*63*

「――――っひ、ぅ……っや、ぁ、っ」
息ができない、と思っていた。吐き出す息も、吸い込むソレも喉を焼き、その先も爛れていくほど熱いと。幾度も身体を奮わせ、耐え切れずに下肢が逃げようとするように跳ね上がり、けれども腰骨に指を強く埋めるようにして引き戻され、また短い嬌声を上げていた。
ぬるり、と灼熱より滾って思える熱が奥を強く掠めて行き、また波をヒトツ越えそうになり。けれど中心を手指で押さえ込むように高められルーシャンが狂ったように首を左右に振っていた。
「ァ、ああっ」
パトリック、と切れ切れに音の切れ端を噛み締めすぎて鈍く熱く、重く痛む唇に乗せていく間も蜜を洩れ零していた奥がひくりと震えるのが分かった。耳元に触れる吐息にさえ身体が弾けそうになる。
「欲しいなら言ってみナ、」
唆すような低い声が聞こえ、ぶるり、とルーシャンが腰奥から拡がっていく揺らぎに喉を反らせた。
「ぁ、ット…」
目眩がするかと思う、とうに眩惑されて身体中の血管には血の変わりに尖ったエッジをもった何かが奔流めいて流れているように思えるのに。
ぬく、とまた昂ぶりが奥を長く掠めていくだけなことにルーシャンが  パトリックの腕を、意識できずに長く爪で掻いて行く。
「ぁ、あ」
朦朧とした意識で喘ぎ。
けれど、空気が動くのを感じとると瞬きし。反らせた背中が僅かに浮き上がり、は、と息を洩らして首を擡げようとすれば。胸の尖りをきり、と咬まれて悲鳴めいた声を小さく洩らしていた。
「ァ、ぃッア……」
きつく目を閉じ、その一点から首裏を抜けて走り抜けていくモノに下肢が跳ね上がる。
酷く鋭敏に尖った感覚が走ったのに強張った背中が、とろりとその同じ場所を舌先で擽られ弛緩しながら高まっていき、
「ひ、ぅ」
嗚咽を零したルーシャンの肌を、少し濡れて色味の鈍くなったパトリックのブロンドが掠めていき、その僅かな感覚にさえずくりと身体の奥深くから痺れが鈍く熱を上げていくのにルーシャンがまた涙を溢れさせていた。
「っゃ、やァ、イ…っぁ」
蜜を零し続ける先を押し開かされ背中を弓なりに反らし、溢れかける熱はけれど先へ拡がっていくことを許さない手指に引き上げられ、押し止められ続けていることに感覚が混乱し始める。
「ぁ、あ、ット……、す、きなのに……っ」
「すきなのに?」
快楽が過ぎて頭がおかしくなる、と泣いたのはさっき、奥から注ぎ入れられたものを垂れ零しながら、達したときで。
意識の深くまで侵食して、自分を内から貪るような低い声が笑みを塗りこめて問いかけてくるのに、ぅう、と呻く。
「ん、んぁっ」
尖りを吸い上げられ、膝が震える。
涙と、劣情に濡れたブルゥアイズがゆらゆらと焦点を結ぼうと、瞬きに何度か隠れ。けれど、奥を掠めていった昂ぶりに精嚢まで突き上げられ、色づいた身体がベッドの上で跳ね上がっていた。
「ぁ、も―――や、だ、ぁ」
ひく、とルーシャンの喉が嗚咽に上下する。
「ヤダ、とは?」
「欲し、くて―――――くるぃ、そ…な、ぁっ」
長く、胸元を舐め下ろされ、ぎり、とルーシャンが自身の髪を掴むようにする。
「パァ、ット……、触っ、ってよぉ……っ」
言葉以上に、濡れて蠢く襞がルーシャンの追い上げられた高みを伝えていくのに、パトリックがうっすらと笑った。
「欲しいって、じゃあ言いナ」
ひぅ、と競りあがる息をルーシャンが押し込み。蜜の滴り落ちるように掠れた声が甘く強請っていった。
「欲し……いよ、ァット、パトリ――――――」
言葉を綴り切らない内に、ルーシャンの唇から悲鳴めいた声が長く洩れていった。
口を開いていた奥に、願い続けていた高ぶりが漸く埋め込まれ、深くまで一気に貫いていき。そのことに視界が白く光って全てを飲み込もうとしてくのに、また一際中心を音を立てて扱かれ別の高みへと波が同じように拡がっていく。
「――――――ぁ、ひ、ぁ、ああッ…っ」
細胞が快楽に引き捻られていくかと思い、音を唇の上らせて震え。耳元に荒い呼吸を感じ、それがパトリックのものだと全神経が歓喜して伝えてくるのにリネンを引き絞り、涙を零し。貪られているだけじゃない、自分も同じほど貪婪にただパトリックだけを欲しているんだ、と意識がかたどられるまえに直感する。

愛している、と告げられた瞬間にも歓喜して蒸発してしまうかと思った、自身が。

「ァ、ット……」
押し上げられ、息が乱れ。それでも名を呼ばずにはいられなかった。
「おれ―――、」
ちゅく、と耳朶を吸い上げられ、ぞくりと身体の奥がまた濡れていくかと思う。
そこから拡がる煮切りたった蜜が毒薬めいて四肢から自由を奪っていくけれども。身体の中心を貫かれ、突き上げられ。ただ、それを快楽として受け止め。それをひたすら享受して、もっと貪婪に拓いていく自身を隠すことも思いつかない。―――いまは、もう。
「ッァ、う、あ、あ……っ」
乱れきった髪の間から、頬の押し付けられたリネンの白が見えた、それはどんどん色を無くしていく視界の所為であるのか、突き上げられ、 引き上げられ続けてバランスを無くしていく自分の脳が勝手に酩酊しているのかも、どうでも良く。
ただ、過ぎた熱に、細く声を洩らし、達した瞬間に身体の奥に迸るような熱を受けて、達した瞬間以上に引き上げられ、カタカタと震えが止まらなかった。
「――――――ぁ、ッァ…」
ルーシャン、と掠れた低い声が名前を呼んでくるのにさえ、応えることなどできずに、湧き起こり続ける震えに掌を握り込む。
薄い膜を通したように、酷く近いのに遠く思える眼差しの先に、目を細めて見詰めてくるパトリックの表情を捕らえ、ルーシャンがまた小さく達していた。
パトリック、と言葉に出来たかさえもう自分にはわからずに。それでも、縋るようにその名前を呼ぶことだけをしたかった。
自分以外のものになりたかった、ずっと。けれど――――――
熱い腕に抱き締められ、ひくり、と身体を震わせる。
違う、と不意に思っていた。呪われながら、愛されるのじゃない。愛されることが呪いめいたものであっても、自分は愛されたかったし、それ以上に愛していたかったのだ、と。
自分の捜し続けていたものを、手にして。同じだけの想いを返したいと想ったことなどなかった、けれど。自身の運命を切り開くのと同じほど、身も心も委ねて傍に在りたいと願うことは、愛するということと自分のなかでは同じ意味を持つのだとすれば。
「――――――ァトリ、」
喉がひりつく。
腕の中に閉じ込めるように唇に口付けられ、ルーシャンがとろりと目を瞑った。
その優しい感覚に、面映ゆくなるほど。さら、と乾いたパトリックの手が、額に長く落ち掛かる金色を退かしていき。柔らかに額にも口付けられ、ルーシャンがゆっくりと目を開けた。いまこの瞬間、天上の音楽が聞こえてきそうだと思った。柔らかく、高く、遠くから。

「オマエはオレのだよ、ルーシャン、仔猫チャン」
囁きが齎され、ルーシャンがゆっくりと瞬いた。
うん、と頷く。
おれは、あんたを愛してるよ、だってあんたは―――離さないって言ってくれた。それがどれほどの意味を持つのかももう知っている。
「だから安心してナ」
どこか、あやすような口調で告げられて。
まるで寝かしつけるように開いたままの瞼の上に口付けられ、喉奥で ルーシャンがわらった。どれほどの決意でもって、パトリックがその言葉をはっきりと自分に告げたのかも、わかったので。
「ァトリック、」
甘く語尾の掠れる声が名を呼び。指先まで火照ったソレで、そうっと  パトリックの唇をなぞっていった。
「んー?」
顔を覗き込まれ、ルーシャンがふわりと口許を綻ばせた。酷く幸福そうな、それでいて同じだけの官能に色づいた笑みを刻んでいく。
さら、と指裏で目元を撫でられ、一層、その笑みが艶やかな色味を増していく。
「あんたのために、死ねる。幸せすぎて」
だから、さ、とゆっくりと言葉を綴っていった。
「何回でも、ころして、あんたの腕のなかで生き返らせろよ」
プリーズ?と甘い声が続けていた。
「ナマイキ、」
とん、とハナサキにキスされ。
「けど、カワイイからナ、オマエ」
次いで、言葉の次に唇にキスを落とされる。とろ、とルーシャンが微笑んだ。
もう十分だ、と思った。けれど―――――――
「叶えてやるよ」
そう告げられ。天上のさらに上に広がる至福はこのことだ、と心の底から思った。
「パァット、」
際限なく、声が甘く蕩け落ちていくのを自覚する。
「じゃあ、すぐ、いま。叶えてほしい」






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