Thursday, July 26
ボールダーにあるホテルからドライヴしてきて。
フォート・コリンズまでは、30分ほどのドライヴだった。
バイトの雇用主である教授に頼まれた翻訳文を落としたディスクと。ダンテに借りてた本。
図書館で借りてた本をバッグに入れて、車に乗った。
あと、念のために、ノートPCと携帯も積み込んで。
快適なドライヴ、久し振りの高地の空気。
ここも、年間300日程度晴れているような場所だけど。ロッキーズが近いだけに、空気が随分と甘かった。
大学まで提出物を出しに行く、と最初ゾロに告げた時。
クーリエで送れば済むだろうにな、と言っていた。随分と驚いていた様子だった。
オレは、友達に会いにいくから、そのついでに行くのだ、と告げたら。
「あぁ、それなら……」
言いかけて、それでも一瞬納得いかない風に、ふい、と言葉を切っていた。
妬いてくれてるのかなあ?
…そんなことはないかなぁ?
「なにもおれまで行くことはないよな」
に、ってゾロが笑った。
「ええ?オレのホームカウンティに、来てみたくないの?」
折角だから、ゾロにもコロラドのロッキーから吹き降ろしてくる空気を、味わってもらいたかったのに。
「アスペンにはさんざん行った」
「…ゾロは、ここに残ってた方がいいの?」
そういえば、ゾロがなぜアリゾナのこの家に残れるようになったのか。明確に説明されたことがなかった。
…もしかしたら、何か重大な理由でもあったんだろうか?
ゾロが、すぅ、と片眉を引き上げて。涼しい所も悪くないな、と言っていた。
「フォート・コリンズは、静かでいい町だよ」
そう言って、ゾロの眼を覗き込んだ。
「オレは、アナタと一緒に行きたい」
…もうすぐ、離れなければいけなくなるんだったら、なお更。
「野生児が住めるくらいだから、そうなんだろうな」
ゾロがにっこりと笑っていた。
「…野生児、って…オレ?」
「他に誰がいるんだ、」
…まぁ。森の中で1週間暮らしたって。オレは平気だけどねえ?
「…ううう…アナタのほうが、余程自然動物みたいだと思うんだけどなあ」
ゾロを見上げて言った。
それが、先週のこと。
昨夜はロング・ドライヴの影響から、結局、ルーム・サーヴィスのサパーを食べてから、すぐに寝てしまった。
朝起きてからシャワーを浴びて。
朝ごはんを、やっぱりルーム・サーヴィスで取ってから、夏の割には涼しい気候の中をドライヴして、フォート・コリンズまで
辿り着いた。
オレが、大学にいる間に住んでいる家に一度寄って、数冊の本を取ってから、ゾロと一緒に大学のメイン・キャンパスにある
駐車場まで車で来た。
時刻は10時半。
「ゾロはオレがここを走り回ってる間、どうしてる?」
車を降りる前に、そう尋ねたならば。ゾロはイグニッション・キィを抜き取って、くる、と辺りを見回した。
そして、ドライヴァーズ・シートから降りながら、時間を決めてどこかで会うか、と言っていた。
解りやすい場所…ううんとねえ。
「1時半に、ここでどう?」
「パーキングか?」
車を叩いて、ゾロに言った。
「却下。」
「そう?」
「あァ。オープンエアで人待ちはしないから」
解りやすいと思ったんだけどなあ。
「そっかあ。それじゃあね?」
一瞬、待ち合わせに最適な場所を考える。
メインビルディングに向かって歩き出しながら、ゾロに言った。
「最後に別れた場所で、っていう手もあるな」
そうゾロが言っていたけれど。
「…カフェみたいなところのほうがいい?」
「別にどこでも構わない、」
「じゃあ、学生のリクリエーション・センタにあるカフェはどう?」
「人も少ないだろうしな」
ヤスミで。そう言い足しながら、ゾロが広いグリーンを眺めていた。
「ハーバード・ヤードとは随分違うな、」
殆んど独り言に近い、小さな呟き。
…ふうん?ハーバードを出たんだ、ゾロは。
「…ここ、動物とか結構飼育してるし。運動場とかもいっぱいあるからなあ。迷うんだよねぇ」
慣れるのに、1ヶ月かかったよ、オレ。
ゾロがグリーンからオレに視線を戻して。にっこりと笑った。
「15、6だろう?教授の子供とでも思われてたんじゃないか最初は」
「う……あのね?」
ガキがうろついてたら、ってゾロが笑ってたから。そうっと腕を引いて、こっそりと教える。
「入学したの、16の時なんだけど。オレ、通信教育で育って、こういう人がいっぱいいる所に独りで来るの、
初めての体験だったから」
大学が、同じ年の新入生を、オレのガーディアンとして付けてくれたんだ。
そう言いながら、優しい目許のゾロを見上げた。
く、とゾロが喉奥で笑った。
「…やっぱり、オレはガキ扱いだったのかなぁ?」
「みゃあみゃあ言いそうに見えたんじゃないか?」
「…あう、否定できない…」
うん。オレがどうにか大学生として振舞えるようになったのは、半年以上、在学してからのことだったし。
みゅー……テストの点数が良くたって。スキップで入学してたって。…もっと知ってなきゃいけないことって、
いっぱいあるんだよなあ。
「確かに、見てみたかった気もする」
ますますにっこりとしていたゾロが、くしゃん、ってオレの髪を乱していっていた。
「…ローリィ・ステューデント・センタのところに行けば。確かオレの入学時の時の写真が、学生メディアのオフィスの
ところにあると思うよ?」
「や、いまよりもっと罪悪感が増えたらタチが悪いからエンリョしておく」
ゾロがにやり、とイジワルな笑いを浮べていた。
「…罪悪感?なんで???」
…ううん?なんで罪悪感なんか感じてるの?
「それで、サンジ。リクリエーションセンターはどの辺りだ、」
「マルディアン・アヴェニューから、モーヴィ・アリーナに向かっていくと、右手にあるから」
「あぁ、それにしても、デカ過ぎるな」
すう、とゾロが視線を流した。
「例のエース。ステートはでかすぎる!!って理由で私立に移ってたぞ」
「うわ、そうなんだ!!」
に、と笑ったゾロに、笑いを返す。
「あぁ、アイツ。歩くのが好きだったから」
「ここも、歩くと随分と距離があるよ」
なにしろ、町のメインが大学だからなあ。
キャンパス内を走るバスに乗るっていうのは、もしかしたらフツウのことじゃないんだろうか?
「だろうな」
ゾロがそう応えて、にこりと笑った。
じゃあ後でな、そう言って、手をひら、と動かしていた。
「何かあったら、モバイルに電話してね!」
遠ざかるゾロに声をかける。
「覚えてない、」
「うそだあ!!」
ゾロの声に笑って。
それから、ゆっくりと歩き出す。
まずは、研究室の方に行かなきゃなあ。
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