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 ブレックファーストをとばし、ブランチすら飛び越えて。
 随分と遅めのランチを食べて、後片付けを終えたあと。
 ソファに座っているゾロの膝に、頭を乗せて。
 髪を柔らかく梳くように撫でられる感触に、うっとりと目を細めていた。
 
 朝は、結局。
 起きてから…何度も満たしあって。
 すとん、と一度眠ってから、お風呂に入った。
 ランチを食べたのは、その後で。
 
 ゾロに、限界まで愛しぬかれて。
 気だるさは、まだ身体中の至るところに渦巻いていた。
 とろり、と意識が流れる。
 …ああ、きっとオンナノコだったら。
 きっともう、赤ちゃんとか…できちゃってるくらい、してるよね…?
 
 ゾロが赤ん坊を抱っこしてる姿を想像して。
 くす、と小さく笑いを零した。
 さらり、さらり、と柔らかく髪を梳かれながら。柔らかいゾロの声が、オレの名を紡いだ。
 …ゾロに、名前を呼ばれるだけでも、ウレシイ。
 にゃあ、と甘えた声を出して、目を開いた。
 
 「オマエいま。くだらないこと考えていただろう?」
 「んん?…ウン」
 「カオにすぐでる、目を閉じてても」
 「…ん…」
 くすくす、と笑ってまた眼を閉じた。
 そっかぁ…バレバレなのか、オレ…。
 「…カードプレイには、向かないね…?」
 ああ、ヴェガスには、ここはとても近いけど。
 「惨敗するな」
 「…ヤッパリ?」
 
 即答されて、さらにクスクスと笑った。
 「サンジ、」
 「自分でも思うもん…向いてないって…」
 もう一度、名前を呼ばれて。
 うん?って言って、目を開けた。
 
 ふ、と軽く羽根が掠めるだけのようなキス、唇に落とされた。
 ふふ、と小さく笑う。
 ウン、そういうキスもステキ。
 にゃあ…シアワセ。
 
 「"キスしたまま充たされたい、"その理由はなんだ、」
 「ん…?」
 キスしたまま…ああ、さっきの…オレの、願い…。
 うあ。
 訊くの、それ?
 「理由がわからないから、好奇心が湧いた」
 くすくす、と笑いながら、自分の顔が紅く熱っていくのを感じた。
 
 にっこりとしてるゾロの目を見上げる。
 オレは、ゾロの緑に捕らわれるように。自分からそこへ飛び込む。
 「…キス、ずっとしてると…苦しくなってくるでしょう?」
 チテキコウキシンのタンキュウ。
 そういうラベルを貼り付けたゾロの顔。
 「―――オマエ、へたっぴだからナ。」
 …ああ、もう。
 ゾロは…意地っ張りだ。
 
 クスクス、と笑った。
 「ちょっとは上達したと、思うんだけどなぁ…?」
 手を伸ばし、ゾロの頬に触れる。
 さら、と滑らかな感触にうっとりとしながら。ゾロが親指と人差し指の間に、きっかり半インチの隙間を作ったのを見る。
 「…辛いなぁ…」
 「こんなもンだな、」
 くすくす、と笑って。
 
 「…それでね?」
 ゾロの頬を撫で下ろし、唇に触れる。
 さらん、と髪を撫でられる。
 うっとりと笑う。
 「…アナタと…身体を繋ぐと。オレは……いっぱい、に、なるでしょう?」
 ほわほわ、と更に体温が上がっていく。
 
 「キス、しながら…アナタを迎え入れてると…」
 上も、下も、満たされて。
 苦しくて、イッパイになって。
 ホントウにアナタだけで、満たされるんだもん。
 顰めた声で、言葉を綴る。
 
 「全部…ゾロに、埋められて」
 感覚を思い出して目を閉じる。
 「全部、ゾロだけに、なって…」
 わかるかなぁ…?
 「アナタのことしか、考えられなくなって…、アナタだけに、感じて…」
 目を開けて、ゾロを見る。
 「アナタだけで、満たされることが、できるじゃない…?」
 
 ゾロが、1回だけ、瞬きをした。
 「なるほど、」
 ゆっくりとした口調が、言葉を紡いだ。
 「オマエはおれにイカレテイル、というわけだ」
 「…ゾォロ」
 そんなの、いまさらじゃない。
 それで、とゾロが続けていた。
 「おれはそんなイカレタガキをどうやらホンキでアイシテイルらしい」
 「…ウン。ウレシイ」
 「世も末だな。」
 
 ゾロの目を見て、笑みを刻んだ。
 「…シアワセだよ、オレ、今」
 さら、とゾロの頬を撫でる。
 「すっごい、すっごぉぉぉい、シアワセだよ」
 ゾロが小さく、ふわん、とした笑みを浮べていた。
 「アナタを愛して。アナタに愛されて…シアワセだよ」
 
 これ以上、望まないから。望むことも、思い浮かべられない。
 シアワセで、幸せで。
 胸がイッパイになる。
 「オマエは、」
 「うん?」
 ゾロが、思い出したように言った。
 「"鎖、繋ぐもの"だと、連中が言ったんだ、」
 「…ふうん?」
 
 連中、とは。多分、師匠と兄弟子のことだ。
 少し首を傾げた。
 それが…どうかしたんだろうか?
 「どうやら、サンジ。オマエは、」
 …?
 オレの生きる理由かもしれないな、と。
 まるで自分に言っているかのように、静かに言葉を紡いだ。
 
 「…ゾロ」
 ん?と視線が戻った。
 ゾロの口許には、まだ柔らかな笑みが、うっすらと刻まれたまま。
 …なんと言葉を紡いでいいか、迷い。
 そうっとゾロの唇を撫でて、願いを口にする。
 「…いっぱい、愛し合おうね…」
 
 時間は問題じゃない。
 回数も問題じゃない。
 だけど、沢山の方法で。
 沢山の思いを込めて。
 ゾロと、愛し合いたい。
 願う事は、ただそれだけ。
 
 ふ、とゾロが笑いを零した。
 「ゆうべ、あれだけ星が降っていたのにな」
 願い損ねたな、ってゾロが言葉を続けた。
 「…見えなくなっても、星はそこにずっとあるから…」
 オレらが地球上から消えて、いつか宇宙の闇に呑まれる日が来ても。
 ずっと願い続ける事はできる。
 発射された一瞬の、光の瞬きのように。
 それはどこかを旅して、そしていつか…聞き届けられる時がくるのだろう。
 今生じゃなくても。いまのままの、オレたちじゃなくても。
 
 する、とゾロの頬を撫でた。
 そうっとゾロの唇が降りてきて。
 目を閉じて、やさしいそれを受け止める。
 「そうだな」
 とても静かなゾロの声。
 柔らかく、ゾロに笑いかける。
 「でも、努力は怠れないからね…、頑張って、愛し合おうね…?」
 
 低い笑い声が流れ始めて。
 くすくす、とオレも、込み上げてきた笑いを零していく。
 「オーケイ、異存はねェよ」
 ちらりと笑いを含んだ、柔らかな声。
 「後半部分は特にな」
 にか、と。オオカミみたいな笑いを、ゾロが浮べて言った。
 …とても、とても…シアワセ。
 
 
 
 
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