サンジが、どこか傷付いたような眼差しで、見詰めてきた。
頬にそうっと口付けて、涙が零れ落ちていった跡を辿る。


くう、と目を強く閉じていた。
吐息で、ゾロ、と上がった息の合間に囁いてくる。
「…キツいか?」
ぺろり、と目の端を舐めて、涙を掬い取る。
サンジが小さく首を横に振っていた。ふ、と息を詰めて。

「じゃあ、もっと気持ちよくなれよ。隠すこと、無ェぞ」
ゆら、と瞼の合間から、蒼が覗いた。
笑いかけてみる。
「オレがオマエを気持ちよくさせてンだから。感じてくれたら、オレは嬉しいんだぜ?」
サンジがほんの少しだけ、笑みを浮べた。

昨日まで散々抱いていただけに、今日始めてサンジがこの手に零した蜜は、酷くさらりとしていた。
妙にまっさらで、ガキみたいな顔をしたサンジが見詰めてくる中、濡れた手を持ち上げる。
ぺろり、とサンジの蜜を舐め取る。
「あ、」
熱かったそれは既に冷えていて、けれど、どこか甘い。
「いくらでも、欲しいって言ったろ?」
はたん、はたん、と音を立てていそうな勢いで、サンジが瞬いていた。
ぺちょ、と音を立てて残滓を舐め取る。

「ぞろ?」
あどけない口調のサンジの目の前で、視線だけをサンジに向けながら、指の間に溜まった白濁したソレを舐め取る。
手の甲まで垂れていたのにも、舌を伸ばして舐め尽くす。
それから、ゴチソウサマ、の意味を込めて、サンジの頬に口付ける。
「なンだよ、」
「ゾロ、」
「あ?」
どーした?

両腕が首に回され。ぎゅう、と抱きしめられた。
「ど……しよ、」
「なにが?」
合わさった胸から、走るサンジの心音が響いてくる。
「すきだ、」

すい、とサンジの頬を唇で撫でる。
「ん」
オレんこと、スキか。
唇にも口付けた。
「いつか、―――し、じてな……?」
間近で、サンジの目に涙が盛り上がる様を見つめた。

オマエね、マッタク。
ごち、と額を合わせてみた。
「あーんな、」
ぐう、とサンジが涙を堪えているのが、目の下で見える。
しょーがねーな、オマエ。ったく。なぁんでわかんねーかね?

「いくら疑心暗鬼になろうとも、この状態で疑えると思ってンのか?」
吐息混じりに本音を告げる。
「んん?」
こら、オレを見ろ、バカサンジ。
「―――だ、ってよ、」
だってもクソもあるか。ばぁか。
「今のオマエ、全身でオレんこと、スキだって。アイシテルって言ってンの、解んねーわけねーだろが、」

唇を食む。
「ぞろ、」
「ン?」
鼻先を擦り合わせる。
「あ…ぃして、んよ?」

すう、と柔らかに囁く程の声で告げられた言葉を、全身で貪る。
「ん」
ん、すげえ聴きたかった、そのコトバ。
にかあ、と自分でも解るくらいに、ガキくさい顔で笑う。

くう、とサンジの回した腕が、力を増してきていた。
サンジの腰の間に片腕を通し、抱きしめる。
「すげえ愛してるよ、オマエを。サンジ」
オマエのこと。
もう、自分でもどれくらいの深さでかなんてわかんねーくらい。
家族の一人みたいに。
片腕みたいに。
背中預けられる仲間であって。
愛するコイビトのオマエを。

「お、まえの。―――だから、」
自然に上がる息の間から、コトバを音にして告げてきた。
ああ、オマエは、オレの、だから。
「あぁ。大切に愛くしませてもらうぜ、」
同じくらいに優しいトーンの声が、勝手に零れていく。

「も、…っと。す、きにして、いー…から」
聞き取り損ねそうなくらいに小さな声で、サンジが言った。
ああ、だから。どーしてオマエはそう―――
目の下で、サンジがまた赤くなっていた。
ぎゅう、と抱きしめる力を強めて、本音を語る。
「今のじゃオレがまだ足りてないって、オマエ知ってるモンなあ」
目を覗きこむ。
もっと欲しいってオレが思ってるの、オマエ、ちゃんと知ってるもんなあ?
腰をついつい、と押し当てて、主張の補足。

「―――っぁ、ん」
サンジが顎を上げて喘いだ。
くう、と笑う。
イイ声。すげえスキだよ、オマエの。

「喰えよ、喰って」
どうにか、って言った風に、サンジが囁いていた。
目元に朱。
ふ、ン。まだ照れる余裕はあるか、さすがに。

「オマエが"キュウ"ってなっちまうまで、時間をかけて喰わせてもらうから、心配すンな」
そらもう、溶けて蕩けてどうしようもない、って位までにしてからな。
さらさら、とサンジの前髪を掻き上げた。
サンジがきゅう、と目を細めていた。
「な?」



背中が浮くくらいに抱きしめられて、言葉を落とされて。
齎される愛情に溺れてみたいと、心底思った。

溶けきっちまったおれに、オマエも溺れてくれればもっといいのに。
体中のどこもかしこも、熱イ。
けど、確かに身体は抱かれ続けてたってことを覚えていて。

おれはいいんだ、別に。だけど、もしカオが無様に歪んじまったらおまえのことだから。
自分のことは捨て置く?打ち置く?とにかくそういうこと仕出かすかもしれねぇし。

おれ、ゾロが。容赦ねぇけど、優しいヤツだって誰より知ってる。
イキナリ連れ出されたから、でもって何の余裕もなかったからこの場所ですぐに抱き合った。
あれ、ほんの2日前のことだろ?すげ、遠い。

ぐう、と首に回した腕にもっと力を入れて抱きしめた。あっつい身体、キモチ良い。
オマエのこと良くしてやりたい、幸せそうなカオさせてやりた―――
こめかみにそっと口付けられた。
―――ゾロ、すげぇすきだよ。

「どーした?」
柔らかい口調、同じだけのやさしいばかりの顔に浮かんでる笑み。
おれはおまえに―――
……あ。

突然、思い出した。フラッシュバック。送り主不明、だけどおれ宛だった小さい包み。
中身はどうやらエッセンシャルオイルで。匂いをかいだらハーブの溶け込んだ香りがふわ、と上った。
なにに使うのかなんにも指示のない、ただのガラスのちっさいビンで。
おれ、たしか。キッチンで死に掛けてたとき、それを自分用の食い物にでも混ぜてみっかな、って……そのまんま、
―――あ。

「ぞろ?…あのな?」
くそう、恥ずかしいじゃねぇかよ…
「あ?」
きょと、と。素直に、なんだ??ってリアクションで返されてもだな…
「あ、んな?―――ちょ、きつい、から、さ…」
消え入りそうな声になってるのが自分でもわかる。
「ああ、それもそうだろうな」
――――っだから、へいぜんと言うなよぉ。
カオがあっちぃ、きっとおれいますげえ赤い顔ってヤツなんだろう。
けど、言わないとな。

相変わらずちっせえままだったけど。
「上着。ポケットんなか。多分、使える」
ぁ、すげえ出てねぇ、声。―――やっぱ。
ゾロ、聞こえてっかなぁ…
「あ?」
まったくわかってねぇカオだし。
聞こえてたのは嬉しいけどさ?うぁ、どうすっかな…

ぐうっと。腕を後ろ頭に回して顔を近づけさせて。耳元にカオを埋めた。
一言、たったそれだけ言うのになに緊張してんだ、って自分でも不思議だ。なんなんだ、まるっきり―――
ハジメテでもねぇのに。

さらさら、と髪を撫でられて。
ぞく、とその穏やかさとは反対に震えが抜けていく。
オイル、とだけ言って。ピアスを舌に乗っけた。




next
back