディもコーザもハンサムだし、ティアとルーグは食べちゃいたいくらいに可愛い」
 「オマエもだよ、サンジ」
 する、とエディに髪を撫でられた。
 「もっとちゃんと、オマエが成長するところを見ておけばよかった」
 「さっさといなくなっちゃうなんて酷い、って?」
 くすくすと笑う。
 「んー。まぁでもしょうがない。オマエが幸せであることが一番なんだから」
 「アリガト。すっごい幸せだよ?」
 エディの目を見詰めて告げれば、きゅ、と頭を軽く抱かれた。
 
 ドア越し、賑やかな雰囲気が伝わってくる。
 ドアが開いて。
 「エディ、サンジ、ただいまー!オレにもハグ!」
 ぱあ、と華やかな雰囲気が一気に広がる―――セトのマジック。
 する、とエディの腕が離れた。それはそのまま、セトの均整の取れた体へと回される。
 「おかえり、セト」
 「エディ、まだ泣いてないな?よしよし」
 とん、とん、と頬にキスと、がしってハグが目の前で展開される。
 
 する、とサングラスを外したセトが、ついでオレを見下ろした。
 「天使チャン、ついにはケルビムまで従えるようになったか!」
 セトのしなやかな腕が伸ばされ、オレの頭をぎゅ、と抱いた。
 それから両頬にキス。
 「大天使長が何を言ってるの」
 笑って言えば、ぷ、と笑われた。
 「オマエにまで天使って呼ばれるわけ、オレ?」
 「うーん、やっぱり嵐の神様のほうが落ち着く?」
 「それもなんだかなぁ―――ティーア!ルーグ!かわいいなあ、ほっぺ齧っちまうぞ」
 オレの腕のなかにいたティアとルーグそれぞれに、跪いて身を屈めたセトが口付けていく。
 きゃあ、と二人がまた嬉しそうに歓声を上げて、手をばたばたと振っていた。
 
 「うーん、齧るのか……」
 背後でなんだか悩んでいるようなエディの声に、セトが振り返った。
 「え、なんで?ダメ?オレ、サンジ齧ったよ?」
 「―――――は?」
 どこをですか?とは訊けずにいたら、セトがくるんと振り向いた。
 「オマエがまだこいつらと同じサイズの頃にナ。オシメ替えたついでに手をがぶっと」
 アニの特権だろー、と言われて、堪らなくなって笑い出した。
 「知ってる?シャーリィ、オレたちの尻齧ったんだって」
 「あ、マジ?」
 セトがくすくすと笑った。
 そしてオレの耳元でぽそりと呟く。
 「オレたちのダーリンどもが最初じゃないってわけだな?」
 ――――セト、兄キ。コーザのスウィートハートになっても、セトらしさは健在だね?
 
 「丁度いい、セト、サンジの隣に座って」
 エディに言われて、セトが場所をあけろ、とジェスチャする。
 「セト、ティアとルーグ、どっち抱っこする?」
 「んー、じゃあティアから」
 「オッケイ。後で交代ね?」
 「もちろん」
 
 ティアをセトが慣れた手付きで抱き上げ、ルーグを抱きなおしてからソファに座りなおして場所を空ける。
 すとん、と座ったセトが、んー、とティアにキスしていた―――うーん、きっとソレ、オレもされたんだろうな、ちっちゃい頃…。
 「セト、サンジ、こっち向いて」
 エディの声に顔を上げれば、カメラモードで写されていた。
 「あ、エディ。今度はアンドリュウと来るよ。うちのケルビムをまた撮りたいってゴネてたから」
 「シャーリィと相談して日程決めてくれ。ダディはいつだって有給取る気満々だ!」
 「うーわ、エディ、なんかアントワンに似てきたんでないー?」
 
 けらけらと笑う二人につられて、オレが笑えば。震動が楽しかったのか、ルーグも手を叩いて喜んでいた。うーわ、可愛いって。
 「あらセト。アントワンはそんな理由で休み取ったりなんかしなかったわよ?」
 シャーリィが笑いながら、オレとセトの間に場所を空けるように要求してくる。
 「知ってるって。でもヘンに平日とか平気でぶっ続けで休みがあったことも知ってるから、その辺りに文句はないよ。オレが言いたいのはノリのこと。エディ、サンジが生まれたときもメロメロだったけど、今は更にメロメロなんじゃね?」
 セトの言葉に、エディが胸を張った。
 「役員から今度アドヴァイザになったから。実は毎日出勤しなくてもいいんだよ」
 「高齢出産の素敵なところってそこよねー」
 おほほほほ、とシャーリィが笑う。
 そして、座りなおして開けた間に、すとん、と身体を滑り込ませてきた。
 
 「シャーリィ、ミルクの匂いがする」
 「そりゃあ母乳出てますもの。懐かしい?」
 「うーん、実はそんなでも」
 写真を取られながら、シャーリィと言葉を交わす。
 「あら?」
 「オレのベイビィのレディがアッシュの子供を産んだでしょ?」
 オレが渡した写真を思い出したのか、シャーリィが頷いていた。
 「あ、アナタのベイビィたちね。一匹貰おうと思ってるんだけど」
 「ルーグとティアがもう少し大きくなった頃にね?乳幼児とカブを纏めて育てるのは大変だよ。狼だしね」
 「そうね。一緒に居てくれれば安心なんだけど、そういうわけにもいかないものね」
 「子供がいきなり3人になるのと一緒だからね」
 
 「サンジ、交代。今度ルーグ抱かせて」
 セトの声に顔を上げる。
 「ティアを一旦シャーリィに渡せば、スムーズに行くよな」
 「オッケイ」
 ティアをシャーリィに渡したセトに、立ち上がってルーグを渡す。
 それからシャーリィからティアを受け取って、またソファに座る。
 「ルーグ、重い」
 「ティア、軽い」
 「そーお?一緒よ一緒」
 ぐい、とシャーリィに肩を抱き寄せられた。
 「「うわ?」」
 「アナタタチのほうがよっぽど双子みたい」
 くすくすと笑うシャーリィの胸越しに、同じように抱き寄せられていたセトと目を合わせる。
 「10歳も離れてぇ?」
 セトがくすくすと笑う。
 「ハタチ越えちゃえば一緒よ一緒」
 女王のように足を組んで背筋を伸ばしたシャーリィが、くすくすと笑った。
 
 「シャーロット、羨ましいから場所替わって」
 「まあ!何を言ってるのかしら、エドワードってば!」
 「オレも子供達と一緒の写真が欲しい」
 「解ってるわ。オフィスに飾るのでしょう?」
 する、とシャーリィが立ち上がり。
 セトと顔を見合わせてくすくすと笑っている間に、エディが身体を割り込ませてきた。
 「わ、きつ」
 「ちょ、待ってよ」
 セトと二人で文句を言いながら、少しずつ腰をずらして、場所をもう少し空ける。
 「気にしない、気にしなーい」
 ぐい、とやっぱり肩を抱き寄せられて、また笑った。
 
 「ワタシのダーリンハニィベイビィズがみーんな揃っちゃったわ。はい、みんなハンサムに笑って頂戴。クリストファさんにも送るから」
 「クリストファ?」
 セトがオレに目を向けてきた。笑って片目を瞑る。
 「うん。コーザにとってのルーファスさんみたいな人」
 「あー、オマエのダーリンの後見人か。あの脳天直撃素敵ヴォイスの」
 「そうそう」
 どうやらペルさんの偽名を知らなかったらしいセトが、納得して頷いていた。
 
 「いつもオモチャやら絵本やらを贈っていただくのよ」
 シャーリィが笑ってカメラを構えていた。
 「この子たちの周りはプレゼントだらけよ。あ、そうそう。サンジのダーリンから洗礼式の時に頂いたデコレーション・カードは額縁に入れてベビィベッドの上に飾ったわ。あとで見てきて頂戴、素敵だから」
 「わかった」
 洗礼式には出席できなかったゾロは、エディとシャーリィに宛てた手紙と、ティアとルーグに宛てたカードを手渡すように、と出発する前日の夜にペンで書いていたソレをオレに託した。
 手紙はエディもシャーリィも読ませてくれなかったけれど、カードは見せてくれた―――老舗のジュエラに作らせたらしい、石が沢山貼り付けられたデコレーション・カード。
 エディもシャーリィも。ルーグも、そして特にティアがソレを気に入っていた―――ゾロからのお祝いの“気持ち”。
 
 「あー、プレゼントといえば。シャーリィ、ベビィ服買って送ったから。近々着くはず」
 セトがシンディを呼んで、シャーリィの代わりにカメラで撮ってくれ、と頼んでいた。
 エディに促されて、シャーリィが入る分だけのスペースを空ける。
 「シャーリィ、気にしないでエディの膝に乗ればいいのに」
 笑って言えば、シャーリィがすい、と片眉を引き上げた。
 「そんなことはできないわ。まるで二人の子連れのコドモタチに再婚を祝われてるみたいな写真になっちゃうじゃないの」
 「え、じゃあルーグとティアはオレたちがそれぞれ産んだ子ってこと?」
 セトがけらけらと笑った。
 「アナタたちが産むってことはともかく。セトを産んだ年がいまのサンジくらいだからね。そう思えなくもないってことよ」
 すとん、とエディとセトの間に身体を割り込ませたシャーリィが、つん、と上を向いて言っていた。
 
 「無理だよ。だってシャーリィ、セトと同じくらいの年齢っぽく見えるし」
 オレが言えば、エディの身体越し、シャーリィが顔を覗きこんできた。
 「まぁ、サンジ!じゃあワタシはセトのオネエサマ?」
 笑って頷く。
 「エディは流石に貫禄がついてきたからね、セトと同い年ってわけにはいかないけど」
 「セトは本当にシャーロットに似ているもんな。姉でもいけるぞ?」
 エディがくっくと笑ってシャーリィの肩を引き寄せていた。
 「アンドリュウが笑ってたよ、ハリウッド・スタァはシャーロット・ラクロワを見習うべきだって。アイツがシャーリィに一目ぼれしたときから、年とってないみたいだ、とか言ってた」
 セトがルーグに掴まれた手をぐいぐいと引っ張って遊びながら、笑ってシャーリィに言った。
 「まあ、うれしい。今度遊びに来てくれるんですって?楽しみだわぁ」
 きゃ、と頬を染めたシャーリィが、にこにこと笑う。
 「合うようだったら、コーザも一緒かも」
 「アラヤダ。アナタのダーリンってアンドリュウのお友達になったの?」
 「そう。オレのいない時でもたぁまに顔付き合わせて飲んでるらしいよ」
 「まーあそうなの」
 
 セトとシャーリィの会話をにこにこと笑って聞いているエディの肩を肘で軽く突付いた。
 オレと同じ色の双眸が、見詰めてくる。
 「これでティアとルーグも喋るようになったら、すっごいね、ここの家」
 「その上でコーザくんと、オマエの狼くんが来たらますますな」
 「アントワンも交じったら手が付けられないね?」
 「あー……まあなにかと楽しいだろう」
 にっこりと笑って、ウン、と頷いたエディの肩に笑って頭を押し付けた。
 「ダディって最高」
 
 奥様、旦那さま、セトさま、サンジさま。こちらを向いていただけないと、いつまでたってもお写真が撮れないのですが、と間延びしたシンディの声に呼ばれて、みんなで顔を上げた。
 ハーイ、と揃って返事をして。
 みんな一緒に噴き出す。
 シンディと、後ろに控えていたママ・リディも笑い出した。
 オレとセトの腕の中では、ルーグとティアもきゃあきゃあと手を叩いて喜んでいた。
 
 「面白いからこのままヴィデオで撮ってちょうだい、シンディ。そしたらセトのダーリンとサンジのダーリンと、アントワンに送れるもの」
 「あ、賛成。そうしてそうして」
 シャーリィの言葉にセトが同意して。
 エディがにっこりと笑った。
 「コンピュータで切り出して、写真も作れるしな」
 「パースに入るかしら?ワタシの自慢のダーリンとベイビィズ、みぃんな可愛いんですもの、縮小サイズとかは嫌だわ」
 「かといって折り曲げるのもなあ…まあ、なんとかしよう。財布に入れて持ち運びたいのは、なにもオマエだけじゃないぞ、シャーロット」
 「セトもサンジももちろん要るわよね?どうせなんだから人数分作りましょう!ああもうこうなったら、アルバムを持ち歩くしかなくなってきたわね?」
 シャーリィの言葉にみんなで笑った―――その通りかもしれない。
 
 「サンジのダーリンとセトのダーリンもいればコンプリートだったのにね?ああ、あと。サンジのベイビィズ。会ってみたいわあ」
 「う、狼?」
 怯んだエディに、シャーリィが笑う。
 「違うわよ、サンジのベイビィズよ。もう少しおちびさんたちが大きくなったら、養子に頂きましょうね」
 にっこり笑ったシャーリィに、エディがハイ、と頷き。その様子にセトがけたけたと笑った。
 
 ここにいる全員と、いないゾロとコーザと、オレの狼たちも合わせて、全員が一つのファミリィとして両親に認められているんだなあ、と思ったら、なんだか胸がほかほかになった。
 ――――素敵な家族だ、と。改めて思って、なんだか幸せになった。
 
 
 
 
 (*双子ちゃん正式デビュー編です。エディとシャーリィの、50を過ぎてからのベイビィズ。ラクロワ家のこれからを担うルーグくんと、ふふふふ♪な未来設定を勝手にされてしまっているティアちゃん。でもここではまだ生まれて3ヶ月とかなんとか>笑。スーパーハピハピなラクロワ家のヴィデオ(つかDVDだな)とお写真、この後ヒトデナシとコーザとアントワンの手許にきっちりと届きます。だってエディが徹夜で編集して、翌日二人一緒に帰るベベと王子に手渡すもの>笑。きっとその後、コーザとセトちゃんの手によってヒトデナシのところの謎パパにも見せられてしまうのであろ>笑。おちびさんたちのホリディって、きっとアントワンのところと、謎パパのところと、コーザの親戚のところと、セトちゃんのロンドンのお家と、って回っていくんだろうな。アメリカとヨーロッパは制覇する勢い>笑。シャーリィとセトの気質を受け継いだ小さなプリンセスなティアちゃんと、エディに似て芯が強くて優しくティアちゃんに頭の上がらないルーグくんの話も書きたいけど……これ以上世界を広げるのもな…>笑。ま、きっとそのうち書いちゃうんだろうけど<え?どうでもいいけど小話の域を超えてきたなあ…。)
 
 
 
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