サンジが、どこか穏やかで。ガキみたいな雰囲気を纏っていた。
ガキはガキでも、コドモじゃなく、クソガキ。
あのチビは、無事に戻れたンかねぇ、サンジの深淵に。
そんなことを思いながら、サンジの髪を撫でる。
汗を含んで湿っぽくても、さらさらと音がするような金糸。
「サンジ、水」
空いてる方の手で、サンジの顔の前に掲げる。
フテ寝中のネコみたいに枕に顔を埋めていたサンジが、視線だけ上げてきていた。
「乾いてるだろ、飲んどけ」
「―――わかんね…、」
「オレが知ってるから。飲んどけ」
かすれ気味の声で応えてきたサンジの頭を撫でる。
「信じろよ、飲んだら乾いてるの思い出すから」
最後にサンジに水を飲ませたのは、メシを食わせた数時間後、なンかの話をしている間にだったし。
その後に“覚醒”してからは、泣いて、鳴いて、喘いで、の連続で。
乾いてない筈がない。
知覚できていないのは――――――ま、いいか。
オレが気を付けてりゃいいわけだし。
すう、と腕を伸ばしてきたサンジの髪を少し引く。
「零したら、寝るスペース無ェぞ」
「―――ふぁ?」
「あっちもそっちもドロドロになっちまってンだから。ここで零したら致命傷だぜ」
ほけ、っとした声で返してきたサンジに、笑って告げる。
「へー、き」
「ふ、ン」
ほにゃ、と笑って。
サンジが、てめぇの、うえで寝る、と。そう言ってきた。
笑う。
「オレを咥えたまんま?」
首を横に振っていた。
笑ってグラスをサンジの手の中に押し込む。
「それぁ、寝るっていわねぇの、気絶ての。」
そう言って、にひゃ、と笑っていた。
気絶、ねえ。
金色の魔法の液体の中にゃ、何が入ってンだか。
よくコイツも体力が保つ。
コップを受け取ったサンジが、
「おも…」
そう言って、指を滑りかけさせていた。
ふ…ン。
結構キてるか?
「持たなくていいから、少し身体起こせ」
グラスを手放す前に言う。
「――――んー…、」
気だるげにサンジが唸るように言い、肘をついて、僅かに身体を起こした。
浮き上がった肩甲骨が美味そうだった。
薄い吸い痕が浮かんでいる場所。
「ほら、」
グラスを口に当て、少し傾けてやる。
チビにもしてやったこと。
“覚醒”前のサンジにも。
同じ素直さで、こくっと飲んでいた。
上目遣いに見上げてくる仕種が、チビと一緒だった。
目覚める前のサンジは、反応が無くて胸が痛んだけれど。
もう少し傾けてやる。零さないアングルで。
こく、と飲むたびに上下する喉仏の所にも、淡い紅い痕。
美味そうに飲んでいるサンジを見下ろしながら、気付いたら怒り狂うかな、と小さな疑問が沸いた。
ま、そン時はそン時だ。バンソコウでも貼ってやろう。
見せ付けるくらいの勢いで曝されても困るしな。
なンせ、色気が上がってることなんざ、ちぃっとも気付きゃしねぇだろうし。
――――あー、船戻ったらオンナ共に確実になンか言われるな。
…帰るの止めちまおうか、面倒臭ェ。
こくん、と音を立てて飲み干したサンジが、すう、と手の甲に触れてきた。
「もっといるか?」
トン、と金に隠れた額にキスをして、訊いてみる。
濡れて赤い唇が蠢き。
「もっと、」
と音を紡いでいた。
「もっと、美味いの飲ませて?」
「“美味い”のって、なに?」
ことん、とグラスをサイドテーブルの上に乗せる。
まあ、意図してることは大体解るけど――――イタズラで痛い目に遭ったのは、そんな前のことでも無ェしな。
延々、抱いてばっかいた気がするけど。
「―――いや?」
「―――さっき、舐めて、って言ってなかったか、オマエ?」
すう、とサンジが目線を落としていた。
さら、とサンジの前髪を掻き上げてみた。
頭から垂れ落ちる水滴が、ぽとん、とリネンに弾ける音がする。
「うん、」
囁き声。
「…いいけどな、今度は意地悪ナシな」
きゅう、と柔らかな耳朶を指先で軽く摘む。
なンかのツボ。
「―――ぅんッ、」
きゅう、とサンジが首を竦めていた。
喉奥で笑う。
「で。上と下、どっちがイイわけ?」
渇いているんだ、と。
言われてみて、はじめてなんとなく。そうなのかな、と思った。
水分。
飲み干した水は確かに染透って美味かった。
それと同じだけの、多分渇きに似たものがまだおれのなかにあって。
口に出してみた。
そして、逆に。
問い返されて、意味があたまのなかでよく通らなかった。
「なに……?」
「上がイイ?下がイイ?」
さらり、と軽い語感が戻されて。
「ええと……?」
思わず頭のなかの声が外にでた。
「どっち?」
なんで決めなきゃいけないんだろううね、とぼんやり考えてたら。
背骨にそってまだ半分うつぶせていた背中を押し撫でていった。
さっきより、少しだけ熱さの引いた掌がきもちいい。
「へんなの、」
強いて言えば、おまえが「下」っていうのかな、と返した。
ひでぇことになったあんときも。ま、おまえが下、っていえば、下…?
なにが、とさらりと低い声が聞いてくるのをあたまがわかってても。
背中を押されてまた身体がとろ、と溶けた。
腕に力を入れて、半身をどうにか起こして。
座ったままのゾロの腿に手をかけた。――――あっち、ぃね。
身体を引き上げて。まだすこし水気が残ってるわき腹を唇で触った。
片足だけを引き上げて。
目線を上向けたなら、片目だけを細めたゾロと視線が交わった。
「オマエ、上の方がイイ?」
これって、上、って言うのかね?
どこか真意を確かめてるような。面白がってるようなカオだったけど。
かぷり、と。腰骨の上を齧った。
腕を伸ばして胸の辺りを押した。
ぺろり、と舌先を伸ばして。あたるクスグッタイ感触にすこしばかりわらった。
だってよー。
やっぱ最初、おどろいたもんよ。
なんつか。
睫とか、なんかこいつ。鳶色が混ざってて妙にカワラシイのに。
こっち、髪とまんま同じだし。
おどろくさー、そりゃちょっとはカレテッケド。
睫とかの方が、色味はかーわいいね。
ま、その下もきょーあくだから、別にかわいかなくてもいいのか?
まぁじ、無理だって思ったもんよ。
ぺろ、とそのまま舌を這わせた。先のほうまで。
なんか言ってるけど、よく聞こえねェや。
舌先で熱と容を確かめて。
絡めて、顎すこし浮かせて。
唇で挟み込もうとしたら。
イキナリ、足掴まれた。
「――――ふっぁ?」
なん―――。
そのまんま、持ち上げられて。
「ちょ…ゾ…?」
身体が引っ張り上げられて。頭がついていかね―――
―――え?
足の間、―――う、わ?
開かされて、膝がリネンにつく。
腰、掌に落とさせられて。
ぬめったモノに舐められた。
くちゅ、と。音が耳にやけに大きく響いて。
吸い上げられて、身体が跳ね上がった。
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