Orangina

山積みにされたオレンジが、露台の上で朝はやい陽を受けて宝石の塊みたいに光っていた。
早朝に港に着き、クルーは朝メシすませると好き勝手にそう大きくはない町に散っていき。
自分は例によって市場の下見にきていたのだ。
調達は明日の出航前にするつもりだったけど。

「ま、いいか」

これくれ、くわえ煙草の優男の笑顔に店のおかみは、5ベリーですきなだけ持っておいき、
といたって豪気に言い切った。

ま、そんなにいらねえんだけど、日持ちするからいいか、と適当に「すきなだけ」選び
微妙に中途半端な重さになった袋を腕に思案する。

しょうーがねぇ、一旦船戻るか。まだ見ぬレディたち、しばらくお待ちくださいね。
とはいえ、船に戻ってしまえばこの!うまそうな食材でソースやらママレードやら
作り始めるにちがいない自分の習性も、サンジは十分承知。


「こんなことならあのクソ腹巻蹴り起こして連れてくるんだったぜ」
多分もう起きて、町にでているだろう「あやつ」に文句をぶーたれつつ。
デッキへと登る。

「あ。」
いた。
気持ちよさそうにデッキの先方で伸びなんかしてやがる。


「なにしてやがんだよ、てめぇ」
「ああ、」
ゾロが振り返り。
「さっきナミがな、町の洗濯女が安いってんで戻ってきて、俺らの服まで全部ルフィに
持たせてったんだよ。後から集金するってさ」
ついさっき、と続ける。着てるもんひっぺがされりゃ俺だって起きるさ、と。

ふーん、脱がされてんの、まぬけーーーってなにィっ?!

「てっめーナミさんになんてことさせやがるっ?!あの!美しい手が!てめぇに触れただとォっーーー」
「うるせぇよ」
「!!!」

がし、とでかい手が顎を拘束して声を出せなくする。
いてぇ足踏むんじゃねー!!技まで封じられて。ちくしょう、こいつ。はえぇよ。
ぎっと睨みつけると、ふふん、なんて笑いやがる。

なんか、ガキみたいに素直な笑い方だったから、気が抜けた。
「・・・ふぁなせ」
「わめかねーな?」
うなずく。

あれ?こいつ・・・?
なんか、いつもとちが・・・あ。

「なんてカッコしてんだよ、てめぇは」
「・・・あ?」

ああよかった、さすがにナミさんも野郎のズボンなんか脱がす気はかったらしい。

上半身裸の上に黒の半袖シャツひっかけて。こいつがボタンなんてかけてるはずもなく。
嫌になるくらいイイ身体みせびらかしやがって。たまにふく風にシャツの背が
はたはたって翻って。

なんか、妙にやさぐれちゃって色っぽいじゃね・・・うあぁ!
何考えてんだよ俺!!

「つーか、チンピラだな」
動揺を隠すためにもいつものへらず口を叩くサンジ。
が、頬が微かに赤くなってるのを本人だけはご存じない。

「ほっとけ、クソコック」
「いや、似合ってんじゃねー?まんまだぜ」
「てめぇは、」
黙りやがれ、と延ばした手にサンジは俺様が二度と同じ手をくうかよっと
足元の袋からオレンジを抜き出し投げつける。


ぱし。


反射神経でキャッチした手の中のものをゾロはみおろす。

「オレンジ?」
「ああ。うまそうだろ?」
笑顔全開で答える男。


ほんとはこんなにキレイなくせに、俺の前だと小憎らしいツラばっかしやがる。
いつもこんな風に笑ってくれたら、俺はそれだけでいいんだけどな、
一瞬、ゾロは考え込む。ま、しゃあねぇ、惚れた弱みだよな。

腹立ち紛れに、がぶ。と噛みつく。
皮の苦味と果汁の甘さが口中に広がって。
別に、ただの、オレンジだ。

「アホ。オレンジは剥くものなの」
あきれ果てたような顔しやがる。

めんどくせえ。無視。口元に持っていこうとすると、あああーっとか言って、うざい。
とりあえず、素直に皮にツメをたてるようにして、剥く。

剥いたって、味なんてカワラネエだろ。
まったく、と力を入れると、さぁぁぁっと果汁が飛泡になって顔中に散る。

「うぷ」
「ブッキヨーだなおまえ、おい」
くわえ煙草で嬉しそうにサンジが言う。
「かしてみ、」


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