話をしろ、と。
まるっきりガキ丸出しの、好奇心でいっぱいだという顔で。サンジがわらった。
バゲットにパテを塗りながら、まだかまだかと目で聞いてくるのが面白いから、しばらく放っておいた。
むう、とした顔で見てくる。

手からバゲットを取り上げて、一口齧った。
むう、としたカオのまま、サンジが腕を伸ばして。
なにをするのか思ったなら。丸ごとのレタスに齧りついた。
―――オイオイ。
涼しげなさくさくいう音は別にして、オマエ。
「この家には、そういえば音がないと今朝気がついたんだ、」
しょうがねぇな。机でも齧りだす前に話すか。
目をおれにむけたまま、こくん、と飲み込んでいた。

それで、リカルドにレークハヴァスまでクルマを出させて、デンキ屋まで出かけたと続けた。
そうだ、本来ならシンプルな話なんだ。
何から話せばいいんだ?
サンジは。
やたらとゆっくり音も立てずにレタスを齧って。こっちを見ている。


早めに家を出てランチは外で適当にすませよう、そう言ってここを出たのは11時前だった。
エンジンと同時にでかい音がクルマの中で鳴る。
相変わらずの、アンソニーの声だ。
笑った。

「あぁ、シュミが会うな」
言ったなら。にか、とリカルドがわらった。
「どこか適当なデンキ屋まで行こう、あの家はそろそろ退屈だ」
窓の外、ゆっくりと景色が流れ始めたのを眺めた。
「郊外にデカいストアがある。電化製品だけでいいのか?」
「あぁ、あとソフトも何本か」
「ならそこにしよう」
「その前に昼メシ、」
「何が食いたい?」

慣れた風に、何も無い平地をかなりのスピードで走っていく。ただ、みょうにガタガタいうのはご愛嬌か?
「昼前に窓が落ちるんじゃねえだろうな、」
こつ、とリアウィンドウを指で弾いた。
「落ちそうになったら抑えてくれ」
「了解、」

あぁ、そうか。昼。
盛大に、にっかあ、としか言いようの無い笑い顔をリカルドが浮かべるの眺める。
地元民に選択は任せる、そう言ったなら。
フルシアンテのギターフレーズに被せるように、ステーキ、バーガ、タコス、イタリアン、チャイニーズ、ジャパニーズ、
ファーストフード
そう、音に乗せていた

「オーケイ、チャイニーズ」
「了解。そしたらあそこにしよう」
JadeGardenRestaurant、リカルドが続けてにかりとまた笑った。

ハイウェイに乗り、1時間程度で名前もわからないがどうやら町に着いたらしい。
店の前のパーキングはほとんど埋まっていたから、たしかに美味いのかもしれない。
でかでかと、「翠園酒家」と派手派手しい看板が出ていた。

先に立ってドアを開けたリカルドに、何が美味い、と聞いたら。
イキナリ。
入口脇に立っていたチャイナドレスのウェイトレスが。
「リカァルド!!」
叫びやがった。
「今空いてるか?」
「アナタの為にすぐ用意する!」
満面の笑みで、オンナが返していた。
「サンクス、」
きゅ、と軽いハグを返していたが。あぁ、コイツは。そりゃあヴェガスにいたなら誘惑も多かっただろう、そういった事を
思って少しばかりわらった。

「御友達?」
イキナリまっくろ目がこっちを向いた。
「そう。Friend」
「こちらも亮亮(美形)ねぇ」
にっこり、とオンナが微笑み。
ドウゾ、とテーブルの間を縫っていった。

店のなかはかなり広かったが、9割がた席が埋まっていた。
この間、サンジとタウンに出かけたときは明らかに珍獣扱いだったが。
今回は、どうやら性質が少しばかり違うらしい。妙な扱いらしいことだけは一緒だ、多分。
拡げられたメニューの向こう側、例えば。
何かを押し殺しているらしい気配がする、ビジネスランチらしい若い女の3人連れから。

「この店のお奨めは?」
特になにも気にとめていないらしいリカルドに声をかける。
「酔っ払い蟹。オレは食わない」
「あー、確かに。美味いがランチ向きじゃないな」
「じゃあこっちだな。渡り蟹とソバ。あとはペキンダックもいける」
「雲呑も美味しいわよぅ!」
また別のオンナがにこおお、と通り過ぎ様、リカルドにキスしていった。
ひょい、と視線を上げて苦笑したヤツをみてまたすこしばかり笑った。今度は、別のテーブルのビジネスマンらしい連中が、
なぜだか色めきたった。
―――妙な店だった。
が、味は上等。なのでまぁ由よするか?


酒家を出て車を走らせ。
ここからならあともう15分ほどだという。全開にした窓から風が入り込み、また音が流れていった。
途中、ハーレーに乗ったじーさん連中が片手を上げて通り過ぎていった。
ああいう魔女に知り合いは居ないだろうな、と冗談交じりに口にした。
私はトレッキングが最近すきナンだよ、と最後に会ったときに言ってやがッタからな、なにしろ。
「オレの知り合いに魔女は居ない」
「安心した、一人すげェのがいるからな。あンたはそのばばあの好みの範疇だぜ」
「…そういうのはアルトゥロに任せる」
「ハハ!」

タバコを取り出して、すい、と片腕が伸びてきた。アリガタク、頂くとする。
あぁ、シガーライターか。随分と久しぶりに見る気がする。
「クラシックだな、徹底して」
「金が無いだけだ」

笑っているうちに、デンキ屋についた。
「―――デカイな、」
そういえば、こういう場所は実際に来た事は無かった。
フン?
「田舎だからな。まぁ、纏め買いするには便利だ。きっとそんなのは一生に一度、あるか無いか、だろうが」
トロリーを引いて、リカルドが言い。くくっとわらった。
「なんだよ?」
「気にするな。さぁ何が欲しいんだ、」

オーケイ、ざっと考える。
「DVD、でか過ぎないテレビ、適当なスピーカー、ソフト、―――あぁ、あとはデジタルカメラ、」
そんなモンだろう。
「あの家にあってもどうせサンジは観ないだろうし。おれがいなくなったら後はあンたが引き取ってくれるか?」
「喜んで」
「じゃあ、さっさと選んじまおう」
に、とわらった。
「どっちかっていうと、アンタたちが毎年あの家に来てくれればおもしろいんだが」

派手に爆破音が鳴り響いているDVD売り場らしい方向へ歩いていくのを少しばかり見送った。
―――考えてもいなかった選択肢だ。
わらった。



「…オレも一緒に行きたかったなぁ…!」
「あー、これからがひでぇんだ」
ゾロがうぇって顔をした。
オレは啜っていたワインをこくんと飲み込んで、ゾロを見た。
「…なにがあったの?」

ゾロも同じ様にワインで喉を潤してから、言葉を続ける。
「デンキ屋の店員ってのは、どれもしゃべりまくるモンなのか?」
「…さぁ?」
そんなに数を行ってるわけじゃないし。平均はわかんないけど。
「電気屋に限らず、お店の人は大体みんな楽しくおしゃべりしてくれるけど?」
ああ、うん、でもまあそれはおいといて。

「ふぅん?4人いた」
4人。…接客人数にしては、多いなあ。
「それで?」
「しゃべり通しだ、4人が4人とも」
「…ドルビーサウンドかける2、だね」
くす、と笑った。
この家、とても静かだから。きっとゾロにはとても賑やかに思えただろうなあ。
釈迦無二やジーセスじゃないからなあ。4人が4人、全然違うことを言ったら、言葉を拾いきれない。

「別々の商品を薦めてたの?」
「あの部屋ならこの大きさじゃないか、といえば。ぎゃう、とかひゃう、とかオンナが言うし」
…同じ商品についてだったのか。
あれ?でもなぁ?
「女性店員?おもしろい接客するねえ?」
「おれがどうせセットアップするんだろ、とかリカルドが言えば、うきゃ、と言いやがるし」
「ふーん?…なんでだろうねえ?」
『オンナノコは須らく摩訶不思議だ』
これはセト先生の格言の1つだ。
『よって理解する努力は程ほどにするべし』と教訓が続く。

「えらく遠まわしにトモダチかと聞いてくるから、まあそんなものだと返事すればこんどはおっさんが、赤くなってやがった、
気味悪ぃモンみた」
「ふぅん?」
あ。でも。オレもそういう経験あるなあ?
「最後は皿洗い機だのなんとかいう掃除機だのそういうモノまで見せたがるしな」
「…へえ?皿洗い機まで?」
「あぁ、オマエ別にいらないだろう?」
うん、と肯定の頷きを返す。
二人分だけなんだから、手でちゃちゃっと洗っちゃえば済むことだしね。

「それでやっと気がついた」
「うん?何に?」
「多いなる誤解、」
「誤解?」
誤解…誤解??
なにをどう間違えるっていうんだろう?
「あぁ。後になって死ぬほど笑った、ソフトの棚の前ダケドナ」
…?
「笑えることなんだ?」
「聞いて笑え。」
あ、うん。

すう、とゾロが片眉を跳ね上げた。
「どうやら一緒に住んでいると思われたらしい。唯ならぬ間柄、ってヤツだな」
もぞ、と動いてゾロを覗き込む。
うええええ、って顔をしていた。ゾロ。笑いかけで。
「なにをどうすればそう思うんだ、まったく―――!」

…………ああ!
なぁるほど!!!
「つまり、リカルドとゾロが、カップルだと思われたんだ!」
「サイアクだぞ、」
うわあお。それはすごいねえ!!
笑っているゾロを見て、オレも笑いを浮かべた。
「…うっわ。すっごい誤解だ、それは!」
「だろう、」
トン、とゾロに凭れかかって笑う。
くすくす、と静かにそれは零れていく。
どう見たって女好きだろうに、って。ゾロが続けて。

オレはゾロの膝の上に、ずずず、と凭れ落ちていく。
「いいオトコが二人なのにねえ?」
「あぁ、納得いかねぇな」
リカルドと…ゾロが。
どう考えたって…無理がある、よねえ?いくら好みはスキズキって言ってもさぁ。




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