何度も名前を呼ばれて。そのたびに何かが内側から溢れていった。
静かで、あったかくて、安心できて、気持ちが良くて。
ムカシ、ずっと欲しくて欲しくて、けどそんなモノがあるなんてちっともしらなかったモノたち。
齎されて、嬉しい。
柔らかい女のヒトの腕が好きだった。
けど、いま。おれが貰ってるモノの方が遥かに、直に。
なんだろう?
―――うまくつながらねぇけど。頭を撫でられてるみたいだ、多分。
「腕」がなぜだかずっと妙に怖くて、ガキの頃にあんま大人連中に触らせなかったからかな、と。
そんなこともどっかでぼんやり考えて、でもただ、単に。
もっと呼べ、と強請って。気持ちの良いなかに埋まっていた。
薄く開いた唇から、かってに息が漏れていって。
髪に潜り込んでた指先に、耳元をくすぐられてまた吐息じみたソレが零れていった。
目を閉じたまま、伝わる温度と柔らかな音に意識を全部あわせてた。
そして、クン、と神経が引っ張られた。
「サンジ、なぁ…、」
穏やかに、それでも欲情した声。
あったかいばっかりだった内側に、ぽん、と火種の元が落っことされたかと。
「―――ぅ、ん?」
くっついちまいそうな瞼を開けて。
ゾロに笑いかけた。なぁん?
「オマエのフルコースも、喰っちまってイイ?」
ゆら、っとまた。縁にぎりぎりまで溢れたなにかが中で揺れた。
優しいくせに、どっかで笑ってるような。
あぁ、オマエの声だね、ゾロ……?
「ダメだな、抑えきかねーわオレ」
そう続けて、笑っていた。
―――ゾロ。
鍛錬マニア、ってからかって呼ぶけど。オマエが結構根はストイックなヤツだってこと、知ってるよ?おれ。
「自分を否定しないけどな、そんなもんか、」
そう続けて笑ってるヤツを見つめた。
そのオマエがさ、そういうのって。―――クるんだけど、かなり。
それに……さ?
「なんで?」
目、みつめたままで言葉に出して。そのあまったるい具合にすこしだけ恥ずかしかった我ながら。
おれが言ったことにだろう、ふ、と。ゾロが目を細めていた。
「なぁ、なんで抑えんだ?」
だって、おれ。言ったろ?おまえに。
「おれに、なにしてもいいんだ、って。おまえはさ?」
すう、っと浮べられた笑みに、ああ鍛錬不足。若さってヤツを知る。
いや―――愛情ってヤツの深い場所にある暗闇のカケラ。
そんなに簡単に明け渡すなよ、たとえ約束したことであれ。
オマエはしっかり、オレの中に潜むケモノを知っている筈だ。
それなのに。
「ちっとひでぇ抱き方になるかもしンねー、」
「いい、おまえだもんよ、」
目を逸らさないで告げるサンジのコトバが、溜め息に混じっていた。
くう、と瞳孔が開き、狩りをするのと同じ昂揚感が沸き起こる。
ヤバい。
だから、そんなにオレを煽るなよな、
「泣かせて鳴かせてドロドロになってから、喰いてェ、」
ああ、オレは。己の欲深さを見誤ったことは、まだ無いんだぜ?
そう言ったからには…オレはそうしちまうぜ?
「い、……よ?」
潤んだ蒼が、理性の鎖をするりと緩める。
ふ…ン、なら遠慮しないぜ、オレは。
けれど。それでも素直に飛び掛るのは、なんだか面白みが無くて。
「…イタダキマス、」
そう言って、両手を合わせてみた。
ぱむ、と音を立てて、空気が震える。
すい、と前に身体を倒し。その前にある手の甲を、サンジが舌を伸ばして舐めてきた。
濡れた感触に、我ながら目が爛々としてきているのが解る。
挑むように向けた目に、蒼が合わさる。
「ゾロ、」
溜め息みたいに呼ばれて、くう、と口端を跳ね上げた。
「…なンだよ?」
「おまえがイイなら、いいんだ、」
…な?と言って、ふあん、と瞬いたサンジに、目を細める。
「ふ…ン、」
笑って見詰めてみた。
「ヤダつっても、許してやンねーかもよ、」
茶化したトーンで言う、けれど紛れも無い本音。
それじゃあ、美味しくいただいちまうとするかな。
する、とサンジの腕が伸ばされ、着ていたTシャツの下に手を差し入れられた。
さら、と肌を撫でられて、笑う。
ああ、オマエもオレを欲しいよな。
ゆっくりと手を伸ばして、サンジのシャツのボタンを外し始める。
焦らすようにゆっくりと。
指先でカチカチと当たる小さなソレが妙にショクヨクをソソる。
時々指先がサンジの肌を掠め。その度に、ふ、とサンジが笑っていた。
少しくすぐったいのか、僅かに震え。
頬に口付けながら、シャツを脱がさせた。
さらさら、と掌でTシャツの中を探ってくるのを、邪魔して。
シャツを放り投げ、サンジの身体を抱え上げていた姿勢からリネンへと押し倒した。
「――――っふ、」
笑っているサンジにそのまま覆い被さって、間近で見詰める。
ふ…ン。
オマエ、オレだけに夢中だな、やっと。
ゆらゆらとしている蒼が、オレだけを見詰め返してきていた。
行動を待ちわびている目線。
にぃ、と笑って唇をぺろりと舐めた。
「んっ…、」
そろりと手を動かし、僅かに腹に触れてからズボンのボタンに手をかける。
シャツをつう、と引いていた指が、きくっと跳ねていた。
笑ってズボンのジッパを引き下ろす。
「ぞろ、」
ガキの口調。
コドモの夢中さでオレに夢中になっているサンジ。
笑いかけると、サンジが後ろから指先を潜り込ませ、デニムのボタンフライを一個弾いた。
脱がされていく感触を味わいながら、舌先をサンジの口内に潜り込ませる。
器用にぱらぱらと一気に外したサンジが、足を絡めてきた。
同時に差し出された舌先を吸い上げる。
くう、と固めの生地を引き下ろされた。
くちゅ、と舌先を絡めて味わう。
「―――ンん、」
着ていたシャツを自分で脱いだ。
サンジが喉奥で僅かに笑い、デニムをもっと下まで引き下ろされていた。
軽く膝立ちになったまま、サンジのボトムも引き下ろす。
口付け、解かないままに腰を浮かせ、足を抜き取り。
ベッドサイドの椅子に放り出す。
「―――っふ、ぁ、」
デニムもサンジの足に助けられながら、脱ぎ去った。
それもベッドから放り出す。
サンジが息を零していた。
その合間に名前を呼ぶ。
「サ、ンジ、」
アイシテル、というコトバの代わりに。
サンジの踵がマットレスの上で、僅かに跳ねていた。
「―――は、」
息を呑んで、くうう、とサンジが笑う。
一瞬だけ口付けを解いて、Tシャツを脱ぎ去った。
それも片腕で放り出して、またサンジに口付ける。
掌で、サンジの髪の柔らかな感触を味わいながら。
そのまま頬とか、耳とかにも手を伸ばし。
サンジの手が、肩から背中までたどり、きゅう、と縋ってきた。
口付けの間から零れ落ちる甘い息。
「ゾ、ぉろ…」
口蓋のざらざらとしたところを舐め上げ、歯列をなぞり、歯の一本一本を確かめ。
またくう、と舌を絡ませ吸い上げる。
背中、僅かにぴり、とする。ゆっくりと爪が埋まっていく感触。
こく、と溢れそうになっている唾液を、サンジが飲んでいくのが喉の動きでわかった。
首筋から肩に掛けて、掌で味わう。
サンジの身体が、ふる、とまた震えていた。
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