Wednesday, July 25
都会に来るのは、…何ヶ月ぶりだろう?
窓から夜景を見下ろしながら、そんなことを思った。
ここは、オレが通っている大学に近い街、ボールダー。
ほとんど丸一日かけて、ドライブして帰ってきた、ロッキーズの麓の街。
こんな場所があったんだ、と思うようなホテルの一室にいる。ゾロと。
半分寝かかっていて、気付いたらプレジデンシャル・スイートに揃って案内されてるところだった。
ゾロは、セキュリティ代、だと言って、に、と笑っていたけど。
…ううん、大学があるフォート・コリンズに泊まるんだったら、オレの家があったのになぁ?
そういえば、ホテルに泊まるのも…何年ぶりだろう?
前にセトの公演を見に行った時だったから…去年か。…結構経ってるなあ。
ふと振向いたら、ゾロが電話をかけていた。
どうやらルームサーヴィスをオーダしているみたいだ。
ぽふん、とアンティーク調のソファに座って、クッションを抱えてゾロを見た。
…んん、頭がスッキリしないなあ。
ああ、そっか…雨休暇の間のシフトの埋め合わせに。4日連続でフルにシフト入ったからなぁ、バイト。
目をこすって、ン?って訪ねるように眉根を跳ね上げたゾロにひらり、と手を振った。
…ゾロはやっぱり都会の人なんだなあ。
このホテルの内装で、浮いて見えないし。
ああ、そっか。ホテルだから…今日は何もしなくていいのか。
いつもは自分でドライヴしてコロラドまで帰ってくるけど。
そしたら、帰ったら直ぐにベッドに入って。翌日昼まで寝ちゃうっけ。
ぱたん、とゾロがメニュウを閉じて。チンと音を立てて電話を置いた。
…見かけだけがクラシックじゃないんだ、電話。
…ぼーっとヘンなことを考えた。
「あと30分、起きていられるか?」
近づいてきたゾロが、さらん、とオレの髪を撫でながら訊いてきた。
「…うん」
目を閉じて、その柔らかな感触を味わう。
「…あ、そうだ。メールチェックしとかないと」
「ふぅん?」
ふと、そのことに気付いた。
明日大学に行くってこと、会いたい人たちには伝えてあったけど。
まだ数人からレス貰ってなかった。もしかしたら入ってるかもしれないしね。
目を開けたら、きらん、と光ってるゾロの目が見えた。
…なんだろう?
「ゾロも使う?」
なにか調べたいことでもあるのかな?
立ち上がって、持ってきた数少ない荷物の中から、愛用のラップトップを取り出した。
ゾロはバーカウンターまで飲み物を取りに行っていた。
…エネルギッシュだなあ、ゾロは。
「いや、別にいい」
「ふぅん」
いいのか。ううん、なんだろうねぇ?
リヴィングの奥、ライティングデスクがあった。
きっとそこには、PCに繋ぐ電話回線があるんだろうけど。そこまで動くのも面倒だしなあ。
家でやってる通りに携帯電話にノートを繋いで、立ち上げた。
「あぁ、サンジ。送信ボックスを開けてみろよ」
ゾロがジンを呑みながら、そう言った。
「うん、わかった」
ああ…オレは水が欲しいかもしんない。
く、と両腕を伸ばしてから、起動したモニタの中を見る。
「それと。何か飲むか?」
「お水、氷入れたの、ください」
「わかった、」
メーラを開きながら、ゾロに頼んだ。
「ありがとう」
ゾロに笑いかけてから、モニタに目を戻す。
送信ボックス、と。
メーラが受信している間に、送信ボックスの中を見る。
…んん?最後の…オレ、送ってないや。宛先はセト?
カラカラ、と涼やかな氷の音に、目を上げると。水の入ったトールグラスが差し出されていた。
「ありがとう、いただきます」
受け取って、すぅ、と口端を引き上げたゾロに笑いかけた。
モニタの中、ダブルクリックでメールが展開する。
冷たい水で、少し頭がスッキリとした。
ふぅ、と息を吐く。
「出しておいてやった、オマエの代わりに」
「あ。写真かあ。ありがとう」
短い文面が目に入った。
Dear Seth,で始まっていた。
Here I attach the photographs of your beloved brother, as…
…うわ。
最後の"ゴチソウサマ"、ってなに?
"ざまぁみろ"???
その下、写真。…うっわ!
オレって今そんな顔してるの?
うわー――――――めっちゃくっちゃ…………形容しがたいんだけど…、
なんていったらいいんだろう、蕩けてる?幸せだって顔に書いちゃってる?
「美味そう、だろ」
…うわ。すっごい自覚なかったんだけど。
「…オレって、こんな顔してたんだー…」
さらっと言って、にぃ、と笑ったゾロに視線を戻した。
なるほど。どうりでみんなにバレちゃうわけだ。
オレだって、こんな顔してる人見たら。
ああ、いいことあったんだ、って思わず納得しちゃいそうだもんなあ。
「公開できるのはここまでだな、いくらオマエのアニキでも」
「…ええ?」
ぱちくり。公開できるってどういう意味だろ?
「…オレ、もっとバレバレな顔してる時、あるの?」
すう、とゾロの指先、なんだか熱っちゃってる頬に触れていくのを感じた。
うわっちゃあ…明日は気を引き締めていかなきゃなあ!!
「いや…?」
「え?そういうことじゃないの?」
に、と笑ったゾロを見て、瞬いた。
すい、と覗き込んでくるグリーンアイズ。
キラキラとしてて…キレイだ。
そしたら、ゾロがトントン、と人差し指で自分のこめかみを叩いて。
「おれが知っていればいいだけのカオ」
そう言った。
…オレはこれ以上にすごいカオをする時があるんだ?
…でもゾロだけが知ってるんだね?
なら、それでいいや。うん、それならイイ。
「…じゃあ、アナタがいっぱい見て、覚えててね」
「あァ、」
すい、とバードキスが降ってきた。
ふふ、うれしいな。オレも今、アナタにキスしようとしてたトコ。
すり、とゾロの胸に軽く額を擦りつけてから、モニタに目を戻した。
受信完了、3通の新規メール、と。
1通はダンテからだ。もう1通は、サンドラ。
最後の1通…ああ、これが重かったんだ。添付ファイル付き、セトから。
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