*SALVAGE−サルヴェージ−*





“酒は飲んでも呑まれるな”





これって、呑まれた後に気付く事なんだよな・・・





1.
記憶が無くなるほど飲んだのは初めてじゃあない。
かといって、毎回そうなるほど弱いわけでもないし、無くなった記憶のブランクだって翌朝目がさめた時の状況を見れば毎回何となく察しがついた。・・・まあ、隣に安らかな寝顔をした美女が居た、何てのは遠い昔の記憶で、今の船じゃそんなことは勿論無く、大体が酔いつぶれた仲間の雑魚寝姿が在るのだけれども。そうにしても、元々バカ騒ぎが好きな連中だから、いくら酔っ払ってハシャギまくろうが気にも留めないだろう事はわかっている。だからか記憶が飛ぼーがなんだろうが焦る事など無いし、思ったとしてもせいぜい「あー・・片付けしないで寝ちまったんだな・・・」位のモンだった。



がっ!しかしっ!!

俺は現在、初めて焦っている。何に対してって、記憶がぶっ飛んじまった事にだ。





事の発端は先日の晩の酒宴。
細かい経緯は覚えていないが、勢いでゾロと二人で飲んでいたのだ。多分・・・いや、確か俺から誘って。

その日、俺はいつもより調子が良くて料理も満足いく物が出来て絶好調も絶好調だった。一日中気分が良くて翌日の仕込みが終った後もそのまま寝るには惜しいと思い、どこかの島に上陸した時に見つけて隠しておいた取って置きの酒でも飲んで今日一日の、そして日頃の自分の素晴らしさに乾杯してそれから寝よう、という事にしたのだ。『自分にご褒美』って奴な。・・・で、其処に計ったようにタイミングよく、ゾロがキッチンに入ってきたのだ。
あいつは起きてる時はトレーニングか酒飲んでるかのどちらかなのだが、夜中に起きているのは他でもなく見張りの当番だったからで。当然寝る事もトレーニングする事も出来ない訳だから、「じゃあ、酒。」とでもなったのだろう。まあ、見張りじゃなくてもたまーに夜中に起きだして酒を取りにキッチンへ来る事が無かったわけではない。どちらにせよあいつが自ら一人でキッチンに入ってくるときは食事以外では酒しかないので、その時に背後のドアを開いた主がゾロだとわかった時点で「コイツも酒宴に引き込もう。」と俺は決めていた。
酒絡みでしかも俺の取っておきのブツだとわかったらゾロはあっさり誘いに乗ってきた。今考えたらゾロに飲まれないように隠して置いた酒をゾロ本人に飲ませてたのだから不毛と言うか、矛盾を感じるのだが、気分が良い時に一人で呑むのもつまらないと思っていたのも事実で、その場に来たのがゾロだった事よりも酒宴に引き込める相手が見つかった事の方に俺は気がいっていた。まあ、ゾロと二人っきりの酒宴じゃあバカ騒ぎするような事も無いのだけれど、それでも結構な量のアルコールが入って元々気分も良かったからゾロ相手にも俺はすっかりハイになっていた。いつもよりあいつに話しかけていて、珍しくゾロもつまらなそうにしては居なかった事は覚えている。くだらない事をベラベラ話しながら酒のペースも上がり・・・・・・で、途中からの記憶が無くなってる訳だ。
ゾロはあいつは酒を水みてーにのむ根っからのザルだから、俺がその後どうなったかは全部知っているのだろう。目覚めた時には男部屋のソファに横になっていた(しかもご丁寧に毛布までかけられていた)のであいつが連れてってくれたのだろう事も想像できた。(もしかしたら運ばれたのかもしれないがその点はあまり知りたくないので聞いていない。)だから、素直に「世話かけたな。」くらいの礼は言おうと思って奴のところへ行ったのだ。
ところが、ゾロの様子がどうもおかしい。いつもはただムスッと仏頂面を掲げているだけの奴が、何故か目線を外して気まずそうにしている。どうしたのか、と聞くよりもまず第一目的を達成しようと昨晩の事の礼を述べた。俺の言葉を聞いている途中に奴が初めて目線を合わせ目を見開いて驚いた顔をした時も、普段喧嘩ばっかの奴が素直に礼を言ってきた事に驚いたのだと思ったのだが。
・・・・・・どうもそうではないらしいと気が付いたのは俺が話し終えた時にあいつが放ったこの一言からだ。


「・・・覚えてねェのか?」


予想外の反応に驚いて、無言の肯定をすると・・・

ゾロの様子が一変したのだ。
不機嫌。明らかに不機嫌で、しかもかなり怒っている様子。背後に効果音を付けたら「ゴゴゴゴ・・・」か「ドロドロドロドロ・・・」・・・だろうな。いきなり降って湧いた不穏な空気に不覚にもちょっと後ずさりしてしまった。

正直俺は焦った。
今までに記憶が飛ぶほど酒を飲んだ翌日に「昨日の事覚えてないのか?」と聞かれた事など無かったからだ。そのような事を言及される事はあったが、こんな風に問い詰められた事は無い。しかも、この様子からしてゾロは俺が覚えていて当然だと思っていたのだろう。でなきゃこんなに不機嫌になるはずが無い。普段だったら「ぁあ?何てめェ一人でイラついてんだよ!?」と、蹴りの一発でも入れてやる所だが。
・・・どうにも記憶が無いので流石に俺も強くは出れない訳だ。



酔って暴れて相手の方が恥ずかしくなるような事をしてしまったのか?

覚えてなきゃいけない約束でもしたのか?

何か大事な事でも言ったのか?

それともゾロが何か話したのか?



無くなってしまった記憶の空白部分に当てはまる事象を考えられるだけ考えてどうにか思い出そうと試みていると、その様子を察したのか、

「覚えてねェのか・・・」

そう、ゾロは言った。
しかも、それまで発していたあからさまな不機嫌オーラをフッと解いて


どこか諦めた様な




無表情なツラして、そう言ったのだ。




さらに焦ったのは勿論、俺。


「・・・わ、・・悪い。・・・・・・なんかあったっけ?」


緊張で早まる動悸を押さえて努めて明るく言ってみたが、あっけなく失敗。
自分でもらしくないと思うくらいの動揺でどもってしまった。



さらに

「・・・別に何も無ェよ。」

そうボソッと呟いて。



唖然とする俺をそのままに、ゾロはどっかに行ってしまったのだ。





・・・で、置いていかれた俺は、それからずっとその晩の記憶を取り戻そうと努力しているのだ。

しかし、一週間経った今も未だに成果なし。
もう一度聞こうと思ったのだがあれ以来ゾロはどうも俺を避けている様で、自然に二人っきりになる事も無く、かといってわざわざ呼び出すのも気が退けて聞く事が出来ない。

俺ってこんなに意気地なしだったのか??

・・・と、問い掛けてみるが答えてくれる者は居るはずもなく。





マジで俺は何をしたんだろう。
あの晩に何があったのだろう。





うじうじ悩むのは性に合わないのに何時もの様に実力行使で強引に解決出来ない原因のひとつには、相手がゾロだってのも含まれている。記憶をなくしてしまった事を悪いと言う気持ちもあるが、実はそれだけではない事を自分は知っている。










「・・・はぁ・・・・・・」










素直に認めれば、



アイツはやっぱり 特別。





ポリシーも
スタイルも
考え方も

野望も

はっきり正反対なのに。


・・・なんて言うかな。


だからこそ二人で並んだ時にお互いに無い物が埋まって完璧な気分になるとか。
ちょっとずれいてるからこそちゃんと噛み合って回る歯車みたいだとか。

確かに反発は絶えないけれど。相変わらず一々意見が合わないムカツク野郎だと思うし、お世辞にも仲が良いなんて言えない間柄だけれど。

それでも、
いざと言う時には背中預けて戦って、戦いの後には笑いあって酒を酌み交わす。
・・・なんて事が、違和感無く出来る奴なんて今までには居なかった。

常日頃俺の言う事が気に食わないんだかなんだか知らないが律儀に突込みを入れてくるのだってその時は頭に来て応戦していた俺だったが。
ある時に裏を変えせば何時も俺を無視しないで居てくれたんだなと気付いて。

そん時には不覚にも一寸ばかり嬉しかった。





俺はこの関係を至極気に入っていたのだ。








だからこそ自分の不行き届きが招いたこの状況が疎ましい。
壊したのが自分だから修復するのも俺自身がどうにかしなければならないのだ。



そのために、此処一週間原因となっているはずのあの晩の記憶を思い出そうとしているのだが。





「う〜・・・。やっぱ思い出せねェ・・・」





努力の甲斐も空しく現状の改善には至ってないわけだ。










最近(俺の中で)日常と化して来たキッチンでの己の記憶探りの時間は、今日も変わらず成果無しだ。いい加減辟易して、ため息混じりに窓の外の甲板に目をやると、そこには完全に日常の風景になった眠る剣豪の姿がある。

「・・・お〜お〜、相変わらず気持ちよさそうに眠りこけやがって・・・」

今日は気候が安定している海域に入ったのか非常に過ごしやすい。
俺の心内とは裏腹に心地よく晴れ渡った空の下で眠る問題の男をしばらく眺めていると・・・

なんだかこう、ムカムカと


(・・・なんか、段々腹が立ってきた・・・)



いわゆる逆ギレって奴だとはわかっているが一端いきり立ったら止められないのが俺の性質で。

(・・・そりゃあ、忘れた俺が悪いんだろうけどよ。酔って記憶が飛ぶなんて今に始まった事じゃねえだろ?大体俺が悪意で知らん顔してる訳じゃなくて、不可抗力で忘れちまったんだからしょうがねェじゃねえか。怒るくらいなら何があったかはっきりいやあ良いじゃねェか!キレてむっつり黙り込んだりするから俺が無駄に悩む事になるんだろうが、ぁあ!?)

今までだったら言いたい事があったなら遠慮なく言えたはずだ。

俺も、ゾロも。

「・・・やっぱり、うじうじ考えるのは性に合わねェな。」

慣れない事をして、そろそろ色々限界だ。何となく気まずくて二人きりは避けていたが、そんな繊細な事は言ってはいられない。今日こそはとっ捕まえて問いただそう。何があったのか。何に怒っているのか。



(決行は今日の夕食の後!!)



今すぐ行くのはためらってしまった事に対する突っ込みは、却下だ。









2.
ついにこの時が来たか。

日が落ちて夕食の時間になりクルー達がダイニングに集まってきて皆が席についてしばらくして最後にゾロが入室してきた時から、俺は緊張していた。

別にゾロ本人に「話がある」と告げていた訳ではないから今緊張する必要は全然無いとわかっている。・・・が、いつもは呼びに行かなくては寝こけたままで何時まで経っても食事に在り付かない男があの時から自分で起きて来ていたという事に今いきなり気が付いて、やはり二人きりになる機会を避けられていたのだ、と思ったら何となく焦ってしまったのだ。

しかし、今はゾロの事よりも本職のコックとしての仕事を全うしなくてはならない。何があってもコレだけはこなさなくては。



愛しのレディ達のために!!



「ナミさん、ビビちゃんvvスープのおかわりは如何ですか?」
「ありがとvでも良いわ。もうお腹いっぱいだし。」
「私も結構です。ありがとう、サンジさん。」

ああ、俺はこのひと時が一番幸せだ・・・

「そうですか?・・・では、デザートをお持ちしますねv」

・・・しかし、今日はちょっとタイミングを外してしまったか?二人ともまだ食べたそうな気がしたんだけど。何時ものように絶妙なタイミングで言われる前にレディ達が望む物を食卓に並べる事が出来ないなんて、もしかして俺、調子悪いのか??

・・・くそう。それもコレもクソ剣豪のせいだ。

「あ、サンジ君。私たちの分はトレーに乗せてよこしてくれる?今日は外に出て食べたいから。」
「え?別にかまいませんが、何でですか?」
「今日は天気が良いので星が綺麗に見えるんです。私、ナミさんに星の見方等を色々教わりたくって・・・」
「はあ、成る程そうですか。・・・じゃあ、今日のデザートはケーキですので紅茶を入れますからポットごと持って行きますか?今日は暖かいけど外なら夜は少し冷えるだろうし。」
「悪いわね。」
「すいません。」
「いえいえ、お気になさらずに。」

博識なナミさんも、健気で勉強家なビビちゃんも素敵だ〜vv・・・と思いながら、横目でチラッと、遅刻したせいでまだ半分も食べ終わっていないゾロを見る。

(もっと美味そうに食えよてめェ・・・)

素敵な女性達との触れ合い(?)のおかげで緊張がすっかり解けた俺はようやく余裕が出来てきた。

良し良し。コレならいけそうだ。


・・・と、
「おいルフィ。さっさと食ってさっきの続きするぞ!」
という台詞が聞こえて振り返ると、ウソップが背後でルフィを肘で突付いている。

「おう!やるっ!!」
「チョッパーもな。」
「う・・・うん!」

???





「なんだよ、“さっきの続き”って。」

二人分のケーキと紅茶が乗ったトレーをナミさんに渡してから、急いで食べ物を口に運んでいる三人に目をやって聞く。

「『けんこーしんだん』だ!!」
「健康診断??」
「チョッパーがやってくれるんだ。医者の道具とか格好良いのいっぱい持ってておもしれーんだ!」
「・・・健康かどうかなんて診断するまでもねェんじゃ・・・」
「いや、でも結構面白いんだぜ?半分遊びだしな。でもよ、コイツなんかさっき肺活量測る器具を壊しやがってよ。「ゴムゴムの風船」とか言って・・・」
「だって思いっきり息吹き込めってチョッパーが言ったんだもんなあ?チョッパー」
「え?・・・うん、言ったけど・・・アレはちょっと・・・・・」
「限度があるわ!!」

ウソップ得意の突っ込み。

「ははは。じゃあ続きってそれか。」
「おう!おもしれーからサンジもやんねーか?」
「「ルフィ!」」

・・・?
なんか、ウソップとチョッパーが挙動不審な気が・・・

・・・まあ、いいか。今に限った事じゃねェ。

「折角だけど俺は良いよ。まだこれからやる事有るし。」
「そーだよなっ!!ほら、サンジは色々忙しいもんな!なあ、ルフィ!?」
「・・・・・!うん!そうだよね、ルフィ!!」
「なんだぁ?お前らなんか変だぞ??」
「べっ・・べべべ別に変じゃねえよな?な?チョッパー??」
「へ、変じゃないよっ!」
「それよか、ルフィまだ食うんだったら先に男部屋に戻るからな!置いてくぞ?」
「何!?それは困る!!!俺も『ケンコーしんだん』したい!!!!」

そういうとルフィはガバッと腕を広げて持てる限りの食べ物を引き寄せて、そのまま全部口の中へ押し込んでゴクンと派手な音をたてて飲み込んだ。

・・・何時見ても妖怪めいてるよな、コイツ。

「プハーッ!!食ったー!!!!」
「・・・もう少し人間らしい事をしてくれ・・・」

ウソップがげんなりして言う。
チョッパーなんか驚いて驚愕の表情のままプルプルしてるじゃねえか・・・全く。

「んじゃサンジ。ごちそーさん!!」
「ご馳走様でした。」
「ご、ご馳走様!」
「おう。」





パタン





(相変わらず騒がしい奴ら・・・)

微笑ましく三人を見送って、ふぅっとため息を吐いたところで。



(・・・はっ・・・!!)



背後に居るもう一人の存在にようやく俺は気がついた。

二人っきりになれる事は願ったり叶ったりなんだか、キッチンが無人になるまで待ってそれからゾロを引きずり込もうと思っていたので、予想外に訪れたチャンスに俺は再度一気に緊張する。

(ど、どうしよう・・・)

多分、ゾロも気がついているはずだ。
そう思って恐る恐る振り返って見ると、奴はまだ黙々と食べ続けていた。

(・・・食い終わるまで待つか。)

俺は動揺を察知されないよう、いつも通りなんでもない風にシンクへ向かい、流しの縁に寄りかかって煙草に火をつける。途中、一瞬チラッと見られたような気がしたけど、多分気のせいじゃない。

(よっしゃ、来い!!)

準備万端。いつでもかかって来いな半分戦闘態勢で俺は待ちの状態になる。


















「・・・・・・」

「・・・・・・」





・・・この無言の空間が、つらい。





・・・くそ、コイツ。
いつもより食うの遅くねえか?わざとか?わかっててやってんのか??

一分一秒がいつもの倍以上の長さに感じられる。

あ〜も〜、俺は待つのには慣れてねえんだよ!畜生!!
早く時間が過ぎて欲しいと思いながらも自ら自分の失態の真実を問いたださなければならない事を思うと、緊張が段々大きくなり、俺は無意味にイライラしていた。



ようやくゾロが最後にコップの水を一気に飲み干して、席を立とうとする。

(今だ!!)

その様子を見て今しかないと思い、気合を入れて呼び止めようと声をかけようとしたのだけれど、



「ゾ・・・」
「この間の事か?」



ゾロの言葉でそれはせき止められてしまった。



・・・出鼻を挫かれるとはまさにコレだな。
「んだよ。・・・・・・まあ、判ってんなら話は早いぜ。そうだよ、この間の事でお前に聞きたい事があるんだ。」
「・・・まだ思い出してねェんだろ?」
(うっ!!痛いところを・・・)
「・・・わ、忘れたのは悪かったけどよ、別に今回から始まった事じゃねえだろが。お前が何に怒ってるのか確かにわかんねェけど、あの晩に何があったのか教えてくれりゃあ問題ないだろ?そうしたら、俺だって詫びるでも何でも仕様があるじゃねえか。」
「思い出してないならこれ以上言う事なんてねェよ。別にお前は謝るようなことをした訳じゃねぇし俺も謝られたいとも思わない。」
「・・・じゃあ何で怒ってるんだよ。」
「・・・・・・怒ってねェよ。」
「そのツラが怒ってる以外のなんなんだよ。」
「・・・俺はただ不満なだけだ。」
「だから何が!」
「お前が思い出せばわかる。」


〜〜〜〜〜〜っ!!!!


「思い出せねェから教えろっつってんだろーが!!何回も言わすな、クソ剣豪!!!!」
「てめェ・・・逆ギレとはいい度胸だな・・・」
「キレるに決まってんだろうが・・・っ!!何にこだわってンのかしらねェが、忘れちまったモンはしょうがねえだろうが!てめえがさっさと吐けば全部解決すんだよ!それが嫌なら普通にしてろよ!なんだかしらねェけどイラついた気配を船中に撒き散らしたり、露骨に避けたりすんじゃねェよ!!!」
「んだと?こっちは「しょうがねェ」で済む問題じゃねえんだよ!!」
「だから、その理由を言えっつってんだよこのハゲ!!」
「ハ・・てめえ、言うに事欠いて・・・」
「うっせえ!大体、今まで散々「エロコック」だなんだってぶざけた事好き勝手に言ってたくせになんで今更酔った時の事が言えねえんだよてめえはっ!!不満が合ったらいっつも遠慮無しに文句たれてたのは何処のどいつだ、ぁあ!?なのに、今度の事に限って何にも言わねェで黙り込んで俺の事避けて・・・。お前が俺が忘れた事に不満なんだったら、俺はそれが不満だ!!思い出して欲しいんだったらてめえも何とかしろよ!!!」



一気に喋って俺は息が少し上がってしまい、ゾロを見据えながら肺に酸素を送り込んだ。ゾロは黙ったまま何も言わない。



「・・・おい。」
「・・・俺がなんとかしても良いんだな?」
「なんだ?ようやく喋る気になったか?」
「・・・いや、もっと効率のいい方法がある。」



コウリツノイイホウホウ??



「な、何を・・・」
「いいから黙ってろ。」



ゾロはそう言うと俺の方へと歩み寄ってきた。

(な・・・なんだ?何するんだ??)

俺は何も言えず、目の前に立ったゾロの様子を窺う事しか出来ない。
ゾロも俺を睨んだまま何も言わない。

緊迫した空気に思わずゴクリと唾を飲み込むと、不意にゾロの手が俺の頭に向かって伸びてきた。

(何?まさか、頭突きでもすんのか??)

ゾロの両手に頭をがっちりと掴まれてしまった俺は少々パニクってしまい、額には脂汗が滲んできた。

「な・・・?」
「・・・目ェ、瞑れ。」

(やっぱりかー−−−−−−−−−−!?)

混乱した俺は思わず言われるままに目をギュウッと瞑ってしまった。

(痛いのは嫌だーっ!!)










次の瞬間、頭に衝撃が−・・・  と思いきや、










感じたのは



唇に触れる 何か。


















・・・・・・・・・!!








(・・・なっ・・・ぇええ!?・・ぅわ、何・・・・・なんで???)





何故俺はゾロにキスされているんだ???

覚えのある感触にそれが人間の唇だと気付きさらに相手がゾロだと言う事を認識するまで、俺はかなりの時間を要してしまった。
今の自分の状況に気が付き慌てて逃れようとしたが、ゾロの手が後頭部をしっかり押さえてる為にどうしようもない。

「・・・んっ・・・・んー!!」
(放せ、この馬鹿力ー−−−−−−−−!!!)



こんな事で何を思い出すっつーんだ、馬鹿野郎ー!!



ゾロのキスで俺は段々変な気分になってきて、腰にまわされた手にも抵抗できなくなって、体の力が抜けて支えれている状態があまりにも情けなくて、

涙が出そうになった。















・・・が、
突然頭を押さえていた力が無くなり、ようやく解放されて、

「・・・・・ぁ」
「・・・サンジ・・・」

今までに聞いた事の無い甘く掠れたいつもより低い声で耳元で名前を呼ばれ。


























(・・・・・・あ。)






















その拍子に俺は全てを思い出したのだ。



・・・と、同時に全身の血が頭に遡り、俺はこれでもかと言う程に真っ赤になった。

なぜならば、
「・・・その様子じゃ思い出したみたいだな。」
「・・・・・・くそ。」
「言っておくが、先に「好きだ」って言ったのはお前だぞ?それを忘れたとか何とか言いやがって・・・」
「わ、わかってるから・・・ちょ・・・・・タンマ。言うな、それ以上。」

そうだよ、俺から言ったんだった。
この男に「好きだ」と。

一端思い出したら後はもう芋蔓式に記憶は蘇ってくる。

あの晩俺はどうしてそんな流れになったのかは(思い出せないのではなく)わからないが、ゾロに告白したのだ。
別にそれまで胸のうちに秘めていた想いが在ってそれを打ち明けた訳では全然なくて。
その時に気が付いてその時の気持ちを告げただけだったから、告白した記憶とともに告白した時の気持ちも置き去りにしてしまったので気が付かなかったのだ。










「・・・で?アレは酔った勢いで言った酔っ払いの戯言だったのか?」



酔った勢いで言ったと言われたら否定できないけれど、
俺が「お前は?」って聞いたら、「俺も。」って返ってきたことを、
嬉しく思うのは今でも変わらない。









「・・・いや、その手の台詞で俺は嘘はいわねェよ。例え、酔ってても。」
「今度は忘れねーだろーな?」
「ははっ。まさか流石にシラフじゃ忘れらんねーな、俺も。」
「・・・なら良い。」

そう言ってガキみたいなツラして笑ったから、
そんな顔見たこと無かったから、
俺も特別に最上級の笑みで答えてやった。



そしたらゾロの顔がちょっと赤くなったから笑ってやった。















確かに告白したのは俺が先だけどさ。
それに執着したのは他でもないお前。















こっからはまた五分五分の関係だ。
ただちょっと距離が縮まったから、前の関係とは異なるけど。

きっと上手くやっていける。










もう、忘れらんねーよ。
男でキスしたのはお前が初めてだからな。
ムードの欠片も無い(っていうかむしろ俺は抵抗していた)あんな色気の無いのは初めてだぜ。

いろんな意味で忘れラレマセン。











ま、それも今思えば良い思い出。

ファーストキスなんて時が経てばその後の数に埋もれるさ。





そう言ったら、「嘘付け、お前はそういう事に拘りそうだ。」ってゾロに言われた。
うるせーな。そりゃお前だろ。むっつりのくせして生意気な。
















これからもっとしようっていう意味だってわかってんのかね、コイツは。








2001.08.20up

side Zoro
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 サクマさま、私、シアワセです。これぞまさに―――!!!
そして皆様!素晴らしい事にこれ、ゾロサイドもあるんです!
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