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 深く、噛み合わせるみたいに重なる唇のほんの僅かな間を息が漏れていった。
 濡れて重くなった吐息が熱いままに貪られていって。
 背に回した腕を落としかけた。
 身体の中心、通る線は震えっぱなしで。
 浮かせた背、腕を差し込まれて隙間なく半身を重ねて抱き込まれて喉を鳴らした。
 
 鼓動、直に響くかと思う。
 おまえだけで、おれのなかがいっぱいになる。
 絡めたままの舌を食む。
 下肢を押し当てられて。熱さに、びくり、と絡めたままで足が跳ねた。
 すぐに、欲情をまた示すそれ。
 
 「――――っ、ぁ、」
 唇を浮かせて、喘ぐ。
 僅かに。
 
 何度も押し当てられ、下肢がその度に強張って。
 触れ合うぎりぎりの距離で、ゾロの。口端が、くうっと吊上がっていくのが伝わった。
 近くにあり過ぎて、熱を溶かし込んだミドリしか見えなくても。
 唇だけで、名前を刻む。
 ゾロ、と。
 
 欲情を純粋に向けられてる、ってわかる。じわり、と中から濡れ零れるような悦楽に腰が捩れかける。
 燐光。
 底光りするヒカリ。
 見つめてきていたソレが変わる。その瞬間に、首裏から痺れがまた中心を逆撫でていった。神経全部を引き摺って。
 ぞおくり、と快楽に身体が芯から小刻みに揺れて。
 「ぞ、ロ」
 音が零れ出る。
 
 一瞬、燐光を乗せたソレ、瞳孔がすう、と開いたのを目にして。
 ふ、と濡れた息がまたこぼれてった、おれから。
 獣、野生のままにいっそ容赦ねえ、まるごと。おまえの寄越してくれるもの全部が。愛情も、同じだけの戸惑いも。
 
 名をまた呼ぶ前に、ぺろり、と唇を舐められ。
 「―――っぅ、」
 死ぬほど焦がれた。おまえに。
 背中に手、差し込まれて。浮かせたままだった背をゆっくりと掌が辿っていく。
 触れられるたびに、カーブの角度が変わってく。
 
 「ぞ、ろ…、」
 見つめてくる表情に息が上がる。
 きっと隣り合わせの眼差しだ、手が血に濡れるときと、「いま」とは。
 唇を、眼差しを絡めたままで寄せようとしたなら。噛み付くように口付けられて。
 思わず、浮かせた顎の先から辿り降りられて。
 喉、真ん中。
 身体の脆弱な場所を。
 強く喰い付かれて、びくり、と身体が反った。
 
 「は、ァ…っ」
 肩口にも同じように歯を立てられた。
 「あ、あ…っ」
 胸まで舐め降ろされていった。
 肌を吸い上げられた痕がいくつも残された上を。
 濡れて熱い感触が降りて。
 
 「あ、アっ、ぁ」
 立ち上がりきった胸の突起、きつく唇で食まれて背に縋った。
 身体がずらされてく。
 肌が、押し撫でられるなんてヤワなもんじゃない、辿り降りる舌で抉り取られてくんじゃないかと。
 皮膚を食い破って鼻面の濡れた獣、そんな絵が急に浮かんで。
 ぐぅ、と心臓が掴まれたかと思う。
 
 あ、あ―――。
 腹筋が緊張してる、わかる。舐め降ろされて、ぎく、とまた、肩が揺れて。
 自然と開いて、巻きつけるようだった片足まで、脚先まで震えが走り抜けた。
 舌とはぜんぜん違う。腰骨のとこきつく歯を立てられて。
 「あ、ぁ、い―――ッ、ぁ」
 踵がリネンを押しやって。
 それでも、身体を押さえつけられた手の下で跳ね上がってた。
 
 体温より、熱い、きっと吸い込む空気もなにもかも。
 「ゾ、ぉ、…っ」
 脚の奥、付け根のぎりぎり、くうっと吸い上げられて。息を上げる間もなくて。
 蜜をまた零してた、揺れてるもの、頬張られて。
 
 「―――ひ、あ、」
 喘ぎが嬌声にすりかわる。
 肩、手で握り込んで。
 熱すぎる熱に眩暈がする。
 咥えられたまま上下されて。
 「―――ぁあ、あ、っア、」
 押さえつけられて、掌の下で脚がぴくぴく震えて。
 
 貪り食われてる、
 「―――あ、っぅ、」
 何度か、爪先まで強張って。
 「ぞ、おろ、き、…つ、」
 絶え絶えで、声が、
 「あ、ンぁ、ぅう」
 
 ざ、と。爪で肩を裂いて。促されるままに、熱を零した。
 身体が一瞬容をなくして。
 「―――ぁ、あッ、ぁ、」
 くうっと吸い上げられて。
 波の天辺にいたまま、また引き上げられて。
 こく、と。
 ゾロが嚥下していく音がまた頭の芯を白くする。
 
 「――――っは、ぅ」
 喘ぐ。
 上げた眼差しが、薄い唇を舌が舐め上げてくのを捕まえて。
 そして。
 ぞくり、と足先から疼いた。
 
 抜け出ていかずに、痺れが身体の奥深くを貪婪にむさぼってく。
 ケモノの眼。強い眼差し。一心にみつめてくるのは―――
 眼差しの対象、は。おれ、なのか…?
 湧き上がる、渦巻く。熱病じみた想い。
 掠れて、熱の上がりきった声だ。
 おまえの名前だけだ、おれが呼ぶのは。
 
 にぃ、と。
 唇が捲れ上がって、尖った牙が覗いた。
 見つめた。焦がれる。
 それで、食い破ってくれよ……?それが、おまえの望みなら。
 「―――ぞ、ろぉ」
 
 
 
 理性と本能の綱渡りだ。
 狩りの最中と同じ駆引きをしながら、押さえつけた肉体を喰らう。
 
 全身が、最低ラインの配慮しかしてない乱暴な愛撫に跳ね上がり。
 まるで活きのいいエモノだ、喰って、気持ちよくして、と強請ってくる。
 さらりとした体液を飲み干して、どうやって喰ってやろうかと目を細める。
 
 口端に零れた蜜を舌で拭いとり。
 「―――ぅ、ン、ゾ…ロっ」
 餓えきっているだろう視線を感じてか、一瞬身体を震わせていた。
 快楽が滴っているような声に、一層笑う。
 
 蕩けた視線、快楽に酔い、喰らわれる瞬間を強請って潤む蒼。
 乱れた金に縁取られ、酷く淫靡で。
 餓える。
 手を伸ばし、サンジの腕を押さえつけ、一気に伸び上がる。
 間近で視線を絡ませる。
 少し眉根を寄せたサンジの蒼は、それでも潤みきって、蕩けていて。
 
 「―――がぅ」
 にぃ、と笑って、ケモノらしく吼えてみせた。
 くうう、と目が細められ。
 サンジがとろん、と笑い、一気に纏う雰囲気が甘く、重くなる。
 すう、と首を伸ばし、喉を曝し。
 「おまえの、」
 甘く掠れた声がそうっと囁いてくる。
 
 喉仏の上、差し出されたその場所からすこしずらした場所に、ゆっくりと口を押し当てる。
 浮かせた歯を、肌に触れる直前で仕舞い、変わりに唇で食む。
 きゅう、とサンジの脚が片方、絡まってきた。
 甘い長い息が、サンジの口から零れ落ちていった。
 「…ゃ、噛んで、ほし、」
 苦しそうな声が、それでも蕩けたトーンで言ってくる。
 
 噛む変わりに、強く吸い上げる。
 確実に紅く痕が残るように。
 「んっ、く」
 火照って赤く染まった肌に浮く、血に染まった傷のように鮮やかに残るように。
 
 くう、と頭を抱きこまれた。
 息の続く限り吸い上げ、息を吐くのと同時に咥え直し、また強く吸い上げる。
 「ゾ、ロ―――っ」
 
 声が、耳に直接落とし込むように囁かれた。
 縫い留めた肉体が、奥深いところから揺れるように、ゆっくりと震え。
 コイツハオレノモノダ。
 そう本能で納得する。
 
 息を吐いて、口を緩め。
 願い通りに真っ赤に染まった痕を、舌で舐める。
 「ふ、ぁ、」
 何度も染まった場所を舐めて、舌先に乗っていた甘い塩辛さが消えるまで続ける。
 
 キモチイイ、と声にせずにサンジが伝えて来、口端を吊り上げる。
 反らされた首から僅か上のところにある、ピンクの柔らかな肉を見付け、じわ、と満たされた筈の飢餓感が舞い戻る。
 
 首を擡げ、くう、と犬歯で耳朶をピアスする。
 「んっあ」
 肉を噛み締める幸福。
 けれど今は、赤い体液より甘い蜜が欲しい。
 
 手を伸ばし、サンジの頭上にある枕を掴む。
 顎の力を緩め、変わりに吸い上げ。
 サンジの腰の下に手を入れ、身体を浮かさせて、それを押し込んだ。
 「―――ぁ、ん」
 耳朶を口から外し、くちゅ、と音を立てて舌を潜り込ませる。
 ぬくぬく、と蠢かせる。
 意味、解るよな?
 
 「ぁあ、ァ…っ」
 溜まらずに首を逸らせたサンジに、くう、と笑ってから身体を浮かせる。
 無意識にリネンを引っ掻き回していた脚を掴み、割り開かせる。
 「んぁ、」
 
 膝を胸の横に着くくらいに、引き上げ、押し留め。
 熱い息を零しているサンジの頬が赤く染まり、きくっと震えるのを見届けて。
 それから、ぱくりと口を開いたままの場所に口をつける。
 
 苦しげな姿勢のまま、それでも蒼が逸らされることはなく。
 視線を絡ませたまま、舌を伸ばして縁を掠めさせる。
 熱に乾いた場所は、僅かに甘辛く。
 ぺろり、と舌で唇を舐める。
 ショクジノジカンダ。
 
 
 
 
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