コトバを落とした。
軽い口調に紛れた、本心。
受け止めて、サンジの眼が淡い色を表面に刷いた。
何かを、模ろうとするその前に。
唇に触れた。
触れたその下、微かに動いた。
触れるだけで、空気だけを薄く介する距離を持たせ。
その蒼が乗せるさまざな色味を、みつめた。
うっすらと微笑んでいる、おれを見上げるようにしながら。
サンジ、と小さな声で呼び。
目元、口付けた。
「なぁ…ん…?」
角の一切ない、まるい幸せそうな声だ。
「オマエ、おれにどうして欲しい?」
「…どうしてって…?」
こく、と。首が僅かばかり傾けられた。さらり、と髪が流れる。
「おれは、オマエに何をしてやればイイ?」
「…いま?」
サンジの身体を緩く抱くようだった腕を伸ばす。髪を撫でた。
そうだ、と声にした。
「…ん、あのね?…オレ、キスが欲しいなぁ…」
ふわ、と微笑みを乗せて。サンジの周りだけ空気が甘味を増す。
「キス?」
啄ばむように1つ、落とした。
「うん、でも…もっと…」
額をあわせるようにすれば、じわ、と蒼が光を熔かし潤んで。
舌先を薄く唇に乗せる。
ぺろ、とそれをサンジが舐めていった。
「もっと…?」
「もっと……苦しいくらいの…キスが欲しい…」
唇を掠めさせる。
「もっと…ほしい」
先よりは強く押し当てる。
熱くなり始めた、いつも少しばかり冷たさを残す唇の表面を味わっていると、てろり、と濡れた熱が軽く閉ざしていた
ハザマを舐め上げてきた。
薄く笑う。声に出さずに。
頤を軽く上向けさせ。それでも、ぺろりと舐めてくる舌先を捕まえ引き出させ取り込む。
「ん…」
深くあわせて、絡み取れば。僅かな隙間から、満足気な吐息が零れ落ちた。
蒼がうっとりと閉ざされていくのを追い、あまく噛む。
「…ッ」
伸ばされた喉が、ゆっくりと上下していた。
少し薄い、それでも柔らかくあまい舌。サンジのそれが擦り合わせられる。
く、と。掌で触れるサンジの肌がまた僅かに引き攣るように震え。
口付けをムリに深くしながら、膝でサンジの脚を撫で割り開かせる。
サンジの手が背中を滑っていく。
「んんぅ…ッ」
その感触に舌裏を同じように辿る。
ふる、と腕の中で震える身体が容を変え始める。内から蕩け零れかける。
僅かな揺れにも、口付けを解かずに深く、浅く濡れた熱を存分に弄る間にも、触れる肌の温度が熱いほどに高められ。
零れる吐息に、熱が上がる。
耳につくのは零される苦しげな吐息、それも熱く甘く移っていく。
濡れた音。
唇が浮いても、どこかが触れている、それほどのものに変わっていっても。
は、と洩らされる熱い息に渇いていく。
手首を捕まえて、リネンに押し止め。
伸ばさせた腕を唇で辿る。
紅く熱って、半ば開かれたままの唇に目をやりながら。
「んあ…は、ぁ…ッ」
腕の内側、陽に焼けていない肌を舌先で擽りながら口付ける。
「それから、サンジ?言ってみろよ」
どうするんだ、とからかい混じりに。じわりと柔らかい肉を甘く食む。
首元まで戻り。触れるだけの口付けを、あまい吐息を洩らす口許に落とす。
「―――ン?」
「………シテ?」
く、と膝でサンジの足を押し上げた。
ふわ、と朱を頬に乗せていた。
「なにを、」
に、と口端を吊り上げた。
「…オレを…いっぱいに、して…」
じわり、と熱くなり始めたサンジの半身を重ねた身体の下に感じ。
そろり、と手を降ろした。
「ふ…ッ、ぅ、」
濡れた熱、掌に指に押し込め。
ゆっくりと動かす。
「ん、んん、ふ、」
潤んだ瞳がおれにまっすぐにあわせられ。
できうる限り、長く尾を引く快意を引き出そうと触れていく。
サンジを真似た動きで、開かれた唇を舐め上げた。
「ふぁ…は…ッ、んゥ」
時おり、舌を潜り込ませ。
何度目か、サンジの口中に引き込まれた。
「ぞ、ろ…ッ」
柔らかな刺激だけを手指で与え。ひくり、と時おり掌に熱があたる、それを愉しんでいた。
「なんだよ、」
自分の声も少し擦れていた。
「もっと…」
ぺろり、と頤を舐めた。
そのまま軽く食む。
「もっと…ゾロで、…ゾロの、ッで…いっぱ、いに…して…、」
濡れ零れる蜜で濡れた音が上がる。
「オレを…ぜん、ぶ、…アナタ、で…うめ、て…、みたし…て」
熱く潤んだ瞳が、合わせられ。
「キス、しながら、いっぱいに…して、」
それ以上のコトバは、おれが喰った。
喉奥、滑り落ちた呼吸と一緒に。
愛しさに歯噛みする。
叩き壊したい衝動が湧き起こり、瞬時に愛情に取って代わられる。
表層をただ滑り落ちていった幾つものコトバとは何もかもが違う。
何度も口付け、昂かせ、嬌声を零させ。
口付けたまま、身体を繋いだ。
熱病めいた想いだ。
「んんっふ、ッ、ん、ん、…んッ」
苦しそうに息を漏らしている、その吐息にさえ煽られる。
腕、回され。キスを解こうとはしていなかった。
ひく、と身体が跳ね、背に回した腕で一層に抱き寄せ。緩く、きつく奥を穿つ。
喘いでいる、舌を差し出したまま。
捉まえる、腰を引き上げながら。
「ふ、ッ、ふ…ッ、んぅ、ンぅ、っ」
掌は何度か零された熱に濡れ、また新しく零れるものに熱い。
ぎゅう、と回された腕がしがみ付いてくる。
追い上げる、悦楽のその先まで。
「んんんんッ、…っ」
ぎりぎりと背骨を伝い渦にも似た快意が留まり続け。
大きく喘いで空気を求めるように口付けを解いたサンジが身体を反らせかけ。
細い身体を引き戻す。
熱に取り込まれ、絡みつき、息が詰まりかける。
「ふぁッ、はっ、ハっ、あッ、ァ…っ」
充たしている、充たされている、
熱が身体の間に散る、包み込まれた熱のその奥にも
なおいっそう、引き絞るように蠢く内にキツク奥歯を噛み締める。
喘ぎが、耳につき、熱をまた引き起こしかけ。
快楽に震える身体にまた渇きを覚え。
脳のどこかが、ただひとつ異音を拾った。
閉ざされるクルマのドアの鈍った音。エンジン音が途絶える。
さっきから、意識の底。
虫の羽音に似たもの、は。
あぁ、アレだ。
United Parcel Service, ケイタイを運んでキヤガッタ。
サンジの身体に、口付けて触れながら、舌打ちする。
まだ、熱い息を零すこいつは、気付いていない。
ぼう、とした目、荒く喘いで。おれを無心に見上げてきている。
ふる、と震え。
身体の隅に広がっていく快楽を五感で追っている。
さくさく、と一定のリズムが外を過ぎるのを、聴かずに知る。
サンジに口付けた。
同時に、ドアが叩かれた。
「ん……」
ダン、ダン、ダン、ダン。
リズムにあわせてサンジの舌を引き上げる。
びくん、と肩に踊るようだったサンジの指が動いた。
ダン、ダン、ダン、ダン、ダン。
律儀に1つずつドアを叩く回数を増やしている、配達の男は。
「…ん、んんッ」
く、とサンジの頤をもちあげ、舌を舐め上げる。
「ふ、ぁ、は、ぞ、ろぉ、」
ダン、ダン、ダン、ダン、ダン、ダン。
熱い唇を内から食み、目で、なんだ、と問う。
「んん、ど、ァ…ッ」
重ねた胸の下、サンジの鼓動が早くなる。
く、とアタマを抱え込んだ。口を開かせる。
「また来る、」
深く重ねる。
「んぅ、…っ」
逃げかけた舌を追い、捕えて。引き寄せる。
ぴく、とまだ続くドアの音に身体が反応しようとするのを、押さえ込んだ。
「…ッ、ぅ…っ」
引き上げるようにし、擦り合わせ。
胸に手を滑らせる。
「…っ、…ッん、」
掌にあたる立ち上がった飾りを掠め、指で押し撫で。
快楽に跳ねる身体を抱きしめ。
サンジが、ぎゅ、と抱きついてきた。カンネンしたな?
イイコだな、と胸に口付けて舌先で撫で。
「あああッ」
上がる声に笑みを刷いた。
おれの携帯は、どうせ午後にまた来る。
びくびく、とまた細い身体が跳ね。
かり、立ち上がった飾りに薄く歯を立てる。
あまく蕩けた嬌声が零れ、どんどんと部屋の空気を密にしていく。
エンジン音がもう一度したことなど、オマエ、もうわからないだろう?
下腹へと続くしなやかな線に、口付け、肌を味わう。
足がゆら、とおれの身体の横で揺れた。
引き上げ、喉で笑った。
午後にはリヴィングにいよう。
そう言った。
「り…っふ、…?」
2度ベルを鳴らすのはたしか郵便配達で、UPSじゃねえよ。
ぺろり、と内腿に濡れた熱を這わせてから、蜜を零す先に舌をオシアテタ。
「ふああ…ッ」
あァ、ベルよりよっぽどオマエの声の方がイイ。
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