☆12☆

サンジはゾロと視線を絡ませたまま。
ゆっくりと跪く。
手だけを滑らせて。
目の前に位置するオトコのシンボルを。
ゆっくりと握った。

ゾロは誘うように、少しだけ足を広げ。
けれど何も口にすることはなく、ゆっくりと笑みを深くした。

魔法にかけられたみたいに、サンジは視線を落とし。
手の中のものを、上下に扱く。
強度を増したものに、不思議な感動を覚え。
焼けた肌とは違う温度を、掌で味わう。

乾いているのに、しっとりとした手触り。
その奥の草むらに残る水滴が、キラキラと光って。
自然に湧き上がる笑みをそのままに。
波音を塗って聴こえる、ゾロの息遣いを愉しみながら。
誘われるままに、それを口に含む。
なんだか、溜め息が漏れる。

先端を舌先で弄くりまわしながら。
仄かに草むら辺りから匂うゾロのにおいに。

そういえば、鹿の精嚢からできる香水もあったよなぁ、なんてサンジは考える。

先っぽをきつく吸い込んでから、和らげて。
奥まで一気に咥え込む。
頭を何度か上下させて。

こういうのって、ホルモン?ん?フェロモン?あれ?なんだっけ?

次第にぼおっとしてくる頭で、サンジは取り留めの無いことを考える。

濃い匂いなのに、ヤじゃないんだよなぁ…。
あー、恋って偉大。
つか、…ゾロの匂いって…なんか、好きだなぁ…。

濡れた音を立てて、口いっぱいに頬張ったゾロのものが、どんどん硬くなっていき。
その反応を自分が起こさせているのだという事実に、心が舞い上がる。
時折先端を舐めて、舌先に残る滑る液を舐め取り。
粘つくそれに、更に何も考えられなくなりながら、夢中になって味わう。

ちゅぷぢゅぷと響く音に煽られ。
もっと欲しくて、身体を乗り出した瞬間。
ソファにグイと自分のものがあたり。
「ウ…っく」
ふるり、と身体が震えた。
それを合図に、サンジ、と声がかかり。

ボンヤリと霞んだ目で見上げると、そこには困ったような笑みを浮かべたゾロがいて。
ちゅるん、と音を立てて、口を離す。
そのまま、ゾロの節張った指先が、唇をなぞり。
目を閉じて、こそばゆい様な感触が、快楽に変る様を味わう。
口を少し開くと、舌先をそろりとゾロの指が撫で。
ざらりとした感触に、驚くくらい気分が高まる。

「このまンま、ここでするのか?」
「…ソファ、汚しちまうかなぁ?」
掠れる声で、訊くと。
「気になンなら、タオル敷くぜ?」
くく、と笑うゾロの声。
「ちょっと休んでろ」
さらり、と髪を撫でられて。

素直にソファに座り込む。
カーペットの跡がついた膝小僧が、熱くジンジンしている。
それ以上に、身体全体が熱っているのが解る。

熟れる果実って、こんな気分なのかなぁ?

ぼんやりと考え。
ふと喉が渇いて、ミニテーブルの上のボトルに手を伸ばそうとしたら。
「待ってろ」
ゾロがさっさと立ち上がって。
慣れた手付きで、グラスに水を注いで、渡してくれた。
受け取ったサンジの頭に、キスを落として。
そして全裸のまま、奥の部屋へと歩いていく。

身体に火が灯されている。
まだ触れられてもいないのに、自分のペニスはもう潤んで。
水を一口飲むたびに、ぬるまったシルクのバスローブが肌を滑り。
そんなものにすら肌が刺激され、じわりと快楽が押し寄せる。

サンジは目を瞑り。
身体が目覚めていく様を、ぼんやりと愉しんでいた。



 ☆13☆

早く欲しい、と強請る身体を誤魔化しながら。
サンジはいつのまにか気にならなくなっていた波音に、耳を傾ける。

程なくして、ゾロが戻ってきて。
「ちょっと立てるか?」
手にしていたのは、スペアのシーツと、ローションのビン。
「…なンでシーツ?」
「あ?タオルだと目が粗いから、後で痛くなるだろ?」
「…なるほど」

ゾロって、こんなに気の利くヤツだったっけ?

サンジはむぅと小さく唸って、立ち上がる。
ゾロは一瞬でシーツをバサリと広げ。
皮の背もたれに引っ掛けるように垂らした。
「結構器用、オマエ?」
サンジが言うと、ゾロが笑って。
「不器用な方だと思うがな?」
ゾロがトスンとソファに座って。
「来いよ、サンジ」
手を差し伸べた。

促されるままに、ゾロの膝の上に、向かい合うように座る。
「…スナオだな、サンジ?」
ゾロがに、と笑って。
「跳ねっ返りのが、嬉しいか?」
サンジもつられてに、と笑うと。
「オマエが楽しくて、気持ちよけりゃ。どっちでもイイ」

ちゅ、と音を立てて、キスをされて。
間近で絡み合わせる視線。
繰り返すバードキス。
笑った口角のまま、少し開いて。
目を閉じて、口付けを深くする。
強く抱きしめられて。

幸せの、溜め息。

深くなる口付けに任せて、舌を擦り合わせる。
舐めて、噛んで、擽って。
唾液と吐息を絡ませて。
生まれる熱に、思考を奪われる。

するりとローブの前が開かれて。
さらりと脱がされる。
手馴れた手順。
知った温度を持った指が、そうっと皮膚の表面を滑る。

「…ンッ」
強さを増した口付けに、息すらまともにできなくて。
乱暴に口付けを解いて、しがみ付く。
合わさる胸板。
露わになった首筋を、ぞろりと舐め上げられて。
カプン、と歯を立てられた。
瞬間、感電したように、身体が震えて。

「…ッ」
腰を揺らして、合わさったペニスを擦り合わせる。
もどかしい快感が、背筋を上って。
それを追うように、ゾロの大きな掌が背中を滑る。
白く、思考が霞んでくる。

触れ合う肌から感じる熱が。
仄かに身体を包む匂いが。
アップテンポに引き摺られる息や心音が。
世界の総てになる。

「は…ん」
自分でも可笑しい位に、煽られる。
身体が餓える。
止められない。
止まらない。
「あ…ァ…」

ゾロが、こめかみや頬や耳に、やさしく口付けを落としていく。
手は煽るように、サンジの感じる場所を、的確に擽り、撫でて。

このオトコのためになら。
どんな淫売になってもイイ。
このオトコを煽るためになら。
なにをしてもイイ。
このケモノに喰われるのなら。
一番弱い部分だって、喜んで差し出してしまおう。
このオトコのためになら。
きっと、なんだって出来てしまう。

縋りついた肩口に、歯を立てて。
少しきつめに噛み付く。
ゾロが喉でククッと笑って。
「もう、耐えらンねェのか?」
サンジの耳をペロリと舐め上げながら、低く言った。
「ん…ゾロ…ッ」
はぁ、と息を逃して。
サンジが甘く掠れた声で先を強請る。
「かわいいな、サンジ」
「バッ…カヤロ…」

力の入らない瞳で、睨みつけるが。
「…オマエのそういうトコな。マジで喰っちまいてェくらい、ソソるぜ?」
酷く餓えた翠の双眸が、物騒に煌いて。
誘うように、口の端を持ち上げる。

誘われるままに、サンジは噛み付くように口付けて。
腰をゆらゆらと動かして、身体を擦りつける。
その様子を薄目で見ながら、ゾロは放り出してあったビンの中身を指に取り。
ゾロからは見えない開いた裂け目へと、慣れた手付きで忍ばせる。

潤滑油を、襞に擦りつけられて。
サンジの身体は無意識に跳ねる。
きつくゾロの舌を噛んで、飛び出しそうな嬌声を飲み込む。

楽しそうに、ゾロは喉の奥で笑って。
サンジの腰を抑えていた手で、宥めるように背中を撫でた。




☆ 14☆

緩慢な手付きで、丁寧に解されて。
熱に浮かされた身体は、従順に開いていく。

サンジは漏れる吐息に声を乗せて。
快楽に翻弄されるままに、鳴く。
喘ぎをかみ殺そうとして、しかしそれは果たされることはなく。
子犬が母犬のミルクをねだるように。
鼻にひっかかったように甘い声が、吐息に塗れて漏れる。

そしてゾロは。
焦らすようにサンジを追い立てながら。
無意識に揺れて擦りつけられるサンジのものに煽られすぎないよう、自分をセーヴしながら。サンジが楽にゾロを受け入れられるように、押し広げていく。

「も、や…ッ」
サンジがゾロの肩に爪を立てて、限界を訴える。
揺れる腰は、無意識に快楽から逃げるように迫上がり。
合わさった胸板は、しっとりと汗ばんでいる。

それを合図に。
ゾロは潤滑油を自分のものに塗りこめて。
「…いいぜ?ゆっくり腰落としな」
サンジの肩口に口付けを落としながら、ゾロが低く告げる。

「んん…っふ」
ゾロの首に手をかけて。
バランスを崩さないよう、ゾロが背中を支える中。サンジは足を正座の位置から引き抜いて、
しゃがむように座りなおす。ゾロが腰を少しずらして。
手を背中から臀部に移動させて、サンジをそっと促す。

ゾロの濡れた先端が当たって。
サンジは目を閉じたまま、薄く笑みを刷く。
支えられたまま、ゆっくりとそれを迎え入れて。
筋肉がぎちぎちと広がって、ゾロを飲み込んでいくのを楽しむ。

「ああ…ん」
少しずつ飲み込んでいく度に、その場所から何かのシグナルが発せられて。
それは熱の波を起こしながら、身体中に広がる。
うっすらと目を開けると。
欲情に酷く真摯な表情を混ぜたようなゾロの顔があって。

目が合った瞬間。
柔らかに笑みを浮かべた。
サンジも、笑みをますます深めて。
また目を閉じて、最後まで咥えこんだ。
襞がゾロのサイズに慣れるのを待って。
ゆるゆると上下運動を始める。

持ち上げた腰を落とすたびに。
声が零れた。
自分のものから零れ落ちる透明の雫は、それを握るゾロの手に刷り込まれていって。
濡れた音に、尚煽られて。
「…ふ、ァ」

身体には決して楽ではない体勢なのに。
快感に引き摺られて。
熱い手に誘われて。
時折漏らすゾロのうめき声に、支えられて。

どんどんとスピードを加速して。
餓えた体が望むままに、求める。
ゾロが小さく何かを呟いて。
「うぁ…あ…はァ…ッ」
一番感じる場所を、下から思い切り突き上げられた。

まだだめだ、と思うのに。
堪えきれずに。
快楽が背筋を上りきって。
「あ…や…あァ…ッ」
身体がふるりと震えて。
溜め込んでいたものを吐き出す。
ゾロの手にかかったものが、そのままサンジのを伝い降りていき。

自分が吐精したものが、股間を伝い落ちて、ゾロの草むらに溜まっていく感触に。
ビクビクと身体が震えて、止まらない。
尚も快楽の波は、収まらなくて。

ゾロが上体を起こして。
ぎゅうう、と抱きしめられた。
そのまま、サンジは身体の力を抜いて。
ぐったりと凭れかかった。

顔中に、キスが降らされ。
息が落ち着くのを待って、瞼を開くと。
「サンジ、誕生日、オメデトウ」
唇に、やさしい口付け。
「さっき、言い損ねたんだが…」
「…なに?」
「オマエと出会えて…よかった」

ぎゅうう、と抱きこまれて。
表情が見えない。
けれど。
声が泣けそうに、やさしくて。
「オマエといると。…生まれてきて、よかったって、思える」
低い声が、酷く静かに言った。

「バーカ…らしくねェよ、ゾロ」
ぺち、と力の出ない手で、ゾロの頭を叩いて。
ゾロが苦笑を漏らして。
「…愛してるぜ、サンジ」
項に、小さなキス。

「…ああ」
告げられるたびに、染みこんでいく言葉。
纏う穏やかで、やさしい空気に。
涙が零れそうになるのは、なぜなのだろう。

「オレも…オマエと出会えて、よかった」
涙の代わりに、笑みを零して。
「オマエに愛されてっと、なんも考えらんねェくらい、胸がイッパイになる」
顔を上げて、ゾロの目を覗き込んで。
「愛してるぜ、ゾロ?…すげェ、特別」

ゆったりと、唇を合わせて。
ぺろり、と舌を這わせて。

「だから、さ。もっとオレを愛せよ。意識が跳んじまうくらいに」
サンジがにぃ、と笑うと。
「…覚悟、してろよ」
ゾロはくしゃんと苦笑を浮かべて。
「イヤだっつっても、聞かねェからな」
低い声で、囁いた。
そして、さらん、とサンジの前髪をかき上げて。
「あとで文句、言うなよ?」

にやり、とケモノの顔で笑った。



 ☆15☆

…ここ、どこだ?

サンジが目覚めたのは、見知らぬ部屋の、見知らぬベッドの上。
最初に目に入ったのは、真っ白い天上。
横を見ても、居る筈の人はおらず。

んん…?あ、そっか…パーティ・アイランドだ…。

ごろん、と寝返りを打って。
肌に当たる、やさしいシーツの感触。
何も纏っていない体は、それでもサラリとしていて。

あー…拭いてくれたンだ…。

気だるい体に、自然と笑みが零れた。

ゾロを受け入れることにいくらか慣れた体。
それでも手加減ナシで抱かれた日は、節々が重く感じる。
ゾロを受け入れた場所は、そこだけ熱を持って、落ち着けずに疼く。

ゆっくりと息を吐いて、身体を起こす。
ふと視線を落とした先には、あちこちに散らばる、赤い跡。

「プッ…ハハッ」

あーあ…人前で、肌曝せないじゃねぇか。
サンジはそう思うものの、そういえば、自分も随分とゾロに跡を残したハズだ、と思い出す。

夢中になって、ゾロを受け入れて。受け止めて。
強すぎる快楽に、意識を飛ばしながら、抱き合った。
背中には、自分がつけた幾筋もの傷が、縦横無尽に走っているはず。
そして、肩口にはくっきりと、赤い歯型が。

ささやかな、所有の証。
何度も何度も飽きるまで、確かめ合って付けていく印。

アイツはオレの。
オレはアイツの。

愛し愛される幸せ。
恋した人とだけ行う、トクベツな儀式。
たまらなくやさしい、甘い感情が生まれて。
心も、身体も、柔らかく蕩けて密を滴らせる。
互いを頬張り、交じり合う幸福。
トクベツな幸せ。

そーいや、ゾロはどこに行きやがったンだろーな、オレを置いて?

サイドテーブルを見ると、時計は既に正午を過ぎていて。
「うわ…良く寝たンだなぁ…」
思わず、サンジの口から、独り言が漏れる。

シーツを剥いで適当に腰に巻きつけてから、薄暗いベッドルームを出る。
その途端、サンジの鼻腔を擽ったのは、濃いコーヒーの匂い。
そして、香ばしい、油の焦げる匂い。
潮の匂いも、かすかにして。
耳を澄ませると、換気扇がリズミカルに回る音が、波音にブレンドされて聴こえてくる。
そして、ゾロの歌声。

聴こえるのは、H. C .Jr. の "We are in Love"。
アップテンポのラヴ・ソングを、さらりとスローに口ずさむ。

『キミのコトをよく知っているから
 キミがボクに恋してること
 声を聴くだけでわかってしまうよ』

ゾロがどんな顔をして、これを歌っているのかを思うと。
自然と口角が上がり、笑みが零れる。
きっと、ひどくやさしい顔で。
驚くぐらい穏やかな目をして、歌っているのだろう。

リヴィングへの扉を開けると、ゾロが手を休めてサンジを見上げた。
思ったとおりに、ふわ、とやさしい笑みを浮かべて。

「おはよう、サンジ。よく寝たな」
「…おはよう、ゾロ」

近づいて、手を伸ばし。頬を捕らえて、軽く唇を合わせる。
やさしい挨拶。
映画の中の、夫婦みたいで。
心が浮つく。

「早くシャワー浴びてこいよ。軽くメシ食ったら、出かけるぜ?」
ゾロの指がサンジの頬の上を滑る。その柔らかな感触に、笑みを浮かべて。
「んん…今日はどうすンの?」
「あー…適当にユーエンチでブラブラして。7時に早めにディナーだ。そこはジャケットいるから、着替えに
一回戻ってくるからな。メシ食ったら、あとはもー飲みいこうが、何しようが、オマエに任せる」

スラスラと帰ってくる応えに、サンジは小さく目を見張る。
「…びっくり。計画立てたの、オマエ?」
「あー。何か決めておかねーと、一日ここでグータラしちまうだろ?オレはそれでもいいけどな、後で…に文句言われる」
「へ?オーナー?なンで?」
キョトンとしたサンジに、ゾロが眉を跳ね上げて。
「"オマエな〜!!せっかくイロイロ手配してやったンだからよ!精一杯楽しんでくンのが、礼儀ってモンだろっ?
なぁにトロトロしてンだよ、ったく。グータラすっだけなら、ドコだって出来るだろバカヤロウ"」
「ぎゃはははは!!オマエ、シャンクスそっくり…ッ!!!」
シャンクスを真似たゾロの口調に、サンジは腹を抱えて笑って。

ゾロはシャンクスが出かけ間際に言ったことを、反芻する。
『抱くだけが、愛情の示し方だと思ってる脳ナシじゃねーんだろ?誕生日なんだから、張り切って甘やかしてきやがれ、
ロクデナシ』
ああ、そうともさ。ここはパーティ・アイランドなんだろ?せいぜい"オフ・リミット"を逆手にとって、甘やかしてやるさ。
そんな覚悟を、ゾロが決めていたコトを。

バースディ・ボーイは、まだ知らない。




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