*61*
リネンに縋りつくように手伸ばし、リネンを引き結んでいき。知らずに肘が折れて視界が低くなり、ルーシャンが低く呻いていた。歪んだガラスを通したように目の前のものさえ輪郭が曖昧で、額から濡れて長く落ちかかる髪さえもただの色の塊りに見え。荒く息を零すばかりの口許近くまでも張り付くようなことに首を左右に振ろうとして、ぼんやりとした黄金の色が滲む。伸ばし、縋る腕の先に。
乱れきったリネンが引き上げられて、指先ごとずれていき。生地に爪が擦れて離れていき。
うぁ、とルーシャンが短く声を上げる。
覆い尽くされきれない背中が撓み。ふらふらと手が頼りなく空を泳いで、縋るものが見つけられずにまた落ちていく。
身体から先に籠絡なり、凋落なりしたのかもしれないとどこか冷静に思っていた部分はとうにルーシャンから抜け落ちていた。自分の意思で戻ることを決めた今と、呑まれるままに奔流めいた熱に絡み取られでもしてるようだった以前とは何かが違っていた。そのことで一層、感応が深くなり。声に紛らわせて逃がそうとしても、深くなり体奥に埋められていく波に引き起こされていくままに、息さえもできなくなるかと思いルーシャンが溺れそうに喘いだ。地上にあるのに。
「――――――ぁ、…っうァ、あ、」
くちゅ、と耳朶を含まれ肩が跳ね上がり。リネンにへたりと崩れ落ちそうになる半身を引き上げられて、高い声が漏れだし。深くまで貫かれたままで身体を押し上げるように支えられて、悲鳴じみた喘ぎを零す間に力を無くしかけた腕が沈みそうになる寝台ではなく、固い何かに押し当てられ。
「――――――ッ、ンぁ、あ…っ」
それがヘッドボードだ、と頭が追いつききれない内に、ぐ、と押し上げられ嬌声が零れ。内から拡がる波とは別に、身体の表面を痺れが走り抜けていくかと思う、色づいて立ち上がりきった尖りを押し捏ねるようにされて震え、もつれかける舌が言葉を乗せることを拒んで、ただ、切れ切れに「音」だけを模るようで。
これほどまでに、快楽に塗れることが出来ることが信じられず。幾度も震え、涙を零し。それでも縋るように回した腕を放すことなど想像も出来ないでいた。
内側から蕩け、肉が崩れ落ちていくようで。突き上げられるたび、絡みつきなかから濡れて溶け出していきそうで。
イイ声だ、と耳元で囁かれ、首裏から腰奥に矢が通り抜けるかと思い、びくりと身体が弾け。高まっていた自身からとろとろと熱い蜜が垂れ落ちていくのさえわかるようで、ルーシャンが喉元を反らし、覚束ない視線を彷徨わせ。ただひとりを探し、その名前を呼ぶだけでまた奔流に呑まれるように一瞬だけきつく目を閉じていた。
「――――――ぁ、アット、リ…、っ」
自分をここまで貫いているのは、求めて止まなかった存在だ、と。そのことを舌の上で確かめ、震え。
「ルー、仔猫チャン、」
音を立てるように首筋を強く吸い上げられて引き起こされる官能と、それ以上にも思える口調と声の色合いにルーシャンが手指を握り込んだ。
「もぉ、っと…ぉ、呼ん―――」
呼んでほしい、と。名前を。その声で他の誰でもない自身の名を綴って欲しい、と切れ切れに願い。ぬく、と熱い舌先が耳朶を含み、奥に差し入れられるのにびくりと身体を引き絞っていた。
「ヒ、ァ…っ」
翻り、濡れた音だけで意識が溢れさせられるかと混乱するのに、それでも声がはっきりと届く。
「ルーシャン、淫乱チャン、オレのかわいこちゃん、」
そう、どこかからかうような甘い囁きごと。
望まれている、と分かり合えたときに、隔てられているようだった壁がすべて取り払われ。剥き出しのココロと身体ごと、強い腕に抱き込まれ。それでいい、と全てを手放した。
とろとろと疼くように火が消えずに。内をぐるりと抉られ、がり、と爪がボードを弾き毟る。
「――――――ゃ、…っや、ぁ、」
これ以上高められたなら、狂う、と。
とろとろと蜜を零し続ける中心は滾ったままで、言葉を裏切り。尖りを強く不意に摘まれ、ひぁ、と悲鳴とも嬌声ともつかない濡れ切った声を唇が濡れ零していっていた。
「ぁ、パぁ、っと……おねが、」
「んー?」
ほろ、とルーシャンが涙を零していた。
「あ、アッ」
鋭敏に神経が尖り、痛みと熱に混ぜ合わされて疼いた尖りを指先で弄られ、下肢が引き攣れそうになり。重い黄金が、ボードに打ちあたり異質な音が寝室に一瞬響き。
「おれ…のこと、」
こく、とルーシャンが荒い息を飲み込み、言葉を綴ろうとしていた。
「も、っと。あんたのに、し……」
ぎち、と音がするまで突き上げられ、言葉の続きは嬌声に紛れていく。
そのまま休むことなく突き上げながら、パトリックの上機嫌さを隠しきれない声が尋ねていた。
なんだ、ルーシャン?、と。
「痕、付けて…ッ、」
ぎゅう、と手指に抜けそうになる力を込め、縋りながら言葉にする。
「もっと、濡らし―――」
パトリック、プリーズ、と切れ切れにルーシャンが哀願する。快楽にぐらぐらと意識を揺らしながら。
「ナマイキ、」
喉奥で笑うようにパトリックが呟き。ルーシャンの腰を掴み上げて、自身を一層突きいれ。目の下で、濡れて色づいた背中が限界まで撓み、揺らぐのを見詰め。
ちかり、と白光の欠片が閃いた刹那、舌を長く伸ばし濡れた金の間から覗く細い項を舐め上げ。
「――――――ぁ、ぁああ、」
ゆらゆらとルーシャンが声を揺らし、それが甘く蕩け出す瞬間に牙を埋め込むように頤を噛み締め肌を穿っていっていた。
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