Here, there and everywhere









Before midnight:
誕生日なんだいくらでも飲んでいいぜえ!
うわはははははーっと。
その豪勢な高笑いと一緒に。最後の撃沈者が自分の肩のあたりに落ちてきた。
抱きとめる。



シカバネルイルイ。ツワモノ共が夢の後、ならぬ宴の後。



こいつら、明日どうする気だよ?ゾロがつらりと辺りを見回す。
ここにも、あそこにも、そのまた隣にも。
ひどくシアワセそうな表情を浮かべた酔っ払い共がそれぞれにくっついて眠り、ないし
気絶している。ブランケットやクロスを引いた砂の上に。



一番最初に潰れたウソップの、玉が、玉がとなにやら賑やかにうなされているらしいのが
ゾロのいる場所まで届いてくる。その原因はやはり、器用に膨らんだセンチョウにばったり
のしかかられているからに違いない。どうせ追いかけられるか潰されかけるかの夢でもみて
いるのだろうと若干同情し。



その少しはなれた横ではナミとチョッパーが。イヌの子が重なり合ってよく眠っているが。
まるっきりそれだった。くるくると丸くなりお互いにくっついて、至って平和そうな。



きょうはナミに泳ぎを教わったんだと。自慢そうに話していたことを思い出した。
毎日いろんなことを覚えてるんだ、おれ仲間になれてよかったなあと。照れたように言っていた。
その発言を聞いたナミは、それからずっと、小さな船医を抱えて離さなかった。



ああ、魔女でも。寝てりゃあ年相応なカオするんだなと。何しろそういう初めて見たモノに
ゾロは内心動揺する。不吉なモンみちまった、とナミが聞いたなら平手打ちでは済まない
ような感想付きで。



吹き抜ける暖かな風は。此処が砂浜だということを思い出させる。
近くで散る波浪の音と。浮き上がるような白砂。



あちこちに眠っている連中を引きずっていき一列にでも並べてみたら、オカシゲナ景色が
出来上がるだろうな、などと考え。「バカの缶詰、」と口に出す。こんなことを考え始めたのは
ゾロにも若干酔いがまわっているのだろう。



なんていうんだったか。アレ、ええと。
必ずや自分の探している名詞を即答する筈のサンジはまだ沈んだままで、ゾロの肩のあたりに
額を預けきっている。








Midnight:
いつもより少しだけ、空気を介して、そして直接に流れ込んでくる体温が高い気がするのは
こいつが酔っ払ってるからなんだろうな、などと。のんびりと考えていた。
天蓋には冗談じみたほどの星がぶちまけられ、そのひとつひとつが明滅を繰り返し。
少し上を向いていただけで、三半規管がおかしくなりかけた。



目線を戻し、肩にかかる重みに頤先でふれるようにしてみる。髪に隠された額のあたり。
皮フをくすぐる柔らかな感触に、笑みを刷く。瞳を閉じてみた。少し離れて周りにいる連中と
同じように。ひどく穏やかな心持、刀を前にした時のそれと似ているようでいて、まったく
異質のものがそうしていると自分の内を浸していくのがわかる。




それでも、眠りは一向に訪れず。




意識だけが冴えていくのを感じる。
今日の大半を、言葉にするのも憚られるほど穏やかな状態と心持とで過ごしていたなと。
夕方、賑やかきわまりない連中とこの小島で合流してからはずっと、わらい声に囲まれて
いた気がする。



波音と、微かな寝息のほかは何も無い海辺の静けさのなかに放り出されてみれば、
そんなことに気づかされた。「うれしいから祝う」ただそれだけが理由で。全員が全員、
ネジの巻き切れるまで。何事にも容赦のないイノチのカタマリ。



なるほどな、こいつらといれば自分のなかの景色に音がつくことなど当たり前なのかも
しれないと、そんなことを思った。



肩に触れ、いまでは自分が片腕に抱き込むようにしていた身体がわずかに身じろぎし。
また、調度良い落ち着き具合をみつけたのか大人しくなる。薄闇の中でも、目に明るい
姿は。眠っていると、酷く年齢不相応にみえることを自分は知っている。







今朝の言葉を思い出す。
「祝祭日か、」








「おまえも勝手に一抜けするんじゃねえぞ」







唇のふれるかふれないかの距離に言葉を閉じ込め。ゆっくりとふれる。消えていくそれを
封印するように。目をあけるな、あけるなあけるなよと願いつつ。もう一度だけ、常よりは
温度の高く感じる口許にふれてみる。普段から、相手の眠りの浅いことを知っていれば
こその慎重な所作ではあったのだけれども。



ごくうすく、掠めるように唇がふれたせつな微かに自分を受け止めたそれが動いた。
覗き込むようにしたまま、ゾロが動きを止める。視界に拡がりすぎた淡い色味は紗で
覆われたように焦点が曖昧になり。





「ロクジュッテン、」
吐息にほんの幽かに音節が乗せられる。



最悪のタイミングで起きやがったか、とはゾロの心中。
たらん、と砂地に触れていた指先が、腕が意思を取り戻し。左の腕が伸ばされゾロの
右肩をやんわりと掴んだ。



「いまのは。らしくねェからマイナス40ポイントだな。こう、ガーッとこいよガーーッと。
このままなし崩しに持ち込むぐらいの気力みせやがれ」
「言ってろ」
意識の戻ったらしい身体をゾロは腕に抱きなおし。
「けどまあ、イスとしては80ポイントだな。ゾロイス。てめえの場合は余計なスケベ心があるから
マイナス20ポイントな」
くっと喉元で低くわらう声。預けたままの自分の額のすぐ側からそれが聞こえてくるのにサンジが
目を細める。
「携帯用ブランケットとしちゃあ、まあ90ポイント。おまえ無駄にあったけえし」



「でな、このマイナスポイントは」
「・・・・・・手が出るからだろ」
「お。わかってきたじゃね?おまえも」
もともとロクに釦のあわされていない、はだけたシャツの襟元にハナサキをもぐらせ鎖骨の
あたりにサンジはちょっとばかり噛み痕を残し。
「ほら、イス。おれを座らせやがれ」
言うが早いが。よいせ、とヒザに乗り上がるようにし正面から向き合う。
「ハハ。こーれがほんとの"お誕生日席"」
ご機嫌麗しくにっこりなさる。



「・・・・・・なぁ、」
「アン?」
「いまのは、わらうべきところか?」
「―――違えよ」
バッカだねえ、と続ける。耳元で。
「アイジョウでいっぱいになるところだろうが」
「―――ムリだろそりゃ」
「で、ガーーーッとだな盛り上がって」
「・・・・・・おい。どうあってもそっちへ持っていく気だなおまえ」



くつくつと相手の肩口にカオを埋めたままサンジがわらい。
「おまえがらしくもねえこと言うからだよ。モトに戻してやろうと思ってんだろ」
ちらりと見上げてくる蒼は。笑みを含んでやわらかく。






頤を捉まえて望み通りのキスをしてみた。
なし崩しに持ち込めるほどの。






「で、どこへ連れてくって?」
「あっちだなまずは。オーソドックスに波打ち際」
ひたりと細い指先が離れた方角を指し。
そのひどく真面目な表情にゾロがわらいだしかけ。
「あー、クツはここに置いとこうぜ。後からどこに脱いだかわかんねえのはアホみてえだし」
ぽいぽい、と自分のクツを投げ遣り。
「ほら。てめえもアホみてえに笑ってんな。さぁっさと脱ぐ」
ぴし、とゾロの額の真ん前に人差し指を伸ばす。



さらになにか言いかけ。視界が反転した。
「―――わ、」
「気が変わった。あっちへはあとで連れていってやる」
ハァ、とさも呆れた、という風にサンジがため息をついてみせ。
「我慢のきかねえヤツだなてめえは」
何度かその手のひらでゾロの頬をかるく叩き。やがて自分の方へ強く引き寄せる。
わざと音をたてるようにしてハナサキに唇でふれ



「まあ、てめえで言い出したことだからな。おれは一抜けなんざしねえよ」
唇端を引き上げた。
「覚えとけよ?」
耳元に低い声が滑り込んでくる。
「おまえこそな、」
とた、とゾロの背に。軽く握った拳があてられた。









「すげえいいプレゼントだろうが」








Past over midnight:
「なあ、魚の並んだカン、あれ、何とか言うんだよな」
「オイルサーディン?」
「―――それだ」



ちらりとゾロの目線が離れた場所で眠る仲間へ向けられ。サンジの視線も
両腕を相手の肩にあずけたままで、それを自然と追い。
「ああ、なるほど」
納得した風に頷いた。



「みえなくもねえな、多分」
とサンジが続ける。
「だろ、」
「・・・・・・まだ戻んねえからな?」
「あたりまえだ」
「うし。上等、」
ひゃははとサンジがわらい。裸足の足先で海水を跳ね上げる。
「つぎ、どこにする?」
そして笑顔のままで言った。
ゾロがその笑顔に手を伸ばし、指先で目許についた砂粒をゆっくりと拭い。
サンジがまた声にださずに、わらった。








Dawn:
あさ。横に、チョッパーがいた。チョッパーの隣がウソップ。そのまた隣がルフィ。
ぴっしりと横一列に並べられ。



「・・・・・・なに?」
ナミが起き上がる。はさりと被せられていた布が身体を伝い落ち。
自分達のまわり、ちょうど楕円形に白砂に線が引かれている。ぐるりと囲み。



「・・・・・・ちょっと、これ」
まだ眠ったままの男連中に被せられたテーブルクロスらしき布も見ようによっては
油紙にみえなくもない。
ナミが寝起きの少しばかり回転の緩い頭で考え。
「オイルサーディン?!」



「ちょっと、やってくれるじゃない」
あのアホ男にこんな芸当が出来るとは思ってなかったわね。ナミはひとりごちる。
そして頭数が一つ足りないことに気づき。
「やってくれたわね・・・・・・」
レーザービームは琥珀色である。




けれど、みつけた姿に。毒気が抜かれた。




「あーあ。……シアワセそうなかおしちゃって」
船のほうから、ここから少し離れた砂浜に小船を着けて。水のビンや朝食用の食材を両手に
抱えさせられそれでも何やら話している一つだけ年長になったのと。自分は何も手に持たず、
タバコだけを指に挟みひらひらとなにやら空を指して笑っているのと。



「天気がいい、」とか「静かにしろ」とか声の切れ端が僅かに届いてくる。
そんな姿を目にしてしまえば。





「寝たふりしといてあげようかな」
ホトケゴコロがナミの心に。
目が覚めたら豪華な朝ごはんで迎えてくれようっていうのなら。
「ま、いいわ。サーディン扱いでも。今日くらいはね。誕生日のオマケよ」



ゾロ、感謝しなさいよね。
そう小さく告げて。
笑みを刻んだままで、もう一度ナミは布に包まった。
















本日も、快晴なり。














  Olha que profunda e agua
  Quantos peixes nadam
  Sem saber proque e que nadam
  Como tanta gente
  Que vive sem saber
  Porque nasceu
  Olha, que essa vida e agua
  Quanta gente nada
  Nada entende de amor
          --- "Amor De Nada" Marcos Valle & Paulo Sergo Valle ---




















ヨイイチニチヲ。

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