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 「――――してほしいんだ?いいぜ」
 とろん、と蕩けた眼差し、散々泣いているにも関わらず、どこか艶を帯びた表情で請うサンジを、下から緩く突き上げる。
 くう、とサンジが喉奥で息を詰めていた。
 「――――あー、ケド。1回このドロドロ落として来ねェと、ちっと辛ェな」
 手でとろ、とした液を少し掬い上げた。
 「全部リネンに吸わせても、まー今更、だけどよ」
 くう、とゆっくりと腹の上のサンジを揺する。
 
 口を抑えようと手を伸ばしてきたサンジに、にぃ、と笑いかけた。
 「つわけで、手ェ伸ばしてティッシュ取って」
 ベッドサイドを濡れた指で指し示す。
 「落ちるなよ、」
 
 はた、とサンジが瞬く。
 「そこ、取れるだろ?」
 またゆっくりと腰を揺らす。
 軽いロデオライドみたいなモンだ。
 「とどか…?」
 途中でサンジの声が切れていた。
 「っぁ、」
 「ダイジョーブだって。オマエ手ェ長いし。オラ、頑張れ」
 
 手を伸ばしたサンジが、ギリギリのところで伸びきったティッシュを指先で掠らせ。
 少し身体を引き上げ、また息を詰めていた。
 「すこし移動しようか?」
 く、く、と小刻みに揺らす、僅かに。
 「ぅ、あ、ばか…っ、」
 「自覚はある」
 する、とサンジの足を乾いているほうの手で撫でる。
 びく、と腹の上で身体が跳ねた。
 「サンジ、零れる」
 くう、と内が締まって、ふ、と息を吐く。
 「焦らすなよ、サンジ」
 
 身体を押上げて伸び上がり。
 ふる、っとしながらティッシュを抜いて取った。
 肩まで赤く染まったサンジが、
 「――――ほ、らっ」
 そう言って寄越してきた。
 
 「一枚じゃ足りねーって」
 受け取り、腹の上に広げて置く。
 泡だった金色の液が吸われていくものの、全部を取り切れずに残っていた。
 「な?」
 
 サンジがくうっと息を詰め。
 脇腹に手をついて身体を引き上げ、呑み込んでいたモノを抜き、皺くちゃのリネンに降りて腕を伸ばし、
 箱ごとティッシュを投げつけてきた。
 片手で受け止める。
 
 ちぇ。
 もうちっと遊ぶ余裕がありゃいいのにな。
 ま、いいか。
 
 何枚か連続して抜き取って、腹を濡らしていたものを拭い取る。
 うーわ、結構量あったンだな。
 
 「じゃあちっと待ってろ」
 軽く肘を立て、うつ伏せになり、手の中に少しだけ顔を埋めるようにしてとろんと蕩けているサンジの背中をすい、っと
 撫で上げる。
 「あっちィままで待ってろよ」
 
 
 
 境界の曖昧になった身体を引き摺って。
 手の中にカオを埋めてた。
 目を開けても、閉じていても。上がりっぱなしの息も、熱もなにも変わりはしなくて。
 背中を撫で上げられて、さぁ、とまたそこから感覚が波立たされて溶け込んでいった。
 
 長く震えるような息を肺から押しだして、すこしだけ身体を押し上げた。
 立ち上がって、ゾロが何の物音も立てずに歩いていっていた。
 あー…、ふろば。
 行ったンだ。
 
 へたり、と力が抜けて。顔をそのままリネンに押し付けた。
 頭のなか、イメージする。
 腕を伸ばして、タバコ?探して。ライター、火、つけて。
 ――――だめ、だ。
 いらねぇ、
 欲しくねぇや。
 
 ぐ、と額をまた押し当てて息を一つ吐き出した。
 一人分の身体が奇妙だ。
 側にあの体温が無いのが、妙にリアルだ。
 
 水音がしてた。乱暴にタイルだか何だかに跳ね返る音。
 身体の上に、薄い膜が張ったみたいな違和感がある。
 あいつのたいおんとまざってとけたんだ、ずっと。
 それでだ。
 側に無いからだ、――――タバコより悪ぃ。
 
 ず、と。爪先がリネンを引き摺ったけど。無視した。
 身体を引き上げる。
 下に落とされてた枕、指に引っ掛けて拾い上げて。
 
 カオ埋めた。
 ドアの開いた気配がして、――――はや。
 無理やりに横目。
 ぱた、と水滴がいくつも床に落ちてく。ちゃんと、身体拭け、っての。
 柔らかな中に、またカオを戻した。
 はー…、きもちいぃ。
 ――――ゾロが、戻ってきただけで。
 
 かた、と音がしてた。
 アクア、水。何かに注がれる音。クリーンで、善きものの象徴じみた音。
 おれんなかに、いま臨界よりさきまでいっぱいになって揺らいでんのは。
 ―――なんだろう。
 また、息を吐く。
 あまったるくて、熱い。
 少し、身体が傾いだ。
 
 側までもどってきた体温。
 それがさらりとまた動いた。
 腕、あげられたら。いま。おまえに触りてぇなあ……。
 
 埋めていた顔を少しだけ上げて。目で確かめる。
 ちょうど、伸びてきていた掌が目の前に翳されてて。
 ちょっとばかり、驚いちまったけど。
 すぐに竦みかけた身体が弛緩していった。
 
 ヒトのこといいように嬲ってやがったクセに。同じ手がさらさらと髪を撫でてきた。
 半分わらって、そのまんま、伸びてた。
 聞こえてきたから。
 悪ィ、声かけりゃよかったな。そう苦笑交じりの声がいってきてんの。
 
 「―――いいんだって、」
 返す。
 「そか?」
 口元だけでわらう。
 おまえの手なら、おれはなにされてもいいんだって、わかったからさ。いいンだよ、なんかもう。ぜんぶ。
 言わねぇけど、てめえには。
 
 「―――ん、動けたらクソ蹴り倒してやらぁ…」
 目だけで見上げて口にする。
 素直じゃねーの、そうゾロが喉奥でわらってた。
 ―――だぁってよ。ソッチまですなお、なんてえのになっちまったら気持ち悪ぃじゃねえか?
 
 ふにゃけてあたまんなか、どろどろで。
 てめぇが横にいないと身体落ちつかねェのに。
 ―――ふーざけろ、ってんだ。ばぁあああかめ。
 
 
 
 
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