| 
 
 
 
 ドライブの間中、適当に流れてくる曲にあわせてでたらめに歌をうたって。
 サンジはあんまり曲名とか気にしないんだなあとか。
 音楽は好きでも嫌いでもないのかなあとか。
 町を2つ抜けて、ちょっと大きな。キングマンって町を抜けて。
 ハイウェイ40に乗るまでそんなことを思っていた。
 ぼくは、嫌いな曲もいっぱいあるけどなあ。
 どんどん車が増えて。ああ、街が近いのかな、って思った。
 真面目な顔してサンジも運転してるし。
 代わってあげたいけど、いまのぼくじゃあ道もわからないし。
 ハイウェイをおりたら。なんだか見慣れた景色だった。
 
 「ここね、少し北に行けば、ミード湖なんだよ」
 「ふうん?」
 「釣りとか、好きじゃない?」
 ヒトのたくさんすんでいる景色。
 「ううん、よくわからない。したことないから」
 普通に、街の景色。
 「へぇ?じゃあ、今度。教えてあげるよ!コロラド川には、近いから」
 サンジの家の周りの方が面白いなあ。
 にっこお、って微笑まれた。
 「あのさ、魚とっておもしろいの?」
 「うん。おいしいんだよ、バーベキューにすると」
 「ふうん、そっか」
 
 サンジがたのしいっていうんだから、きっと楽しいんだろうな。
 「うん。教えてね?」
 「うん。いいよぅ」
 なんだか。また街の中心を抜けて。おっきなモノが建っていた。
 「ねえ、あれは?」
 「アイランド・ファッション・モール」
 「モール?」
 なに?それ?
 「そう。いろんなストアが入ってるトコ」
 「一軒づつじゃないの?」
 「そうだよ。色んなお店が、隣り合わせとか上下であるんだよ」
 「ふうん??」
 
 デパートメントストアとは違うのかな?でも、一回しか行ったことないし。
 「ねえ、サンジ?」
 「なぁに?」
 「服屋さんってウチに来てくれるものでしょう?」
 なんでぼくらが行くの?って言った。
 「…そういう服屋さんもあるけど。もう出来ている洋服が、いっぱいある場所に行ったほうが、イロイロ見て選べるでしょ?」
 「へえ!すごい。自分で選ぶの?」
 「うん。スキなのを選んでいいんだよ。サイズとか、いろいろあるしね」
 だって、服なんていっつもクロゼットの中に「ある」ものだって思ってた。
 そう言ったら、バリエーションを見るのは楽しいよ、って笑ってた。
 「似合う服と、似合わない服と。いっぱい、とにかくいっぱいあるんだ」
 「うわ。どきどきするね?」
 「うん。オレも買物はスキ。見てるだけで、楽しくなって、結局あんまり買わないんだけど」
 「ふうん?」
 
 さあ、って車がパーキングに入った。ぐるぐる上の階まで登ってる。
 おっきいなあ。車もいっぱいだ。
 「空いてる場所、見つけたら言ってね」
 「まかせて?」
 「うん」
 ええと。ああ、ほらあそこ。
 「あった。」
 にっこりした。
 「どこ?…あ、あったね」
 だけどちょっとだけ、どきどきした。サンジが、車のアタマから停めたから。
 そんな停め方をしたら危ない。背中取られたらどうするんだよ、って。
 低い声がアタマの中で言った。
 
 「…ジョーン、降りるよ?」
 どきどきした。
 あ、サンジが呼んでる。大丈夫、ここは、大丈夫。
 そんなことを自分に言い聞かせるみたいにして。
 「先ずは、ジーンズを選ぼうね。あと。クツ」
 車から降りた。でも、なんでだろう、勝手に。車の下を覗きかけた。
 ―――ヘンなの。
 サンジのいる側にまわった。
 「うん、」
 ちょっと安心した。
 「じゃ、行こうか?」
 「ねえ、クルマ。」
 にこってして。首を傾けちゃってる、サンジが。
 「車がどうしたの?」
 「……おっきいのに、すぐ停められたね?」
 言わないでおこう、って思った。ぼくのどきどきした理由。
 「うん。この車、乗ってもう2年だからね」
 「ふうん?」
 
 「ジーンズ買うの?簡単だね」
 「簡単かな?」
 「簡単だよ。だってヴィンテージじゃないんでしょう、」
 って。あれれれ??またヘンなトコが繋がった?
 「…あれ?拘りあるの、ジョーン?」
 「わかんない、」
 「…そっか」
 「へんなとこが繋がったみたい」
 「…そうなんだ」
 そうっと、腕に。サンジが手をそわせてくれた。寂しそうな声、させちゃった。
 
 「あ、でもね?」
 にこ、として。見上げてきてくれた。
 「うん?」
 「"面倒くせえときには!黙ってオトコは501だぜ"って」
 エースが言ってたよ、って。言ったら。
 「…あはは!かっこいいなぁ、エースさん」
 「だから、簡単だよね」
 ぼくも、にっこりした。
 「だね」
 「うん」
 「じゃあ、靴で大変になろう」
 「うあ。そうなの?」
 「そう。クツは、ジーンズよりもっといっぱいあるからね」
 お買い物がサンジはすきって言ってたけど。にこにこおってしてて。
 タイヘンそうなのにぼくもなんだか嬉しくなった。
 
 
 でも、タイヘンだった。
 とてもとてもとてもとっても!タイヘンだった。
 いっぱい!ストアがあった。
 一番最初に入ったところで。501を1本買って。
 履き替えてついでにTシャツとシャツを適当に選んで。全部ここで済ませちゃえって思ったのに。
 全部同じストアじゃつまらないよ?ってサンジが言うから。また別の所へ行った。
 そこではお姉さんがいろいろいろいろ喋って。
 びっくりしてたらサンジが、しい、って顔したから黙っていた。
 だから、お姉さんが話し掛けてきたら、「うん、」とか「そう、」とかしかいえなかったけど。
 そこはヴィンテージも扱ってるとか言って。ジーンズをまた2本と、シャツを5枚くらい。
 もうオワリだろう、って思ったら。「まだまだ」てサンジがにぃ、ってした。
 「靴があるだろう?」って。
 サンジが家の周りで履いてるサンダルみたいなのと。スニーカーと。黒いのの3足。
 ああ、やっと終わった、って思ったら。あ!ってサンジが言って。
 忘れちゃいけない、肝心だ、とか笑って。アンダーウエア。買いに行った。
 おとなってタイヘンだ。
 
 もうオワリだよね、って言いかけたら。またサンジが、あ!って言って。
 うあ、って思った。
 「・・・サンジ?」
 ぼく、もうくたくたです。
 夜はすごくさむいんだよぅ?って。にっこりした。
 「ジャケット、いるの?」
 「ジャケットでも、セーターでも。なんでもいいから、1枚、ね?」
 「はーい、」
 なんだか、ぼくたちに。さっきからいろんなオンナノコがすごくにこにこしてるんだけど?気のせい?
 でも、ジャケットかー。そんなに寒いのか。不思議だねえ?
 
 ううん、オトナは何を着ていたっけ?
 だめだなあ、スーツしか浮かばないや。長いコートとか。
 あ。そうか。エースの真似すればいいのか。うううんと。
 「じゃあ、サンジ?」
 「ハイ?」
 「ジップアップ。スゥエードかニットの。どこに売ってるかな?」
 「ええと。…ミズ?助けてください」
 ストアのお姉さんが。とってもうれしそうに笑った。
 
 「ええとね、このお店を出て右に曲がって。最初の曲がり角を曲がったところ、4件目に。
 メンズものの服を扱ってる店があるんですよ」
 うわ。覚えられない。
 「TOMPAっていうお店なんですけど。いい品物揃ってますよ?ワタシのオススメです」
 「おっけい。店出て右、最初の角の4件目ね?アリガトウ、助かりました」
 でも、おねえさんは。とても自信たっぷりに言って。なんだかおもしろかった。
 「すご、よく覚えられる・・・」
 サンジ、すごいなあ。
 「じゃあ、行こうか?」
 「ドウモアリガトウ、」
 お姉さんにお礼を言って、バイバイ、ってした。
 にっこお、って。お姉さんがして。ぼくもにこ、ってした。おっと、置いていかれちゃうとタイヘンだから。
 急いで後を追いかけた。サンジ、足はやいんだもんなあ。
 でも、すぐわかる。
 
 お姉さんの言った場所にそのストアはあって。そこにはよくしゃべるお兄さんがいて。
 どんどんどんどん、奥からも持ってくるから。アタマが痛くなった。
 「サンジ、選んで。」
 助けてください、って言った。
 「じゃあ、このスエードのを一枚と。ニットの。色はどうしようかなぁ?ジョーン、好きな色は?」
 「黒とグレーとブラウンとブルー」
 「じゃあ、ブラウンのスェードと。…ブルー…もうちょっと色の濃いの…そうそう、紺だね、のニットにしようか?」
 「うん、それにしよう?」
 「じゃあ、それ。戴いて帰ります」
 なんでだろうなあ?お兄さんも、ものすごくにこにこしてるよ?
 
 ストアを出て。サンジを捕まえた。だって、またどこか行こうって言ったら困るから。
 「サンジ?」
 「お昼、どうしよっか?」
 「あのね、どうもありがとう」
 「…どういたしまして」
 「びっくりしたけど、たのしかったよ」
 「よかった。でも、疲れたでしょう?」
 にっこお、って。わらってくれて。
 「ううん、いまので。元気になった」
 ほんとうだよ?
 
 「…うわぁ」
 「なあに?」
 「…照れちゃうヨ」
 「なんで?ヘンなの」
 だってほんとうのことなのに?って言ったら。
 「そうだよね、ヘンだよね。でも、オレもなんだか、勝手に照れちゃった」
 サンジのかお、赤くなっちゃったみたいだ。
 「ふうん?じゃあモット言おうっと」
 「…うあ。ジョーン…!」
 「だってカワイイし?」
 にっこりしてみたら。
 
 「……………ありがとう」
 にゃあ、ってわらって。すごいちいさい声でサンジが言った。
 そして俯いちゃった。
 顔がみたいから、下から覗いてみた。ぎゅうって身体折って。
 荷物が邪魔だったけど。
 「あ。やっぱり赤かくなってるね?」
 「だってジョーン、すごいこと言うんだもん」
 本当のことなのにな、って言った。
 もっと真っ赤になっちゃった。
 
 
 
 
 next
 back
 
 
 |