頭上遥を遠くジェット機が過ぎる音がする。オークランド港の再開発予定区域は、今はただ 倉庫の並ぶ廃墟に近い。複雑に道が入り組み、埠頭の番号さえ既に定かではなくそこから 上がった遺骸であるとか「遺失物」から記憶されるような場所だった。 そしてそこへ、ひどく不釣合いな車輌が距離を保ち並んでいた。医療用の搬送車と、漆黒の ストレッチリムジン。 リムジンから降り立ち、ゆったりとした動作で近づいてくる男の姿にクリークが後部ドアを開け、 中を顎で示した。その傍らに従う男がストレッチャ―を引き出す。 被せられていた布を鉤爪で払い、その下から現れる貌に僅かに目が細められる。 「死体と姦る趣味はねェが、そそられるな」 鋼の爪先が輪郭に沿って這わされる。 「ザンネンだ、生きていりゃアかわいがってやれたものを」 傍らの男に問い掛ける。 「はい。サー、直ちに?」 「ああ。移せ」 「で。あの女は、なんだ―――?」 「“赫足”の養女だが」 「―――フン、」 ライターの点火音が響いた。 「てめえの好きにしろ」 「ああ、そうだ」 不意にその足が止まり、振り返ることはせずに命を下す。 「頭数揃えておけ。市警の奴らが来る前にジェラキュールのボウヤも、邪魔立て してくるかもしれん連中も潰しておけるようにな」 聞けた者はいなかった。
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