37.
互いの衣服を急かし合うように取り去り。素直に余裕の無い自分たちに、小さくわらいあい。ゾロの舌先が口端をぺろりと舐めるのにサンジが小さく声をあげた。半ばわらい声、半ば些細なぴり、とした痛み、そしておそらく揺れる息。頬を掌ですっぽりと包み込まれてサンジが目だけで笑みを作る。冷え切った身体をシャワーの湯の中に差し出し、狭すぎはしない閉ざされた場所で、アタリマエのように互いに腕を回してみた。鼓動が走っているのが分かる。

肩を、背を、腕を、身体を温められた水が流れていく感覚よりも、重ねられた肌が熱い。まるで、内から湧き起こり続ける感情そのままに。唇を合わせて、深く、静かに貪っていく。稀に、サンジの肩がひくりと揺れるたびに一層その身体を抱きしめ。混ざり合う体温と触れる熱さにまた深く舌を絡ませていく。
滑らかに薄くついた筋肉と整った骨格の作り出す線を水の流れよりも確かに柔らかく掌で辿れば、応えるようにサンジがあまく唇を食んでくるのにゾロが声に出さずにわらう。

先に、息急きって飛び込みたいと願い、この時間、瞬間を引き延ばしたいと思い。引き起こされ、深くから熾ってくる愛情と混ぜ合わされた熱情と素直な歓び、としかいえない感情を隠しもせずに。名を呼び、抱きしめ。間近で蒼が笑みを刻むのを見詰める。湯気に曇り始めたブースのガラス扉に、つうと水滴が伝い落ち。
「ドキドキする、」
そうサンジが照れたように微笑んだ。
「すっげえ、緊張してて」
口付けていたせいで、色づいた唇がまたゆるやかに引き上げられる。
「それどころじゃねェぞ、おれは」
ゾロも僅かに目を細め、濡れて色味の重くなった、それでも金色としか言えない髪に手を差し入れる。
上向かせた顎に唇で触れ、ちいさな音を立て。額をあわせるようにして抱き込み、シャワーのタップを締める。さああ、と流れ続けていた水音が止み、上がった吐息だけで満たされる。
なぁ?と柔らかな声で呼びかけてきたサンジの背中を撫で下ろし。腰を引き寄せれば、薄く開いた唇の間からサンジがちいさく息を零していた。熱い、微かに掠れた。
「タオル、」
「ん、」

「あしたは―――おまえ、オフだよな」
サンジが見上げながら言う、けれど照れくさそうにくしゃりとゾロの濡れた髪を手で乱した。
「あぁ、」
乱された所為で水滴を拭っていない髪から雫が顔に流れ落ちゾロが少しばかり笑みを口元に乗せる。
「おれも、夕方までは……」
目元に唇で触れられ、サンジの言葉が途切れた。
「ん、放せねェと思う」
「………宣言すンな、」
ゾロの視界の端に、途端に赤くなってしまった肌が映る。柔らかな髪にハナサキを潜り込ませ肌を掬い上げればまた、水蒸気で緩んだ空気が熱を孕んでいく。

腰の線を柔らかに押し撫でるようだった掌、それが熱い中心にするりと伸びてき、サンジが肩を跳ね上げた。足元に、バスタオルが落ちていき。
「……ァ、バッ……カ、おまえ……っ」
長い手指に握り込まれ、ひくりとまた喉元が震える。
潤み、見開かれた蒼があわせられるのにゾロが苦笑めいたソレを目元に刻む。
「悪ィ、ちょっと触らせろ」
「―――だ、から、おま……」
あ、と声が漏れ。
相手の肩に額を押し当てるようにし、引き起こされる熱さと波にサンジが目を開けていられなくなり。口付けられ、唇を開き、差し入れらる熱を自分から受け入れ。

くぐもった、それでも確かに伝わってくる温度が上がり色づいた声に、腕の中の身体を抱きしめ。
酷く幸福で、同じだけ渇き。焦がれる自分を感じ、口付けを解かずに高めさせることも止めずに、ゾロが笑みをつくっていった。

高めさせ、手指を濡らし。
金色の睫に薄く乗った涙の欠片を舐め取れば、ギ、と軽くハナサキを摘まれた。
「いてぇ」
と返せば。
「おればっか…、このやろ……」
そう真っ赤な顔で言われた。
ただ、抱きしめ。
「や、いまからどうせおれも似たようなモンだろ、」
そう半ば以上真剣に言うゾロに、サンジがまた頬といわず目元にまで色を乗せながら呟いた。
「早く上いこうってのに、アホ火消し」
く、とゾロがわらい。
「実は、“つける”のもウマイ」
そう返していた。
「うわ、お下劣」
「はン?上等だろ」
唇を齧りあうような口付けの合間に息を殺し。

「おまえガーディアンなんだろ?偶には地上で天国ってのもいいじゃんかよ」
両腕をきつく回し、サンジが言葉にし。
「オーケイ、」
同じだけ、抱きしめ返され。サンジが長く息を零していた。



                                   38.
濡れ、潤んだ音があがっている。
大きく開かされた脚の間から。
「―--は、ァ」
眼を閉じても瞼を透かしてくる明るさにサンジがひどく乱れたリネンを指で引き寄せ握り込もうとし、けれど指先が頼りなく震えるばかりであるのに、また喉奥で熱せられたように短い息を漏らし。深く含まれ、声もなく喘ぐ。
「も……だ、めだ、て」
掠れきった声が辛うじて音になる。
夜明け前から、数も忘れるほど昂まり、熱を零し。身体深くにはじめて、ひとの熱を内に受け入れ、放たれ、喘ぎ、涙を零し。抱き合い、高めあった。

「――-あ、あっ」
何度も受け入れた奥を柔らかく触れられ、踵がリネンから浮き上がる。
「ろ、ゾ、ロ……っ」
もうだめだ、と思うのに身体は応えようとしている。腰の奥にじりじりと熱が溜め込まれ。
「……も、な……ァッ」
痛みと錯覚するほどにキモチがイイ。
なにもかも、おまえだからだ、と。サンジが切れ切れに訴え。
一層腰を高く引き上げられ声を上げた。
「あ、あぁア……ッ」


ひく、と跳ね。腕のなかで震える身体を抱きしめる。
いとおしむことを止めたくは無く。けれど。昂められ過ぎたせいで震える細い身体を両腕に抱き、ゾロが髪に口付けた。
上がる息を抑えるように、長く息をサンジが零し。
ゆっくりと片腕を引き上げ、ゾロの背にとさりと落とすように回し。
「――------やばい、」
と呟いた。
「---ハン?」
する、とまた耳元を唇で辿りわらいの掠める声が訊きかえす。
「---ろ、……おまえ、やばぃ」
「だから何が」
額をあわせるようにし、蒼を間近でゾロが覗き込んでいた。

「……ヨスギ、」
サンジの言葉にまたゾロが目元でわらう。
「---お互いサマ」
く、とわらいあい。

ノド、いてえー、と。サンジがのんびりと言い。
あっさりと抱き起こされ、蒼を僅かに見開いていた。
「---ん……?」
「バス、行くだろ」
「え……、わ?」
いとも簡単に軽々と抱き上げたままベッドから半分降り立っていた相手にサンジが苦笑した。
「歩ける、ってのに」
「どうだか?」
それに、とまた翠に笑みが過ぎるのを覗き込みサンジが瞬きした。

「慣れてる」
ゾロが返し。意にも介さずに歩き始めていた。
「―--こういうのか、」
サンジが問い。それにしてもおれはオンナノコよりはウェイトあるんだけどなァ、とサンジがちらりと考えかけ。
「“信じろ、おれだけ見て。いいな?”」
サンジが、あ、と思い当たる。
「---レスキュー、」
「あぁ、ここまで大事にゃ抱かねェけどな?」
とん、と口付けられサンジがまた赤くなっていた。
「そーゆーことやるからカレンダーになるんだ、おまえ」
「バーカ」
くく、とわらいながら階下のバスまで腕にコイビトを抱きながらゾロが降りていった。


けれど、バスタブに身体を沈める頃には口調が怪しくなった相手を、もっと唆すようにゾロが低く静かに話し掛ける所為で湯の中で、背中越しに抱くようにしながら。思いついたように肩口に唇で触れている間にも、すう、と眠り込んでしまったサンジに口元だけで笑みを佩く。
軽く髪に唇を押し当て、低く何事か呟く。多分、おやすみ、と言っていたのだろう。
完全に眠り込んでしまった相手をローブに包みなおすと、ゾロはまたスティールの階段を何でもない風に上っていった。
「ウェイトトレーニングにもならねェよな」と内心で思ったことはサンジにはおそらくいわないのだろう。

夕刻前には起こす心積もりで、腕に抱き直せば肩口に額が押し当てられまたゾロが微かに目元を和らげ。
金色にハナサキを埋めて眼を閉じていった。ソープの香りと混ざる、とっくに流れ去ったと思っていた微かなトワレとどこか甘い匂いに、ふぃ、とゾロの口端が引きあがる。
取り替えたリネンが足先につるつるとあたり。
これにもそのうち、サンジの“匂い”がブレンドしたらいい、と思いながら、柔らかく眠りに落ちた身体を抱き寄せ。すう、と意識を落とし込んでいった。




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