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１．Jake
男の名前はジェイコブといった。
彼は他人にジェイクと呼ばれることを望んでいたが、そう呼んでくれる程親しい人間は近くにはいなかった。
たった一人、彼のことを“ジェイ”と呼ぶヒトを除いては……。
けれど、その人でさえ特に親しいという訳ではなかった。
ただ他の人間たちと違い、ジェイクが何度鬱陶しがって遠のけようとしても、そのヒトだけは何度も何度もジェイクに声をかけ、ゴハンに誘い、酒を一緒に呑もうと近寄ってきた。
その年下のスキモノの人間は、名前をスカッドといった。
ジェイクよりたぶん二つほど年下の、猫のように擦り寄るのが上手い青年。
何を思ったのか、悪鬼狩りの真っ最中に行き合わせて以来、着いて回るようになった怖いもの知らずのコドモ。
とろっと甘い真夏の蒼穹のような碧い双眸と、口許にある黒子が印象的な、ヒトのオス。
その彼が、外見に相応しい耳に纏わりつくような柔らかなトーンの声でジェイクに何度も語りかけてきていた。
最初は無視していた、存在ごと。
次いで邪険に追い払ってみた。
けれど彼は両手を挙げて、“Hey, no offense（ヘイ、怒んなよ）”
そう言って、にこりと笑いかけてきた。
『今日がダメならまた明日』
そうして何日も何日もジェイクの後を追いかけてきては、声をかけてきていた。
鬱陶しかった。
煩わしかった。
何度殴りつけようかと思ったかもしれなかった、けれど。
『…何時だ』
唇から零れ落ちたのは、承諾の意を含んだ一言だけだった。
両手を挙げて、また断られると思っていたらしかった彼の双眸が大きく見開かれ、けれどそれはすぐに笑みに緩んでいったのを、ジェイクはその一瞬一瞬を何故だか記憶していた。
約束を取り付けたスカッドが酷く嬉しそうに気配を弾ませたことも。
けれど、彼はその日、約束した場所には現われなかった。
２. Scud
こどもの頃に、それもうんと小さなこどもであったころ、自分は恋のなんたるかを知ってしまったのだとスカッドは思っている。まだ、「恋」なんて言葉があることすら知らない内に。
それはとても唐突で理由などなく、震えそうになるほど幸福で同時に泣き出したくなる……すきだという気持ちばかりがあふれ出して、どうしていいかわらずに。
きっとジェイは１０年以上昔の些細な出来事など覚えていないに違いない、けれど自分はそのときの膝の痛みまで覚えている。
母親に抱き上げられたままミサの終わった後も教会の扉そばに居たせいで、他のこどもたちが日曜学校の行われる司祭館へとっくに行ってしまい。
それに気付いた母親がスカッド（その頃はもちろんこの呼び名は生まれてさえいなかった）を地面にようやく降ろしてくれた。
司祭館の入り口はいつも薄暗くて嫌いだったから、他のこどもたちに少しでも追いつこうと走っていった。
けれど慌てた所為で足が縺れてレンガ敷きの小道で盛大に転んで。手足を固い石に打ち付けて泣き始めた。
一旦泣き始めたなら、突然なにもかもが哀しくなり。相当哀れな泣き声をあげていたのかもしれない。
なぜなら。
地面に倒れたままでいたこどもの目の前にすい、と大人のものではない影が落ちて。
『どうした、』
と、耳に固い、けれどもまだ幼い声がしたのだ。泣いたまま顔を上げれば、そこには自分より少し年長の子供がいた。
きゅ、と眉を寄せたまま、それでも右手を差し出してくれていた。
ちょうど日差しが右肩からあたっていて、その子供の輪郭をキレイな金色が縁取っていた。
見上げるばかりであった自分に向かって、それ以上なにも言わずに子供がまた手を差し出してくれていた。
つかまっていい、ってことなのかな、と思い、その手を取った。泣きながらまた見上げれば、固い表情は変わらないままで、けれど引き起こしてくれ。
ありがとう、と言いたいのにまだ嗚咽が収まらなくて、だから半泣きでも笑いかけてみた。
そうしたなら、ふい、と顔を逸らした子供は、そのまままっすぐに手を繋いでくれたまま司祭館まで自分を連れて行ってくれた。
ただ、それだけのことだったのだ。けれど、その子供に自分が「恋をする」には十分だった。
それ以来、日曜学校のたびにその子供の姿を探したけれども不思議と会うことはなかった。そして、次にその姿を見られたのは、母親と一緒にこの街を離れる前日だった。
今は、スカッドは知っている。その子供、ジェイコブ、は。人目を避けるように教会で育てられていたのだと。
まさか、もう一度会えることなどさほど期待せずに、けれど進学先をこの街のカレッジにしたのは、些細な希望のカケラをまだ自分が持っていたからだったのかもしれない。もしかしたなら、また会えるかもしれない、と。
おれってば恋するバカなわけだし、とスカッドは小声で独り言を言った。それに、奇跡ってもんは起きるときには起こるンだし、と。
現に、半年前に会えているのだから、ジェイコブに。
もう名前だって知っているし、「ジェイ」とも呼んでいる、そりゃ一方的にだけどさ、と思いながら煙草に火を点けた。
「それに、ジェイだっておれのことを“知ってる”」
ふぅ、と満足そうにスカッドが煙を細く輪にして空中に泳がせる。
ちゃんと自分の方をみて、面倒くさそうに追い払う素振りをしても、きっと。
「いまだっておれがすっ転んだら、手を貸してくれっかもしんねェ」
……もしかしたら、だけどな、とまた空中に輪をヒトツ浮かべる。
今日の「デーモン」はシブトイらしい、ジェイクが部屋に踏み込んでから１０分が過ぎていた。
「Hey, Jay. I'm waitin' for ya（待ってンだからな、ジェイ）」
あんたが無事に出てきたら、またいつもみたいにあんたのこと捕まえて、名前を呼んで。
あんたがこの世界にちゃんと在るってことを教えてやって、それから……今日も。
「いっしょにメシ食いに行こう、ってそれだけなのにね、つれねぇなあ」
おれはうんと昔にあんたに会ったことがある、でもってあんたがダイスキなんだよ、っていうとっておきの種アカシはまだ当分しねェけど。
おれはあんたがダイスキなんだよ。……言わねェけど。
煙草が根元まで短くなり、スカッドがそれを足元に落とし。靴底で踏みつけたなら、見つめていた先の扉がゆっくりと開いていった。
それを見つけて、スカッドが身軽に走り出した。
「ヘイ、ジェイ！今日の獲物は一匹？」
足元に転がる得たいの知れない塵や障害は軽く飛び越し、ジェイの目の前に立つと微笑んだ。
「オカエリ、オツカレ。なぁ、メシ食いにいかねえ？」
す、とジェイクの蒼が自分に向けられるのにスカッドがますます笑みを深くした。
すぐに手で追い払われなくなっただけですげえウレシイ、とこの相手にだけ殊勝に振舞える自分も可笑しかったのだ。恋ってすげぇなあ、と思いながら。
３．Jake
なぜ、裏切られたと思うんだろう、とジェイクは唇を噛み締めた。
裏切られるような関係じゃない、期待なんかしていなかった、それなのに指定された時間通りの場所に彼がいない、それだけでなぜにこんなにも心のウチがざわめくのだろう。
からかわれた、ただそれだけのこと。
面白半分に暇つぶしに付き纏われていた、それだけのこと。
そんなのは今が最初じゃなければ、きっと最後でもない。
いつも通り、何も“予定”なんかなかったんだから、さっさと帰ってメシでも食って、ビールでもかっくらって寝ちまえば……。
ツキ、と体内のどこかが軋んだ。
いつの間にか記憶していた笑顔がないことに落胆している自分に、本当は期待していたことを認めざるを得なくなる。
寄越されていた好意が本物だったと、信じたかった自分に気付く。
『ジェイ、ヘイ、元気？今日はどうだった？』
そう語りかけてくるスカッドの、薄くグレィがかったブルゥアイズが斜めに見上げてくるのを見詰め返すことはキライじゃなかった。
する、と近付いてくる度にふわりと甘く香る煙草の匂いも嫌じゃなかった。
『ジェーイ』
甘えたようにあの柔らかな声で、歌うように彼しか呼ばない呼称で呼ばれるのも、正直にいえば好きだった。
ふにゃ、と蕩けるように微笑みかけてくれる彼を見詰めるのも……。
自分の手を見下ろす。
期待したオノレが愚かだった、と思い切る。
忘れよう。
全部、すっかり忘れちまおう。
それがいい。自分を“揺らす”人間など、自分には必要ない。
悪鬼を殺す機械であればいい自分には、情報提供者と殺す存在だけあればいい。
他はいらないんだ。
息を吐いて、待っている必要もないだろう、と思い切り、一歩を踏み出した。
かつ、とアスファルトに踵が打ちつける音を響かせ。けれど、ピン、と何かが意識を弾いたことに、ジェイクは視線を上げた。
ジェイ、と呼ばれた気がした。
何故だか泣いている子供の声のようだと思った。
「……スカッド？」
初めて、彼の名前を音にしてみた。
途端に、ざわ、と首の後ろに不快感を感じた。感覚、近くに狩るべきモノが在ると知らせる本能。
エンドレスに湧いて出る悪鬼ども。大概は単独行動を好む頭の悪い連中ばかりだが、時折知恵のある高位の存在が現われることもある。
悪鬼狩りを始めてもう数年は経っている、だからもし下の御大が漸く新米ではなくなった“悪鬼狩り”を片付けようと腰を上げたとしたなら、今がチャンスだ。
行き当たりばったりで戦闘になることもしばしばだが、時々見張られていることもある。
もし、そいつらが戯れでスカッドを喰らったとしたら？
―――――――いや。スカッドこそ、ジェイクの後を付いて回っていたのだ。ハントの最中に出会ってしまったせいか、彼は怖いもの知らずでジェイクの行く先々に付き合って、付き纏って……もし、その時に、奴らの手に落ちたとしたら……？
ジェイクはゆっくりと辺りを睨みつけるように見回した。
自分を敵意なく見詰めている存在がいるように感じる。薄っすらとしたデーモンの気配と。
きゅ、と拳を握り締めてから、ジェイクはゆっくりと歩き出した。
もしデーモンが後を付いてきたのなら、仮説が証明されたことになる。もしそうでなければ……。
もしスカッドが無事にいれば、その時こそあのコドモを突き放して、自分はいつもの生活に戻ればいいだけのこと。
そう自分に言い聞かせながら、ジェイクは夜の街を歩き出した。少し足早になっていることに気付きながら、けれどペースを緩めることなく教会に向かう。
司祭が寝ていたなら、叩き起こして情報を吐かせようと心に決め、すべての感情を一旦凍らせた。本能が追っていたデーモンの気配が薄れていっていることだけが気に掛かった。
４．Scud
何十回も飽きることなく繰り返してきた誘い文句に、初めてまともに返事が返された。『何時だ、』と。それを聞いたときは一瞬いつものＮＯだとばかり勝手に頭が思い込みかけて、けれどもそれがジェイクの言葉少ない承諾だと知って、……それこそ死ぬほど嬉しかった。
あんまり嬉しくて、際限なく顔が笑みに緩んでいきそうだったのを何とか押しとめて翌晩の約束を取り付けた。初めて。いつもは、ジェイクの後を追いかけていくことしかしなかったから、ひどく新鮮で奇妙でドキドキした。
まるっきりファースト・デートのガキと一緒だ、とスカッドはジェイクと別れて歩きながらふわりとわらった、意識せずに。自分のなかにそんな部分がまだ残ってやがったんだね、と。
少しはこれでダチとして認めてくれかけた、ってことだよな？と思い至り、また、くくっと上機嫌に喉奥でわらった。通り過ぎる連中が、自分を避けていくことも気にならない、生憎おれはハイになってるわけでもヤバイドラッグで他所へトリップしてるわけでもないんだよ、と。
歩き慣れた道、自分のアパートメントまでの近道を通るためにスカッドが表通りから2本、細い裏道に入っていった。とても幸福で気分が良くて、ハナウタまで歌いそうだった。通りに花売りでもいたら、きっとぜんぶそのブーケを買い占めるくらいには。
そのときは、何も気付かなかった。だって悪魔は普通、四辻にたってるんだろ？あそこはタダの裏道だった、オマケに立っていたのは―――
「―――ジェイ、」
自分の声がひどく掠れていた。泣きすぎた後みたいに。
「……ジェイ、」
その先の言葉が何も出てこない。ただ、バカみたいに約束の場所を離れた物陰から見つめているだけだ。不思議だ、実際、泣けてきそうに変だ。
だっておれは、本来ならあそこに今頃立っていて、ジェイがほんとうにやってくるかどうか、それこそ一秒一秒、ジェットコースター並みに期待と不安でアップダウンしているはずだったんだから。
けど、いまは、こんなところで。半泣きで、きっと来るはずねぇよ、と真剣に祈ってる。
まとわり付いてた邪魔モノの一番手っ取り早い厄介払いの方法を昨日たまたまジェイが思いついたんだ、と。そう信じたがっている。
差し出し続けていたカードを、ジェイが引いてくれたとは思いたくなかった、なぜなら……
くそぅ、と毒づいた。
何に対して、かは。きっと自分とあの連中とに対して、そしてなにが起こっても寝ているだけの「上のだれかさん」に対してなんだろう、スカッド自身にもわからなかった。
ただ、刻一刻と自身の肉体が変化していくのに自分が狂わなかっただけ、マシだと。放り込まれた真っ暗な倉庫のなかでも思っていた。ジェイクの声を思い出して、意識がぐらりと引っ繰り返って。
『だって、アンタはハンタァのイイ子じゃない。アタシたち、アレに恨みがあるのよ』
にぃ、とグレイのグロスが塗られた唇を吊り上げてソレがわらったことを思い出す。もう一匹に喉首に喰いつかれていた所為で声がなにも出せなかったことも。肩と手首と首、それから……気まぐれに鉤爪で胸元から腰まで掻き毟られ叫ぼうとしてもその声さえただの空気の漏れる音にしか過ぎなかったことも。
そのまま、暗がりで殺されちまえば。どれだけよかったか、知れない。
暗がりで意識が戻ったとき、一瞬は自分が死んだのだと思った。あれだけ引き裂かれていた身体が、元に戻っていた。
そして―――ある意味、それは正しかった。ヒトとしての自分は、とうに死んでいたのだから。
そして、耳が近づいてくる確かな足音を拾った。
「―――くそ、ジェイ、なんで……」
あんた、来てくれんだよ―――。
ぼろ、と涙が零れて行ったのがわかった。次から、次へと止まることなく。
す、と約束の場所に微かに周囲の気配に気を研ぎ澄まして立つジェイクに向かって、思わず走り出していきそうになる自分を必死になって押さえ込んだ。
ジェイク、ハンタァの狩るべきモノに成り果てた自分が、もうあの存在の側にいられるはずもない。
ジェイ、おれ、ほんとうに……バカで、―――ごめん。
けど、おれ。
ほんとうに、あんたのことすきだったんだよ。あんたに、わらってほしかったんだよ。
ジェイ、と。最後にもう一度だけ名を呼ぶと。視線を無理やりに切り離すと背後に広がる暗がりにスカッドが溶け込んでいった。
５．Jake
「アーカイヴにそのような名前の子は乗っておらんよ」
ホワイト枢機卿が静かに言い切るのに、ジェイクは目を細めた。
幼い時から住み慣れた教会の司祭の部屋で、ジェイクを育て今の仕事をするように仕込んだ男をじろりと見遣る。
「じゃあなになら解る」
「信者であり、この教会の施しを受けている者なら誰でも。しかしその青年とは教会内で会ったわけではないだろう？」
ハ、とジェイクは息を吐いて、ぐるりと目を回した。
「それじゃあ、最近のデーモンの動向だ。連中はどうしている？被害者は出ていないのか？」
「珍しくやる気があるな。どうした」
「アンタには関係ない。仕事だろう？」
ぱし、と言い切ったジェイクに、枢機卿は小さく頷いた。
「然り。仕事をしてくれるのならばそれでいい。最近多聞く様になったのはサキュバスやインキュバスによる被害ではなく、吸血鬼によるものだ」
司祭の言葉に、ジェイクは目を瞬いた。
「吸血鬼？」
「左様。件数が少なすぎて追いきれてはいないのだが、そういった報告が上がってきている」
ハ、とジェイクは笑った。
「吸血鬼！クレイジィにも程があるが、なんだろうと構うものか、オレに殺せるモノならば仕留めるだけだ。ついでにな」
「連中は通常のエクソシズムでは扱えない。ジェイコブ、お前の手には負えぬかもしれん」
眼鏡の奥の目を細めたホワイト枢機卿に、ジェイクは片眉を跳ね上げた。
「アンタの棚にある本は全部読んだ。あれらに書いてある知識で足りないんだったら専門家を呼びつけろ。実際に仕留める能力のあるヤツをな！武器もいつものエモノで足りないんであれば、そっちで用意しておいてくれよ」
それだけを言い残し、枢機卿のオフィスを出ようとしたジェイクをホワイト枢機卿の声が追いかける。
「まちなさい、ジェイコブ。出かけるつもりか？」
「ここで待っていてどうする？適当に辺りを回って、デーモンだろうがヴァンプだろうが活動していないか見てくるだけさ」
「何か解れば報告を頼む」
「アンタはさっさと手配を頼むぜ」
バタン、と扉を閉めて、ジェイクはシンと静まった礼拝堂の中を通って神の家を後にする。
その度に「神の威光」の程を知る――――デーモンが神の家を本当に恐れているのならば、その血を半分引く自分が堂々とこの中で息をして生きていっていることに説明がつかない。
「聖水に十字架にニンニクに白木の杭？銀の弾も用意しておくべきか？」
常備している十字架の杭で二つは足りるだろう。聖水とニンニクはこの際無視して、銀の弾を一応用意しておくべきだろう。それに聖句とアイコンを刻んで、ついでに祝福させておけばいい。
「狼男が現われたって仕留めてやるぜ」
裏通りに向かって歩き出しながら、スカッドというヒトについて自分がその名前と見た目以外は何も知らないことに、今更苛立つ。
ひとまず、うろついているデーモンを一掃するついでに洗いざらい吐かせて、自分で情報を集めるしかない。
「スカッド」
ジェイクが初めて彼を“許容”した瞬間に、彼が見せた花が綻ぶような笑顔を思い出す。
「……なにがあった」
記憶に貼り付いたそのイメージに向かって問いかけてみる――――あんな柔らかで、裏のない笑顔を向けられたのは初めてのことだったから。本当はくっきりと覚えている、スカッドという青年の笑顔を。それに付随して、ジェイクに甘えるように語り掛けてきていた声のトーンと、猫のようにしなやかな体躯も、全て。
「待ってろ、助けてやる」
もうからかわれたとは思っていない。それは即ち、彼が無事ではないということだったけれど。
「……オマエが堕ちたモノになったのならば―――――きっちり殺して、オマエが行くべきところへ送ってやるから」
デーモンとヒトのハーフブリード、なんて呪われた存在に好意を示してくれたような人間だ、天にその魂は還るべきだろう。
自分の還る場所は、そこではないけれども。
『ジェイ』
コドモが咽び泣くように、あの場所でジェイクを呼んだのは、きっとスカッドだ。確証はなにもないけれど、間違いなくそうだと自分の本能が告げる。
「バカヤロウが……」
呟いて、待ち合わせ場所だった所に向かう。物陰を探せば、もしかしたらなにかスカッドに繋がる物を見付けられるかもしれない。彼自身はきっともう、あの場所にはいないだろうけれど。
神サマ、とジェイクは天を睨み上げながら呟いた。
「Don't you ever desert a sweet child like him」
“あんなイイコをアンタは見捨てたりするなよ。”
ｎｅｘｔ
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