息が落ち着いてから。
とろん、としながらも離れようとしないサンジに、風呂行くぞ、と告げた。
カーテンを閉めることのなかった窓からは、白みを帯びた空が現れ始めていて。
何時の間にか、夜が明けようとしていた。
あん、と耳を甘噛みしてくるサンジを起こし、抱きかかえる。
抜いてからいこうか、抜かずにいこうか迷って、
「―――――ん、」
息を零していたサンジから、ゆっくりと突き入れていたモノを引き抜いた。
とろ、と内に注いだ蜜が一緒に溢れ出て、伝わるその濃さに笑った。
サンジの指が、きゅうと肌に縋ってきた。
内は追いすがるように収縮して。
「――――ぁ、ン…っ」
息を殺していた。
また僅かに朱が散った頬に口付ける。
「ほら、行くぞ」
「あ、るけね……、」
腰に手を当て、抱き上げる。
「問題無ェ」
頬を押し当てたまま、ベッドから降りてバスルームに向かう。
肘でドアハンドルを押し、背中でドアを開け。
白いバスタブの中に抱え上げたサンジごと入る。
「ほい。到着。立てるか?」
「勿体、ねぇなあ、」
ぼーっとした声で抱きついたままのサンジが小さく呟き。
「また次があるだろ、」
と返せば、
「せっかく、おまえでいっぱいになれてんのになぁ、」
そう続けていた。
ほけ、と見上げてくる。
思わず笑って見下ろせば、サンジもとろんと微笑みかけてきた。
「サァンジ、」
ぎゅう、と抱きしめて頬を摺り寄せる。
ふん、と返される。甘えてンのかね?
「次は魔法の金のシロップなしで頑張ろうな、」
「んんー…?」
「そしたら、もっと“オレ”だけでいっぱいにしてやれるぜ?」
にぃ、と笑いかけると。
サンジの蒼が、きらんとヒカリを放っていた。
笑う。
やっぱり、オマエ。相当タフだぜ。
立てるか、と聞かれて。正直に、わからねえ、と答えた。まだ腕の中に抱えられたまんまで温かいのに包まってた。
足、あるのはわかってるけど。立ってられるかは、わかんねえよ。
「―――降ろせ?」
首に、片腕を巻きつけたままで言った。
つるり、とした冷たさが足先に触れる。ゆっくりと降ろされて。
とりあえず、まっすぐに身体は線が戻ったみてぇだけど。片腕を首にかけたままで、半分以上身体を預けた。
ふにゃり、と。固い表面に触れたハシから上手く力が入らないことを知る。
ゆらり、揺れかけてまた縋った。背を軽く掌で何度か弾ませるみたいにされて。
耳が、さああと流れる水滴の音を捉える。
おれの背中の後ろ辺り、片腕だけ伸ばしたゾロの腕の先の向こう側から。
足先、温まった水が流れていくのが感じられる。
飛沫が足元を濡らしてって。
首の後ろから、肩、背中。順番にゆっくりと掌が触れていって。そのあとを、同じだけ肌に染み入る温度の水が
流れていく。
「ぞ、ろ、」
だめだ、眩暈する。
「んー?」
「―――――だめ、だ」
くたり、と。全身を預けて。
なにが?と辿る手と同じ、それよりもきっと柔らかな声で返される。
「たって、られね……、」
腕の下に手を通して支えられて。
「ん……、」
ため息混じりに体重を預ける。
片手、ゾロの心臓のうえに沿わせて。
ず、と身体を少しずらせて。手の甲越しに口付ける。
「じゃあ、ゆっくりと座れ」
そんな声も聞こえたけれど。
ふぅ、と。重い吐息だけが漏れてって。
直に、汗の引いた肌を舐めた。
傷の上、舌を這わせて。傷の独特な引き攣れとつる、とした境目を確かめた。
ゾロが喉奥で笑ってた。
「―――きすしてる、」
また、つる、と唇を少し下ろせば。
くうっと背中を抱きしめられて。おれの身体ごとゾロがバスタブに座り込んだ。
腰のところまで、ぬるま湯に浸る。
「―――――んぁ、」
きもちいぃ。
ゆら、と拡がる。温かさと一緒に、息を上げずにすむ熱情とはちょっと離れたところにある身体の気持ちよさ。
へたり、と。額を胸にくっつけて。上がった前髪がゾロの胸元にくっついてた。
ぞろ、と。肌に唇を触れ合わせたままで呟く。
あったかい、きもちいい、と。
まるっきり、頭のネジが緩んじまって。どこの足りないがきだ、って口調だったけど。
気分がいいんだから、しょうがない。
さっきから、ずっと。
ぶっ壊れるかと思ってた心臓が全力疾走した後みたいに跳ね上がってたさっき、熱すぎるものを注がれて震えた後も。
上がるばかりの息とは反対に、すうっと静かに拡がっていくものも確かにあって。
それは、今も変わらない。
きつく抱きしめられて。信じられないくらい充たされてた。
深いところで口を開けてた何か、それが収まりかけてるのがわかった自分でも。
でっかいいぬみたいに、このオトコが身体を預けてきて。わらってた、多分。
おまえが、あまえたおしてくんのめずらしいね、そんなことを思って。
いぬなんだか、ケモノなんだかそれよかもっと性質の悪いモノなんだか、わけわらねえな、と。
あっつい息の合間に思ってた。
でも、きっと、おまえはさ、まえ。ずっとまえにも思えるけど、前。
自分で、おまえのなかには「やべぇモノ」抱えてる、ってさ。
言ってたけど。
そんなモン、―――どうとでもなる、ってなぁ?だってさ。
『おまえ、おれのことすげえ、愛してんじゃねえの』そう言ったら。
『そうだって前から言ってるだろうが、』
そう当たり前みてぇに返してきてた。
『なァんだ、やーっぱりコトバがまにあわねぇや。なれちまったよ、伝説の魔獣使い、』
愛してます、の別の言い方。みつけてねぇのに。まだ。
おまえのこと、「あいして」んのか、もっとわかんねぇのに。
ぐるぐる、想いばかりが絡まって重なって。確かに、「すき」なんて単純な想いでもなくなってて。
ますます、おれんなか。てめえで埋まってるのに。
項から、指突っ込んで。
ぐしゃぐしゃに、ゾロの。後ろ頭撫で回した。引っ掻き回して。
『惚れまくって、バカみてェに恋してる、って。そう言ったろ、何度も』
くう、とひとりでに口端が吊り上って。
眼を下から覗き見てたら、また抱き締められて。
耳元、まるっきりガキみてぇな笑い方で、ちっさくコイツが笑ってた。
『ケモノのコドモか。おれぁ、餌付け上手いんだよ』
ふにゃけた笑い顔で。
ハナサキにかるく音立てて口付けて。
ぎゅうう、と腕に力入れて抱きしめ返してた。
耳のとこを、甘く。ゾロの歯が噛んできて。
あまったるい息が音を乗せて零れてった。
落とし込まれる。
『――――がぅ、』ってヤツだ。
すーげ、かわいー……。なんのコだろうねぇ?
『かーわいいねぇ、おれもオシマイだ、』
足をもっと絡めて。
下肢を押し上げて。とろとろな気分のままでわらってた。
さっきも、すげえ気持ちがよかった。
でも、いまも――――、きぶん、いーなァ…
とろん、っと。サンジが蕩けてた。
ふにゃふにゃに笑ってて、預かっている身体も、それが纏う空気も。
優しく解れていて、甘かった。
オマエ、いま幸せだな?
オレの腕ン中で、幸せなんだな?
――――――へへっ。
うん。オレも幸せ。
オマエが嬉しくて、オレも嬉しい。
サァンジぃ。
声に出さずに、抱きしめて呼びかける。
呼びかけても、告げる言葉なんか、思いつかないから、抱きしめる腕で呼びかけるだけにする。
ふにゃ、と笑顔のままで、胸元、すりすりと頬擦りされる。
頬を預けたまま、斜め下から見上げてきて。またとろん、って微笑んでた。
にひゃ、と笑う。
あーあ。
ガキ臭かろうが、ケモノ臭かろうが。もーなんだっていいや。
スキダヨ。
笑ったまま、こめかみに口付けを落とす。
オレをスキになってくれて、アリガトな。
ふわん、とサンジが目を閉じていた。
暖かな湯が、さああ、と流れていく。
「きもちいぃ、」
「ん、オレも」
ふは、と笑い声を上げて笑う。
たぷん、と静かに満ちて始めた湯を、脚を動かしたサンジが揺らした。
「ゾォロ、」
吐息で呼ばれる。
すい、と重くなっている金に口付ける。
腿を跨がせるように向かい合わせで座らせ、抱きとめていたサンジの背中をそうっと撫でる。
サンジがまたゆっくりと脚を引き上げていた。
たぷっ、とまた水音が小さく上がる。
じい、と見詰めてきていた。
ガキみたいな熱心さで。
それでも、これは。
――――愛することを知ってる目、だ。
そうっと腕を片方緩め、サンジの頬に濡れた指を這わせる。
サンジがまた湯を揺らし、艶を佩いた笑みを浮べた。
くう、と口端を吊り上げて、見下ろす。
「どっち、さきに。しようか…?」
「――――どっち、って?」
「貰うモノ」
前髪、そっと指を差し込んで、上げさせる。
「うン?」
そうっと降ろしたその指を、サンジがあん、と雛鳥のように捕まえ。
く、と舌を絡められた。
目、合わさったまま。
ぬく、と動かされる。
「…オマエはどっちがイイ?」
舌を指でそうっと辿る。
熱く濡れた粘膜を、指の腹で味わう。
きゅ、と指先を吸い上げられた。
笑う。
「さき、こっち」
「―――――中、辛く無ェ?」
とろとろの声に訊く。
「どうせ、感じちまう、」
壮絶な色気を含んだ顔で、微笑みかけられた。
目元、泣き過ぎと睡眠不足で、暗い影が落ちていて、さらに色気が倍増していた。
「たらたら零れてきちまわね?」
ふう、っとサンジが笑った。
「信用、してんよ…?おまえ」
うわ。
思わず笑う。
そりゃどっちの意味だろう?
迷わずオマエを喰っちまうことを?
それとも、喰ったあと、ちゃんとするってことを?
「だぁって、さ…、」
濡れたサンジの赤く火照った唇を指先で撫でる。
「―――ン?」
くう、とサンジが笑っていた。
「おまえ、まえ、いってたじゃねえ?」
ウン?
ぺろ、とサンジが舌先で指を撫でてきた。
笑ったまま見詰める。
「出されたものは残さず喰う、て。なんだっけ?なんとか喰わぬはオトコのなんとか、っつって…」
「据え膳」
くくっと笑ったサンジが、酷く色っぽかった。
「おれ、ソレ。」
「…そりゃな、美味しく喰うけどさ」
ぺろり、と耳の天辺を舐める。
「“Do you love me Master, no?”」
“おれのこと、あいしてくれますか、マスタァ?”
――――――ナミに借りた本に書いてあったモノの引用。長ったらしい名前の、古の作家の。
きゅう、と唇が、三日月形に吊りあがっていた。
僅かに首も傾けられて―――流し目?
「Why think I will not?」
なンで愛さないなんて思うよ?
当たり前ダロ、ココで喰わぬがオトコの恥、末代まで笑われらぁな、ってわけじゃねぇ。
ただ、そんなに求められて。
応えたくならないわけが、ねぇってだけで。
「But, you love me too,」
オマエも。愛してくれンだろ。
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