と
て
も
好
き。
一度、軽くこすったならもっとずきずきいがいがとしましたので、もっと力を入れてこすります。
片手だけでたりなくなって、こんどは両手で両方の目をぎゅうぎゅうと押します。
もうしろっぷはありませんと言ってたくさん泣いてしまたったのですが、なんだかショォンが意地悪でやめてくれなかったことも思い出して、もっとぐうううううっと目を押さえてこすります。
瞼の後ろ側でキラキラと光りが散っています、ろうそくの明りが映っているのです。
不思議な魔法のろうそくは、溶けてなくなってしまいませんでした。 もうずっと長い間、お部屋を不思議な明るさとキレイな模様で照らしているのに、ろうは溶け出していないのです。
目をごしごしとしているノーマンに気がついた魔法使いがその手を捕まえると、熱くなった瞼に唇を押し当てます。
ぎゅ、とノーマンが目を瞑りました。むーむーと唸ります。 すこし怒っているのです。
せっかく、のえるくりっすまのぎふとをあげようとがんばったのに、なんだか予想と違いました。
ショォンはあんまりくらくらになってしまってはいないように思えました。
ずきずきとする目元にまた柔らかくキスが落ちてきて、すこしだけ重たくて熱くて嫌な感じが薄くなります。
それでも、ぐううう、とノーマンが口をへの字にしました。
「ノーマン、よくなかった?」
ごそごそと身じろいで、ノーマンが目を開けます。
ショオンの手がおでこを撫でてくれるのに、またすこし身じろいで、ふかりとした枕におでこをくっつけます。 そして、枕の下を探してみます。 はちみつどろっぷすの小瓶が確かあったはずです。
こつりと指先にガラスがあたって、それを引き寄せてひとつ取り出します。
からからとガラスの中で、透明な黄色のまんまるなどろっぷすがいくつも転がります。 おでこを枕にくっつけたままで、ひとつ摘まんでお口にいれます。 いがいがしていたお咽喉が楽になって、こくりとノーマンが息を飲み込みました。
ころころと舌の上で転がして、とろりとしたはちみつの味が広がっていきます。
後ろ頭を、ショオンの指が何回か滑っていくのもわかります。 もういちど、ゆっくりと息を吐いてから枕から顔を上げました。
ん?とでもいっていそうなショォンのお顔がすぐそばにあったので、ノーマンが瞬きしました。
けれどすぐに、かぷりとショォンのふっくらとした唇にかじりつきました。
しっかりと抱っこしてもらえて、ノーマンがもっと唇を押し合わせて、つるんとショォンの唇の間にどろっぷすを落としました。
そして、ふは、と顔を離します。 あのふわふわクリィムだって、もうやですと何度もお願いしたのに、お胸やお腹やおとこのこのところにもまたたっぷりと乗せられてしまって、とてもたいへんだったのです。
ショォンがにっこりして、どろっぷすを歯にあてたりして美味しそうな音をたてていました。
おにくの奥にだって、またたっぷりと乗せられてしまってほんとうにたいへでした。
ショオンになんどもなんども、いっぱいにしてもらってもたくさん泣いてしまうほどでした。 だからいまだって、まだ眉はきゅうっと寄せています。ショオンのことは大好きなのですが。
頭を撫でてもらって、眉のところに柔らかく唇を押し当ててもらって、ぺとりとノーマンはまだ熱い身体をくっつけました。
「不服そうだね?」 ショオンが目を覗きこんでくるのに、ノーマンがまっすぐに見上げました。
「だって、」
小さい声でノーマンが言います。 「しぉに、」
「んん?」
「くらくらでのえるくりっすまをしてもらおうとおもったのに」
くらくらじゃないみたいですもの、とぽそぽそと訴えます。
「どうしてそう思う?」
ショォンの掌が、お背中をそうっと撫でてくれます。
「どうしてもです」
甘えて言って、額をショォンの肩にくっつけます。
「ノーマンはヘンなことを言うね。十分くらくらしてたのに」
お耳を齧られて、ノーマンの肩がゆらりとします。
「いい、くりっすまでした?」 気になって気になって聞いてしまいます。
「ぼく、いっぱいぎふともらったのに」
おかえし、あんまりできないんですもの、と何を不服に思っていたのかを訴えます。
「ノーマンの目には、オレはあんまり幸せそうに見えない?」
「たのしそうですけど、だけど、」
むー、とノーマンが唸ります。
「くらくらのふらふらじゃないですよう」 「それはね、ノーマン」
くっくと低く笑いを殺して、ショォンがノーマンの顎を引き上げると、おでことおでこをあわせました。
「オレはノーマンにくらくらのふらふらになってもらったほうが嬉しいからだよ」
「−−−−そうなんですか?」
瞬きをしてノーマンが聞きます。
「自分がなるより、ノーマンがそうなってくれたほうが物凄く嬉しい」
はじめてききました。
キスもしてもらって、ノーマンが目を細めます。
「たくさん、なりましたよ」
「うん。そうさせちゃった」
なにしろ、初めてショォンに乗りかかってしまうほどだったのですから。
「じゃあ、くりっすま。たのしかったですか」
ぼくとおんなじくらい、ふらふらで?とノーマンがくすくすと笑います。
そして、あまえてもっとショォンの額に自分のおでこをおしあわせて、両手と両脚でぎゅうぎゅうと抱きつきます。 すこしでも、ほんとうは離れているのはいやなのです。
「楽しかったよ。くらくらふわふわで、どきどきだ」
「おんなじですねえ」
とろんとノーマンが微笑みました。うれしくて、ほっぺたも押し当てます。
「あのね、しょぉ、」
お声がもうすっかりとろとろになっています。
「あしたね、森にお散歩にいきましょう、ツリー、もっとみたいですもの」
「んん?あんなに遠くまで?」
きっと、きれいですねえ、とうっとりとします。
「はい」
しょぉといっしょだから、楽しいんです、とほっぺたを刷り合わせます。
「オレの大事なコイビトさんは起きれるかな?」
「がんばりますよう」
む、とすこし唇を尖らせます。 根性だけはある元こぐまなので、ショォンもからかっているのです。
ちゅ、とキスを落とされて、ノーマンのすこしだけ不機嫌だった気分はすっかり溶けています。
「それよりいいアイデアがあるんだけど」
なんですか、と聞くかわりにノーマンがきゅうっと足をもっと引き寄せます。 がんばったので、すこしだけ腰の奥がつきりとしました。
「っんですか」
「今日も雪がすごく降ってるから、あんなに遠くまで行くのは大変だよね。それに冬だから、まだまだこれからも春まで雪が降り積もる」
「へいき。ぼくね、森のおくまでいつもヒミツのベリィをとりにいってましたもの」
そう、自慢してこっそりとノーマンが言います。
「さむいときも、ふしぎなベリィのなる木があるんですよ」
こんどしょぉにも教えてあげます、とノーマンがにっこりします。
「それに、あんなにきれいなツリーはもっとみたいです」
すっかり、ツリーに夢中なノーマンなのです。
「ノーマンはすごくお気に入りだね」
「はい、あれ、とってもとってもきれいです…」
とろ、と幸福そうに目を細めます。 しょぉはすごいですねえ、と続けます。
「ぼくの、考えていたままですもの」
「毎日見たい?」
「はい…!行ってもいいですか?」
「通えるの?」
ショォンがさらりとノーマンのまだ火照った肌を宥めるように背中を撫でます。
「はい…!いーにぃみーにぃまいにーも一緒に、奥までお散歩がんばっていきます」
きっとたのしいですねえ、とますますノーマンの笑みが蕩けそうになっていきます。
「まああの三匹が着いていれば迷子には絶対にならないと思うけどね。カブもいるし」
「ぼく、あそこで大きくなったんですよ?」
くすくすとノーマンがわらいます。わすれちゃったの?と。
「まいごになんてなりませんよう」
ぺとり、とショォンの首元に顔を埋めます。
「しょぉはなんのしんぱいもいらないですよ」
そう自慢します。ちゃんと連れて行ってあげますもの、と。
「んん?」
「いっしょにいくんですよ、きょうみたいに」
目を瞬いたショォンのことを、ノーマンが不思議そうに見上げました。
「うん?ノーマンがペットが欲しかったのは、一人で寂しくないようにだろう?」
「なにをいってるんですか、しょぉん」
そう威張りまでもします。
「ツリーは、しょぉんといっしょにみるから楽しいんです」
ますます、なにをあたりまえのことを、と大事な恋人が目で語るのに、ショォンはごつりと音がするほど、額を押し合わせました。
「あいた」
ノーマンがきゅうっと目を細めます。
「いたいですよう、もう」
「毎日お散歩にあんなに遠くまで行くのは無理でしょう?」
「平気、だってきょうもいったもの」
「今日はお休みだったからでしょう?」
さす、とショォンの額を撫でるようにしてノーマンがいいます。
「これから、朝、早起きですねえ」
ますます、頓珍漢に決意の固さをノーマンは表します。
「ノーマン、それは無理だよ。眠らないと死んでしまう」
ぱち、とノーマンが瞬きます。ショォンが、枕に急に突っ伏したのです。
「だって、夜はちゃんと寝ますからずっと起きてないですよう」
それに、とノーマンが続けます。 森のお友達も呼んで、こんどこそお茶をしないと、と。ツリーもよくみてもらいたいですし、とも。
「いやまあ、お茶は春になってお友達が出てきた辺りで、バンガローのほうですればいいけどな?」
突っ伏したままでもごもごとショォンが言うのに、ノーマンが首を傾げます。
ゆっくりとショォンが枕から顔を半分、向けます。
「そんなに毎日ツリーが見たい?」
なにをあたりまえのことを、とノーマンがまた表情で語ります。
「はい、見に行きます」
すっかり、そのつもりです。 なにしろ一度こうと決めたらなら、ノーマンがとても頑固なところもあるのです。
「それにオレは付き合えないよ。さすがにオレが辛いからね」
「−−−−あら」
うきうききらきらが、すっかりしょげた風になってしまいます。
「……そうなんですか」
「そりゃ無理だ。毎日往復2時間かけて見に行くなんてのはな」
ショォンはベッドに突っ伏したままですし、ツリーは一緒に観に行けないようですし、ノーマンはしょんぼりとしてお膝を抱えました。
「……そうなんですね、」
「まあ、だから提案がある」
ショォンは書斎で過ごす時間も長いから、仕方ないのかもしれません。 きゅう、と俯いたとき、ぐらりと身体が揺れて、ショォンに抱き寄せられてしまいました。
「じゃあ、ぼくとおてがらぺっとのこでいきます」
そう、気落ちした声でがんばって告げれば。
「だから聴けって。ノーマンは夏でもあんな風にきらきらで雪でふわふわのツリーが見たいだろう?」
「−−−はい」
こっくりと頷きます。 くりっすまの飾りできれいなツリーなら毎日だってみたいです。
「あのままだと遠いし、吹雪で飾りは落ちるし、雪が溶ければグダグダになる。それは理解できるな?」
「−−−はい」
すこし視線を上向けて考えてから、こっくりと頷きます。
「だったら、このウチに冬専用の倉庫を作って、その中にツリーを持ってくればいい」
「−−−え?」
「そしたら解けないし、吹雪かないし、一人で好きな時に見に行けるし、オレと一緒でも毎日見に行ける。そうだろ?」
「おしろにツリーがくるんですか」
ノーマンが目をまん丸にします。
「そう。それは嫌?」
「−−−−−しょぉお…!」
キラキラとノーマンの目が突然煌きます。
「すてき……っ」
とってもすてきです、と思わずショォンに抱きつきます。
「そうだろう?だから最後まで話しは聞けっていうのに」
「おしろに冬のお部屋ができるんですか?すべりっこやぶつかりっこやいろいろできるの?」
「そう。寒くなったら直ぐに外に出てお茶を飲めばいい」
もうすっかりノーマンは夢中です。
「氷滑りもできますか…!」
スケートのことです。
「小さな池を中で作ってあげような。割れないヤツ」
むかし、こぐまだったころ、ノーマンは凍った湖で遊んでいて、割れた氷から転がり落ちて溺れたことがあるのです。でも、ショォンがそのことを知っているようなのは不思議です。こんど、きいてみないといけません。
でも、いまはもう別のことに夢中になります。
「あぶなくないですねえ」
うっとりとノーマンが告げて、ショォンの唇にキスをします。
「あれ、割れるとほんとうにあぶないんですよ…」
「湖は大きいからな。よほど何日も冷え込まないと、割れ易い」
うかんでもねえ、氷の下だったりすんですよ、と相当危険なことを切々と訴えます。
「だからそうならない氷の池をな。雪釣りはできないけど、それは構わないな?」
「でも、お城のなかで、おさかなもとれたらたのしいですよ…!」
禁断の言葉をうっかりショォン自らが出してしまいました。 すぐにその言葉を捕えて、ぱたぱたとノーマンが喜んで足を動かしています。
「それはダメ。外に居る魚でないと美味くない」
ベッドのリネンはもう十二分に乱れ切っていましたから、いまさらです。
「つりごっこです…」
また、いろいろとノーマンの頭のなかで冬部屋での遊びの計画が大層なスピードできあがっていっているようです。
「つりごっこに本物の魚はカワイソウだろ?じゃなくて、ノーマン、こら」
「焚き火に、つりごっこに、すべりっこに―――ーあいた」
ごち、とショォンが額をぶつけてノーマンを妄想から引き剥がします。
うふふ、とわらって、ノーマンがショォンにしがみつくようにして身体をくっつけました。
「しょぉん、」
とろ、と甘えてドロップスより美味しそうでした。
「明日は、ツリーを冬倉庫に入れるまでだ。いいな?」
「はい…、あのね、冬部屋のけいかくもたてます、」
ぼく、がんばりますから、とノーマンがとろりと目を細めました。
「それは後日ゆっくり考えなさい。冬倉庫はどこにもいかないんだから」
心底嬉しそうにわらって、ノーマンがショォンの口許に、ちゅ、と口付けました。
「はぁい」
「よし。じゃあそろそろ元気でたな?風呂にいこうか」
あのね、とノーマンが続けます。
「ん?」
きゅ、とショォンを見上げます。
「おふろでも、くらくらになりますか、」
「んん?なってみたい?」
金茶色の髪が乱れて、なかなか艶めかしい様子です。
に、とショォンが笑います。
「んん、でもね、」
こっそりとノーマンが続けます。
「んー?」
「ぼくのしろっぷ、からっぽです」
「ああ、そうだった。オレが全部食べちゃったね?じゃあ――――――今日は大人しく寝て、明日またツリーを移動させた後にでも頑張ろう。それでどう?」
ゆらゆらとろうそくのあかりが一層眩いなかで大魔法使いで笑顔で告げていました。 外ではまた雪が降り始めていました。