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 Rowan the Cat’s Life * ぽにゃサンジの一日(3)
 『By your Grace』
 
 
 通いなれた、けれど久しぶりに緑の中の小道を辿る。
 腕には白とピンクのバラの大きな花束。
 隣を歩くゾロの腕の中には、深紅のバラの大きな花束。
 両方ともきれいにラッピングされて、きれいなリボンがかけられていた。
 
 小道が通っている青々とした芝の中には、沢山のヘッドストーンがある。
 ここはマンハッタンの中にある教会の墓地。
 ダイスキなティアラとルイコが眠る場所。
 比較的新しいセクタだから、ヘッドストーンは全部シンプルで、そしてとても低い。
 ティアラとルイコのそれぞれの名前が刻まれたソレも、淡いグレイの石に黒の書体だけで出来たモノだ。
 
 数年前までは、命日にここに来る度に胸が痛んだ。
 この日が近づくたびに、どうしようもなく気分が落ち込んだ。
 けれど、最近はソレもなくなった。
 ゾロが一緒に、ここに来てくれるようになってからは。
 
 朝、空を見たら。
 ここ数日は雨だったのが、今日はくっきりと晴れて。
 澄んだ青が全面に広がっていた。
 
 起き出したゾロにキスをして、挨拶をして。
 朝ご飯を一緒に食べてから、クロゼットの中を引っ掻き回した。
 ゾロは麻の白いシャツに、とても薄いベージュの夏用革パンツ。
 シルヴァのアクセサリを沢山つけて、耳元にはダイヤのスタッド・ピアス。
 それに革のビーチサンダルを裸足で穿いていた。
 
 合わせたわけではなかったけれども。
 オレが選んだ服も白がメインだった。
 甘い白のサマーニット、Vネックで長袖のものを直接着て。
 ヒップハングの白いボトムと、淡いベージュのサマージャケット。
 オレはあまりアクセサリをする気になれなくて。
 いつも嵌めたままのピンクゴールドの指輪の他には、白い革紐から銀の十字架が垂れ下がるチョーカを首から提げただけだった。
 足元は、淡いベージュのスリップオン。
 
 お互いの格好に、小さな笑みと優しい口付けを交わして。
 部屋からタクシィを呼び。
 予約を入れておいたフロリストに寄って貰ってから教会までやってきた。
 平日だからなのか、それともまだ昼前の少し早い時間だからなのか。
 墓地の中に、あまり人影は見当たらなかった。
 
 ティアラ・クローディア・ローワン。
 そう掘り込まれた石の前に跪く。
 サングラス、外してネックに引っ掛けて。
 それから名前の上をそうっと指で触れる。
 「ハァイ、マミィ」
 ティアラに挨拶をする。
 バラ、白とピンクの花が混ぜられた束をそうっと置いて。
 
 「今年も一緒に来てくれたんだ」
 隣のゾロを見上げる。
 自然に笑みが零れる。
 世界で一番愛している人が、一緒にここに来てくれる。
 大好きな母の所まで。
 
 「いつも見守っていてくれて、ありがとう」
 暫く母のことを思う。
 思い出しても、もう心は痛まない――――ただ優しい思い出だけが、静かに胸を過ぎる。
 
 その思い出がするりと空に溶けたころに。
 つい、と。緩くアップに纏めていた髪を軽く引かれた。
 僅かに振り返れば、ゾロが僅かに首を傾けた。
 隣に移動する――――ルイコ・マリア・タカミヤ、と名が掘り込まれた石の前に。
 ゾロが腰を屈めてそっと赤いバラの花束を置いた。
 オレの初恋の女性で、もう一人の母と呼べる人が眠る場所。
 
 跪いて、名前の上を指で辿る。
 それからポケットの中から煙草の箱を取り出し。
 花束の脇にそっと置いた。
 ルイコが好きだった銘柄――――細くて長い紙巻。
 
 立ち上がれば、する、とゾロの腕が背後から回された。
 とん、と体重をゾロに預ける。
 体温が布越しに伝わって。
 酷く幸せな気持ちになる。
 
 「幸せにしているの、わかります?」
 そうゾロが挨拶しているのが間近で聴こえた。
 笑みが勝手に零れ落ちる――――ふわふわと笑うティアラを片腕に抱き込んだルイコが、くっくと笑っているような気がする。解るに決まってる、そう低い声で言いながら。
 
 する、と。抱き寄せてくれているゾロの腕を指で辿った。
 「賛美歌でも歌おうか?」
 ゾロが耳元で言ってくれた。
 もちろん、断るわけがない。
 
 甘いラブソングを歌うように優しく、ゾロが賛美歌を歌い上げる。
 目を閉じて、聞き惚れる――――深い声が、直ぐ側で響くのを。
 幸せで、嬉しくて。
 きらきらとした何かが溢れる――――心の中で。この場所で。
 
 歌声が静かに青空に溶けていき。
 こつん、とゾロの肩に頭を預けた。
 「アリガト、ゾロ」
 ふわふわと幸せそうにティアラが微笑み。ルイコが咥え煙草で、ティアラを抱き込んだままパチパチと拍手をしている、そんな絵が一瞬頭を過ぎった。
 
 する、と。髪に優しく口付けられた。
 目を閉じて、幸せであることを噛み締める――――本当に、これ以上にないくらいに、幸せなんだ。
 
 一つ息を吐いて、ゾロを見上げる。
 言葉にできないくらい、アナタはオレを幸せにしてくれる。
 言葉にできないくらい、アナタを愛している。
 
 つい、とゾロのシャツを軽く引いて。
 とん、と唇に口付けた。
 ゾロが小さく笑った――――それだけで、ほんとうに。オレは底なしに幸せになれる。
 
 「かえろっか」
 呟けば、ゾロが僅かに首を傾けた。
 微笑みを返す――――アリガトウ、もう充分だよ。
 
 最後に、ママ・ティアラとルイコ・ママのヘッドストーンにそれぞれ口付けた。
 前は離れるのが惜しくて、何時間もここで過ごしたものだけれども。
 今はもう、そんなこともない――――いつでも、どこでも。見守ってくれているのがちゃんと解っているから。
 
 サングラスを掛け直してから、ゾロの手を軽く握った。
 ぎゅ、と握り返されて、また幸せな気持ちになる。
 ゆっくりと歩き出しながら、愛しい人を見上げた。
 真っ直ぐと前を向いて歩くゾロは、迷うことのない強い眼をしている。
 隣を一緒に歩いていけることが幸せで、する、と頬をゾロの腕に寄せた。
 
 「愛してるよ、ゾォロ」
 オレの愛する人たちと。オレの抱え込んだもの総てを丸ごと愛してくれるアナタを、誰よりも深く――――止め処もなく。
 
 ――――アナタが側にいるだけで、世界はこんなにも優しい。
 
 
 
 
 (*一度は書きたいと思っていたお墓参りのお話。梅雨とティアラの命日が来る度にアンニュイになっていたぽにゃ太郎、最近ではそんなこともなくなりました。マジで。幸せアピールはよくしてくるんだけど<笑。ちなみにこの二人が訪れたフロリストの店員さん、失神間際だったそうで<笑。そりゃそうだろう、こんなきらきらっとした二人がふらーっと来たらフツウ眩しくて眼が潰れるって。この後二人は、適当にタクシィを拾ってお昼ご飯を食べに行ったそうな―――騒然としてただろうなあ、奥に通されるまでは<笑。ちなみに、ぽにゃのキラキラ度は優しい木漏れ日のような明るさです。ぞろのあはぺかーっと眩しいスポットライトだなvぽにゃは「太陽だ」って言って譲りませんが。)
 (**遠隔操作でゾロノアをお話に参加させてみましたが……!ぽにゃがふんわりシアワセそうで本当にゾロノア共々うれしいことこの上なし!!!な当方です、ハイ!)
 
 
 
 
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