頭上遥を遠くジェット機が過ぎる音がする。オークランド港の再開発予定区域は、今はただ

倉庫の並ぶ廃墟に近い。複雑に道が入り組み、埠頭の番号さえ既に定かではなくそこから

上がった遺骸であるとか「遺失物」から記憶されるような場所だった。

そしてそこへ、ひどく不釣合いな車輌が距離を保ち並んでいた。医療用の搬送車と、漆黒の

ストレッチリムジン。







「人質としての価値は下がっちまったかもしれねェが」

リムジンから降り立ち、ゆったりとした動作で近づいてくる男の姿にクリークが後部ドアを開け、

中を顎で示した。その傍らに従う男がストレッチャ―を引き出す。



「生きていようが死んでいようが、取り返しにくるだろうぜ。そういうガキだろうよ、あれは」

被せられていた布を鉤爪で払い、その下から現れる貌に僅かに目が細められる。

「死体と姦る趣味はねェが、そそられるな」

鋼の爪先が輪郭に沿って這わされる。

「ザンネンだ、生きていりゃアかわいがってやれたものを」



「わかっているだろうな?場所は」

傍らの男に問い掛ける。

「はい。サー、直ちに?」

「ああ。移せ」



男は葉巻を取り出しながら、クリークに目を戻した。

「で。あの女は、なんだ―――?」

「“赫足”の養女だが」

「―――フン、」

ライターの点火音が響いた。

「てめえの好きにしろ」



言い残し、停められていたリムジンへと歩を進める。

「ああ、そうだ」

不意にその足が止まり、振り返ることはせずに命を下す。

「頭数揃えておけ。市警の奴らが来る前にジェラキュールのボウヤも、邪魔立て

してくるかもしれん連中も潰しておけるようにな」







楽しいことになりそうじゃねえか、笑みと共に囁くように唇に上らされた言葉を

聞けた者はいなかった。















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