けれど、ふ、と思い当たった。
「…あ、でもね?」
ン?ってオレを見下ろすゾロの頬に手を当てた。
「オレもよく、店員さんにそういう風に騒がれるんだけど。けど、だぁれも疑問を持たないんだ。にこにこ笑顔とキラキラ眼で
対応されるだけ」
それってフェアじゃないよねえ?それってアタリマエのようにオレとセトがカップルだと思われてたってことだよねえ?
…疑問だ。
「一度ね?セトと服を買いに大きなストアに行ったことがあるんだけど」
ざわざわざわざわ、すごかったなあ!!
「オレとセトが並んで服を選んでたりすると。写真撮られたりもするんだ」
それってやっぱりセトが有名だからかなあ?
あれ、でもあれはセトがプリンシパルに指名される前のことだったっけ。
ますます不思議。
「それでセトがオレの肩抱いたりすると。時々悲鳴が上がるのってどういうこと?」
いっつも疑問だったんだけどねえ?
「同じだろ、大いなる誤解」
に、とゾロが笑った。
「……少なくとも、ゾロとリカルドよりかは似てるのに」
「世の中には、ナルシストも多いからな?」
むう。世の中は不思議だ。
ハハって笑ってるゾロが、ああそうだ、じゃあいっそのこと、って言葉を続けてる。
「うん、なあに?」
「クリスマス前に、”ハリー・ウィンストン”にでも行くか?」
「…一緒に?」
うわあお。
クリスマス・ホリディのお誘い?
「そう、で。言ってやろう、『ダーリン、なんでもキミの好きなものを言ってご覧』……!!!」
大笑いしてるゾロのお腹に噛み付いた。
「もう。…ああ、でも。クリスマスは雪が降る場所に居たいなぁ…」
まだ笑ってるゾロは放っておく。
ふーんだ、ゾロのいじわる〜。
くくっ、て笑いを収めて。じゃあ、その後だ、行くか、雪のあるとこ、そうゾロが言っていた。
…本当は、オレのホームタウンに連れて行ってあげたいんだけどなぁ。
けど。
「…オレ、アナタが側にいるなら…どこでも構わない」
こっちのほうが、本音。
ごそ、と腕を伸ばされた。
「あ、そのカオでストップ」
「カオ?」
「あぁ、そのカオ。」
…にゃあ?
…カメラ?
「セトに言われただろ、撮ってやる」
柔らかい電子音が響いて、デジタルカメラのレンズカヴァが開いていた。
「…うん」
うわ。覚えててくれたんだ。
「smile,」
ゾロのその言い方が可愛かったから。
思わずふわん、と笑ってしまった。
ぴ、と音がした。…一枚撮られたのかな?
「―――フン。とてもレタス丸かじりするガキにはみえないな」
「…え?レタスって丸齧りしないの?」
千切るの面倒になると、丸齧りしないのかな?
くく、とゾロが笑って。降りてきた唇、チュ、と啄んでいった。
頬をさらりと撫でられて、思わず眼を細める。
…ゾロの手、気持ちいいなぁ。
うっとり、ってなっちゃうよ。
ぴ、とまた音がした。
笑う。
「…すっごい写真撮っていくね、ゾロ」
「ウン?美味そうでいいだろ、」
「…基準がわかんないよう」
どんなカオが"美味そう"になるのかなあ?
「わかるヤツにはわかるからいいんだよ」
にっこり、と笑ったゾロの唇に、手を伸ばして触れた。
その指の先端を、ゾロがぺろ、と舐めた。
「……っ」
ぴくん、って指が小さく跳ねる。
「ハイ、撮影終了」
ぴ、と最後に音がした。
「…全部アナタの膝枕で寝てるとこだね」
くす、と笑った。
ああ、アニキに。
『まだまだ甘えん坊だね』って言われちゃうかなあ?
「ご希望とあれば画像処理もいたしますが」
「ううん、いい。そのままで」
さら、とゾロの頬を撫でた。
「ありがとう」
「こちらこそ。」
にっこり、と笑ったゾロの眼が、きらん、って光ってた。
……んん?
「それでは、イタダキマス。」
ハイ。いただきましょう…って、
「………ええええええ????」
夜中、眠り込んだサンジの頬に口付けを落としてから続き部屋へ行った。
確か、ノートはあそこのデスクにあったはずだ、と。
その前に居間に放り出していたデジタルカメラとケイタイを取り。ちらりと目線を投げても、サンジは眠ったままのようだった。
「3日以内に撮った写真、送っておいてやるよ」
すうすうと。羽枕に埋もれたネコ並みに幸せそうな寝顔に言う。
書斎代わりの小部屋に落とした灯かりを点け。PCを立ち上げる。
「セト」の名前はメールボックスを探すまでもなく、この「仲の良い兄弟」は頻繁に連絡を取り合っているのだとすぐわかる。
大学のサブドメインのアドレスに、ふいと思い出した。
翻訳のアルバイトをそろそろ仕上げて届けに行かないと、とサンジが言っていたこと。
フン、暇つぶしの道具を仕入れてきておいて正解だったな。
Seth、と。
確か、エジプトの神の名前だ。
名前が先か、人格が先か。いずれにしろドラマティックな男であることに、違いは無い。
メディアのデータを取り込ませる間、そんなことを思った。
オーケイ、終了。
「親愛なるセト殿。お約束の通り、弟君の近影を添付いたします」
「宜しくご査収くださいますよう。」
「ゴチソウサマでした。ざまァみろ。」
「R.Z拝」
送信。
作業終了。
に、と液晶のモニタに向かってわらった。
「グンナイ、セト・ベイビイ。」
ぱし、と電源を落とし。
眠ることにした。
おれはいまからどうせ、ふわんふわんに寝ぼけてるネコでも抱いてイイ夢でも見る。
だから、
御返事はくださらなくて、ケッコウ。
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