今夜も星がきれいだ。
陽が落ちた砂漠を車で走りぬけながら、フロントガラスの向こうに広がる満天の星を見る。
雨はダイスキなんだけれど、星が見れないのが残念だ。

コヨーテくんは、まだまだ退院ができないみたいだったけれど、そろそろリハビリを始めるらしい。
粉々になった骨は、一応合わさって。今度は筋肉のトレーニングだ。
エミリーが笑っていた。
このコヨーテくん、ど根性あるのよ、って。
ムリさせないように、見てないと。勝手に走り回っちゃうの。
そう言っていた。
愛し気に、針を打たれてまったりとしているコヨーテくんをそうっと見ながら笑ってた。

カノジョたちは、とてもタフで、時々理解できないけれど。
とても動物を愛してることだけは、いつでも感じ取れる。
そしてそれと同じくらいの好意を、オレにも向けてくれていることを。
オレと、そしてゾロにも。

ラジオからは、ケリー・ローランドの曲が流れていた。
タイトルはStole、あるオトコノコとオンナノコのハナシ。
誰にでもなれたのに、もうわからない、そうカノジョは歌ってた。
キレイなメロディに載った、哀しい歌。
オレの知らない世界の歌。


ふいに向こう側、丸いランプが二つ見えた。
…車?こんな時間に?
…もしかして、もしかすると…?
近づいてくるヘッドライト。
見慣れたフォードのピックアップトラックの形。
ププッとホーンが小さく鳴らされて、ゆっくりとブレーキを踏んだ。

「リカルド!!!」
「シンギン・キャット。ひさしぶり」
ウィンドウを下げて、すれ違わせて停めた車の窓越し、声を交わす。
パーキングにギアを入れて、サイドブレーキを引く。エンジンを切って。
手を伸ばすと、リカルドの大きな手が伸ばされた。
握手、そのまま握り締める。
車内ランプを点灯させると、ずいぶんとしゃきっとした顔つきのリカルドの顔が照らし出された。

「元気そうだねえ!!会いたかったよ!」
「キャットは綺麗になった。幸せそうでなによりだ」
うわ!
ああ、そうか!リカルドは、ゾロのこともちゃんと知ってるんだよねえ!!
「リカルドも、幸せそう」
「やっと見付けたからな」
「…そうかあ!」
そうか、リカルドは。やっと自分がしたいことを、見つけることができたんだね。
笑った。心で祝福。偉大なる霊に感謝。

「キャットはいつもこの時間なのか?」
「ううん、今日は雨休暇の間シフト変わってもらってたから。長く居たんだ」
そうか、とリカルドが笑った。
「そういうアナタは、今日は長く彼と居たんだね?」
「ン?そう。楽しいヤツだな、アイツ」
にか、とリカルドが笑った。
「うわ…ほんとにいい友達になったんだねえ!」
なんだかすっごいうれしいぞう!

ほわほわと笑っていたら、するん、って手を抜かれた。そして柔らかな笑みでリカルドが言った。
「そうかもしれん。キャット、アイツ、待ってるんだろ?もう行け」
「…うん。今度、もっとちゃんと話そう?」
「アイツとオマエと計3人でか?」
「…いや?なら二人でどっかで会う?」
「あははははは!!!キャット、冗談が上手くなったなぁ!」
ぽふ、って頭を撫でられた。
…ううん、冗談じゃなかったんだけど…?
「じゃあ、今度機会が会ったらな。キャット」
「うん!絶対にね!!」

くっしゃくっしゃと頭を撫でられた。そしてさらん、と頬を一撫で。
にか、と笑ったリカルドに笑みを返した。
じゃあな、って声が響いて。止めてあったフォードのエンジンをスタートした。
ウィンドウが上げられる前に聴こえてきたリフレイン。
TrueMenDon'tKillCoyotes
…変わらないね、リカルド。もう酔って歌うことはないみたいだけれど。

笑ってオレもエンジンをスタートさせた。
ウィンドウを僅かに空けて、夜の空気を嗅ぎながら家までの距離を走りきる。
ゾロはどんな一日を過ごしたんだろうねぇ?
あのリカルドと一緒に。


エンジンを切って、帰りに買ってきたリンゴの入った紙袋を抱えて、ドアを開けた。
バン!と大きな音が途端に聴こえてきた。
…んんん?
「ゾロ?帰ったよう???」

見慣れない家具が増えていた。
テレビ、チカチカしてた。
ここは電波の届きが悪いから、DVDかヴィデオなのかな?
ゾロはソファに座って、本を読んでいた。
……BGMの代わりなのかな?

モニタの中。白いウィッグを被った役者さんが、ピアノに向かって弾いていた。
……これは、ええと………なんだろう?
「"アマデウス"。」
「…アマデウス?」
「モーツァルト、」
「ウルフガング?」
ゾロが、ソファからに、としていた。
「そうだ」
「ふーん…賑やかだねえ!」
「リカルドがソフトを8本選んだ、おれが5本」

荷物を玄関のところに置いて、ソファに座っているゾロにただいまのキスをした。
「あ、さっき車ですれ違ったよ、リカルド」
13本のソフト…ソフトってことは、DVDかな?
「で、これは誰が選んだの?」
すう、と抱き寄せられて、身体をゾロに預けた。
「コスチューム・プレイだ、リカルドに決まってる」
「コスチューム・プレイ?役者はみんなそれをするんじゃないの?」
チュ、と頬にキスを貰って、ふわん、って嬉しくなって笑った。
「時代モノのとこをそういわなかったか?まぁ、どうでもいい」
に、と笑ったゾロに、むぎゅ、と抱きついた。

「リカルドがこの映画選んだってことは、この本もそうなの?」
笑って、ソファに置かれた「失楽園」を指差した。
「当然、おれが自分で選ぶかよ」
「ゾロは何を選んだの?ああ、晩御飯、ゾロも食べる?オレ、オナカ空いちゃって。よかったら食べながら話してよ?」
ゾロの話も聴きたいけど、オナカは空いた。
だから変わりに、かぷり、とゾロの耳を食んだ。
く、とゾロが笑って、ぺろりとそこを舐めてからゾロを覗き込んだ。

「奇妙な具合の日だった、きょうは」
「ふうん?」
そろ、とゾロから離れて。
リンゴと一緒に買ったバゲットとレバーパテを取り出した。
「ワイン、飲む?」
「あぁ」
リモートコントローラで、モニタのサイドに置かれてあったスピーカから流れ出ていた音をゾロが落とした。

立ち上がりついでに、冷蔵庫からニンジンとキュウリと、レタスを出して。
さらっと洗って、ニンジンだけ皮を剥いて。それらを皿に乗せ、ナイフを一本と、線を抜いた赤ワインを一本持って、
ソファの前のテーブルに置いた。
グラスを二つ取りに戻って、ゾロの隣にぽふんと座った。
「オカエリ、」
「ただいま!」
さらん、と頭を撫でられて、ふにゃん、と笑みを浮かべる。
「さぁ、いいよう!全部話して!」
赤ワインをグラスに注いだ。
「エライ意気込みだな?オマエ」
「うん。だって、とっても楽しかったみたいだし」
少し笑っているゾロに、グラスを差し出す。
「リカルドが何か言ってたか?」
「ううん。アナタがおもしろい人だ、って以外にはなんにも」

ハハ!ってゾロが笑ってた。
こてん、とゾロの肩に頭を軽くぶつけた。
「一緒に行けなかった分、とても話を聞くのが楽しみなんだ。だから、さぁ話して?」




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