これか
らも、
ずっと



くすんくすんと悲しげに泣き出したノーマンを、ショーンはふんわりと柔らかな笑みを浮かべて見下ろしました。
抱いている間は淫蕩とも言える表情を浮かべるノーマンでしたが、今のような時は行方不明になった時と寸分も変わらない表情をしているように思えます。
目を押さえた拳の下から、ほとほとと流れちていく涙はきらきらと陽光に輝き、震える唇はぷっくらと膨らんでいます。
そのほっぺたはピンクに染まり、口元の黒子をより際立たせております。

どんなにノーマンを自分が愛しく思っているか、ノーマンが気付くことはないだろう、とショーンは思います。
抱きしめて、貫いて、あらん限りの熱情を注いでさえ、足りない、と思ってしまうほどなのです。日長一日抱きしめて、口付けて、側に置いてさえも、まだまだもっと、と思ってしまうくらいなのです。
二晩続けて意識を飛ばさせてしまうほどに抱いても、身体の奥底からふわりと熱いものが湧き上がってしまうほどなのです。
くすりと笑って、ショーンがもう一度繰り返しました。
「これはもう、治しようがない病気なんだよ、ノーマン」
ちょん、と手の間から突き出ている鼻先に口付けます。
「オレだけがオマエだけを見てて欲しいって願う病気」
ひぃん、と世にも悲しそうな啜り泣きが、ひくりと息を吸う音と共に止まりました。
くすくす、とショーンが柔らかく喉奥で笑います。
「オレはね、オマエ以外はいらないんだよ。だからオマエが願ったって他なんか欲しくない」
ぐい、とノーマンの腕を掴んで、身体の緊張を解いたノーマンの顔から手を退かさせます。
「オマエしか、こんな風に愛したりなんかしないよ、ノーマン」
ぺろりと目尻に乗っかっていた涙を舌で舐めとります。
そして、泣きぬれたアクアマリン・ブルゥの双眸を見詰めながら、きゅう、とノーマンの身体を抱きしめました。
「あの、」
「本当はオレの病気のほうが重症なんだろうな」
ぽそ、と呟いて、ショーンが目を細めてノーマンを覗き込みました。
もう、心臓のとこ痛くないです、と。ノーマンがショーンに告げていたのが、ぱっと顔が真っ青になっていきました。く、と身体も一気に緊張していきます。
「しょぉん……っ?」
大きく見開かれた双眸からは目が零れ落ちそうです。
白い掌が、ぱたぱたとショーンの身体を撫でさすっていきます。
「しぉ…っ病気?たいへんなの?どこが悪いんですか、」
双眸からは涙腺が壊れたかのように涙が盛大に溢れていき。ぎゅう、とノーマンがショーンの身体を抱きしめました。
「しぉ、――――っし、ぉおおおおおん…っ」
懸命にノーマンが訊いてきます。
「ご病気?どこが痛いの、」
怖いくらいに真剣に見上げてくるノーマンのブルゥアイズは、ショーンの目がふんわりと笑っていることに気付きません。
そのまま、頬にきゅうきゅうと手が押し付けられて、ショーンがますます目元を和らげて微笑みます。
「なおしてあげます、どこがいたいのー……」

ほろほろと涙を零して、うぁんうぁんとノーマンが泣き声を上げます。ばたばたと脚まで暴れることに、くうう、とショーンが口端を吊り上げていきました。
「不治の病とはいえ、オマエの愛情喰ったら少し良くなるんだよ」
笑いを抑え込んだ声で告げながら、ちゅ、と柔らかくノーマンの喉元に口付けます。
「でも喰えないとすぐに悪くなる。だからオマエのことをいつも喰いたいって思うんだよ」
きゅう、と見上げてくるノーマンの双眸からはまだまだ涙が零れ落ちていきます。 それを、くう、と指裏で拭って、ショーンがにっこりと微笑みました。
「いまぎゅうっとしてくれたから、もう痛くないよ。大丈夫」
唇を戦慄かせているノーマンの双眸を覗き込みます。
「泣いてくれたから、いまはもう平気」
ふわあ、と。花が綻ぶように泣いた顔で笑ったノーマンの目尻にトン、と口付けて、ますます柔らかにショーンが微笑みます。
ぎゅう、とノーマンがショーンの身体を抱きしめました。くすん、とノーマンも微笑みます。
「もぅ、いたくないですか…?」
だいじょうぶ?と抱きしめてくるノーマンの身体を腕の中に閉じ込めて、ショーンが柔らかに応えました。
「大丈夫だよ」
安心したノーマンが、はぁあ、と息を吐き出して、ショーンを見上げました。
「だっこでなおる…?じゃあ、いつでもします」
額で肩にぐるぐると懐いてきたノーマンの耳元に口付けて、ショーンが笑うように優しく告げました。
「ノーマン、愛してるよ」

きゅう、とショーンの背中にノーマンが指先を埋めました。
「しぉん…?」
そうそっと呼ばれて、ショーンが首を傾げてノーマンの顔を覗き込みます。
「んん?」
「だいすきよりあいしてるの方がすごい?」
ふわ、とショーンが表情を綻ばせました。
「一番すごいのは、大好きで愛してる、だよ」
そう返事をしながら、ショーンは幸せでいっぱいになります。 ノーマンがいなくなってからの、辛い悲しい日々が過ぎ去ったことを現実として受け止め、けれどその想いを忘れないようにしよう、と心に決めます。
それを忘れることさえしなければ、ショーンはいつだって幸せであるということがどんなことであるのか、見失うことがないだろうことを知っているのです。
魔に呑まれやすい魔法使いを職業としているショーンですので、自分を見失わないことの大切さは他の誰よりも重いのです。自分を見失った魔法使いは、魔に取り込まれてしまいますから。
そうなったら今度ノーマンの隣に居るのは、ショーンではなくショーンの殻を被ったルーシーということになってしまいます。
初日にノーマンへの劣情をより強力にしたのは、ルーシーのしでかしたことです。無事にノーマンを抱くことができたとはいえ、もしノーマンがそういう風にショーンのことを受け止めることができない性質であったら、今頃どうなっていたでしょう。

ふわ、と微笑んだショーンは、とん、と優しくノーマンの唇に口付けを落としました。
チャレンジはあと7回残っているとはいえ、間違いなくノーマンは“抱かれる”ことが“好き”です。ショーンが学生時代に褥を共にしたどの相手よりも、ノーマンは淫蕩に乱れることができます。
ローションの効果が無くなってしまってからも、小刻みに身体を震わせたノーマンは自分から腰を振ってより深い快楽をショーンに強請っていたのですから。
もちろん、ノーマンを骨抜きにしてしまう自信はありました。そのためにイロイロとチャレンジをして、テクニックを習得してきたショーンです。
体質的に受け入れられないのでない限りは、10回目には必ず“もっと”と言わせる自信がありました。
けれども、ノーマンはショーンが想像していたより快楽に貪婪です。ショーンが示す愛情の吐露にはもっと。
ショーンは小さく息を吐き出しました。
「オマエといて幸せだなあ」
そう呟いて、指裏でノーマンの涙を拭い去っていきます。
「オマエはどう?」
オレと居て、幸せ?とショーンはノーマンの顔を覗き込みました。
ふにゃあ、と柔らかに蕩けた笑顔を浮かべて、ノーマンがショーンの額に自分の額を押し当てました。

「だいすきであいしててもっとあいしてて、しあわせです」
そう告げて、じっとショーンのくすんだブルゥアイズを見詰めます。
ふわ、とショーンも柔らかな表情でノーマンを見下ろしました。
舌足らずな声で、ノーマンが呟きました。
「しょぉ、ふわんふわんです、だからぼくもしあわせ」
それから、ショーンの首に両腕を回して、ぎゅうっと抱きつきます。
「あとね?」
少し顔を赤くして、くすんとノーマンが笑いました。
「んん?」
「しぉに、たべられるの……すき」
ふにゃあ、と笑ったノーマンの言葉に、くすくすとショーンが笑って、その柔らかな腰を抱き寄せました。
「あと7回、確認しなくていいのか?」
真っ赤な頬に唇を寄せて、はむ、と唇で優しく食みます。
「わかっちゃたら、もうだめですか?」
そうっと心配そうに呟いたノーマンに、ふは、とショーンが笑いました。
「解ったら、カウントすることなんか忘れてオマエを愛するよ」
額に額を押し当てて、ぐるぐる、といつもノーマンがするようにしてみせます。
「オマエを食べて食べて、いっぱいオカワリするさ」
ふふ、と笑ったノーマンが、きゅうきゅうとショーンに抱きつきながら言いました。
「しぉ、また、あっついぃよ?」
「辛くないか?」
双眸を覗き込んで、ショーンが優しく訊きました。
「きゅんきゅんする、」
甘い声で齎された答えに、ショーンがにっこりと微笑みました。
くう、と押し当てられた下肢を抱き寄せ、するりと体位を入れ替えて、ノーマンをリネンに押し倒します。
「じゃあ、早速オカワリしようかな」
金茶色の長い髪の毛がキラキラと陽光に煌くのを見詰めて、ショーンがくすりと頭の端で笑いました。ノーマンの髪の毛を切る暇もないな、と。

ぽ、と頬を真っ赤に染めたノーマンが、
「はぁい、」
と甘い声で返して、きゅう、と笑うのを見詰めました。
少し考えたようだったノーマンが、
「ええと、たくさんめしあがってどうぞ」
と言ってきたのに、くすくすと甘い笑みを零しながら、寝る間際になにも着せていなかった裸の身体に手を滑らせました。
「満腹になるまでイタダキマス」
そして、ちょん、とノーマンの唇にキスをして、くふ、と息を漏らしたノーマンにやさしく告げました。
「たくさん愛して、いっぱい好きだよ。オレのかわいいノーマン」
だから、と囁いて、さらりと真っ赤な頬を撫でました。
「いっぱい蕩けて、いっぱい気持ちよくなって。オレにオマエの甘い蜜をたっぷり喰わせてな」






第一章・終