切れ切れの悲鳴じみた嬌声がどっかで聞こえて。自分の喉が開いてるのが後になってついてきた。
ぱしん、と。アタマのなかで光の玉が弾けて、一瞬眼が見えなかった。
感覚も何もかも、一気にオーヴァフロウして。
何かに身体、引き起こされて。
「―――ひ、ぁ、あッ、ぅ」
縋れる何かを腕が探して。

短く押し出されていくばかりの息がくるしぃ。
な―――、に…、強い、これ。目線、だ…?
ぎりぎりまで押し拓かされた身体が悲鳴をあげてた、苦痛の味を薄くまとっただけの快楽を超えちまった何か。
なか、から。喰われちまいそうで。けど、
「ハッ、ぁ、」
眼差し、見開いた目は役に立たずに捕まえきれなくて。
瞬いても、勝手に霞んでく潤んだ視界の向こう側、これ、は。
指、腕掴んだと思った、けど。滑る、
「―――ぞ、ろぉ…っ」

ゾロ。
濡れきった声になりきれない音が重くなって吸い込めない空気に混ざってく。
身体中が重くて、容が溶け始めてるみたいに感じられて。
しがみ付いて。
在り得ない、くらい側で、なのにほとんど聞こえないくらいのちいさい声が。
またすこしだけ、おれを「こっち」に引き戻してく。
サンジ、好きだよ、オマエのことバカみたいに。
おれの好きな眼、だった。見ていたのは。

「ゾ、ロ―――っ」
腕、やっと捕まえられたと思ったのに。
「なに、サンジ?」
背中、掌で強く撫でられて。
「ぁ、ア」
深く息を吐いたなら。
とろり、と溢れて引き上げられた足、奥を濡らしていった。
「――――っぁ、」

中、考えたこともない熱に埋め尽くされて。捻じ開けられてるのに痛みは遠い、ただ…
な―――で、こ、んな。濡れて…?ゆっくりと濡れ拡がるぬめった液体に。ぞくり、と震えて。
くう、と。ゾロの表情が笑みを浮かべて。
緩く、揺すられて。
「ぁ、ァう、ア…!」
濡れた音、引きだされて。また繋がった場所から何かを引き摺って零れでる。
「―――ゃ、ハ、ぅ」
首をバカみたいに振った。

「あちィな、オマエの体温と同じ、」
耳が拾う。
無意識に、熱い肩に手を突っ張った。
圧迫感。耐え切れない、中から濡れた感覚が押し上げられて。
「逃げる?」
音。
逃げ……る、逃げても。オマエの手に多分おれ、何度でも自分から捕ま―――

ゾロの髪を掴んだ。
なにかが傾いで。
「ヒ、ァ…っ」
硬い熱が中を引っ掻き回していった。
なくなっても、拓かれたままの奥に。
押しとめられた先、浅く埋められたままで。繋がったまま、なのにまた零れる金色だったモノで濡れて。
「―――ゃあ、ァ」

羞恥で神経がひりついて。なのに。
腰を捻るようにして強く奥まで打ち付けられて。
「あ!あぁ…ッ」
泣き声混じりの、声は。
オマエのことだけ、焦がれて。
ど―――したら、いいか。わかンねぇ。わかるのは、抑え切れない、ってことだけ。

腰が跳ね上がって。
両腕でしがみ付く。
「イッ、あ、ぁ、ン…っ」
腰を押し付けられて。喘いだのと同じタイミングでこぽりと温もりきったモノが漏れて。
「キス、してぇ」
請われて思わず、低くウメイタ。
したら、イキナリ。
「――――っや、冷め…っ」
ゾロの腕がなくなって。背中、壁に押しあてられて。

背中がずりあがる。
「うぁ、あ、あーッ」
下から突き上げられて。音をたててイッパイまで濡れた場所を抉じ開けられて。根元まで埋め込まれた。
「ァ、あ!」
中を引き擦り上げられて悲鳴が上がる。
立ち上がった熱を身体の間に感じさせられて。
揺さぶられて、壁に肩が擦られて。それさえも、もう快楽だ。

「ぞぉ、ろォ」
呼ぶ。
おれの、大事なもの。
おれを、ぶっ壊すもの。
おまえだけに、ソレを許すから。なぁ、ゾロ。
「―――してぇ、ホシイ、」

中が伝えてくる、おまえの存在。
ぼろぼろ、泣いちまってる。
カオも、身体も、受け入れてる場所も、濡れきって。熱い、息も。なにもかも。
こんなンでも、おまえ、いいの……?
おまえ、おれンこと、すき―――か?
「ゾ、ろォ。」

「おまえで、埋めて。息喰っち…まって」
あぁ、―――――――そ、だ。
瞬きした。
――――おれ、だいじなこと……
「サンジ、」

ぞくり、と背筋から痺れが首元まのぼる。
バカだ、バカだ、ってさんざ、言われて…そりゃ、そ、 これ忘れたら―――
ぞろぉ、
“い、いよ…”



潤んだ目が、なにか一つに捕らわれているみたいだった。
麻酔から覚め始めているような―――なにかに集中しているような。
だから―――こっちみろよ、サンジ。
吐息も何もかも、喰うから。

ジレッタイ、自分から喰いにいきてェ。
けど―――して、ほしい。
鬩ぎ合う、欲求と欲情。
「サンジ、」
名前を呼ぶ。
意識をオレに向けろ、目を見ろ。
キス、してくれよ、なァ?

サンジから零れ出たオイルが足の間を伝って落ちていく。
濡れる、なんてモンじゃねェ。
どろどろ―――望んだ通りに。

ぼろぼろとガキみたいに涙を零しながら、はたんと瞬きをした。
金色の長い睫毛が光を弾いて、泣いててもキレイだった。
ゆっくりと、唇が開いて。
嗚咽交じりに、それでも息を吸い込んで。
上下する胸のリズムに合わせ、じわりとウチが絡み付いてきて。

蒼い目が、かちり、と合わさった。
ジグソーピースが嵌るみたいに、ブレも無く。
あん、と子供が果物を食うように、下唇を食んできた。
熱さに包まれ小さく唸り。またくう、と押し当てられて、食まれた。

くちゅ、と小さい音を立てて、喰われている。
「ん、」
くう、と口端を吊り上げ、喉を鳴らす。
そのまま首を傾け、つ、と僅かに滑り込んできた舌を絡み取る。

身体ごと、壁に押し当て。
汗とオイルで滑るサンジを縫い付けて。
くちゅ、と吸い上げながら貪る。
サンジが小さくうめいた。
鼻に掛かったような声が、勝手に洩れていった。
熱を貪る、貪られる。
吐息、奪うように吸い上げて。

くう、と舌をさらに差し出される。強請られる。
唾液を根こそぎ削ぎ取るように舌を絡め、吸い上げる。
滑った粘膜を夢中で貪り、サンジの喉奥から漏れた甘い声も貪り。
嚥下する――――サンジが寄越す総てを。

きゅう、と締め付けられて唸った。
くう、とサンジ自身の昂ぶりを押し当てられて、少ない理性を留めていた縄がするりと解かれていく幻想を見た。

舌、絡めたまま。
思い切り、突き上げる。
零れたオイルがタパタパとリネンに降る。
ぐちゅ、と淫猥としか言いようがない音が響いた。
サンジの喉奥で声が潰れていた。
甘く舌に歯を立てて、それも呑みこむ。
サンジの肌が赤く染まっていた。

固く閉じていた瞼がゆっくりと上がっていった。
見詰める、狂おしい、狂ったケモノみたいに、エモノを見つけた、チガウ――――
慈しむ存在。
愛おしむ存在。

ホントは狂ってるのかもしれない、捕らわれてる、この瞬間で終わってもいいと思う、
願う、
絶望なんかじゃない、
希望でもないけれど、
ああ―――喰らわれてもイイ。
存在を、想いごと、なにもかも、過去も未来も永遠すら――――

目を閉じる、
舌を逃がして、唇を貪って。
ぎゅう、と全身でしがみ付かれる。
抱きしめ返すことが出来なくて、代わりに身体を押し当てる。

息の合間に、名前呼ばれた、
オマエに呼ばれる瞬間、名前が何かになる、
肉体に付けられた認識するための記号じゃなくて――――

押上げる、リズム、ぐちゃぐちゃで、
刻む、なんてモンじゃない、
深いストローク、浅く突いて、押し込んで、引きずり出して、突き入れて。

合わさった唇の合間から、声が絶え間なく零れていく、
シーツには絶えず黄金の雨、
滑る、伝い落ちる、音、体液、吐息、
「ああッ、ぁ、あ…、ぅ」
サンジが鳴いている。
涙が零れていく。
顎を伝い落ちて、胸とか腹とかに降り落ちていく。

背中、指が埋められている。
突き上げるリズムを緩めると、サンジが腰を揺らしてるのが鮮明に解る。
収縮する粘膜に、呑まれかかっている。
情交、なんて生易しいコトバじゃ括れない、
貪りあう、
求めあう、
愛し合うより純粋に、与え合う。

呑まれる、夢中だ、自我よりオマエの心臓のリズムにシンクロする、
沸点、
快楽と、感情と。
リズムを早めて一点を目指す、

「ハッ、あぁ、ア、ゾロ…ッ」
腰に絡められた足にいっそう引き寄せられる。
頭、白い点がトンネルになる、
その向こうを目指して、加速する、
「サ、ンジ、」
強く目を閉じる、
一緒に飛び込めるだろうか、
高み、極み、天国じゃなくていい、ただ、オマエといれればそれで――――

「あ、あっ、あ、ゾロっ」
「く、ぅ、」
きつそうな声に呼ばれて、歯を食い縛る、
締め付けられて、観念する、
最後に奥まで押し込んで―――――

ぶわ、と白が溢れる、一瞬。
「ゾ、ロォっ、あ、アっ」
一瞬遅れて、腹に零された熱い蜜を感知する、
サンジが身体を痙攣させていた。
「ハ、く、」
胴震い、くう、と絡め取られるように何度かに分けて抑えていたものを放つ、
壁にサンジの身体を挟んだまま凭れる、
息―――――きつ…ッ

すう、と立ち眩みに似た感覚に襲われる。
ふわ、と視界に色が戻る。
耳元、サンジの熱い唇が触れてきていた。
乱れて上がりっぱなしの息が、無造作に注ぎ込まれる、
深く、息を吐いて――――

「ゾロ、」
小さな声、サンジの。
途端、腕の中の重みを認識した。
愛しいもの、慈しむもの、オレの大切な存在。

は、とサンジの息が乱れ。
それでもくう、と頭を抱きこまれて預ける。
頭に頬を押し当てられる。
首元を吸い上げる。
「は、ぁっ」
甘い声でサンジが鳴いた。

そのままの姿勢で、熱くなりすぎた身体が少し落ち着くのを待つ。
息、深呼吸で整えて。
舌で押して、僅かな塩味を感知する。

そうっとサンジを下から押上げ、壁から離す。
きく、と小さく跳ねていたサンジが、んぁ、と声を漏らした。
そのまま、腕を回して。背中、掻き抱いて。
コトバよりも、温もりが、総てを物語っていて――――

満ち足りている一瞬、次に餓える前に貪る。
思考、ストップしたまま、ただただ、幸福で。
くたりと預けられた身体が、嬉しい。
それでもしっかりと回された腕に、信じられない程に喜んでいる。
目を瞑って、人生にそう何度もない一瞬を味わっていたら、
「きもち、いぃ、」
ほんわりとした声が呟いた。
「おまえ―――」

頬擦りをする。
全部を分かち合っている、理解している、この一瞬。
溶け合っている、分離する直前、こんなにも一つだ。
「サンジ、」

ぎゅう、と擦り寄ってくる身体を強く抱きしめる。
「サンジ、」
オマエに全部をやれたこと、理解している。
この一瞬、いまだけは―――
「すげーしあわせ、」

吐息混じりの声で言ったら、サンジがふわんと笑っているのが感じ取れた。
柔らかい笑み、サンジの魂みたいに、生まれたての赤ん坊みたいに、甘くてやさしい。
すきだよ。
あいしてるよ。
オマエだけ。

「キモチイイな」
「ゾロ、」
あぁ、きっともう。
「オマエ以上なんか、知らなくてもイイ。オマエだけで、イイ」
抱きしめて、思う、告げる。
「オマエだけが、イイ」




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