二人してデッキに座り込み。
するすると、別物のように硬い皮が剥かれ、オレンジの房を包む薄皮まで きれいに剥がされる。
そうして表れた実の透明な粒がいくつも並ぶ様は、果実というよりは宝石のようで。
楽しそうに、果物の皮をむくサンジが ひどく幸せそうで。ゾロは抱きしめたくなる衝動を、その手元をみつめる ことでやり過ごし。
一つ、二つ、と新しく果物が取りだされ剥かれていく。

「どうだ?」
真近でゾロの口元をみつめてくる。
「うまいな、」
「だろ?」
「人が剥いた果物ってのは、おいしいものなんだな」

妙にまじめな口調の男に、サンジは一瞬言葉がでない。
ぽんぽん、と手のひらの上で投げあげていたオレンジをすい、と取られていたのにも気づかなかった。
刀以外は器用に扱えそうもない手が、オレンジにかかり。 さっきとはうってかわって、真剣に皮と格闘し始める。 何となく、軽口もかけられずに自分までゾロの手元を注視するはめになり、 サンジはなんだか笑いたくなった。
自分のとは比べ物にならないけど、それでも何とか薄皮を剥かれたオレンジの果肉の 「切れ端」をゾロは神妙な顔で見ている。
かわいいよなぁ、どうしたのコイツ? サンジは口角がどうしても上がってしまうのを隠せない。 カッコがチンピラなだけに、絶妙のアンバランス具合だぜ!

す、とゾロがそれを自分に差し出す。
「なに?」
「やる。食え」
手を延ばそうとすると、引かれた。
あ、そゆこと。 サンジは身体を伸ばして直接ゾロの手からオレンジを口に含む。
「どうだ・・・?」
真剣な、顔。翡翠の両目がひた、と自分にあてられる。
・・・・・・うわ。
愛情の波に、さらわれた。
こいつ、勝負じゃなくて俺に食わせようと思って・・・?
サンジは聞いてきた相手の顔を両手に挟み込んで、にこにこぉっと笑う。

お。嬉しそう?
ゾロは一瞬、このリアクションについてゆけず。瞬き。そして確認。 うん、よろこんでんだな。
サンジがひっじょうに嬉しそうなので、ま、いーか。と、ぺたぺたと顔を触る手を 珍しく放っとく。
で、顔を引き寄せてチュ、とキスしてやる。
ふふ、とまたサンジが笑う。
「酒の味じゃねぇなー。めずらしい」
「ああ、そうだな」

おまえがこんなに笑ってくれてるほうが、めずらししいよ、サンジ。
;Fruit & Wine、と洒落こんで。とっておきのシャンパンをあけたサンジを別に 不審にも思わずに、
うまいな、とゾロは唇のハシを引き上げ。 高い空に、気泡がのぼるグラスが似合うと思ったから。なんていう殊勝な理由を話す気は
サンジも最初からない。

いい午後だよなぁとか言って勝手に自分の膝枕でシエスタ体制に入った「チンピラ」をみおろし、
サンジは小さく笑う。

まぁなぁ、こんなのんびりしたのもたまにはいいよな。
髪にさわってもおまえ怒んねぇし。
短い草色の髪に指を走らせる。片方の手で、不細工に剥かれた残りの
オレンジを陽に透かし、口に放り込む。

うん、うまい。
なぁ、俺もさ、人に剥いてもらった果物なんて、今日初めて食ったんだぜ?
額にかるく唇で触れる。

ありがとな、大好きだよ?


「戻るわよ、ルフィ」
デッキに顔だけ出したナミはすぐ下にいるルフィに声をかける。
「えええーこれ重てぇ」
ぶううっと顔膨らますルフィの背には仕上がった洗い物の山。
「いいから、」
問答無用で梯子を降り始める。

「でもよぉ」
桟橋に降りてもまだ言うキャプテンに、笑顔で一言。
「ね、ウソップ探して、きょうは町で夕御飯食べない?ここね、エレファトホンマグロが
名物なんだって」

「おお?よっしゃぁぁぁ」
にぱ。と笑顔が戻る。
「いくぞっナミっ」
ナミの手を握り、身体はダッシュで。

ナミは船を見上げて、また微笑む。
サンジくん、いつも御疲れ様だもんね。
あたしももうちょっとデートしよ・・・目を戻す、と、握っているのは、手にあらず。
すでにただのゴム棒に近い・・・。

「ルフィー!気味悪いでしょうーっ!!」
手を放す。ぱぁんと派手に音がして、にゃはははっと笑い声が前方から聞こえる。
「はやくこいよぉー」
ぶんぶんと手を振る麦わら帽子。ナミも笑顔で歩いていく。


オレンジみたいな太陽は、まだ空高くにいて。
きらきらと波に光をおとしており。船にも、陸にもおしみなく、
「きょう」の祝福を与え。奇跡に挑む子供たちを守る。




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これけっこう自分的には好きかな?いかがですか?だめ? あまあまあまっですね、こんなんしか書けませんのや、わては(誰ですか)。これからもよろしく

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