「ハロウ!ベイビイ・パイ」
にこにこ、と彼女が笑っていた。
「…ハァイ」
「アレは、ヒナだ。政治学専攻の、グラッド(院生)」
「…そうなんだ?」
「あぁ、面白い女だぞ?」
「スキ?」
ゾロがそんなに興味を持つなんて…よっぽどステキなオンナノヒトなんだろうなあ。
…ううん、胸が痛いぞう?
あああ、嫉妬心…落ち着けて、落ち着いて、深呼吸。
ゾロがすう、と目許で笑って。
す、す、と両頬にキスを落としていった。
静まり返った空間。
……オレが周りをシャットアウトしてるの、それとも…?
じ、と柔らかな目許のままのゾロの目が覗き込んできた。
「バァカ」
柔らかな囁き。
ほとんど吐息に乗せたような声。
あう……ほんとに、なんでなんだろうね、嫉妬心なんて。
勝手に湧き上がって…困る。
「……もしもーし?」
サンドラの声が、す、と差し込んできた。
「地球の全人口とは言わないから、せめてこの空間にいる100人ほどの人間の存在を思い出してもらえないかしら?」
からかうような、サンドラの声。
「それはサンジに言ってくれ。はじめまして、」
ゾロがぐるぐるってオレの髪の毛を掻き混ぜて、それからすい、と真っ直ぐに立ったのを見ていた。
「ミス……?」
「サンドラよ、サンジの保護者その1の」
サンドラがにこり、と好戦的な笑みを浮べた。
「サンドラ。あぁ、言わなくてもいいよ。おれはほぼ失格だろう?」
ゾロがに、と笑って、サンドラがますます牙を剥いた。
「合格過ぎて失格、ってところかしらね?でもいいのよ。何も言わない約束だから」
「アナタも。はじめまして、よろしく」
ゾロがすい、とタカフミを見て、にこり、としていた。
「はじめまして」
タカフミは、とても品のいい笑顔を浮べたゾロに、お辞儀していた。
「ボクはサンジの友達です」
ザワザワ、とカフェには音が戻り始めている。
……うああああ!そうだよ、ここ、大学のカフェなんだよなあ!!!
……あああ………どうしよう…?
「そうですか。おれはサンジの恋人です」
…………え?
ゾロがあっさりと言って、にこり、としていた。
シーン、とカフェが一気に静かになっていった。
…ゾ、ロ?
「うん、そうだと思ったわ。というか自明ね。ねえ、ここで突っ立ってるのもイヤなんだけど、あっちの日当たりの
良いほうに移動できないかしら?」
サンドラのキパキパとした声。
タカフミがふわり、と笑った。
「ボクはアナタを尊敬します」
そしてゾロにす、と手を差し出していた。
「あっちにいる、ブロンドがヒナ、ブルネットがポーラ。女トモダチと同席でよければどうぞ」
ゾロがタカフミの手を取って、軽く握手して言っていた。
「ハイ、サンジ!」
…ええと…あれ、やっぱりポーラ、だ。
「…ポーラ、だよね?」
「みゃあみゃあ言ってるんじゃないわよ?」
「…みゃあみゃあ?」
アーチーの同期だって前に紹介されたことのあるポーラが、にぃ、と笑っていた。
「みゃあみゃあ、って…誰が?」
「オマエ。」
する、とゾロがオレの頬を撫でていた。
「…Miaou?」
「そう。さっきは。もう少しでぴゃあぴゃあ鳴くところだったろ、オマエ」
「…バレてる?」
泣きそうだったの、なんで泣き出しそうだったかっていうこと、バレてるの…?
「アタリマエ。伊達に泣かせてばかりじゃないからな」
「うっわ。サイテー!!」
にぃ、と笑ったゾロのセリフに、ケラケラとサンドラが笑ってた。
「自覚のあるロクデナシほど、手におえないものは無いわ!!」
「あぁ、同感」
ゾロが、サンドラににっこりとしていた。
サンドラが、益々笑って。
「サンジ、コッチの方が説得力があるわ」
ゾロの指差してオレに向き直った。
「権化って感じだよね」
タカフミも笑って言っていた。
…ああ、オレの好みの話、だ。
「ダーリン、ヒナにも挨拶させて、あなたのプレシャスに!!」
「少しは待てよ、ヒナ!」
…プレシャス…?
ふわ、と笑いが零れた。
ゾロが彼女たちに向いて言っていた。
「いやよ、待てないキスさせて!!」
「させるかよ、バカが」
…プレシャス?
ゾロとヒナが言い合っている間に。
オレは、どうしたわけだか、クスクス笑いが止まらなくなった。
「ケチ!!」
「ヒナ先輩。ああいう輩は懐が狭いっていうのが定説です」
サンドラが笑って言っていた。
「あぁ、悪いか。本当は退学させたいくらいだぜ」
「うわぁお!」
タカフミが目を真ん丸くした。
退学?
「冗談、そこの色男!懐が狭いにも程があるわよ!?」
「サンドラ、彼には遠慮ないねえ」
「あン?仕舞っておかないだけありがたく思って欲しいところだ」
ゾロはそう言って、サンドラに笑いかけていた。
サンドラは、目をぐぅるりと回して。
「本気の程度は知れたから、…ああもう、こうなったら末代まで語り継ぐから。遠慮なしにノロケなさいよ!」
呆れた風に天を仰いでいた。
「ダーリン、じゃあヒナは?」
そうそう、彼女はどうするの、ゾロ?
す、とゾロがヒナに視線を戻して。
「あンたは、"ホワイティ"と一緒に剥製」
「心外だわぁ!!」
ヒナとポーラが大笑いしていた。
…剥製、ううん。
ビジン、だもんねえ?二人揃って。
「飾ってもどうせ見ないくせにね」
サンドラのコメントに、タカフミが、
「サンドラ、少しは言葉を飾ろうよ?」
笑って言っていた。
「サンジ、」
「…なあに?」
「湖にいる白鳥の名前知ってるか?」
「リリアンとダフォディルじゃないの?」
「いや、ダッキー・ザ・ホワイティと、プリシラ・ザ・スノウイィだ」
「…スワンなのにダッキーなの?」
「そうよ!ヒナがつけたんだもの!」
笑った。
ヒナがこちらに歩いて来ていた。
サンドラとタカフミは、コーヒーをオーダしに行っていた。
「ハァイ、…ヒナ?」
改めまして、はじめましてこんにちは。
手を差し出した。
「フフ。あなたがダーリンのプレシャス・ベイビイね」
ポーラはテーブルの向こうで、やれやれ、と首を振っていた。
つい、とヒナに手を取られた。軽くシェイク・ハンズ。
「まえはチェリーパイみたいな坊やだったのに、あらまぁ。」
「…チェリーパイ?」
「ええ。」
オレがチェリーパイだったら、彼女はレモンパイみたいだなあ。
にぃっこりと笑っているヒナ。
…なんだか、面白い人。
くすん、と笑った。
「ヒナ、そのネーミングはどうなんだ」
オレの横で、ゾロが眉根を寄せていた。
「フフ。ダーリン、アナタのお留守の間はヒナがちゃんっとプレシャスを仕舞っておいてあげるわ」
「―――どうせ、オマエのベッドに、ってわけか」
「あら。その通りよ」
「………ヒナ?」
オレはアナタのベッドに仕舞われるの?
「あぁ、ほら。本気にしてるだろうが」
「大きなベッドを持ってるの?」
って、アレ?
本気じゃないのかな?
「Darling, he is so innocent!」
ダーリン、彼ってばなんて純粋なの!ってヒナが大きな声で笑っていた。
「Not always, though」
に、とゾロも…なんだか悪い人みたいな笑顔を浮べていた。
そして、両腕できゅ、と胸の前に抱き寄せられた。
「…ねえ?」
ゾロを下から見上げる。
ゾロ、と名前を呼ぶのは避けて。
「いいの?」
こんなに目立っちゃっても?
「―――なにが?」
「アナタがオレの大切な人だって…言っても?」
「言うまでもない、とサンドラに言われたけどな。」
「そおよぉ。機会のある時に知らしめておきなさい」
サンドラがコーヒーを啜りながら言って、通っていった。
「サンジ、ベイビイ。あと3年たったらヒナも一緒にベッド入っていいかしら?」
「…ダメ」
笑いが零れる。
「うん、ケチ」
「ホントはね、世界と引き換えにしたいくらいなんだ」
にぃっこりとしたヒナに、笑ってそうっと囁く。
ずっと隠し持ってる本音。
ゾロには聴こえないように、そうっと。
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