Einsatz
誰かと一緒に眠るのはウォレンは好きだった、けれども。
これだけ添わされた腕がキモチいいと思えるのは初めてだったかもしれない。
とろとろと温かくて、手足が重たくリネンに沈み込むようで、不愉快さとギリギリにバランスを保ったままで気分がいい。
眼を開けていたとは思わない、けれども壁に切込みが走ってソレが開いたような気がした。
夢だナ、とぼんやりと水に浸かったままのような脳で意識が揺らぎかける。
額に、触れている温かな体温は変わらずにあって、どれが夢であるのか一瞬ウォレンはわからなくなる。
水、清流、滝、ミドリ、そんな印象が脳に一気に入り込んでくる、どこかから漂う香りが何かを刺激したらしい。
ロックスタァの匂いじゃない、と。ほにゃりとふやけた脳はそれでも認識して。パチリ、と音がしたように視界が急に真っ暗になったのに、ウォレンがほんの瞬きほどの間、意識が覚醒しかける。
さっきまで、ずっと明るい気がしていたのは、じゃああれは、部屋の灯りかな、と。
ファックしてる間は、すっかり忘れていたソレ。
暗い中。
それでも真っ暗闇は都会ではありえない話で、どこかしらから人工の灯りは窓から入るし、ぼんやりと輪郭が見えた。
ハロゥめいて、その影の線だけがうっすらと明るかった。
ゴーストが電気消しにきた、ふいと浮かぶ。
そのイメージが可笑しくて、くつくつと笑った、つもりがぜんぜん指一本、動いていなかった。声も当然のように出てはいずに。
もうどこが夢でなにからが現実が、ぐしゃぐしゃにもつれ合って、ただキモチイイだけだった。
トッドがリアルならいい、それだけだ。
ぐう、と額を一層、体温に押し当てて。暗がりでも、眼を瞑っていてもわかるのは、トッドが柔らかくカオを寄せてきたことで、また心臓の裏側から、眠気を誘うような温かさがゆっくりと拡がっていき、ウォレンが息を短く吐いた。
イメージのなかで、眼をいっそうキツク瞑りなおす。果たして夢のなかかもしれないけれども。
あー、すげ、きもちいい。そう思っていた。
コレだよ、となんの理論も飛び越して、思っていた。
しゃ、っとカーテンの開けられる勢い良い音に、ウォレンが低く呻いた。
そして容赦なく明かりが瞼を透かしてが入り込んでくる。この瞬間が、ウォレンはいつも嫌いだった。
なにか、すっきりと飲み口の良い白ワインみたいな声が言っていた。耳に飛び込んでくる。
テレビでもついたのかな、とぐらぐらとするアタマで思う。目覚まし代わりに、テレビでも?
あれ―――――――?
ぐるり、と時間が一緒くたになる。
違う、テレビを目覚まし代わりにしてたのはイズーやマリたちで………おれはだって――――トッドと………あれ?
だって、ものすごく気持ちのイイファックをして、上機嫌で眠って……
トン、とそんなウォレンの葛藤ともいえない寝起きの悪さは関係なく、頬になにかが触れていった。柔らかなキス、それは本能でわかるウォレンだった。
そして、ふわ、と実に気持ちの良い柔らかな重みが顔の側にあることと。それも2つ。
となれば、掌を添わせてその質感をふわりと確かめて、顔をくっつけた。そうするのが本能だと知っている。
涼しいようなトワレの香りが拡がる、香りと肉の厚みにすこし眼が醒める。
もうすこしばかりその弾力にハナを突っ込むようにしたなら、ばしい、と後ろアタマを引っ叩かれてウォレンが呻いた。
なんだよ、挨拶じゃないかよぅ、と口中でまだ寝惚けたままで言い募る。自分でも、それがちゃんとした言語になっていたかは少し自信がなかったが。
ずきずき、と後ろアタマが鈍く痛む気がして、まだ隣にあったトッドの体温にくっつきなおす。
収まりの良い位置を探して、肩と首の間に額を押し込んだ。
「ぃてぇよ、なにあれ」
寝起きの所為もあって一層甘く掠れて耳にとろとろと溶け込むような声で文句を言っている。
けれど、視界がほんの少し明るさから逃れた所為で、またすぐに眠りに誘われ。うと、と意識が遠くなりかける。
トッド、あれなに、と言っていたつもりなのはウォレンだけで。
トッドと、もう一人には、うにゃ、といったような寝言としか聞き取れないようだった。
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