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 「オイル?」
 小さな声が囁いた言葉を反芻する。
 あーあ、そうか。そりゃそうだよな。
 いくら馴らして濡らしてすげえ状態になってたからって、元々は受け入れる為の器官じゃねーしな。
 熱、持っちまってても不思議じゃねーし。
 
 く、く、とピアスに舌を絡めてくるサンジの頬を指で触れた。
 「な…に使うのか、わかんね、けど。」
 ふぅン?わかんねーの?
 ま、いっか。そういうことにしといてヤル。
 
 「上着のポケットな。内?外?」
 「そと、」
 「わかった」
 さら、とサンジの前髪を掻き上げてから、身体を浮かせる。
 「取るから待ってろ」
 まだ赤い頬のままのサンジに笑いかけて、一瞬だけ口付ける。
 お。唇まであっちィの。
 
 「おまえ、手、届く?」
 「あ?あー…」
 手をベッドサイドの椅子に伸ばす。
 何度か空を掻いて、それから肩の所を掴み上げた。
 かぷ、と耳を齧られて笑う。
 「コラ、くすぐってェよ、」
 落としちまうだろうが。
 
 ちゅる、と舐められて、くくっと笑う。
 そのまま引き摺るようにジャケットを引き寄せた。
 ポケットを上から叩いて、中が入っている方を探る。
 掌より小さな、透明の飾り気の無いガラス瓶。
 中に金色の液体が入っていた。
 
 地平線に殆んど浸かっちまった太陽のせいで、部屋が暗い。
 「持って暖めてろ」
 サンジの手の中にその小瓶を押し込み、身体をずらす。
 「落っことしそうだ、」
 「オレだと思ってぎゅうっとしとけ」
 
 ふにゃんと笑っているサンジから目を離し、ジャケットを椅子に放り投げる。
 そのまま手を伸ばして、サイドテーブルの引き出しに手を突っ込んで、マッチの箱を取り出す。
 ……そういやコイツ、この宿に着いてから1本も吸ってねェのな。
 いいことだ。ニコチンよりオレのがいいってことだろ。
 
 マッチを擦って火を点け、ランプのガラスを持ち上げて明かりを灯す。
 ふわ、と甘いオレンジが空間に広がり、明るさを調節してからマッチを元に戻した。
 燃えさしは、カラッポの灰皿の中へ。
 
 振り返ると、にしゃ、と笑ったサンジが、小瓶を口に入れるフリをしていた。
 ふーン?サンジ、オマエ。そろそろ機嫌直ってきたか?
 サンジが本当に食っちまう前に、小瓶を取り戻す。
 蓋を開けて、匂いを嗅いでみた。
 
 「―――あ、」
 クセのない、どこか少し爽やかなニオイ。
 「…なに入ってンだ、コレ?」
 「多分、ローズヒップとセント・ジョンズワート、あとはわかんねぇ」
 あンまヤバそうな気は放ってねェな。
 呪いがかかってるカンジでもねェ。
 
 「なんかな?送られてきたんだ」
 とろ、と少し指に垂らして舐めてみた。
 「ふぅん、」
 ぺろり、と舐めてみる。――――コーンオイルみてぇな味。
 ああ、ケド。悪いモンじゃねーな、コレ。
 祝福されてるみたいなカンジがしやがる。
 
 「おれも味見した、」
 じい、とオレの口許を見て、サンジが言った。
 「…あンま美味いモンじゃねーのな、」
 ぺろり、と唇を舐めて、味を再確認。
 「―――舐めるモンじゃねぇだろ、だって」
 「は?ナンデ?」
 料理に使うモンじゃねーのかよ?
 
 「それだけで食べるもんじゃねぇと思うんだよその味。」
 香付けとかかなぁ、と。
 サンジが考え込むような顔をして言っていた。
 「でも、」
 「…まぁいっか。オマエ料理すンのに使うわけだし」
 言葉を遮って、うちゅ、と口付けてみる。
 「な?」
 「―――なっ…」
 
 さああ、とまたサンジが赤くなっていた。
 あーあ。初心だねえ、オマエ。
 くっくと笑ってサンジの身体を抱きしめる。
 「ウソ言ってねーだろが」
 サンジもきゅう、と抱きついてきた。
 「喰えよ。」
 「ヨロコンデ」
 
 にぃい、と笑って、かぷりと唇に甘く噛み付く。
 「―――んぁ、」
 蓋をしたボトルは、けれどまだリネンの上で待機、だ。
 きくっと肩が小さく跳ねていた。
 ああ、すげェ敏感になってンのな、オマエ。
 けど、今日は。きっちり喰うって約束だから。
 
 「喰い残さねーよ、」
 笑って身体を浮かした。
 すい、と胸から腹にかけて浅く唇で辿る。
 「ぜ…、ぶ。おまえのにしろ、な…?」
 サンジがくう、と目を細めていた。
 「遠慮なんかしてやンねーよ、」
 腹をかぷりと食んで応える。
 「ア、」
 
 するする、と掌で脇腹から腰にかけて撫で下ろし、サンジの足の間に身体を落とす。
 「カラッポになるまで、喰っちまうぜ」
 一瞬、サンジの身体がひくん、と引いていた。
 抑えるように片足を押し留め、淡い金を鼻先で掻き分ける。
 
 「い、ぃよ、」
 すい、とサンジの指先が髪に埋まるのを感じる。
 ゆらっと熱っぽく揺らいでいた声が、耳元に残る。
 「だから、目一杯感じて狂えよ、」
 「ふ、ァ、」
 吐息にだろうか、サンジの身体が感じて震えていた。
 「オマエも遠慮なんかすンじゃねーぞ。貪れ」
 かぷり、とまだ柔らかいサンジのものを唇で食む。
 「ぁ、」
 
 小さく声が零れていた。
 ふ、ン。まだまだだな。
 声、抑えることなんか思いつかないくらいのトコに到達したら。
 そこが、今日の目標。
 
 片手でサンジのモノに手を添えて、ゆっくりと舌で容を辿る。
 「んー――っ」
 ああ。今度は。
 一面に鏡のあるトコ、見つけてしけ込んでやろうか。
 すい、と視線を上げて、快楽に眉根を僅かに寄せて喘ぐサンジの顔を見遣る。
 「ぁ、あ、」
 
 そしたら。オマエがどんなにやーらしくて気持ちよさそうな顔して喰われてるか、見せてやれるもんなぁ?
 問題は、バカ面曝してる自分まで見えちまうってコト。
 まあ、気の持ちようでどうにでもなるか。
 
 ちゅく、と吸い上げてから、サンジに声をかける。
 「なーサンジ。今度鏡張りまくったトコ見つけたら、オマエ連れ込んでイイ?」
 「―――――ぇ?―――――なん、」
 
 
 
 抑えてくる掌の熱、それより熱い、ざらりとぬめるような舌に絡みつかれて、神経を全部持っていかれかけてたら。
 「だぁから。総鏡張りンとこ、」
 濡れた音をたてて何度も吸い上げられながら繰り返されて。
 「―――んで???」
 ナンデ?
 そう答えるのに精一杯で。
 鏡…カガミ?なんで―――
 
 「オマエ、すっげえイイ顔してっから」
 言葉の意味がわからなかった。
 「かお……?」
 かお、カガミ。連れ込んで…?
 「そ。」
 にひゃあ、って。すげ、おまえうれしそうだ?
 オマエが嬉しいのか?
 
 「カガミ?」
 「そー。カガミ」
 「なんで?」
 なぁ、―――なんで?ぐら、と沸騰しそうなアタマ。
 「オマエがどんなにイイ顔してオレに抱かれてるか、オマエに見せてやりてーから」
 
 先をぺろ、と何度も舐められて。
 「――――んッ、ぅ、」
 息を吐き出した。
 あ、――――つ、
 目、開けてられなくなった。
 
 伝うより前に零れかけるハシから舐めあげられて。重いあまったるさが溜め込まれていって。
 「やっぱダメか?」
 くちゅり、と音があがる。
 「―――ぁ、ア、ん」
 何かに縋りたくて、手が浮いて。
 みたか、ねっぇけど。
 「オマエ。が、いーの…?」
 ゾロ、おまえがしてぇんなら、おれ。
 
 「あァ。すげえ楽しそうじゃねぇ?」
 きっと、すげえうれしそうにしてるに違いない、声。
 「ゾロ、」
 「あ?」
 ぐうと。髪に縋った。
 「―――――なら、いぃ、から」
 オマエなら、いいよ。
 
 
 
 
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