| 
 
 
 
 「―――っぅ、ん、」
 滑らされる掌の熱さを追って、身体が震えた。
 この場所に入ってからずっと、それからよく覚えていない間もずっと、「抱かれていた」ってのは本当なんだろう。
 声や、少しのことであっさり。
 息が上がりかけて、まだどこか浅いところに隠れていただけの快意の欠片がすぐに姿を見せつけて。
 
 深くなるばかりの口付けに背中に指先で縋った。
 呼んでくれ、と強請ったそのままに。幾度も名前を呼ばれて。
 そのたびに、心臓の裏側から指の先までなんか妙にじんわりとあったかくなった。
 跳ね上がりかけてる鼓動とまるっきり正反対で。だけどすげえ、嬉しくって。
 
 本当に、おれは。コイツが好きなんだ、と。そればっかりを思った。
 やさしくしてやれなくってごめんな、と。いつだったかおれ、コイツに言ったけど。
 案の定、やっぱりいまもそれは出来てなくって、マジ、悪ぃ。
 
 肩から、背中のところ。掌で撫でた。せめてものキモチ。
 オマエから貰うモンの方がキモチ良すぎて、そのまま首に腕掛けるみたいになっちまったけど。
 溢れかけて嚥下して、ちっさく喉が鳴った。オマエから貰うモンは美味いよ。
 
 口付けが解かれて。サミシイと思う暇もないタイミングで、声。
 「サァンジ、」
 甘やかされてる、ってわかる。そんな声がおれの名前を綴っていって。
 ずっと、肩口にあった掌が腕を撫で下ろしていく感覚に息を吸い込んだ。
 「―――ぁ、」
 指先を強く握りこまれて、あわせていた目線が瞬きで遮られて。
 手首からまた逆に辿られて、柔らかに感覚を波立てられていくのがわかる。
 「んんぁ、」
 
 息を吐き出すだけなのに、音が喉を競りあがっていった。
 触れられて、肌もその下も体温が上がっていく。
 頬を掠めて上がっちまった顎のあたりまで唇が辿っていくのがもどかしいくらいキモチいい。
 「は、ぁ、……ぅ」
 息、あっちィ。たったこれだけで。
 
 「キモチイイな、」
 嬉しそうな声。捕らえて、またなにかが溢れかける。
 ふらふらしてた指先を、背中に埋めた。
 引っ掛けとかねぇと、どっか流されていきそうだって。
 そう言おうと思ったのに。
 喉元を吸い上げられて。ぴく、っと足先が強張った。
 
 「―――ろ、」
 じわ、と熱さが肌を通り過ぎて伝わって。
 「―――ぁッ、」
 目がくう、と細められて。拡がる熱さとほんの少しの痛みに似た快意の破片で、肌に痕を残されたのだと知った。
 「ぞ、ろ…」
 ひどく小さい声だ。触れてくる手がくれるさらさらした感覚に、それでも揺れてる。
 肩口を、あむ、とあまく食まれて、身体が強張る。
 「ふ、っう、ん」
 
 踵がリネンの上をちょっと滑った。
 吐息と一緒に強張った身体を柔らかに触れられて、喉で音が撓められた。
 する、とほんの少し腹のあたりに指先があたって。
 「ぞろっ、」
 かってに声が上ずった。
 先を強請りかけて、息と一緒に飲み込んだ。
 
 
 
 声が強請っていた、甘いトーン。
 聴く度に、どこかが軽く痺れるような幻想に襲われる。
 一瞬、どうすればいいのか迷い。
 けれど、勝手に指先が窪みを辿り始め、行動は続けられる。
 
 「オレもオマエに呼ばれるの、好きだぜ、」
 呼ばれたいと強請ったサンジのコトバを思い出す。
 名を呼ぶ、意識を向けられることを望む、イコール、求められるということ。
 
 きゅう、と裸の背中に指先が縋った。
 首筋を味わっていた唇をゆっくりと動かし、なだらかなカーヴを描く胸筋を舌で辿る。
 舌先に僅かな塩味、熱くなった肌がサンジの置かれた状態を説明してくる。
 ゾロ、と溜め息混じりの声が呼んでいたけれど。
 
 「―――は、ぁ、」
 鎖骨を吸い上げる前に、背中がリネンから浮いていた。
 際立った骨を唇で食む。
 窪みがさらに深くなったように思えて、ゆっくりと丁寧に舌を這わせる。
 く、と髪に指先がもぐりこんできたのを感じる。
 ぺろり、ぺろり、と舐め上げながら、ふい、と伸ばした指先で小さな胸の突飛を転がした。
 「あ、アッ、」
 足が跳ねたのが、衝撃となって伝わってくる。
 
 キモチイイ、んだよな。
 オレにされていることは、キモチイイんだよな。
 あんなに何度も肌を重ね。
 馬鹿みたいに飽きることも無く、確認してきたのに。
 安堵する。
 何度でも安堵して、嬉しくなる。
 ああ、だからオレはただ単に、本当は。
 「スキだよ、サンジ」
 囁きより潜めた声で告げる。
 
 酷い結果に終わったイタズラを。
 本当は許してもいいのかもしれない。
 コトバや動作を信じられないことなど。
 本当はどうでもいいことなのかもしれない。
 けれど。
 疑い続けることは、不幸だ。
 余計なステップを踏まなければ真実に到達できないということは、なにかを消耗させるから。
 
 オマエが好きだから。
 ただ単純に、愛しているから。
 それだけのことを、最大にして、オマエに差し出したいから。
 複雑になる必要は、どこにもないと―――
 
 「ゾロ、」
 消え入りそうな声が、幸福と思考の間に揺れていた意識を引き戻す。
 「も、―――っと、」
 
 ああ。言っても平気か?
 オマエ、傷付かないよな。
 コトバを、封印しちまえばいいのかもしれないけれど、押し込めても後から後から湧き上がるソレ。
 だから。
 「スキだよ、サンジ」
 湧き上がる笑みと共に、音にする。
 コトバには霊が宿り、そこに意味が生まれる。
 オマエに差し出す言葉がオマエの中の迷える子供を、いつの日か、助け出せればいいのに。
 
 心臓の上に、想いを込めて口付けを落とす。
 ひくり、とサンジの過敏になった身体が揺れていた。
 視線を跳ね上げると、強く目を閉じたサンジがいて。
 指先で、サンジの中に沸き起こっている快楽を、さらに呼び起こす。
 溢れさせるために高める。
 
 ゆら、と瞼が上がり、潤んだ蒼が一心に見詰めてくる。
 「サンジ、」
 餓えよりも強い感情が音を彩る。
 オマエのことを、愛してる。
 
 「あ――――んぁ、」
 蕩けた声、不安はどこにも見えない。
 快楽に浸り出しているのだろう。
 それでいい。
 オマエがキモチイイと、嬉しいんだから。
 「いい声、」
 
 肩に落ちた指が、またくう、と埋め込まれていく。
 指先で弄くり続けているのとは反対側に、口をつけた。
 「んんっ、」
 尖った小さな飾りではなく、脇の、筋肉と筋肉の合間を食む。
 先に濡らしてから、吸い上げる。
 
 ふる、とサンジが震えていた。
 「ぁア、」
 くちゅ、と吸い付いてから、ゆっくりと飾りに舌を伸ばした。
 刺激され続けている反対側と同じくらいに、一瞬で固くなり。
 舌先で弾く。
 「あ、―――ゾ、…ろッ」
 
 びくん、と身体が跳ねていた。
 何度も弾いては、唇で強めに食む。
 指先でも、反対側をきゅう、と摘み上げ。
 「んぁ、う」
 鳴いたサンジが、リネンに頭を擦りつけるのを感じ取る。
 
 「サンジ、」
 低い声で呼びかける。
 「痛かったか?」
 そうっと優しく、強く摘んだ場所を撫でる。
 すっかり朱を帯びた肌、熱って甘い匂いを放っているようだ。
 「あ、ぁあっ……」
 泣きそうな声に、嬉しくなる。
 唇で先端を辿り、舌を絡めて吸い上げる。
 そのまま甘いピンクを舌先で辿るように、円を描くように濡らして。
 
 焦れたのだろう、思わず、といった風に腰を押し当ててきたサンジが気付き。
 さああ、と肌をさらに赤く染めていた。
 「まだまだ、」
 もっとドロドロに蕩かしたいからな。
 折角の時間だから、もっと濃密にしよう。な?
 
 「―――ゾ、ォロ、」
 小さな声に、ぺろりと突飛を舐める。返答。
 「ぁ、ンッ……!」
 強請る声に、勝手にアタマが悦ぶ。
 くう、と指先で反対側を強く摘み上げる。
 「―――っア、あっ、」
 もっと、なあ、ハズカシイなんて思えないくらいに。
 オレんこと、欲しがれよ
 
 くうう、と指先がリネンを握っているのが目の端に見て取れた。
 ふ、ン?
 「―――、ぞ、ろ……っ」
 胸の突飛から唇を離し、脇の方へとゆっくりと辿る。
 舌ったらずの声が、快楽の深さを物語る。
 聞き取れるけれど、言ってほしいのは―――タダのワガママ。
 それでもいいから、聴かせて、な?
 「キモチイイ?」
 
 
 
 
 next
 back
 
 
 |