*13*

サンジの身体を、余すところなく触れていく。

指で。
掌で。
唇で。
舌で。

歯を立て、竦む身体を撫で。
強く吸って、所有の証を残す。
擽って、声を荒げさせて。
引っ掻いて、吐息をかき回して。

1層、2層、3層。

サンジが淫らに声を漏らし、揺り起こされた快感に身を震わせる度に、式が完成していくのを感じる。
湯船の中で、浮き上がる体。
濡れた金の髪を振り乱させて。
時間をかけて、焦らしながら。
そうして。
ワインのアルコールと愛撫に酔って、サンジの身体と意識が蕩けていくのを見届ける。

お湯の中から、引き上げる。
十分に温まった浴室の中、バスタオルを敷いて。
グニャグニャに解けたサンジの身体を横たえる。

爪先を口に含むと、擽ったそうに身を捩る。
足の裏に出来てしまった切り傷を舐めると、身体を反らして、熱い吐息を漏らした。
踝に歯を当てて、アキレス腱を軽く食んで。
暖まってクニャリとしていたサンジのペニスがやんわりと立ち上がったのを横目に、内股を舐め上げていく。
「ふ…」
息苦しそうに、喘ぐサンジ。
身体中を桜色に染めている。
揺らめく蝋燭に照らされた肌がてらてらと光る様に、ゾロはどうしようもなく餓えを覚える。

「ゾ、ロぉ…」
指を伸ばされて。
その手を握る。
「み、ず…」
息も絶え絶えに告げられて。
口移しに、ワインを流し込む。
そのまま、舌を絡ませあい。
「ん…ッ」
乱れる息の合間に、角度を変えて、また口付けて。

息が続かなくなったところで、口付けを解いて。
ふにゃん、と柔らかいサンジの身体を抱き起こす。
そのまま、四つん這いにさせて。
「…ケツだけ、上げてろよ」
酔っ払ってとうとう正体を手放したサンジに、それだけを告げて。

キレイに筋肉がついた双丘を割って、やわらかく蕩けた襞を指でなぞる。
駆け上がった快楽に、思わずあげた悲鳴を聴いて。
怪我をしていないほうの指を、一本ツプリと沈めた。
「…柔らけェな」
「ッ…」
次いで、もう一本。
こちらはすんなりと入らなくて、入り口を擽るだけに留めた。
「…暴れるンなよ」
そう忠告して。
もう片方の手で、腰をしっかりと抑えて。
ワインを口に含んで暖める。
十分に温くなったところで、唇を寄せて。
「あ、あ、や…ッ」
指で開いた小さな口に、注ぎ込む。
入りきれなくて零れるワインが、滴り落ちる。

(…喰いてェ…)

ケモノの本性だけで、目の前のエサに覆い被さりたくなる。
奥の奥にまで喰らいついて、骨の髄までしゃぶりたくなる。
けれど。

濡れて動きやすくなったところで、指を一度グッと奥まで突き入れる。
サンジが遠くで鳴く声が、浴室に篭る。
グチャグチャと濡れた音をわざと立てると。
水蒸気の霧の中、一滴の愛液がサンジのペニスから垂れ落ちるのを見た。

さらにワインを口に含んで。
注ぎ込んで、掻き混ぜて。
奥の奥まで馴染ませる。
「…あつ…や…ッ、ああ…ッ」
指を三本に増やし。
サンジが痛みを訴えないのを見届けてから、ワインをボトルから、直接中に注いだ。
呑みきれなくて零れるワインが、血のように下肢を伝う。

(ッ…)

恐ろしく倒錯した絵に煽られる。
オスの本能が刺激される。
それでも、欲望に霞む頭で、式が完成間近なのをどうにか読み取る。
「も、や…ッ、ダメ…ッ、ハ、ァ…ッ」
「…もう少し、だからな」
すっかり酩酊して泣きじゃくるように喘ぐサンジの背中を撫でてやりながら、一気に腰を進めた。
ペニスを扱いてやりながら、サンジの背中に何度もキスを降らせる。
アルコールが粘膜に染み込んで、中は燃えるように熱い。

腰を浅く引いて、強く突き入れる。
掻き混ぜるように、腰を回しながら、繰り返し、繰り返し。
強く一箇所を抉って、サンジに一度吐き出させる。

薬草交じりのワインの芳醇な香りと。
体液のねっとりと濃い匂い。
あまりに卑猥で、淫らで、魂まで揺さぶられる気がする。

一度身体を解いて、サンジを床に横たえて。
足を再度抱えて、もう一度身体を繋ぐ。
達したばかりで震える体を組み敷いて。
今度は自分の快楽を放出するために、リズムを刻んだ。

己のケモノのような息遣いと。
サンジの口から零れ出る歌を聴きながら。
欲望のままに、サンジという獲物を貪り喰らい尽くしながら、快楽の頂上を目指した。
一瞬早く達したサンジのそれが己の腹を熱く濡らすのを感じながら…ゾロは熱く迸るスペルマを
サンジの中に注ぎ込んだ。
そうして。
ゾロは白くスパークする頭のなかで、式が最後の一層まで発動したのを見届ける。

サンジの胸の上に描かれた魔方陣は、一瞬強い光を放ち。
サンジの身体から浮き上がってから、サラリと崩れて消えた。

ゾロは身体から力を抜いて。
張っていた気を緩めた。
辺りはすっかり静まり返っていて、カタリとも音がしない。
霊の気配がすっかり消え去ったことを確認してから。
すっかり意識を手放しているサンジの上に、半ば崩れ落ちるように覆い被さった。

(…つかれた…)

けれど、サンジはもっと疲れただろう。
濡れた前髪をかきあげてやり、額にそっと口付けを送る。
「…お疲れさん」
睫毛に着いた水滴を舐め取り、乾いてしまった唇にバードキスをして。
サンジをぎゅっと抱きしめた。

(あー…ちくしょう、離せねェよ…)



*14*


「…遅くまで、すまなかったな」
「いや、元と言えば、こちらの不手際だ。ワタシこそ、すっかり迷惑をかけて、すまなかった」
サンジを馬車に寝かせて。
ゾロは見送りに出てきた、領主リヴェッド・ホワイトに小さく頷いてみせた。
「…いい相手を見つけられて、よかったな、ロロノア」
ゾロはニヤリと笑ってみせることで、返事に変える。
「ああ…せめてものお詫びに、サンジ殿が欲しがっていた香草類とスパイスを、包んでおいた。
あとは…この島でできたワインだ。ボトルを数本、積んでおいた。持ち帰ってくれ」
「ありがたく受け取っておくさ」
「じゃあ、元気で」
「おお、オマエもな、リヴェッド…ホワイト」
「…よせ」
赤髪の魔女は小さく苦笑を漏らして。
ゾロが馬車に乗ったのを見届けてから、ドアを閉めた。
「また会うことがあれば、その日まで」
「あァ…またな」

コンコン、と合図して。
馬車を出させる。
すっかり日が落ちた港への一本道を、サンジとゾロを乗せた馬車が行く。
「いやぁ…兄さんが行ってくれて助かったわ」
馬車の御者に声をかけられて。
ゾロは客室から手を伸ばし、御者の隣に移る。
小太りで不健康そうな、それでも上機嫌な顔に、ゾロは見覚えがあった。
一瞬考えて。
「…酒場のオヤジ」
オヤジはにかっと笑った。ずいぶんとご機嫌の模様だ。
「あァ…さっきはマークさまが来られて、最後まで言えなんだが…この町はあの魔女が来てから、
すっかり若い男が町から消えてなァ…あのまま、あの塔に若い男どもが連れ去られままだったら、
どうしようかと思ってたよ」
「…?」
「まぁ、リヴェッドさまも、これからは男女共に雇っていくと仰ってたし、塔への出入りも開放なさると
仰ってたンだが…」
「……」
「このままじゃ、ウチの娘を嫁に貰ってくれるところが無くなりそうでな、心配しておったのよ」

がっくり。

(…そーゆーオチかい…)

それにしても。
あの思わしげな符丁の数々は、一体なんだったのだろう。
草臥れ儲けの骨折り損、なだけの一日だったような気がする。
しかも、ひどく妖怪にでも化かされたような幕切れで。

(…あの思わせぶりなセリフを吐いた、フリフリ、誰だったんだ…?)

延々とこれからの町の発展を訴える主人は意識の外に置き去りにして。

(…それに、なにか忘れているような気がする…)

それを思い出そうとしている間に、馬車はあっという間に港に着いて。
「あ!ゾロ!!心配してたンだからね!!遅すぎよッ!!!」
飛び出してきたナミに、開口一番、文句を言われ。
ゾロはうんざりとして空を仰ぐ。
そして、次々と飛び出してきては何かを言ってくるウソップやルフィに荷物を渡し、
自分はすっかり熟睡してしまったサンジを抱き上げ、船に戻る。
ビビが心配そうにサンジを見るので、一言
「心配無い」
とだけ言って。

すっかり夜になってしまったが、ナミはそれでも潮の関係で船を出せると言うので。
サンジを甲板に寝かして、ナミが命令するままに、大人しく、酒場のオヤジに外してもらったロープを
巻き取る作業をする。船が正しい潮流に乗るのを待って、サンジを抱えて船内に入る。
ハンモックに寝かしつけてから、ナミに呼ばれ。
盛大に溜め息を漏らしながら、キッチンに向かう。
「さ、それじゃ、なにがあったのか話してもらうわよ!」
ギロリ、と睨みつけるナミの視線が痛い。
けれど、説明する気はまったく無い。
なので。
「…勘弁してくれよ…オレは働かされっぱなしだったんだ…」
「それじゃあ、明日になったら、喋ってもらえるワケ?」
ワクワク、ドキドキ、イライラ、恐る恐る。
四つの視線が注がれるのを感じる。
ゾロはテーブルに突っ伏した。
「頼む…訊いてくれるな…散々な一日だったさ」

ルフィが笑って。
「まぁ、そんな日もあるか。お疲れさん。ほら、ナミ、ビヨウなんとかのためにナントカ体操すンだろ?
ゾロは放っといてやれよ」
「そうだな…ゾロがここまで参っちまうなんて、相当タイヘンだったに違いねェんだから」
「え〜…だって、コイツらから、オジリアの高級石鹸の匂いがするのよ!?どんな待遇受けてたか、
知りたいじゃない!しかも、ちょっと古いけど、マダム・サチのスーツ着て戻ってくンのよ?
サンジくんなんか、タグ確認してないから断定できないけど、あのマヌゥ・メイアンのオ
ーダースメイドだったじゃない!!これが訊かずになんかいられないわよ!」
「ナミさん、あれは確かにマヌゥ・メイアンのオーダーメイドのスーツだったわ。
しかも、中のシャツはイダルゴ・メンズの限定だったわよ!!」

(…魔女が二人に増えやがった…)

盛り上がるナミとビビに、ルフィとウソップがどんな顔をしているのか見えないのが残念ではあるが。
寝たフリしとくに限る、とゾロは決めた。

(…コイツら、使い魔にするなら、なんだろう…ナミはサンジだろ、したらビビはウソップか?…使い魔、
使い魔…?)

「あ」
ガバッと頭を上げる。
「あのフリフリ…」
黒毛で灰色の瞳。
やたら大人びた口調の男の子。
「…リヴェッドの使い魔…」
『赤毛の魔女』『リヴェッド』は『男好き』。けれど、男は適当に縁を切ったりしていたが、
いつもリヴェッドにべったりとくっ付いて離れないものがいた。
黒毛で灰色の瞳の鴉。

…がっくり。

「…なによ、ゾロ?」
「いや…気にすンな…偉く疲れただけだ…」
ナミの声に、ナンデモナイ、と手を振って。

(魔女の使い魔に…いいように使われちまった気がする…なんて、言えねェ…)

がっくりと、テーブルに懐く。
途端。
『ま、いいじゃないですか…美味しいエモノを、心行くまで喰ったんだし…ギヴ・アンド・テイクですよ…』
大人びた子供の声が、頭の中で響いて。

(うるせェ…さっさと主人トコ戻れ)

頭の中で応えると。
すぐ近くで、バサバサバサバサバサ、と鳥が飛び立つ音が聴こえた。
「…珍しいな。こんな時間に鳥の音がした」
ルフィが言って。
「真夜中の鳥というのはだな…」
なにかしら、ウソップが話を始めるのが聴こえた。

船が波を割って進む音と。
帰るべき場所に帰ってきたんだ、という安心感に身を任せて。
ゾロはそのまま、深い眠りへと落ちていった。




…翌日早朝、朝食の支度に現れたサンジに、
「てめェッ!!調子に乗りすぎだッ!」
と、キツイ目覚めの一発を食らうのも知らずに。





Fin

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れむれむ。アリガトウ―ッ。
ダーク仕様じゃなくてもしあわせならいいわ。
愛してます、また狙うね。