日。



お城に戻って3日が経ち、今日でショーンの休暇も最後です。
お休みの間中、ノーマンは張り切って連日ごちそうを作ってくれました。その間中、ショーンはお城のリノベーションに努めていました。
まず春部屋の面積を広げ、ペガサスが自由に飛び回れるよう、天井と面積をそれぞれ広げました。
ライオンも自由に走れるように小高い丘をいくつか作り、短い茂みを植えました。祇のライオンではありますが、それらしく見えるように石で囲んだ水飲み場も作りました。
そして、全てをみられるように、一番小高い丘の上に太い柱を組んで作った石の見張り台を作ったのです。
その上には、麗らかな春の日差しを感じながら昼寝が出来るように、細い木と薄い石で組んだ東屋を作りました。 そしてその中央にはクリスタルで出来た猫足のベッドを置きました。
マットレスは少し固めで、上には上質の白いコットンのシーツがかけられています。肌寒い時のためのスロゥケットは、上質の薄いウールです。
もちろん、いつでもお茶やお菓子が出てくる小さなテーブルも、同じ猫足デザインのクリスタルのものです。
ペガサスが下りてこられる水飲み場も東屋の近くに作り、そこはスモーククリスタルのタイルを敷きました。水飲み桶と餌桶も同じタイルを貼付け、一段高く設置しました。
そうしてリノベーションが完成してから、目隠しをして春部屋にノーマンを連れてき。目隠しを取られた瞬間、眩しそうに目を瞬いたノーマンが大きく目を見開いて、しぉ…!と言ったきり言葉を失いました。
それから数度、目を瞬いた後に息を飲み込み、声を大きくして言いました。
「こんな素晴らしい物見台はお話のなかでだって見たことありませんよ、ぼく…!!」
そう言って周囲を見回します。
「それに、それに、お部屋が前よりおおきいですよ」
目を煌めかせて告げてくるノーマンの頭を撫でました。
「気に入った?」
「はい…!」
ぎゅう、と抱きついて、とろけた笑みを浮かべたノーマンに、ショーンが耳元で囁きました。
「ここも夜が来るようにしようね。そしたらこの間みたいに星空の下でかわいいノーマンを見ることができるし。ね?」
さあっと目元を真っ赤に染めてブルーアイズを見開いたノーマンが、小声で呟きました。
「お星様だけならいいですけど…」
「さすがにね、ここではちょっとあれだけの精霊を呼べないからね」
お城に出没しやすい精霊は、魔王ルゥの魔力のカケラから生まれた黒い影です。あれらにはさすがにあれだけのご褒美を渡すことはできません。
「あれはまた今度、別の機会でのお楽しみってことでいいね?」
くすくす笑ってショーンがノーマンの背中をぎゅうっと抱きしめました。そして今後の事を考え、うっかり呟きます。
「ここなら、もっといろんなこともできるかな…」

意味を捕えかねて、きょとん、とノーマンがショーンを見上げました。
「らいおん狩りのほかにもですか?」
「もちろん」
ますます笑ってショーンがノーマンの額に口付けます。あんなことやこんなことも、いろいろ遣りたい放題、考え付く限りのプレイを片っ端から試していこうかな、と考えるオトナな魔法使いは、もちろんそんなことをおくびにもださず、かわいい元こぐまを煙に巻きます。
「おいおい考えていこうね」
「あの、どういったことですかしら」
考えこんだノーマンににこっと笑いかけ、ぎゅうっと抱きしめます。
「いまは気にしなくていいよ。それよりペガサスとライオンを放す?」
はい!と直ぐにノーマンが満面の笑顔を浮かべ、ぱっとショーンから離れました。
「放してください、それでここから見物しましょう!」
ぴょんぴょんと飛び撥ねます。
「とってもどきどきしますよ、しょおん!」
「ん、それじゃあね」
パン、と手を叩いて2枚の絵を取り出し、ノーマンの前に翳します。
「ふぅってして?」
きらきらと煌く眼差しでショーンを見上げたノーマンが、満面の笑みでふぅっと息を吹きかけていきます。そうしたなら次の瞬間、絵から立体が生まれてペガサスとライオンが現れました。
ライオンは威厳たっぷりに咆哮を上げ、ペガサスは前足を空中に掲げて嘶きます。
そしてライオンが走りだすのと同じタイミングでペガサスがばさりと羽を羽ばたかせ、春の薄いブルゥの空に飛び立ちました。
「チャリオットで走りたくなったら、入り口の小屋に弓矢と一緒に手綱を置いておくから。それを取り出したらペガサスが戻ってくるようにしたからね」
ノーマンが懸命にぎゅっとショーンの腕を捕まえました。
「――――すてき…!」
ぱあっと天使のように甘い笑みを浮かべたノーマンが、ショーンを見上げて言いました。
「こんどはしぉもいっしょに狩りをいたしましょうねえ」
ふふ、とショーンが笑いました。
「それは考えておくよ」
はぁ、と満足気に息を吐き出したノーマンが、ショーンに抱きつきました。

「あのね、しぉ、」
「うん?」
「だいりょこうに連れて行ってくださって、ありがとうございました」
ほにゃほにゃと柔らかい笑顔でノーマンが続けます。
「でもね、こっきょうも湖もとおいお国もすてきですけど、おうちがいちばんですねえ…」
とろとろの笑顔に表情をさらに和らげ、ほぅっと息を吐きながらノーマンが囁きました。
「それはよかった」
ショーンがぎゅうっとノーマンを抱きしめ、こつりと額を押し合わせました。
「でも、また次のお休みを確保して、行ったことのないところとか行ってみようね」
そしていろんなことにもチャレンジしようね、と続けて、ショーンがちゅっとノーマンに口付けました。
ふふ、と本当に嬉しそうに笑って、ノーマンが言いました。
「でもやっぱり、お城がいちばんだとおもいます」
ちゅ、と唇を啄んだノーマンにくすりと笑って、ショーンがノーマンを抱き上げました。
「それじゃ、お城でしかできないことをしに行きますか。それでもってそろそろお茶にしよう、ノーマン。ノーマンが淹れてくれた紅茶が飲みたい」
「はい、もちろんです」
ぐるぐる、と額を押し合わせて懐いたノーマンが言いました。
「お星さまゼリィもたくさんできましたから、新しいお菓子をつくってみたんですよ」
「それはすごく楽しみだ」
嬉しそうなトーンで言ったノーマンににっこりと笑いかけ、ショーンはノーマンを抱き上げたまま春部屋を出て行きました。
そうして、お城での魔法使いと元こぐまの日常が戻ってきたのです。