証言者はその日を境にすべて所在不明となり、二大勢力の一連の抗争に関する事件の立件は
事実上不可能となった。市当局の捜査官が携わったらしい「誘拐事件」に関しては全てが不問に
処され。証言者たるべき両家の子息も、その他の捜査線上に浮かび上がる重要参考人も何ら
語る術を持たなかった。「被害者および被疑者死亡により不起訴」。
ただ、市警は警部を始め大掛かりな贈賄と汚職事件との関連が明らかにされ連邦捜査局の
手に委ねられることとなった。
“赤髪”の手筈で生にとどまったコーザは、自らの不在の間に恋人が渦中に巻き込まれた
「埠頭での不幸な事故」の報に呆然と立ちすくみ。頬を流れるものを拭う事も忘れ天を仰ぎ、
何も語らなかった。
そして、二つの勢力は麻痺したかのように拮抗する事を止め、その凪のような静謐のなか
夏の空に弔鐘が高く響き、溶け込んでいく。
「おれ、あいつら、キライだ。生きていれば、何だってできただろ?!なあっ!!」
ぼろぼろと。涙をこぼしながら、それを拭う事もせず少年は立ち尽くす。
「許してやってくれよ。アレで意外とバカだったからな。突っ走ることしか知らねえんだよ」
コーザは自分に語りかけでもするように。
高台の墓所は、眼下に遠くどこまでもひろがる緑を従え。葉が陽を照り返し、風に波を作り上げる。
尽きる事が無いかのようにも思える、黒塗りのリムジンが道に遥かに連なり。
空のどこかにいるヘリの翼の音だけが聞こえてくる。
それら統べてから離れ、緩やかに夏草の揺れる傾斜の手前に二人はただ立っていた。
「おまえも見ただろう。すげえ幸せそうなカオ、してたじゃないか」
「だからッ!バカだッつってんだっ!!」
声を振り絞る。鳴り響く街中の弔鐘の音にかき消されないように
空へと高らかに上る、それへ。
「もっとしあわせになれただろう!いきていればッ」
「さあな。おれは、アイツらが決めた事に文句は言わねえよ。まあ、殴ってはやりたいけどな」
いや、と小さく笑い出す。
「今度逢ったら代わりにきっちり殴っておいてやる、おれが。どうせ一人アタマ叩いてやらなきゃ
ならねえヤツもいるしな、ついでだ」
「コーザ、」
「ああ。なんだ?」
「おれは。例えいまは無理でも。いずれ、組織、ブッ潰す。手伝ってくれるか?」
呼びかけられた男の眼差があわせられ。
「―――いいぜ。あんなクソつまらねえモン、守ってられるか」
「それで。おれは作り直す。もう、こんなこと、ぜったいに起こさせない」
「つきあうよ」
ルフィの唇に、初めて微かな笑みの影がかすめる。
「おれさ、ほんっとに大好きだったんだよ。兄貴と、エースと。あと、あいつのことも
嫌いじゃなかった。ほんのちょっとしか知らなかったけど」
「ああ」
「もっと、笑っていてほしかった」
「大丈夫だよ。もう誰も、切り離したりできねえよ。二人仲良く地獄行きだ、どうせ」
多分そっちにエースもいるしな、と小さな声が付け足す。
それを耳にして、は、とコーザは小さくわらい。
「よし。血の道とやらを切り開くとするか」
ルフィに目を戻し、飄々と言う。
「うん。行こう」
そう不敵にわらう顔には、涙の跡しか残っていなかった。どこまでも遠くを見つめる瞳には強い光。
「あの大バカども、安心させてやるんだ」
「同感だ」
そう答える男にも、迷いの欠片は残されてもいず。
弔いの鐘の鳴り響く中、明日へ。それぞれの想いに別れを告げて、一歩を踏み出す。
夏の陽はどこまでも高く
終わらない歌をうたう
風は抜け 遠くのわらい声を運ぶ
確かにそこにあったのだと
真夏の夢
けれど、
閃光のような
永遠。
“太陽と、溶け合った海”
This is not the end of the world
Wake from your sleep
The drying of your tears
Today we escape
We escape
I want you to know
Spinning and spiralling through dreams
A thousand miles high
Out of our minds and in love
Now we are one in everlasting peace
This storty has completed. I send all my regards and love to you all.
July 22, 2001
# # #
こんなに長くなるとは……これは、―――――何気に最長記録あっさり更新。
最初、私は初の「前後編」とか言ってたような…。Kamomeさま、よろしければどうかお納めくださいませ。
ほんとうに、こんなバカにおつきあいいただけて、私はシアワセ者です。
実に実に、楽しんで書かせていただきました、この最初は短期集中だった(苦笑)長期連載(開き直り)。
読んでくださった皆様に、すこしでもソレが伝わる事があればなによりの幸せです。楽しかった、のですけど―――
でも、もう、悲恋は当分、書きません(泣)。
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